【魔女と猟犬 5】  カミツキレイニー/LAM ガガガ文庫

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魔女たちは〈オズの国〉へと集結する。

〈花咲く島国オズ〉――異世界からやって来た男がもたらしたアイデアとテクノロジーにより大いに発展した島国。その異世界人は“オズ王”として人々から崇められ、彼から最も恩恵を受けた《エメラルド家》はやがて、オズ島を支配するほどの権力を持つに至った。

銃器を求めてオズ島へと上陸したハルカリたち海賊団が目にしたのは、島を統治する《エメラルド家》と、それに反発する南部の貴族たちによって組織された〈南部戦線〉による激しい内戦の光景だった。〈南部戦線〉を指揮する魔女グリンダ・ポピーから招待を受けたハルカリたちは、彼女のもとへと向かう。

一方その頃、ロロとテレサリサたちも最凶最悪の魔女と呼び名の高い“西の魔女”を仲間にするため、オズ島へとやって来ていた。エメラルド宮殿を訪れた一行は、二代目オズ王の“カカシの王”と謁見を果たす。だが、彼らはそこで“西の魔女”はすでに討伐され死亡しているという事実を聞かされる。

『魔女と猟犬』コミックス1巻&2巻同時発売! 待望の原作5巻は、いよいよ風雲怒涛の「オズ編」へ突入する。

前後編となるの、これが初めてですか。これまでは魔女ひとりに対して1巻ずつでしたけれど、何しろこのオズ編と来たらモチーフがオズの魔法使いですから、魔女が東西南北の4人出ることになるのですからそりゃ1巻じゃ収まらない。
まあそういう単純な話でもなく、実質この巻はオズの国に生まれた、或いは生み出されたというべきか。魔女たちの誕生秘話……もしくは、彼女たちの辛く過酷なしかし輝かしい青春の日々を描いた回想編でもあったわけで……。

オズの魔法使いって童話知ってます? これは童話と言っていいのかな。アメリカで生まれたお話であり、ドロシーいう少女とトトという犬が竜巻に巻き込まれて、オズと呼ばれる国に落ちてしまい、そこでブリキの木こりとかかし、そして臆病なライオンとともに冒険の旅をして元のアメリカ・カンザス州へと戻る手段を見つけるためにエメラルドの都に向かう、そんなお話です。
自分は幼児をやっている頃に、絵本みたいなので読んだようなうっすらとした記憶があります。小説ではなかったはず、児童書までも行っていなかったような。だから、絵本サイズのだいぶ端折って簡略化されたお話で、魔女なんてものが登場していたのかも記憶にありません。
だもんで、wikiなどで大雑把にあらすじなんかを今感想を書くにあたってざっと調べてみたのですが……なるほどなるほど。そもそも、オズの魔法使いに東西南北の四人の魔女が出てくる、なんて事も覚えていなかったか知らなかったか。
東の魔女がドロシーを乗せて吹っ飛んできた家に押しつぶされて圧死した、という話を見て、あらあらまあまあ、となりました。あれこれ? 思いの外しっかりとオズの魔法使いのお話を実際のストーリーの中に盛り込んでいる?
しかしそうなると、東西南北の魔女に当たる人たちはその名を名乗って登場しているのですけれど、じゃあドロシーやかかし、ブリキの木こり、臆病なライオンにあたる人物は誰になるんだろう。そして、オズの魔法使いは?
作中のオズの国では、このドロシーたち四人?の姿を描いたものが存在していて、エメラルド家という王を名乗る一族が、自分たち王家の象徴はライオンであると宣っているようなのですけれど。
そして、オズの魔法使いに当たる人物はこのオズの島に異世界から全く異なる知識と文化、そして銃に代表されるまったく異質な近代の概念を持ち込んできた人物なのだという。
童話のオズの魔法使いの正体は、ドロシーと同じくアメリカから迷い込んできた詐欺師だったわけですけれど、こちらの魔法使いは確かにこの島に大きな足跡を残し、しかしまた結果として大きな政治的動乱の種を残して元の世界へと去っていってしまった、と言います。
原作ではドロシーに会うことで、元の世界へと戻る機会を得たオズの魔法使いでしたけれど、じゃあ既にドロシーにあたる人物はこの島を訪れていた? 
作中に現れた異世界から来たというもう一人の人間、少女こそがドロシーにあたる人物なのか?
じゃあライオンはエメラルド家だとして、かかしとブリキの木こりは? 今のエメラルド家の王様はかかしの王と呼ばれているみたいだけれど。あれ?じゃあ先代はどうだったっけ? 彼らが率いる軍隊が緑のブリキ団だったっけか。ドロシーのお供をした三人はそうやってまとめているの?
じゃあ、ドロシーといっしょにこの国に現れたはずの、ドロシーの飼い犬のトトは?
このトトって、犬であること、そして名前の語感の印象からしても、本作の主人公格でもある猟犬ロロが担いそうなものじゃないですか。ところが、トトって肝心のオズの魔法使いだとあんまり印象に残らない。大きな役割があったとするならば、オズの魔法使いの正体を暴くのがトトだった、というくらいか。でも、このオズの国にもうオズの魔法使いは存在しない……存在しないものの正体をどうやって暴けるのか。それとも、新たなるオズの魔法使いが来ているとでもいうのだろうか。
……って、そう、そうだ。正体を暴かねばならない謎の仮面の存在が、今この国に来ているじゃないか。
死んだはずだよパルミジャーノ・レッジャーノ。
そのまさかの正体を、この巻の最後でパルミジャーノは自ら読者に向けては開示してくれたのですけれど、正直これは完全に予想外。まさかまさかで、考えもしていない人物でした。
いやいやいや、なんで全然そうだと考えなかったんだ? 状況を鑑みれば、一番該当しそうなあやしい人物はそれだったじゃないか。なのに、最後の最後にその仮面をとって見せて名を見せるまで、まったく頭の中にそれを思い描いていなかったんだよなあ。
それだけ無意識に除外していた、ということなのでしょう。だって、いやだってそうだとしたらあまりにも……多くの人の思い出や希望を踏みにじっているじゃないですか。

と、それだけこの巻で描かれた魔女にさせられた子どもたちの思い出、過去のお話、青春の足跡に感じ入るものがあったという事なのでしょう。
パルミジャーノによって養成された、或いは実験動物として扱われた島の子どもたちの栄光と末路。そんな苦しく辛く恐ろしい日々の、でも輝かしく希望と明日に満ちていた日々の、友情と親愛によって結ばれた、理解と共感と断絶によって紡がれた間違いなく光り輝いていた青春の日々。
そこで、後に南の魔女となるグリンダが見つけたものが、本物であったと……人の心がないというモアという少女の……西の魔女となる彼女との友情が確かなものであったのだと、そう心から思えたからこそ、疑念が沸き立つ余地も消え失せていたんだろうなあ。

4巻でのあっと言わされてしまったロロの立ち回りといい、この作者さんは読んでいるこっちの意識に巧妙に死角を構築して、そこに真実を積み立てているのが心憎い。あとから振り返ると、これ絶対わかるだろうに、なんで気づかなかったんだ? と絶句させられるんですよねえ。

しかし、まだその正体が開示されただけで、その思惑に関しては一切の未知のまま、闇の奥である。どうにも、これまで描かれたその人の姿と今のそれがつながっていない。断絶された部分がある。
少なくとも瓦礫に潰されて圧死することになったエレオノーラへのそのときの対応を見ると、この時点で暗躍していたとか裏切っていたという事はなさそうなんですよね。
そして、南の良き魔女であるグリンダ・ポピー。カプチノは彼女の語った過去語りも含めて、彼女には信用できない部分がある、と言っていますけれど、果たしてグリンダにも何か秘めた目的、想いがあるのでしょうか。過去回想見る限りではこの子はこの子でそういう器用なタイプにも見えないんですけれど。カプチノやハルカリ、ファンネルたちの前だけじゃなく、彼女ひとりになったときの独白や行動を見ても今のところ矛盾やあやしい点は見られないんですよね。
それだけに、逆にカプチノが疑っているのが気になるんですけれど。まあカプチノだからなあ、と思ってしまう所もあるので、どちらとも判断がつかない。

ハルカリ、ファンネルの海・雪魔女コンビが思いの外安定しているというか、危なげなく戦争がんがんやってるこの地を渡り歩いているのに対して、ロロとテレサリサ組の方は相変わらずなんというか、危なっかしい。いや敵対している相手が強力、九使徒ともろに直接対決するはめになっちゃってるから仕方ないのでしょうけれど、鏡の魔女様強いのにわりとよくやられるw
実は今まで1巻の時からずっと怪我とか不調が続いていたので、万全となった自分は今までとは別次元に強いっ! とか自分で言っちゃってるロロくん、大丈夫か? 真価発揮できますか?
なんか何気に一番お菓子の魔女のジャックちゃんが頼もしいんですけど。この子、性格的にも一番シンプルかつ純真で可愛いしなあ。そして強い。

そしてお話は、魔女たちが一同に介することなるだろう流れになって、盛り上がったところで次回へと続く。プルチネッラのセリフじゃないけれど、彼女らの再会がどうなるのか、実に楽しみだ。