【愛さないといわれましても 2 〜元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる〜】  豆田 麦/花染なぎさ Mノベルスf

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愛さない宣言から始まった前世魔王令嬢アビゲイルと生真面目軍人ジェラルドの政略結婚は、アビゲイルについての誤解が解けたことで無事、幸せな結婚生活へと変わった。
毎日おいしいものをたくさん食べ、ジェラルドにも使用人にも愛され充実した日々を過ごすアビゲイル。しかしある日、国からの要請でアビゲイルが虐げられていた実家…ロングハースト領の視察に同行しなければならなくなってしまう。
アビゲイルを溺愛するジェラルドの心中は穏やかではなく――?

アビー可愛い、可愛い、可愛い。
というか、この作者さんの小動物的挙動の描写表現の可愛らしさはちょっととびっきりな所ありますよね。
アビーだけじゃなくて、ラスト周辺のあのでっかいドラゴンがしょぼくれながら、ぶちまかれたどんぐりをポロポロとこぼしながらも拾い続けるシーン。
なんですか、あの胸がキュンとなってしまうシーンは。ずるくない? ずるくない?
思わずジェラルドがどんぐり拾うの手伝ってあげちゃうのもわかりますよ、あれは放っておけない。それはそれとして、ジェラルドってこういう何かしら手伝ってあげないと、と思ってしまう拙い行動を天然で取ってしまう生物、元々好きじゃないの? 子供の頃に拾った小鳥(当時)のピヨちゃんしかり。
庇護欲をくすぐられるとどうしようもなくなるタイプなんじゃ。そういう意味でもアビゲイルはストライクに過ぎるんじゃないだろうか。この子はガチで過保護にしておいた方がいい子でありますし。

それにしても、魔王時代の知り合いだったドラゴン。アビーの方は知り合い程度の認識だったのに、これドラゴンの方絶対違うでしょう。ジェラルドもつぶやいてましたけれど、ドラゴンの方の亡き魔王への思い入れが、お労しいくらいなんですが。そういう情念がドロドロとした粘性のものになってしまっているのではなく、魔王の残滓とも呼べるあのどんぐりを一生懸命拾い集めてる姿といい、なんか大事な友だちがいなくなって、取り残されてしょんぼりしているような寂しさと切なさが伝わってきて、そういう意味でも胸がキュンとさせられてしまったんですが。
アビーちゃん、ほんと一目でも逢ってあげなさいよ。まじで可哀想なんですけど。

ジェラルドのお兄さんの奥さんであるステラ義姉さまの懐妊にアビーが気づいたことをきっかけに、妻としてのお仕事である後継者を作る閨事に関心を持ち始めるアビー。元々、この子ってお仕事頑張るぞ、という気質の子でジェラルドの元に送られてくるまでは領地の経営のお仕事をやらされていたこともあってか、頭の中にお仕事は大事という概念が根付いちゃってる感がある。
それが今、ジェラルドの妻として自分も閨事やらないといけないんじゃないの? と真面目さと無垢さ故になってるわけですな。
犯罪である。
いや、もう結婚しているわけですし年齢的にも大丈夫のはずなんですけれど、元々まともな環境にいなかったせいで身体が弱っていて今回復途中なことと、なによりも精神的にまだアビーは幼子みたいなものなので……犯罪である。ロリコンである。
いや、身体の方はもう大丈夫なんだろうけどさあ。
とはいえ、アビーが積極的になりはじめたのも夫婦だからという義務感とか責任感とか使命感だけじゃなく、ジェラルドへの愛情としてもその愛情の質がたった一人の男性に向ける特別なものへと変化しつつあるからこそ、という気配は見えるようになってきてはいたんですよね。
でもそれはそれとして、まだ早いんじゃないの? ジェラルドの方もまだこの子をちゃんとした女性として見るのは、幾ら可愛い可愛いと思っていたとしても、もうちょっと時間かかるんじゃないの?

と、思ってたらこの生真面目軍人と来たら、わりとあっさり陥落しやがったぞ。小鳥が餌を求めるようにぴーぴー求められたからといって、あっさり墜ちるジェラルド様。
まあ好き同士な上にもう結婚してるんだからいいんだけど、閨しちゃったかー。いややっぱり犯罪臭が凄い。
アビーちゃんがご満悦なので仕方ないのですが。

さても、今回はアビゲイルの実家であるロングハースト家が崩壊したあとの、ロングハースト領。関わるのも嫌だと、ジェラルドが放棄したその領地を接収して治めることになった王家が、前は豊かな土地だったのが急に土地が寂れるわ住人は非協力的だわと超赤字地域に転落してしまい、元の管理者であるアビーに協力を求めてきたことからお話ははじまりました。
関わり合いになりたくないから土地の権利放棄したのに、王命で関わらざるを得なくなってジェラルド様超不機嫌。それでも、アビーの故郷であり魔王であった頃の住処でもあった土地。そこでアビーがどんな暮らしを強いられていたのか。あの土地で魔王だったアビーという存在がどのように扱われていたのか。アビーにとってはもう無関係とすら言えるくらいに関心を持っていない過去ですけれど、だからこそ旦那さまであるジェラルドがアビーにまとわりつく過去を清算する必要があったわけです。……いや必要は別になかったかもしれませんけれど、アビーラブなジェラルドとしては片はつけておいた方がスッキリするじゃないですか。
というわけで、伝聞だけでも怒り心頭だったのに直接にアビーに浴びせられていた悪意とその所業の跡を目の当たりにして、ジェラルドとロドニーやタバサなどの家の郎党、或いは家族たちの怒りが爆発するお話でもありました。ロングハースト家が滅びただけである程度片付いたと思ってましたけれど、これもう領地ぐるみでの価値観がアビーを踏みにじってたって話なんですよね。アビーだけじゃなく、王家から派遣されていた代官たちを害したりしていた以上、閉鎖的な環境がアビーの能力と英邁さによって内部でうまく循環してたのが、余計にカルト宗教的なものを生み出してしまっていたのかもしれませんけれど。
アビーは一貫してこの故郷の住まう人間たちからの悪意に対して無関心でした。それは魔王だった時代も同様で、しかし関心がないからといって何も感じないわけじゃあないんですよね。
そもそも魔王だった彼女が人と関わり合うようになったきっかけである、初めてあった人間との交流をずっと覚えていて、あの頃の気持ちを忘れずにずっと持っていた彼女が、自分をただ利用するだけの、利用するだけして何も与えようとしない奪うばかりの人間たちの態度に対して、寂しさを感じていなかったわけがないんですよね。
あの無機質な目をする瞬間のアビーが、でもジェラルドに抱きしめられることで色を取り戻していくシーン。元々、この子の優しさは生来のものだったと思うのですけれど、周りからの扱いによってその中身はずっと虚ろだった。そこにジェラルドやタバサたち家の家臣たち、ジェラルドの実家の家族たちから無償の愛を与えられ続けることによって、この子の中身に確かな実が詰まっていく過程を、この作品はずっと描いていたようにも思えます。
そうやってどんどんと情緒が育っていってるんですよね、アビーは。彼女が旦那様じゃなくて、ジェラルドと名前で呼ぶことで夫婦感がより高まり、彼女が危険な地に赴くジェラルドにおいていかれた事に、生まれて初めて怒りを覚えて、地団駄を踏む。ああ、この子は今まさに、人間になろうとしているのだ、と。
可愛いと感じる質感もまた、アビーの成長に合わせて変化していっているのが感慨深い。