【TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 9(下) ~ヘンダーソン氏の福音を~】  Schuld/ランサネ オーバーラップ文庫

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幼馴染のマルギットと共に辺境の地マルスハイムで冒険者となり、盟友のジークフリートらと共に氏族“剣友会”を立ち上げたデータマンチ転生者エーリヒ。
彼らはマルスハイムに蔓延しつつある麻薬“魔女の愛撫”の出所を追う中、刺客に襲われる情報屋のシュネーを救出する。
彼女から得た情報を元に調査を進める中、エーリヒ達は麻薬組織の親玉に辿り着くため一計を案じ……?
一方、シュネーを取り逃した刺客の一党は、計画の妨げとなる存在としてエーリヒ達を標的に定めて動き出すのだった。
ヘンダーソンスケール行方不明のデータマンチ冒険譚、第9幕フィナーレ!

うへへへへへへへへ、うひひひひひひ、うひゃあああああっ! と、読んでいる間中ニヤニヤしっぱなしの上に時折奇声を放つ始末。すまぬ、気持ち悪くてすまぬ。
だが仕方ないじゃないか。もう最初から最後までずっとずっとやべえくらい面白いんだものさっ!
いやー、これはあかんですよ、いけませんよ。面白すぎて反則だわ、あかんあかん。やははははは♪

あー、そう言えばこれ下巻になるんですよね。なんか上巻も下巻もそれぞれ個別に密度が濃すぎて、上下巻の概念が壊れそう。
いやもうさ、ほんと初っ端から最後までミッシリと隙間なく「おもしれえっ!」が詰め込まれてるんですよ。読んでも読んでも面白いしか出てこない。たっまんねえ!

表紙はこれまででは初となるんじゃないだろうかグループでの表紙絵ばーん。刺客チーム全員勢揃い仕様である。
この面々がまた凄まじかった。個々ひとりひとりでも相当の使い手にも関わらず、この五人で一斉にエーリヒの抹殺を仕掛けてきたときのヤバさと来たら、今までエーリヒがくぐり抜けてきた修羅場の中でも一・二を争うエーリヒの命に届きかけた危機だったんじゃなかろうか。

逆に言うと、これほどの連中が五人連携決めて完全にハメ殺しの状態に陥れて、それでようやくエーリヒがこれは死ぬかもしれん、と思う所まで……なのだ。
ってか、なんでアレで殺しきれないんだよ、エーリヒ。普通死ぬだろ!?
作中で度々語られるところなんだけれど、エーリヒの特性ってとかく、死なない所である。それも、不死性とかとはまた少し違ってて、異能生存体というべきか。それともビルドの突き詰め方が影響しているのか、とにかく何をどうしたら死ぬのかわからんのよね。完全に殺し間というべき必殺の状況に叩き込んですら、凌ぐ凌ぐ、致命傷を与えきれない。それどころか、どれほどダメージを与えても戦闘能力を喪失するような傷は負わないように対処している。どれほど追い詰めても生き残る目を確保していて虎視眈々と逆転の可能性を狙いすましている。逃げの手に出ても次回は確殺できるだけの担保は確保して、自分の不利になるような芽は一切残さない。
魔術の使用を出し惜しんでしまい絶体絶命のピンチに陥ったときも、なので全力全開持てる力を全部ブッパ、とはならずに切り札は最後まで見せない、を徹底してるもんなあ。
下手に見せてしまった場合、次回対処されてしまい次こそ確殺されかねない、というベアトリクス達への高評価故ではあったんだけどさあ、あれだけ追い詰められていながら、次回以降の心配と布石を打てるって所がもうバケモノである。
初見殺しですら、初見で凌ぐもんなあ。
明らかな格上、化け物級の存在が相手だった場合ですらエーリヒを殺すビジョンが浮かんで来ない。謎の吸血鬼X!を相手に生き残った時点でもうあれ凌げるんなら、だいたい何とかなるよ、とイメージが焼き付けられちゃったもの。
エーリヒ自身が絶対に敵わない、あれは怪物だと呼んではばからず、折に触れてその理不尽さを主張しているアグリッピナ師だって、いざエーリヒを本気で殺すとなると確殺できる自信はないんじゃないだろうか。
そんなエーリヒの、あの何をどうしたら殺せるのかわからない、という特性をこの密殺者の一団との戦闘で久々にビリビリと感じることが出来ました。この主人公やばすぎるんだよ。

まあベアトリクスたちはこれはもう相手が悪かった、としか言えない。
面白いのは、彼女らベアトリクスが率いる密殺者パーティー、何一つ間違った選択をしてなかった、という所なんですよね。常に最適解の選択を選んできた、にも関わらず、マルスハイムを滅ぼすテロに加担する事になり、エーリヒみたいなのと真っ向から敵対する羽目になってしまった。
その場その場でどれだけ一番正しい選択を選び続けても、置かれる立場状況は悪くなる一方。
ベアトリクスの在り方って結構エーリヒに似ているところがあるので、彼女の最適解を選び続けたが故のどん詰まりは、エーリヒにとっても重要な教訓になったんじゃないだろうか。
辺境地域に凄まじい規模の謀略が埋設されていて、今回の一件はそこから先行して浮き上がってきた氷山の一角に過ぎない、というのが分かっているからこそ、余計にね。エーリヒやベアトリクスたちの立ち位置から見える最適解って、もっと大きな枠組みやステージが上の階体から見た場合、むしろ悪手だったりするケースは枚挙にいとまがないでしょうし。
エーリヒがアグリッピナ師とコネクションを繋ぎ続けているのも、この上位階の視座を確保しておくべきだからなんでしょうね。まあ個人的になんだかんだとこの丁稚と主が意気投合しちゃっているのが大半の理由ではあるんでしょうけれど。

これが聖者フィデリオさんたちパーティー一行ほど隔絶した実力と、政治を一切無視した一貫した正義秩序のもとにある人たちなら、最適解何ぞ知るかーーっとばかりに真正面から粉砕していけるんでしょうが。
いやいやいや、出来ないから出来ないから。大英雄でもしがらみに足を捕われ躓いて二進も三進もいかなくなるのが通常なのに、なんでこの宿屋の親父さんはそんなの関係なくやりたいように振る舞えるんだよぉ。怖いよw

まあそれにしても、このベアトリクスさんですよ。ちょっと属性盛りすぎじゃないですかね?
まずもって見た目からしてゴスロリ仕様、にも関わらず体格の良さがちゃんと伝わってくるこのミシッとした肉厚っぷり。古式ゆかしいタトゥ型の魔術紋を身体に刻んでいて、スタイルとしては格闘家。これ類別すると格闘家は格闘家でも東洋武術系暗殺拳の類いなんじゃなかろうか。ゴスロリなのに武術家ですよ? 在り方からして闇落ちした武侠っぽい所もありますし、あの太ももの上の方までしめあげるブーツとミニのスカートの間に存在する肉厚の絶対領域。
ゴスロリなのに超太ももキャラじゃないですか、やだもーーっ! キャラデザとして今まで一番ストライクかもしれません。
おまけに、エーリヒと同じ魔術を道具として使い倒す魔術使いタイプですし、その上で毒使い、トドメに影渡りが出来る空間移動能力持ち。
やっ、これちょっと今まで登場したキャラクターの中でも突出して殺意高すぎないですか!? ムカデ虫人のナケーシャさんよりヤバそうってか、こんなんどう戦うねん、こんな盛りすぎな相手にどない生き残るねん、とキャラクターデータのビルドがちょっととんでもない事になってそうなんですけど。
しかもこの人たち、暗殺者は標榜していなくて密殺者なんてのを自称してるんですよね。
いわく、殺した事実すら残さない。殺人の形跡さえ残さなかったら、その死や行方不明は何らの事件性も浮き彫りにしないまま埋没してしまう。
実際、エーリヒが彼女らに襲われて生き残るまで、ベアトリクスって普通に一般冒険者として登録が残ってて殺し屋稼業やってるなんて全く知られていなかったわけですから、筋金入りである。

情報屋のシュネーを殺しに来るタイミングも完璧でしたし、一連のテロに対してマルスハイム側が打った電撃の掃討戦で、勢力糾合の要であり鎹になっていたのがエーリヒと見抜いて、とにかくこいつをまず真っ先に殺すべし、という目標選定の精密さもパーフェクト。
刺客集団として、動きが有能極まってるんだよなあ。実際の戦闘の実力のみならず、事前事後の動きに至るまでプロ中のプロというべき凄まじい腕前を感じさせる。

敵が有能だと、話が締まる。

そのうえで、翻って味方の側も有能揃いなのがまたたまんなく痺れるわけだ。
ロランス氏とかナンナさんとか、登場したての時にエーリヒにガツンとやられるカマセ役かと思ったのに、話が進めば進むほどこの人たち超上澄みのバケモノたちじゃん、となってくる。
このマンネスハイムを縄張りにしているクランたち、揃いも揃ってヤバくない? 曲がりなりにも彼らを指揮下におけるギルド長の姐さんからして有能極まってるもんなあ。
好き勝手やる彼らの手綱を取れている時点でえげつないですよ。当人たいへんお疲れのご様子ですけれど。そういう意味では、そういうコントロールのお手伝いをしてくれるエーリヒってほんとお助けキャラなんですよね。この主人公便利すぎるんだよなあ。
とかく、敵も味方も判断を誤らないので、やはり話が締まる締まる。ベアトリクスの雇い主が狂気入っちゃってただけに、2手3手ベアトリクス側が遅れることになりましたけれど、確かに最善手の打ち合いだったもんなあ。

そんな中でベアトリクスの最大の誤算は、やはり情報屋シュネーを殺せなかったことでしょう。
いやなんで腹部刺されて思いっきりネジられてハラワタ敗れてるのに、カーヤさん治せちゃうの!?
ジークくんの相方のカーヤさん、なんかもう作り出してるアイテムの領域が薬師のレベルじゃ全然ないんじゃないですか、これ?
薬師とは……? て真剣にクビ傾げたぞ?
なんかナノマシンとかを使う未来SFレベルの技術に至ってません?!
彼女が登場した当初は、魔術があんまり使えない薬師だと回復役としては心細いなあ、とか思ってた頃がはるか遠い昔です。これも即死じゃなければ、斬った張ったではそうそう死なないんじゃない?
ラスト近辺の、エーリヒの片目が毒で焼かれたというか溶けた際も、普通はどう考えても隻眼コースでしょう。顔面半分溶けてたよ!?
まあこの主人公、片目になったらなったで格好良い隻眼ムーヴ出来らぁ、とむしろテンションあがってたのいい加減頭おかしいと思います。

そんでもって、今回のMVP。一連の企みを暴き、テロを食い止めた最大のキーキャラクターだったのがシュネーである。
この人、ヤバくない?
話聞く限りでは怪盗やスパイマスターだろうと、その情報とってくるの物理的に無理じゃない? という重要機密情報、貴族の私邸の執務室の誰も入れないような所に入ってきて、あるはずのない情報取ってきちゃってるんですよね。
意味わからん。なにその情報収集能力。
いやね、この情報を集めてくる能力だけでも古今無双だと思うんだけれど、彼女がヤバいのは自分が取ってきた情報を精査し分析するアナリストとしても、訳わからんレベルにあるところなんですよね。
膨大な情報の海から必要なものだけをあっという間に拾い上げ、また全体を俯瞰することで本来なら見えてこない細部や裏で起こっていることを浮き彫りにしてしまう分析能力。
そしてそれらの情報を活用して、他者を動かし誘導し縛り全体を制圧してしまう。
情報という分野に関してあらゆる技能を神域のスケールで習得しているとしか思えない、いうなればインテリジェンスマスター。
ベアトリクスとしては絶対に殺しておかなければならない人材だった。もっとも、前巻のあのタイミングで殺せなかったことで、以降は手出しすると自動的に破滅する状況を設定していたらしいので、実際一度この下巻内で対峙しているにも関わらず、シュネーに手出し出来なかったんですよね、ベアトリクス。
ほんと、カーヤ様々である。普通ならどう考えてもあれで殺したと思うわなあ。

というわけで、黒黒としたこれはもう個人の意志が介在しているのかすらわからない大きな仕組みで蠕動する大謀略の波及効果の一つとして、都市一個壊滅する危機に対処することになったエーリヒとその一党。
シティ・アドベンチャーとしても極みの極みで、面白かった以外のなにものでもなし。
いやあ、大満足でありました。なかなかこれほど「読んだぞー」という感覚を味わえることなありません。
ベアトリクスたち、あまりにもキャラが良すぎてどうするのかと思ったら、まさかのそっち行きかー。
再登場もありそうでちょっと楽しみ。
ヘンダーソンスケール1.0の方は、ベアトリクスたち5人を剣友会に招き入れた場合の未来のお話。より世の中の暗部に踏み入ることになり、今まで見た中でもエーリヒが一番しんどそうな未来でした。当人たちは相応に満足しているみたいですけど。