【目が覚めたら投獄された悪女だった】  皐月めい/いもいち TOブックス

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引き籠り薬師・ソフィアは『恥知らず』と義母たちに虐げられてきた──はずが、目覚めると、重罪で幽閉された悪徳令嬢・ヴァイオレットと体が入れ替わっていた!?
真実を誰も信じてくれないが、薬は作り放題で食事も美味しく、牢獄生活は意外と快適!
これ幸いと満喫する中、自分の体を操るヴァイオレットが実家で暴れまくっていると聞いて恐れおののく。そして遂に、そんな悪女(in自分の体)と舞踏会で対峙した時、ある理由で投獄された彼女の復讐劇に巻き込まれていき……
「ヴァ、ヴァイオレット様、これはどういうことですか!?」
「お前、思ったよりも有能ね?」
稀代の悪女×薬師令嬢の痛快・倍返しファンタジー!

悪役……じゃなくて、ガチ悪女なのね、ヴァイオレット様。尤も、悪女の定義も色々あるわけで、世の中世間にとって都合の悪いような在り方をしているから悪女なんて風聞を得てしまうこともある。
まあ間違っても善人ではないのだけれど、ヴァイオレット様は。
居丈高で横暴で傲慢。人の都合なんか考えずに自分優先、人を人とも思わないナチュラルに他人を見下し罵るその在り方は、控えめに言っても悪女である。しかしバカではない。それどころか聡明で知性高く他者を陥れ自分の尻尾を掴ませない狡猾さを有り余るほど備えている。
そんなヴァイオレットという人物の実像が、入れ替わってしまったソフィアの目を通して理解が及んでくると、はてと不思議な事実に行き当たってしまう。
どうしてそんな余人に一切隙を見せない悪女が、人前で激昂し王太子お気に入りの伯爵令嬢に暴力を振るってしまったのか。お陰でヴァイオレットは哀れ監禁の憂き目にあうわけですが、塔に幽閉された途端に何も知らないソフィアが中身入れ替わられた形でヴァイオレットの身体で目を覚まし、当人混乱の極みである。
いったい誰がソフィアとヴァイオレットの中身を入れ替えたのか(どう考えても犯人はヴァイオレット)。どうしてヴァイオレットは幽閉の憂き目にあうような事をしでかしたのか。どうも偶然ではない明確な意図が、この異常な自体の裏側に存在することが薄っすらとわかってきて。
それはそれとして、実家の悲惨な境遇と比べると貴人の幽閉先である塔の暮らしは、元々引きこもりの薬オタクだったソフィアにとっては楽園でしか無く、わりとあっさり馴染んで様子を伺いにきてくれるヴァイオレットの婚約者候補だというクロードに相手をしてもらいつつ、あれ?ここでこのまま過ごすのも悪くないんじゃ? と、クロードに都合つけてもらった薬剤の調合セットと素材で実験を満喫しつつ日々を過ごすソフィアでありました。
めでたしめでたし。
に、若干なってしまいそうな勢いだったのですけどね。かくの如くこのソフィア嬢、身内に虐げられてきた境遇で他人に物言いできない気弱な性格っぽいくせに、何気に図太いというか感性が鈍いのがおおらかさにつながってしまったというか、図々しいまでちょっと辿り着いてない?くらいの人になっててちょっと面白い。
入れ替わりに関しても、いきなり有名な悪女になってしまっているわ、大きな罪を得て幽閉までされているわというえらい目にあっているにも関わらず、当初こそ混乱しまくっていたものの慣れたら慣れたでこれはこれで、となってしまっているあたりメンタルどうなってるんだ、こいつw
こういう図太さが、どうやら普段からヴァイオレットの激しく刺々しく横暴な性格に振り回されイビられて精神的にもうんざりしていたクロード氏にとっては随分と惹かれるものがあったらしく、いやこれはこれで結構アレなんじゃない?と思いつつも相性というものもあったのでしょう、真実の愛に目覚めるのでありました……という風にいうと、悪役令嬢断罪モノとかだとアレな表現になってしまうのですが。

一方でソフィアの方に入れ替わったヴァイオレットが、あの性格で大人しくしているはずもなく……あっけなくソフィアを踏みにじっていた実家の義母と義妹と何もしてこなかった実父を瞬く間に踏みにじりかえして……ちゃんと法的根拠と貴族ルールを踏まえた上なので圧倒的正統性でぶん殴ってであるのがまた大したもの。
あっという間にソフィアの実家を制圧、実権を握り、それまで義母たちが偽の噂としてソフィアの評判を悪くするために流していたろくでもない恥知らずな女、という風評を……贅沢したおしわがまま言い倒し、と家の財産食いつぶした上で噂じゃなくて実態そのものにしてしまったんですなあ。

……笑える。

話を聞いて、ヴァイオレット様まじすげえ、と戦慄するソフィアがまたちょっと笑えるんですが。

ともかく、ヴァイオレット…別に無作為に入れ替わる対象としてソフィアを選んだわけじゃなく、ちゃんと理由があって彼女を自分・ヴァイオレットの中に押し込め、実は人知れず陰謀が進行していた宮中の関係者に関われるポディションへと放り込んだんですな。
もっとも、そこまでソフィアには期待を寄せていなかったみたいなのですけれど、彼女は薬師としてヴァイオレットさまの想定を上回る成果をあげてくれるのです。
ヴァイオレットが幽閉されてしまったのは、彼女自身にとっても想定外。入れ替わりは苦肉の作でもあったようですから、ソフィアが使える人材であり、何だかんだと自分の意に逆らわない人間であったのは不幸中の幸い、どころか運命の交錯点でもあったのでしょう。
ヴァイオレット様はまあ控えめに言っても烈女で悪女でありますけれど、理不尽を押し付けてくるタイプですけれど、相手の能力や成果は正当に評価するタイプ。報いは正負関係なく与えるべき、というある意味公平な考えの持ち主でもあるんですよね。一方的に搾取するばかりの悪ではない。そしてちゃんと家族や国を愛する人物でもある。バカは徹底的に馬鹿にして見下げるタイプですけど。でも身内認定していると、バカにしていても見捨てないあたり情は厚いんだろうなあ。口は悪いし平気で相手の気に障るようなことばかり言うので、まあ敵ばっかりになる人ですけれど。

そういう意味でも図太いというか鈍感で他人からの悪意に対してもあんまり堪えないタイプのソフィアは、とにかくキツいヴァイオレットの性格に対して相性が良かったのかもしれません。ちゃんと彼女の公平な部分を見つめて接することが出来ましたからね。

ともあれ、ソフィア視点からすると、まずヴァイオレットが何を考えていたのか、から探らないといけない立ち位置で、クロードに協力してもらって色々と調べて……はあんまり積極的にはやっていなかったかな。でもヴァイオレットやってると最終的に社交界やらなんやら引きこもりには辛すぎる表舞台に立たなきゃいけないというソフィア的にヤバい状況も相まって実験ばっかりしている場合でもなく、さらに薬師の立場からどうも王太子の健康状態おかしくない?という事実に気づいてしまい、必然的になんかおかしいぞと宮中の異常に気づいていくわけです。
そうした真実を詳らかにするにあたって、ソフィアとして颯爽と社交界の表舞台に飛び上がってきたヴァイオレットと接触をはかることになるわけですが。
そこでヴァイオレットが先に気づいて何とかしないといけないと密かに対処しようとしていた王国内の陰謀と、それに自分の亡き母の一族がどうも関連あるんじゃないか、という事実にソフィアは行き当たるわけです。ヴァイオレットとクロードと共に協力して進行する陰謀、その実態を暴いていくことになるソフィア。そこには王太子にとってもヴァイオレットにとっても信じがたい真実が息を殺して待ち受けていて……とまあ、王家の闇を暴いていくお話であったんですねえ。
結構陰惨で救いのあんまりない事実が待っていて、一番の当事者となるヴァイオレット様が歯を食いしばり憤怒に肩を怒らせながらその胸の奥に哀切をしまい込む展開がなかなかくるものがありました。
後半完全に主役ヴァイオレット様が乗っ取ってましたね、これ。一応ソフィアとダブル主人公という形になるんだろうか。
書き下ろしで、どうやら今回の黒幕すらも操られただけでもっと深い悪意がその向こう側に存在し、ヴァイオレット様絶対思い知らせてやるっ、とゲージ溜め込んでいるんで、次回以降も話あるんでしょうね。しかしヴァイオレットさま、もし彼女が王家を継ぐ未来があったとしても、普通に暴君にしかならんよなあ、この人のキャラクターからしてw