【死神に育てられた少女は漆黒の剣を胸に抱く VII(下)】  彩峰舞人/ シエラ オーバーラップ文庫

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討て、死神を。

新皇帝ダルメスが操る屍人軍にファーネスト王国は敗走を余儀なくされた。
多大な犠牲を払いつつも撤退を完了した王国軍は、屍人に対抗すべく周辺国家と手を結び、ブラッドを総大将に連合軍を結成する。さらに、ダルメスの暗躍を知ったフェリックスも蒼の騎士団を率いて合流。
ついに、反攻の火蓋が切られる――!
一方、全ての黒幕である死神ゼーニアに敗北を喫したオリビア。再会したゼットとの特訓で策を練り、ゼーニアとの死闘に挑む。
――守るべきもののために。
数多の思惑が交錯する中、デュベディリカ大陸を巻き込んだ大戦は終幕へと向かう――。

死神ゼーニアに力を貰っているダルメスには死神ゼットは手を出せなくて、オリビアに代わりに始末をつけてもらう、という所まではダルメスは人間だしそりゃ当然そうだよなあ、と思うところだけれど、ゼーニアまでオリビアが倒さなきゃならない、ゼットはゼーニアにも手を出せない、というのはちとハードル高すぎませんか? 
いや、直接死神同士が戦ってはならないみたいな秩序ルールがあったんだろうけれど。
うーん、それにまあゼットに鍛えて貰って魔術まで教えてもらっているオリビアが、かなり好き放題やって国家間の存亡に関わる戦争にもがっつり関わってる、どころか一国の将軍になって暴れまわっているんだから、厄災度は実はダルメスとあんまり変わらないのかもしれない。
まあそこは世界の在り方そのものに手を加えようとしていたダルメスと、そんな大局には一切関心がなかったオリビアとで、世界の秩序に対する脅威度は全然異なっていたわけですけれど。
ダルメスの世界平和に対する思想の極端さとやり方が人間の尊厳を踏み躙るようなものでなかったら、ダルメスVS周辺国連合みたいなことになってなかったですもんね。

とはいえ、お互い多くの親しい人を失っている戦争状態…或いはそれに近い敵対関係や敵の敵は敵じゃない程度の腹のさぐりあいをする関係など、ともすれば集まってもお互い警戒するばかりの烏合の衆になりかねなかった周辺各国を糾合するのに一番活躍したのが、何なら一番被害を与えまくっていたオリビアだった、というのはなかなか面白いところ。
彼女があちこち自分で使者として顔を出すことで協力関係を引き出してるんですよね。実にシンプルな精神構造をしていてとても複雑な交渉なんてガラではないオリビアなんだけれど、不思議と味方からだけでなく意外にも敵方からも信用されているあたり、オリビアって何気に人誑しの才能高かったのかもしれない。
王国でも結構面倒くさいタイプのお爺ちゃん将軍や気難しい参謀長といった面々からも可愛がられていましたしねえ。
そのどんな状況でも素直で無邪気なところは、場合によっては非人間的ですらありだからこそ死神などと呼ばれ怖れられてはいたのですけれど、同時にその素直さと無邪気さが人から慕われ愛され信用される縁でもあったわけで、なかなか不思議なカリスマの持ち主でありました。
そんな情緒がまだ子供っぽいオリビアでしたけれど、アシュトンやクラウディアという身近な親友たちとの交流を通じて、人を愛することを知り、人の住む世界の温かさを知り、またアシュトンを失い親しい人と別れる悲しさ、辛さを知って、それをクラウディアと共有したことでちょっと一皮むけた大人びたものを身につけはじめていたのでした。
いつまでも無邪気だけではいられない。素直なところは変わりませんでしたし、邪気のないさっぱりとした性格は変わらなかったのですが、思慮深く物事についてよく考えるようになり、視野が広くなって自分のことだけじゃない周りの人たちのこと、その未来のことを思い描くようになった。
その根底に悲しみがある、というのは切ないところでありましたけれど、クラウディアと一緒に喪失の痛みを忘れずとも克服しつつある、というのは感じてたんですよね。
アシュトンの家族にクラウディアと挨拶に行くシーンなんかからは特に。

だから、ラストの展開はちょっと個人的には納得いきかねるところがありました。納得というか、雑に感じられたんですよね。
自分としてはアシュトン戻って来ること自体は喜ばしいことだと思ってます。そもそも、彼が亡くなったときも本当に死んだの? もしかして生き返るか実は死んでなかった展開があるの? と期待すらしていました。でも、もしその路線があったとしても最初から伏線は仕込んでおくべきだったと思うんですよね。ゼーニアに魂を囚われたとか、逆にゼットがギリギリで保管しておいてくれたとか。実は死んでいなくて、誰かに利用目的で確保されていたとか。
そういう筋道は作っておかないと、いきなりゼットにお願いしたら生き返らせてくれた、彼だけ(おまけ付きだけど)というのは、流石に前フリもなにもなさすぎて話の展開としてどうかと思った次第。
あとがきによると、途中で思い直してこの展開にした、ということみたいですけれど、さも伏線が最初から仕込まれていたように辻褄合わせするのもまた物語づくりの妙というやつだと思うんで、そこを怠ってのデウス・エクス・マキナは描き方として雑な放り投げだった、と言いたくなります。
そこはほんと、残念だったなあ。
敵も最後は死者の軍団にダルメスとゼーニアという、これまで登場してきた敵方の名将たちと比べるとキャラの存在感に乏しい相手でシメとなりましたし、神国メキアといった実に怪しげというか胡乱な宗教国家との話も、対決に至るまでもなくニアミスばかりで対帝国戦で協力していた関係で終わってしまい、結局あいつらどういう存在だったんだろうってなもんで。なんか構想はあったんだろうか。
これオリビアは旅に出ちゃいましたけれど、帝国も王国も有為の人材を失いまくって国力も疲弊してボロボロになってる状態ですし、これ神国が次の火種になるの確定なんじゃないの?って時にオリビア不在はわりとアウトっぽくないですか?
あ、そうか。アシュトン復活しているので大軍師さまがいれば何とかなるのか。さらっとクラウディアも実力爆あがりしてたみたいですし、なすすべなくとはならないか。いざとなれば、戻ってきてくれそうですしね、オリビア様。
戦記物として面白い作品だったんですけれど、後半ちと息切れしたかなという感じでちょっと勿体ない作品でしたね。