【帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中 2.王国研修出向】  佐伯 庸介/きんし ガガガ文庫

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争いの火を止めるため女司書は戦場へ駆ける

「違反者の取り締まり、付き合ってくんない?」
女司書は決して相容れないはずの相手に、そう言い放つ。

『魔導書』と『魔王雷』、双方の使用禁止という協定が成立したが――それでも《人類連合》と《魔族軍》との戦いは続いている。

相変わらず攻撃の決め手に欠ける連合軍。王国は今や抑止力としての効果に疑いない『魔導書』の力をさらに掘り起こすべく、帝国から魔導司書を招聘することとなった。そして、そこに呼ばれるのは当然――
「出向ですわ♪」
「嫌すぎますわ♪」
帝国第11前線基地魔導図書館司書であるところの、カリア・アレクサンドルその人なのだった。

本を愛し、愛しすぎたゆえにまんまと戦場まで連れて来られた挙句魔王軍と現場突発交渉しちゃう女は、どんな戦場でも「司書」としての軸をブラさない。
魔導書は守りたいし、図書館運営も大事だし、協定を侵そうとする奴は許さない。
そして、利用規約違反はどんなに偉いやつでも、地獄の底まででも追いかける。

戦争という現実に司書は吠え猛り、蛮勇と矜持の牙を立て走る――!


ほんと、ブレない人だよねえ、カリアさん。人類側の連合軍の同盟国であり、魔導書と魔王雷の戦略魔法の相互使用禁止協定にも積極同意してくれた王国に、魔導司書として魔導書の扱いを指導するために研修出張することになったカリアさん。
そして、他国だろうと関係なく、司書として本を大事にすることを第一に。本を読む人たちのことを第一に、という基本基準が一切ブレないのよ、この人は。
そして、充溢した気合がまったく抜けないの。気合充填100パーセントが最初から最後まで減らない。減少しない。へこたれない。何ならいざとなったら120%とか150%くらいまで上昇するのよ。
気合100%が基本で最低ラインなんじゃないの、この人!?

ついつい他国なのに前線基地図書館の運営にクビ突っ込んじゃって、あいも変わらず図書館の不良利用者を怒鳴り飛ばし、なんだかんだと姐さん司書として慕われてくる過程でもずっと気合たっぷりだし。
専門の魔導書の扱い、修復指導の研修の際も真剣に丁寧に、それはそれとして気合漲ってるし。
なんなら、アリオスとのデートのときだって照れながらも結構浮かれ気合入ってたし。アリオス相手のときは基本受け身でどうしたもんかなー、という態度なんだけれど、1巻と比べると何気に絆されたというべきか彼のアプローチに変に反発しなくなり、結構力入って楽しんでたようにも見えたんですよねえ。
加えて、ラストでアリオスを慰めるあのシーンでも、包容力を漲らせているって表現はなんかおかしいけれどこれが一番しっくりくる、カリアさん中身みっしり詰まった感じなんだよなあ。凄いよなあ。
これで無理してる感じがなくて、ほんと自然なんだもん。気合100%が自然ってどんな人種だよ。
それこそケンタウロスの誇り高き戦士であるラードルフが戦士ではないと思いながらも認めてしまう、行動力のバケモンなんだよなあ。否応なく、周りを引きずり回し、周りがついてきてしまうこのカリスマ性。
戦場のど真ん中で啖呵切るシーンとあの挿絵の気合の入りっぷりはなんかもう例えようのない魅力の塊でありました。
それに彼女の気合って、何かを否定したり打ち倒したり切り飛ばしていくもんじゃなくて、全部受け止める包容力の方に全振りしているかのようなのが、特殊というか特別というか、なんかグッとくるものがあるのも特徴なんですよね。
あの戦場のど真ん中シーン、絶対に止めなきゃいけないシーンにも関わらず、撃つな!ではなくて、撃ってこいッ、ですもん。

もう、こんなん、惚れてしまうやろが。
あらすじで、司書は吠え猛り、なんて書かれてたけれど、ほんとに最初から最後まで吠え猛ってたぞ、この人w


今回の話は、魔王雷という魔王が放つ突如遠距離から降り注ぐ戦略級破壊魔法に対して、同じく戦略級の破壊力を持つ魔導書という古から存在する力ある本の運用を実用化した人類連合が、まあ相互確証破壊……核の抑止力みたいなもんですな。同等の戦略破壊兵器を装備することによって、そっちが使うならこっちも使うからな。それが嫌ならお互い戦略級破壊魔法については使うのをやめよう、という協定を……前回カリアさんが魔王軍側と勝手に結んじゃったのである。
勝手に結んじゃったとはいえ、魔王雷によって一方的に軍隊や街を焼き払われて滅亡一直線の損耗を続けていた人類連合にとっては、この上なくありがたい猶予でもあり、そのまま人類連合と魔王軍の正式な協定として認められたってわけだ。
1巻では、まだ魔導書の修復が終わっておらず、人類側にはいつ魔王雷が降り注ぐかわからない、という恐怖感がつきまとっていた。いや、正確には魔王雷の発動には時間がかかり、その間に人類側は着弾予想地点を割り出して、そこに魔導技師隊という結界形成のための専門部隊がかけつけて防御結界を張る、というカタチで被害を食い止める方策を作り出していた……いやこれ、よくこのなすすべなく魔王雷打ち込まれていたところから対策立ち上げたもんだ、と人類側の底力には感心する他ないんですけれど。
その魔導技師隊も命懸けで、無傷で防ぐことが出来るわけでもなく、もう各国とも隊の維持が限界にくるところまで来てて追い詰められてた、というのが前巻までの状況だったわけだ。
前巻はどちらかというと前線で戦う兵士たちの視点に寄り添う物語だったので、この魔王雷の脅威というのは戦争という大きなククリからの脅威として描かれることが多く、まあ視点が高いってかな。とんでもなくヤバいどうしようもない災厄だった事はもちろんわかる。いきなり後方の都市や基地が消し飛ばされるんですよ、そりゃ怖いというのはわかる。

でも、この巻ではその脅威が食い止められた、という事で改めてね……理不尽に前触れもなくいきなり、それまでの生活や家族や親しい人、愛していた人が消し飛ばされてしまった一人ひとりの兵士や市民、貴族なんかでもそうか。身分関係なく、どれほど恐ろしい思いをしてきたか、どれほど辛い思いをしてきたか、というのが登場する様々な人の過去から伝わってきて、実感させられる話でもあったんですね。身近な体験として伝わってくる。
だから、その魔王雷を止めてくれたカリア・アレクサンドルという人に対しての熱い思いというのもまた伝わってくるわけですよ。カリアという人がただ憧れられ、遠くから感謝されるだけの存在ならそこまで熱い想いは向けられなかったかもしれないけれど、彼女は研修というカタチで訪れた王国の地にて、今まで通り熱血司書として振る舞い、本の楽しさを広め、魔王雷を止めたという英雄的行為と関係なく、本や読書、図書館という場所・環境を作ってそれを皆に広め体感させ一緒に味わって、つまり
生きる活力を凄く身近で大盤振る舞いする姿を見せてくれていた。
クライマックスで他国の人間である彼女に味方するもの。本来なら彼女を止めないといけない立場ながら彼女に対してどうしても銃口を向けられなかった人たち。彼らのカリアさんに向ける感情の源泉を、彼女自身の人となりとともに、この魔王雷がどれほど人々を恐怖させ、日々心を荒ませ、絶望させていたのか、という所に見ることが出来たわけです。

ほんと、タレーアさんにしてもミッターノさんにしても、今回の話のメインを担う人たちの多くが、魔王雷によって人生を破壊され、大切な人を唐突に奪われて、深く心傷ついた人たちでした。
その傷ついた心ゆえに、今の歩みを続けている人たちでもあった。
魔王雷による破壊って、ただ戦争の災禍によって遭う被害とはまた少し異なる絶望がある、というのがそれぞれの傷つき方で伝わってきてたんですよね。唐突に、いきなり。安全なはずの後方で。何もかもが破壊され消え去るような喪い方をする。覚悟のしようがない、受け入れがたい喪失。
それに対する向き合い方は、また人それぞれでもあったわけですけれど。
タレーアさんは特に……ねえ。
これらは特に今回の話で胸にじんわりと残るものがありました。
ポロニアさんは、その痛みをわかっていなかった……いや、そうではないか。そういう痛みをわからない人ではなかった。むしろ人の気持がよく分かる側の人だったのではないでしょうか。生きる気力を失っていたタレーアさんの傷ついた心にそれ以上血を流させないように生きさせるのに、ポロニア王子の示した指針は間違いではなかったはず。そしてアリオスの親友であれる、というのは相当ですよ。
だから解釈を間違えていたというべきなのかもしれません。捉え方を誤っていたというべきか。
あとで皇女さまが彼は人々を信じきれなかったのでしょう、と言っていたセリフに深く考えさせられるところでもあったんですけれど、彼の危機感は本物で、為政者としての責任感も、高貴なるものとしての義務感も、何より民を守らなくてはならないという想いも本物以上の本物だった。
でもその責任感の強さが、優秀さが、自分がなんとかしないと、という判断につながってしまったんだろうなあ。そして、彼の判断って一概に間違いでもなかった。合理的で、可能性もあった。このまま戦争がズルズルと続いて民の被害が限界を超えてしまうという危機感も、焦りも、事実と現実に向き合った結果でもあっただけに、否定はし切れないんですよね。
でも、その苦難を魔王雷という最大の悪夢がなくなった今、人々は絶望を乗り越えて克服できるかもしれない。魔王軍との戦いも、うまく着地させられるかもしれない、という希望側の可能性を彼は信じることが出来なかった。為政者としては楽観的になるより悲観的に見てしまうよね。
ほんと、誰も悪くない話だったんだよなあ。
いや、後始末を親友であるアリオスに押し付けた、という一点でポロニアさんは許せざるよ。ただでさえ人間性削るような生き方してるのにさ。
……カリアさん、真面目に慰めた責任とってあげた方がいいんじゃないでしょうか。