【サイレント・ウィッチ -another- 結界の魔術師の成り上がり〈上〉】  依空 まつり/藤実 なんな カドカワBOOKS

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モニカの同期で性格破綻者、〈結界の魔術師〉の原点を描く書き下ろし!

僅か一週間で教本に載る魔術を全て覚えた天才少年ルイスは、魔術師養成機関の特待生として迎え入れられることに。
だが、貧しい寒村で育ったルイスの性格は粗野で乱暴。貴族だらけの魔術学校では問題児扱いで、魔法戦で他の生徒を圧倒的実力差でぶちのめし、悪童として恐れられる始末。そんな中でも、尊敬すべき師や頼れる友人達と出会い――。
モニカと同期の七賢人ルイス、その青春時代の伝説的悪行の数々を描く、物騒すぎる『サイレント・ウィッチ』前日譚!

【大人気『サイレント・ウィッチ』シリーズのスピンオフが大幅書き下ろしで登場!】


えー? 外伝の主人公ルイスぅ? あの陰険メガネでしょ? 面白くなるのそれぇ?

……めちゃくちゃ面白かったです!

とまあ読む前は半信半疑だったのですけれど、これがまたもうハチャメチャでルイスというキャラクターをまだ自分は全然知らなかったし、分かっていなかったんだなあ、というのを痛感させられる、そして何より彼の破天荒な若かりし頃のお話が面白くて面白くて。完全に伝説残してますやん!

そして想像以上にルイスが青春していた点。アオハルじゃん! アオハルじゃん!

そもそも本編の方のルイスって性格こそ破綻しててまさにえげつないとしか言いようのない人物なんだけれど、言葉遣いは丁寧……あれは慇懃無礼って言うんだろうけれど、ともかくも品格の高そうなスマートなふるまいでありイイところの出なんだろうなあと思ってたんですよ。若くしてきれいな奥さんもいるみたいで、家庭持ちでありましたし。
そりゃあ、やたらと暴力的になることも多いですし性格陰険で破綻してますし、しょっちゅう悪巧みしてるわりに力技も多いし、とは思いましたけれど、出自は良くても性格破綻してたらそういうの関係ないですしねえ! なんて思ってたら……まさかまさかの娼館出。最下層でしたたかに生き抜いていた小僧だったとは。
でもルイス少年、非常に酷な環境で生きていたのは間違いないんだけれど、そこで現状の苦しさに反逆する負けず嫌いな側面を育てることになったわけだし、何より娼婦の女たちにはとても可愛がられていて、魔術師になるために飼われていた娼館を抜ける際にはみんなに助けられ送り出されてるんですよね。
彼には家族はいなかったけれど、家族同然と言える人たちは居て、彼は愛を知らない子供ではなかったわけだ。そして、彼女たちには本当の家族を作れ、という命題すら与えてくれていた。
それが学ぶことへの貪欲さ、目的のためには手段を選ばないえげつなさ、と共に彼の中に素直に人の言う事を聞き、相手を認め受け入れる素養を与えてくれていたんじゃないだろうか。
まああのルイスの暴れっぷりを見て、素直とか人との協調が出来る人物だとは普通思えないんですけどねえw でも、反逆心反抗心負けず嫌いが強いだけで、相手が叩いてきたり攻撃してきたりしない人物であれば、というより心持って接してくるような相手だとかなり素直なんですよね。
同室となったオーエン然り、図書室で出会いルイスにあれこれと教えてくれたロザリー然り。
そして、後にルイスの恩師となる結界術の先生メイジャー。
ルイスって育ちの悪さと気の強さが相まって素行が本当に悪いんだけれど、学ぶことに対してはとても真面目で意欲的で不良でありながら優等生。いつもトラブルを起こし事件を撒き散らす問題児なんですけれど、同時に学ぶことに対しては学生の鑑みたいな所があって、意外と先生がたには困ったやつだと思われつつも、それ以上に可愛がられていたんですよね。
特に生徒指導を任され規律にうるさかったメイジャー先生は、ルイスの素行の悪さを目の敵にしていたくらいなんだけれど、教え子として直接関わるようになると先生の説教にはうるさそうにするものの、魔術に対する姿勢はとても真摯で、メイジャー先生のあまり高くない自己評価を覆すようにまっすぐに自分のことをリスペクトしてきてくれるんですよ、ルイスって。あの性格ですからオモテウラなく本気で言ってくれているというのは伝わってきますし、とても優秀でスポンジが水を吸い込むように教えた事をそれ以上に昇華していくルイスは、手のかかる子ほど可愛い、てな感じになっていくんですよね。
この二人の師弟関係、すごく素敵でありました。
やがて結界の魔術師という二つ名を得る彼が、恩師に対して無邪気に送った結界の魔女という号が、どれほど彼女の心を労ったのか。まだ若いというか小僧なルイスは全然自覚ないあたりがまたむしろイイんですよ。先生と生徒という関係の素晴らしい部分だと思ったわけです。

しかしまあ、想像以上というか想像を絶する暴れん坊だったんですねえ、ルイスって。最底辺の出身であるという事に僻むでもなく、むしろ頑固に自分の在り方を変えない、生き馬の目を抜く生き方を辞めない、満たされた環境に迎合しない、馴染んだようで決して馴れ合わないという野生児であり反逆児。
どれほど天才で学生として優秀であっても、まあ不良である。不良としか言いようがない。
そんな彼と勉強を通じて交流を深めていく、こちらはまさに品行方正、真面目で隙のない優等生。筆記では学年首席を譲らないという意味でルイスのライバルでも有り、でもそれ以上に同じ時間を共有する時仄かな温かさと穏やかさが包みこんでくれる、どこか特別な人ロザリー・ヴェルデ。
少年! 少年! それは初恋だよ! クソガキのくせにいっちょ前に恋しちゃってるじゃないかよ! 完全にこれ、不良と優等生の恋物語ですよ。こと学業に関してはルイス本当に真面目だし、魔術を学ぶ意欲は貪欲ですらあるので、不良と優等生だけど一緒に高め合う関係でもあるから一緒に過ごす時間の密度が違うんですよ。
ロザリーも色々と問題を抱えている子で、ルイスに対して複雑な思いも抱いているんだけれど、ネガティブ以上に彼のあの暴力的なまでの前進気勢が、ロザリーにとっては羨望でも有り勇気にもなる関係だったんだろうなあ。
アオハル、アオハルですよ。なんかもう思ってた以上にルイスがアオハルしてるーっ! してたーっ!
なんだよこの野郎、本編ではなんかあの性格のくせにやたらと甘酸っぱいラブラブな奥さんがいらっしゃるご様子なのが、なんなの!? なんなのこいつ!? て感じだったんですけれど、そうかーー。大恋愛だったのかー。
いやこの男、思い立ったらモダモダうだうだせずにガシッと決断して行動に移してくれるの、気持ちいいですわ。
そして、途中編入してきたライオネル第一王子との関係。いや、本編の方ではルイス、第一王子派として最初から振る舞っていましたけれど、そのわりに王子の王位継承に対してはあんまり意欲的でなさそうでしたし、てっきり立場上ビジネスライクな意味合いで第一王子派に属しているだけで、王子本人とはドライな関係なのかな、とすら多少想像していたのですけれど……。
いやこれ、むしろ学友としてえらい近しい関係じゃないですか。これ遠慮なさすぎておもねらない関係だからこそ、第一王子派としてもあまり湿度の高そうじゃないドライな姿勢でいたって事なんだろうか。でも絶対に裏切ったりはしないよね、これ。それ以上にライオネル王子の意向をしっかりと汲んでそうだし。王子自身、国王になるかどうかについて野心的でない王子の意思を考えると、本編でのルイスの第一王子派の優位のためにあまりガツガツ活動していないわりに、第二王子のバックにいる公爵に対してはやたらと攻撃意欲高いのは、こうなるとなんかしっくり来たかもしれない。

こうして過去編を見ると、ルイスって言動や振る舞いなどえらく学生時代と七賢者となった今とでは違って見えるんだけれど、根本的なところは何も変わってないんだろうな、というのが本編のルイスの言動などを見直して見ると、伝わってくるんですよね。
何も変わってないけれど、ちゃんと経験を積んで人生歩んできて、ああなったんだろうな、というのがほんとによく分かる。
一方で、こっちを読むことで初めてルイスという人物の本当の姿が見えてきたとも言えるわけです。少年時代からのルイスの本当の姿を知ることで、本編でのルイスの発言や行動の真意や実際どんな考え方でああいう事していたのか、というのがようやく分かる寸法になっている。
ルイス自身は過去から本編の方に至るまで何も変わっていないんだろうけれど、見る側読む側の此方側は過去編を読むことで、以前とはルイスという人物の見方が大きく変わって見える、というのはこれ面白いなあ。
まだ後編、思い通じ合ったロザリーを無事に迎えるために、ふさわしい立場を手に入れるために奮闘するルイスの成り上がり劇と、ついに七賢者揃い踏みとなってあのまともに人と喋れない小さな魔女との出会いがどうなるのか。見どころ見せ場が山程あって、続き楽しみです。