【蒼剣の歪み絶ち】 那西 崇那/NOCO 電撃文庫

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少年は「生きたい」と願った──願いの代償に、運命を破滅させる魔剣に。

《歪理物》──この世界の歪みを内包した超常の物体。
伽羅森迅が持つ蒼剣もその一つ。願いの代償に持ち主を破滅させる《魔剣》に「生きたい」と願った彼は、生きながら周囲をも呪う運命を背負わされた。
《本》に運命を縛られた無機質な少女・アーカイブと共に彼は《歪理物》が関わる凄絶な事件と戦いの日々へ身を投じる──彼の歪みに巻き込まれ、アーカイブの依り代とされてしまったあの少女を救うために。かつて希望を見せてくれたあの少女を……。

「絶対に助ける。……たとえそれが、アーカイブを消すことになっても」

二人の呪われた運命の歯車は、一人の女子高生と《文字を食らう本》に出会い、急速に回り出す。
その先に待つ未来は破滅か、それとも──。

最後の1ページまで最高のカタルシスで贈る、第30回電撃小説大賞《金賞》受賞作。

おおっ、三雲岳斗先生が巻末で解説してらっしゃいますよ。新人作品と言えどそんな解説がつくものも多くはないと思うんですけどね。
しかしなるほど、確かに本作って2000年代の学園異能モノの古式ゆかしき雰囲気を感じる要素が多いんですよね。三雲先生というと2000年代には電撃文庫から【レベリオン】や【i.d.】を送り出していた方ですからねえ。「イモータル・ドミナス」というフレーズや術式を数式や化学式に当てはめて「フォーミュラ」とルビ振るのとか、格好良すぎて20年近く経った今でもよく覚えてますよ。
まあそう云う往年の異能ものの空気感がよく感じられる作品でした。これは設定云々だけではないと思うんですよね、世界観や設定だけなら同じようなものを扱った作品は今までもたびたび出てきていましたけれど、なんというか書き方というか文章の雰囲気が違うんですかね。あくまで感覚的なものなんですけれど、他の方の感想を見ても似たようなイメージを抱かせる、ってか解説に三雲先生を持ってくるあたり編集側でもそういうイメージを抱いたって事なんじゃないでしょうか。

とはいえ、主人公はわりとそういう昔の作品のイメージとはまた異なる主人公像をしていたと思います。伽羅森くんですね。これカラモリって読むんですね。どうしても文字見るたびにキャラモリって読みたくなってしまって、まあ実態キャラモリ君と頭の中で読んでました。
この伽羅森くんが意外と陽気、というか明るい雰囲気の青年なんですよ。多分に漏れず、悲惨にして過酷極まる人生を、希望に満ちた未来を思い描けぬ人生を歩んでいる、覚悟ガンギマリで歩んでいる一種の鋼の男であるわけですが、そうした暗い人生に染まってしまったような陰気さだったり感情を抑え込んだ冷たい態度を取ってたり、他人を寄せ付けないような振る舞いをしていたり、という変なハードボイルドしているタイプじゃなくて、むしろ過酷な人生を歩んでいるからこそ努めて明るく振る舞っているような、周りに気を遣わせないタイプなんですよね。
自分と同じように「歪理物」によって人生を破壊された、捻じ曲げられたような被害者に対してもとても親身になって手を差し伸べる強い優しさを失わない人物であり、まあこれは非常に好感度高くなってしまう主人公ですよ。
とはいえ、物語自体が徹底してシリアスでおちゃらけた雰囲気を許してくれない流れが続くので、伽羅森くんも明るく振る舞いながらも終始真面目に、そして深刻に、切羽詰まりながら事態に立ち向かっていくことになるので、早々緩んだことにはならないのですけれど。
ただ、この伽羅森くんにしても、ヒロインの一人であるアーカイブにしても、ふとした瞬間の平和な時間に垣間見せる彼ら一人ひとりのちょっと抜けた顔というか、愛嬌みたいなのがとても良いアクセントになっていて、それぞれのキャラクターの魅力につながっていたようにも感じます。
一方でこの終始シリアスで余裕のない展開というのは、個々のキャラクターの幅を見せる余裕をなくしている、というのもあったかもしれません。もう一人のヒロインである藤中日継なんかはギャルで陽の者でコミュ力も高くて、という本来ならわりと活発なタイプのトップカーストの人間らしいんですけれど、自己申告や伽羅森君の語る日継の印象とは裏腹に殆ど日継がギャルっぽいところを見せてくれるシーンないんですよね。どうもこっちから見る印象と作中の当事者たちが語る印象が重ならない所がありました。
そういう所に限らず、ちょくちょく作者が意図して伝えようとしている描写から、その意図が汲み取れない、描写がはっきりとしていなくて曖昧にぼやけている部分が結構重要な設定の部分も含めて、あったんですよね。
たとえばティルフィングの呪いの定義とか、アーカイブの運命のルート上なのかルート外なのかの区切りなど、他にもあれこれ。作者の中では明確な定義があったのかもしれませんけれど、読んでいる限りだとそのへん曖昧で区切りがよくわからない設定などが結構あったんですよね。それも物語の根幹を担うあたりの設定なども含めて。なので、そのあたりよく伝わらない状況がはっきり受け取れないまま、勢いで押し流された感があって釈然としない部分も。
登場人物に関しても、一人ひとり丁寧に掘り下げて、それぞれの人生の背景、今に至る道筋からその在り方、その想いの変化やターニングポイントなどしっかりと描こうとしていて、丁寧に分量を割いているあたり、物語に対してもその中で動く登場人物に対しても真剣に向き合って、彼らの行動や意志に問いかけている姿勢が感じられて、こういう所も作品に対して好感が持てる部分だったんですよね。
全体的なストーリー展開もオーソドックスながらも堅実で構成もじっくり組み立てられていて、大まかな完成度が高く感じられます。賞とるに十分相応しい枠組みであり中身であったと言えるんじゃないでしょうか。
惜しむらくは、前述もしたとおり、定義が曖昧に感じられる部分が多かったこと。たとえば、文字を喰うとかああいうあたりは面白いしここはイメージ十分馳せられたんですけれど、なんていうのかな、うーん。言葉ではしっかり定義されている。じっさいに起こる現象についても描写はイメージとしてしっかり描かれている。ただ境目というか境界線っていうのかな。例えばティルフィングがもたらす不幸の具体的な境目とか。桜花が不幸に見舞われたのはティルフィングの効果だったとして、この呪いの剣の具体的な効果範疇とか定義はどこなんだろう。伽羅森くんが深く関わっている人物は以後もいるはずで、何なら日継なんかもそれに該当しそうなんだけれど、このあたり呪いの影響を受ける具体的な境目がわかんないんですよね。定義が曖昧というか。そんな感じで、作中で言われていることと実際に設定面で食い違いとまでは言わないんだけれど、曖昧で不鮮明な部分があるって感じで。難しいな。表現が難しい。
言うなれば明度と彩度? これが微妙に低くて設定の定義にしてもキャラクターの実像にしても解像度がちょいぼやけてた感覚があるんですよね。
この感覚的な部分を言語化するの、難しいんですけれど。

ひとつ、アーカイブに訪れたラストの展開は非常に驚かされたんですが。個人的に、アーカイブとその素体となった女性って基本的に不可分の同一人物なのだと思ってたんですよね。だから驚いた。
話の上ではあれはもう違う存在だ、と言われ続けてはいたものの、アーカイブの見せる折々の反応はどう見ても元の人間のそれで。それに関しても別の人間の残滓を意図して残している、という風にもアーカイブ自身が言ってたりするように、ちゃんと別の存在だよとは繰り返し描かれていたんですけどね。
それでもなお、アーカイブという人物を描く描写を見て、同一人物だと感じていたんだよなあ。アーカイブ自身に人としての自意識や思考があるかわからない、という話もいやどう見てもあるだろう、としか見えなかったし。
このあたり、伽羅森くんはどこまで額面通りに受け止めていたんだろう。そもそも、アーカイブとその素体となった女性、伽羅森くんにとっては重要な人物である彼女とを、どれだけ別の存在として見ていたんだろう。違うとわかっていても重ねてみていたとしたら、ラストの展開のあとのアーカイブに対して、彼がどういう感情を持つのか彼自身もわからない複雑さが……。
いやここ、肝心な所だと思うんだけれど、伽羅森くんがアーカイブの存在について具体的にどう答えを出していたのか、わからんかったなあ。彼女の意志を信じて、助けようとしていたのは間違いないにしても。
なんにせよ、こういうぼんやりとした部分が全体的に薄っすらとかかってしまう感じがあり、それが物語としての鮮やかさ、印象を若干なりと薄めてしまっている気がします。それがちと勿体なかったかなあ。
そういう明度彩度が高まっていったら、もっともっとぐっと刺さる、焼き付いてくる作品になる感触がひしひしと。
つまるところ、新人作品として可能性がたっぷりと詰まっている作品だったと思っております。
これからが楽しみ、ということで。

あと、チラチラと【化物語】ネタとかなかった?