【捕食者系魔法少女】  バショウ科バショウ属/東西 エンターブレイン

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蟲たちよ 喰らい、孕ませ、蹂躙しろ

人間を苗床に増殖する異界の怪物・インクブスの出現によって人類は絶滅の淵に立たされていた。彼らに対抗できるのは、超常の存在から力を与えられた魔法少女(ウィッチ)たち。女子高生の東蓮花もまた、数多の蟲を操る魔法少女・シルバーロータスへと変身し、日々怪物たちとの戦いを繰り広げていた。そんなある日、シルバーロータスはインクブスに襲われていた新米魔法少女のアズールノヴァを救出する。自身のファンを名乗る彼女との出会いにより、孤独なシルバーロータスの日常は徐々に変化し始めて――!? 蟲を操り、怪物を喰らう異端の魔法少女ダークファンタジー、開幕!

廃墟と化した旧首都の地下街で、決死の撤退戦を繰り広げる戦士達。一人ひとりが歴戦の兵士であり勇気があり胆力があり仲間たちとの結束も高い鍛え抜かれた者共が、次々現れる巨大な昆虫の群れによって一人また一人と恐怖の悲鳴をあげながら闇の奥へと引きずり込まれていく。
大顎に胴体を両断され血と臓物を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
全身に集られ突き刺された管から注ぎ込まれた消化液に内臓を溶かされのたうち回る。
捕獲され地面の上を滑るように引きずられて引き込まされた巣穴の中で卵を植え付けられて苗床にされる。
辛うじて統制を保ちながらも、次々に襲い来る蟲たちによって一人また一人と断末魔の絶叫と共に消えていく絶望的な戦い。
ここだけ見るともう完全にハリウッドのモンスターパニックスプラッターホラー映画。
いやマジでこの手の映画で見るシーンなんですよ。読みながら用意に光景が思い浮かんでしまいましたもの。
でもこういうモンスターパニックホラーって、主人公サイドはあくまでそのモンスター、得体のしれない未知の怪物の大群に襲われる側なんですよ。
ところが、ところがですよ。ここで蟲たちによって尊厳も何もなくミンチにされて肉団子にされ、喰われて孕まされて繁殖の苗床にされるのは、異世界からの侵略者どもなのである。
その名をインクブス。ゴブリンやオーク、フロッグマンやインプ、ライカンスロープといった異形の怪物たち。異世界ファンタジーではどちらかというとそのへんに普通にいる雑魚モンスター扱いされることの多いこうした魔物たちですが、本作ではそれぞれ非常に強力な生命体で知能も高く社会性も高く、何よりとても仲間意識の高い結束力に長けた存在なのである。その強力さ狡猾さ軍勢としての組織力は、侵略を受けた地球側の大国がすでに幾つも国家の体をなさないほどに崩壊してしまったほど。銃火器を装備し戦車や航空機といった現代兵器を擁しながらも、彼奴らはその人間と隔絶した個体能力の高さとマジックと呼ばれる異能力によって、人類の社会を半ば崩壊させ、文明滅亡カウントダウンの状態にまで陥れているわけです。
そんな人類側がインクブスたちに対抗するために擁しているのが、魔法少女と呼ばれる女性たち。しかし、その強力かつ個性的なマジックを使いこなす魔法少女たちも、インクブスの侵略に抗しきれず、魔法少女たち女性はインクブスたちによって玩具として連れ去られ、散々いたぶられた挙げ句に繁殖用の苗床として筆舌に尽くしがたい悲惨な目にあう。
つまるところ、この世界観って絶望系救いの殆ど無いバッドエンド前提のエログロゲームみたいな世界なんですよ。
凄まじい力を持った魔法少女たちは世界各国に存在しているものの、日本にもナンバーズと呼ばれる13人の魔法少女たちがいるんですけどね。それでも人類は生存圏を削られていき、インクブスの侵略によって人類は滅ばずともすべてが家畜として扱われる絶望の世界真っ逆さま、そんな状況なわけですよ。

しかし、そんな鬼畜外道、邪悪の輩であるインクブスたちを人知れず駆逐していく一人の魔法少女。彼女こそが主人公シルバーロータス。蟲使いの魔法少女であり、彼女が使役するファミリア、使い魔たる地球上に存在するあらゆる蟲たち。その巨大化したファミリアたちの大群こそが、味方なのである。

本来ならそれ人類を絶滅させる側だろうという、ゲームの地球防衛軍の敵であるプライマー、或いはマブラヴオルタのBETA、スターシップ・トゥルーパーズのバグなどと同じような無機質なるレギオン・大群が味方側という、これがまた今まで見たことのないジャンルの圧巻のカタルシスなんだわ。
本来ならゾゾッと怖気が走るような、絶望感に恐怖感にいたぶられるようなスプラッタでホラーな惨たらしいシーンが続くのに、その対象は人間じゃなくて一切同情の余地がない人の心を持たない獣心の魔物というだけで、人の心を弄ぶおぞましい怪物たちというだけで、これがまたなんか感情が逆転するんですよ。恐怖で思わず悲鳴を上げてしまいそうなシーンのはずなのに、凄まじい格好良さを、身震いするような頼もしさを、蟲たちに感じてしまうのだ。
そして、そんな蟲たちを毅然と指揮するシルバーロータスに。
脳内から快感物質がドバドバ溢れ出してくるんですわ。

蟲たち、戦闘のたびにその都度エナ……この世界の魔力・生命力みたいなものですな。を使って召喚するという今までの蟲使いによくある使い方じゃないのも特徴的で、このカタルシスにも連結しているんじゃないかと思います。
シルバーロータスのインセクト・ファミリアって常時顕在していて、そのまま各地に潜んでるんですよ。それをシルバーロータスが作戦のたびに呼び集める、という寸法で普段は待機状態。これが本当のすさまじい規模の範囲に存在してるんですよね。そしてほぼ自律して動いている。それぞれのテリトリーで地球側に侵攻してきたインクブスを確固に勝って喰らう事でエナの補給を。さらに苗床にすることで繁殖、増加すらも行っている。
挙げ句には、インクブスしか通れないポータルという世界間を繋ぐワームホール。これを、ヤドリバエやコマユバチといった寄生型昆虫が魔物の体内に卵を植え付けることで通過。密かにインクブスたちの異界側で増殖を始めていて、逆侵攻を開始していたり。
世界すら跨いで自律的に活動している蟲の大群、このスケール感がまたヤバいんですよ。
んでもって、この昆虫群は軒並み巨大化していてだいたいが人間大以上。中には怪獣かよというデカさを誇るものもいるわけで。
昔から、昆虫が人間サイズになった場合、常軌を逸した身体能力を発揮する、という話題はよく持ち上がりますけれど、本作ではまさにそれなんですよね。怪物を上回り怪物を蹂躙する怪物たち。
またこの昆虫たち、描かれる種類が豊富も豊富、そして多種多様。結構細かく分類もされた描かれ方されていて、虫に詳しい人好きな人ならあの虫が出てる、この虫まで出るの!? と、ラインナップ見ているだけでワクワクしてきてしまうんじゃないだろうか。
何しろこの地球上に存在する昆虫の種類ときたらとんでもないですからね。そのうえで、それぞれ特性が多彩も多彩。陸上空中水中地中とあらゆる場所に虫はいて、なにそれ!?とあっけに取られるような不思議な能力を持っていたりするわけですよ。
なのでほんと、ありとあらゆる攻撃、襲撃を魔物たちは受けていくわけですね。
初手から人間大のスズメバチの大群によって、こねこねされて肉団子にされていくゴブリンたち、ですからね。
オークの精鋭部隊を真正面から押しつぶしていくヘラクレスオオカブトとアトラスオオカブトの怪獣総進撃の場面はちょっと脳汁出すぎてやばかった。
裏路地でマンホールの蓋がゆっくりと持ち上がって、主人公を甚振って襲おうとしているフロッグマンを一瞬で地下に引きずり込むジグモとか、異界側に逃げ戻ったゴブリンに卵を植え付けたヤドリバエがゴブリンを苗床に繁殖して、異世界側で逆侵略を開始していたりとか、もう絵面が完全に敵側。
なのに、これは逆襲なんですよ。地球を侵略してきた鬼畜外道の化け物たちに対する圧倒的な反撃。
頼もしい事この上ない。ヤバい面白さですわ

そんな虫たちを使役する主人公のシルバーロータス、東蓮花。この娘がまたいい子なんですよ。これほどの圧倒的な力を持ちながら、増長する事もなくむしろ自分の力に対してとても自覚的で抑制的ですらある。この蟲たちが人間にはインクブスと変わらない怪物にしか見えない事をちゃんとわかっていて、それを仕方ないことと受け入れている。それどころか、自分の危険性に対して自罰的ですらあるんですよね。
それでいて、インクブス相手に対しては常に冷徹非情、やつらを殲滅する意志の強さは鋼の如く。
しかし感情的にはならず冷静に合理的に作戦を遂行する名将の器なのであります。
また情に厚くコミュ力低いんですけれど、一般市民を守ること、家族を絶対に守ることを使命としていて、同じ魔法少女たちの存在も若くして命を散らし、尊厳を踏みにじられる事に心を痛め、身をとして助けることを厭わない。
端的に言ってとても抑制された正義の味方なんですよね。彼女とパートナーであるハエトリグモのマスコットであるレギとのコンビがまた良くて、このクモちゃんがまた品の良い優しくて可愛らしい子なんですよ。無理しがちな他人を避けがちで孤立疲弊する蓮花の事をいつも心配していて、あれこれと気配りしてくれる子であり、戦闘の際には参謀として適格な助言をくれて、オペレーターとして情報のやり取りをする頼りになる相棒なのです。
このコンビが、ほんとイイんですわ。
蟲たちの圧巻の蹂躙という強烈な要素に対して、それを使役する側が狂気に駆られていたり、なんか無茶苦茶な人物だったりするとついて行けない感が出てしまうんですけれど、このシルバーロータスの制御のきいたプロフェッショナルな在り方、仕事人的なクールさ、義と信と優しさを持つ真っ当な心映えが、蟲たちのもたらす蹂躙劇を痛快なカタルシスへと変換してくれていると思うんですよね。

また他の魔法少女たちとの関わり方もなかなか興味深い。こういう見た目からして拒絶感が出そうな、実際矛先が変わればあっさりと人類を絶滅させかねない圧倒的な力を持つ存在、って孤立し排斥される側になってしまいがち。実際、蓮花はそれを覚悟すらしているし、普通の展開だと人類側からも疑われ狙われて、みたいな流れになりそうなものなんだけれど、本作はまた違った流れになっていくわけですよ。
貴女は決して独りじゃない。そんな想いが伝わるようなシルバーロータスを巡る魔法少女たちの姿が、またこの物語に彩りを添えていくのであります。
シルバーロータスと魔法少女たちの物語。そして数が限られる魔法少女たち以上にインクブスたちと死闘を繰り広げ、銃を手に戦い続ける大人たちの見せる人類の意地。
実際、東姉妹のお父さんは国防軍の軍人で、母親はインクブスの侵略に巻き込まれて行方不明なものだから、幼い妹の面倒を見つつ家の家事をやっているのは蓮花だったりするんですよね。また、同じように家族を亡くしている友人、身内が軍人として戦っている魔法少女は珍しくないわけです。
他国だと魔法少女が軍属として組織として活動している所も普通にたくさんあるようですし。
そういう意味でも、人類対インクブスの総力戦でもあるんですよね。
人類の生存を賭けた戦争モノでもあり、淫魔(インクブス)の圧倒的な悪意にさらされ続ける絶望のバッドエンドゲームでもあり、蟲たちの大群によるインセクトハザードなモンスターパニックホラーでもあり、魔法少女たちの淡い青春の物語でもあり、一人の覚悟ガンギマリな主人公によるヒーローものでもあり。
ほんと凄く多彩な要素が詰め込まれた作品であり、やべえくらい面白さが煮詰められたエンタメ作品なんですわ。
疲れ果て絶望と諦観に膝を屈した一人の魔法少女の前に立ち、無数の巨大な蟲たちを従えて。今までよくがんばったと頭をなで、あとは任せろと背を向ける。
うん、「彼女」じゃなくてもこれは脳を焼かれる格好良さですわ。

まだまだ登場していない蟲たち、そして圧巻の戦いが待っているので、是非に続刊希望であります。
魔法少女のナンバーズたちのビジュアルデザインは、みんな見たいですしねえ。
ほんと、今まで見たことのない、しかし心の何処かで見てみたいと思っていたシチュエーションをこの上ない形で味わえる、傑作でありますよ。