【汝、わが騎士として】  畑 リンタロウ/火ノ 電撃文庫

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二人が誓いを交わす時、全ての絶望は消え失せる。異端の騎士物語、開幕!

超常現象の使い手にして戦争の道具である『情報師』。平凡な情報師ツシマ・リンドウは、没落貴族の娘ホーリーをバルガ帝国から亡命させる仕事を請ける。しかしそれは、渦巻く陰謀の始まりであった――

二人の逃避行は帝国正規軍だけでなく、帝国最強と名高い情報師『六帝剣』までもが襲撃してくる過酷な旅路となる。ただの没落貴族を相手に動き出す強大な力と影。その訳はホーリーの隠された正体にあった。

圧倒的な強敵、幾重にも渦巻く陰謀、蘇る過去の因縁。膝を折るには十分すぎるほどの絶望。だが――それが、どうした?
取引の関係でしかなかった二人が最後の誓いを交わす時、全ての絶望は消え失せる!
騎士というにはあまりに遠い、異端の騎士物語。ここに開幕!!


ほうっ! へぇ! ふふん、はあ、なるほどなるほど、これはこれは。うんうん。

いいね!

面白い。
いや物語としての面白さも当然なんだけれど、それ以外にもなんていうんだろう、新人賞の受賞作品らしい作品を読めたなあ、という意味合いの面白い作家さんが出てきたぞ、という「面白い」が思わず飛び出してしまった。
あれである。後方で腕組みしながらほくそ笑んで「ふふ、面白い」とか言ってるやつである。
第30回電撃小説大賞の……選考委員奨励賞、奨励賞なのか。いやわかる。むしろ、奨励賞ってのが金銀賞よりも分かる。
いやでも、これまでの奨励賞作品と比べると、けっこうレーベルとしての推しの強さを感じるんだけれど、気のせいかな。
でもなんとなく推したくなるのもわかる作品だったんですよ、いや作品というよりも書いてる作家さん自身の将来性に対して、というべきか。
本作はさすが新人賞に出すだけあって、物語の完成度としては無難によくまとまっています。無難って言葉は言い方が悪いか。起承転結淀みがなく、ストーリー展開にも変なブレがなく一貫している上に、登場人物同士の関係とその化学反応による成長。展開そのものはオーソドックスですけれど、破綻なくよくまとまっていると思う。その分、本作ならではの尖った部分、突出した部分、これしかないという部分があまり見当たらない。まあこのあたりは新人作品では毎度の如く目の当たりにするウィークポイントですけどね。
そして、なんかまだ熟れていないなあ、と感じさせられる硬い文章。堅苦しいとは違って、ぎこちないとか滑らかさが足りない、読むときの目線の摩擦係数が高い、というようなほぐれていない硬さの感じられる文章ですね。
これも新人作品ではよく見る感覚で、まだまだ柔らかさとか慣れが足りてなさそうだなあ、なんて感じながら読み始めたのですが……。

これがねえ、読み進めているとあれ?と驚いたんですよ。
文章、硬いわりになんか、スルスルとその描かれているシーンの情景が色鮮やかに思い浮かぶなあ、と。
不思議と、イメージがすっと湧いてくるんですよ。登場人物の喋っている声も聞こえてきそうで、彼らが立ち回っている動きやその立っている場所の空気感もそのまま鮮明に感じられるのです。
文章自体はそれほど技巧が凝らされている風でもないし、言葉の選び方や並びに妙があるようにも見えない。
でも、なぜか情景がすっと頭の中に入ってくる。感情の浮き沈みや、声音のトーンが。場面場面が、シーンが、容易に浮かんでくるんですよね。
奇妙なまでの自然な没入感。
いやほんとになんでなんだろう、と。文章的にはうまいどころか拙いとすら感じられるものなんですけれど、自分がわかっていないだけで言葉の使い方や並びは実は凄く整えられているんだろうか。硬さのなかに、だからこその丁寧さはすごく感じられたんですけどね。
ちょっとこの文字を目で追う感覚とそこから得られる情報の解釈度というかイメージへの変換の密度とスムーズさに、今まで感じた事のない隔たりというかギャップ? みたいなのがあって、新鮮な驚きと心地よさを味わいながらの読感となっていったのでした。

面白い、なんだこれ?!

どういう塩梅でそうなっているのかよくわからないんだけれど、この作家さんの書く文章には凄く高い伝える力が備わっているんだろうか。それが意図された自分にはわからない技巧なのか、それとも備わったセンスなのかはわかりませんけれど、これが土台となれるのならこれから経験を深めていって文章にしても物語にしても熟れていき、奥行きを深めていけばいくほど、面白さのスケールがどこまでも拡張出来るんじゃないかと思わせてくれる、スタート地点の下地の高さを感じるんですよね。
それ以前に、今のままでもどんなベタな話を書いても、ある一定以上は必ず面白い作品を書けると思う。というか、面白いと感じるように仕立てる事が出来ると思う。それが行き止まりの到達点じゃなくて、スタート地点っぽいんですよね、この方。なんかもうあとは伸び代ばかりじゃないですか? そりゃもう奨励したくなりますよ。

っと、肝心の本作について全然触れていなかった。
一番好感が持てたのは、主人公のツシマ・リンドウでした。いや、主人公ってツシマよりもホーリー……ルプスの方だったのかもしれませんけれど。諦めの境地にあった少女が、より強くより輝きを宿す人へと飛躍していく成長の物語でもありましたし。
でも、印象強かったのはやはりツシマの方でしたね。この男、最初に出てきた時は無愛想だしそっけないし、少女の護衛に対してもこれは仕事だ、と割り切った態度に終止していて、よくいるクールでビジネスライクに徹する、ヒロインに対しても面倒くさいと鬱陶しがる深い関係を結ぼうとしない、面白味のないタイプのキャラなんだな、と思って見ていたのですけれど。
このツシマ、護衛するのも仕事上の関係にすぎない、とか子供は嫌いだ、みたいな態度を最初は見せていたんですけれど、そのわりに身内が全滅して傷ついているルプスの事を気遣ってさり気なくあれこれと気を回していたり、気が紛れるならと話し相手になってあげたり、無愛想でそっけないようで凄く気が回るんですよ。すごく優しいんですよ。
露骨に態度かわるわけじゃなく、一貫して無愛想ではあるんだけれど、わりと無茶なわがままも言ったりするメンタルがだいぶ疲弊しているのと世間知らずが合わさって、結構面倒くさい状態になってたお姫様を邪険にせずに、いちいちちゃんと相手してあげてましたからねえ。
そのうち、単なる仕事上の関係じゃなかったのか、と思ってしまうほどに、まだ子供なのにこんなに大変な立場に立たされて、と完全に情が入り始めてルプスに肩入れしちゃいだすんですよ、この男。
いやいや、クールどころかめちゃくちゃ熱い男じゃないですか。弱い子を放って置けない情に厚い男じゃないですか。陰鬱な空気をまといどこか世捨て人めいた擦れた雰囲気をまとっている男のくせに、少女の将来を、未来を心配してしまうし。意外と率直に胸襟を開けて本音を話すし。弱い弱いと思って守ってやらないとと思っていた相手が急に立ち上がり、その心根を輝かせるのを目の前にしてちょっと動揺してしまったり。
いやマジでこいつ、言いにくい自分のこともちゃんとお姫様に打ち明けるんですよね。
これもギャップ萌えの一種なんでしょうか。ぶっきらぼうで面白味のなさそうな振る舞いは最初から一貫して変わらないのに、中身の方は最初の印象と全然違う方へ違う方へとずれていく。この乖離がどうにも心地よく、ツシマ・リンドウというアウトローがまさに「騎士」に相応しい精神の持ち主だとわかってくる……いや、お姫様にそういった面を引きずり出されていったのか。そんなツシマへのイメージの変遷が、なんか凄く良かった。良い主人公を味わえた、てな感じでした。
お姫様の方も最初はまだ世間のこと何もわかってないし、わがままだし、それでいて絶望と諦めを抱えていて、未熟と愚かを抱え込んでいたのですけれど。その弱さが、ツシマの庇護欲を引き出したと言えるのか。でも弱いままに甘んじず、いつしかツシマが自分を亡くした姉に重ね見ていることへも、自分を見ろっ! と、過去に思いを馳せて停滞していたツシマを、現在と自分のもとに引きずり起こし、自分の手を汚す覚悟を決めてツシマと同じ場所に立つことを選ぶ、というまあ成長著しいヒロインであり、むしろこっちも主人公だったんじゃないか、という輝きでありました。
いやそれ一気にメンタル一皮剥け過ぎじゃろう、と思ってしまうくらい。まあそれくらい一気に成長しないとデッドエンドしかない状況だったのですけれど。それでもツシマに甘えきれば、自分ひとりは安全に逃げることも出来たでしょうに。
ちゃんと主君に足るだけの人物に成長する、立派なお姫様でありました。
続きがあるなら、お姫様の学園編になるんだろうか。いやそれだと、ツシマどうするんだって話になってしまうけど。さすがに同級生で同じ学校に通えないだろ、もういい年だしw 教官という手はあるかもしれないけど。それに、一度闇に身を染めたルプスには、もう平和の中に埋没するつもりもなさそうですし。
これ、ルプスまだ「化ける」かもしれないなあ。