【軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。5 〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜】  冬瀬/タムラ ヨウ 一迅社ノベルス

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
私は軍人です!
愛する友達を護るためならば、私は喜んで剣を振るおう!

学園祭の魔物騒動は、マジェンダ帝国による宣戦布告だった。戦争が始まり軍人として前線に立つことになったラゼは、セントリオール皇立魔法学園を退学する。皇国はあらゆる兵器を使う帝国に苦戦していたが、軍の上層部がラゼに単身での帝国潜入及び破壊工作を命じて……!?
一方で、ラゼの退学を知ったフォリアたちは、彼女と連絡を取ろうとするが、家も仕事も過去も何もかも分からずじまい。それもそのはず、ラゼ・グラノーリは偽名であり、彼女の本来の姿は名誉貴族で、最強軍人であることが判明し――フォリアたちは友達と再会するために戦地へと向かう!

前世知識と軍人としての技能をフル活用して、ミッションコンプリートです!

どうか天の導きがあらんことを――!

軍人ラゼの異世界転生ラブコメディ第五弾♪

ついに最後までラゼ・グラノーリが何者か、というのをアディスやフォリア、カーナといった学園でできた友人たちに隠し通した上で、帝国との開戦を迎えて軍務のために護衛任務を完了、退学という形でラゼ・グラノーリの存在を抹消したラゼ・シェス・オーファン。
転生者である事すら同じ転生者だったカーナのみならず、帝国の預言者にまで知られてしまったのに、軍人としての正体、機密情報に関しては本当に一切バレることなくやり通したんだよなあ。

おかげで、新学期になって突然姿を消したラゼのことを、誰も追うことすら叶わない。
こういう特殊任務として学校に学生として潜入するお話は、大概その正体がバレる、或いは明かさざるをえないような状況になって、そこに居られなくなって姿を消すというパターンが多い。
それだけに、ここまで完璧に潜入任務完遂してのけた主人公、はじめて見たかもしれない。
ちょいと謎めいたところのある平民の奨学生だったラゼを、疑う人もいなかったんですからどれだけ学生への偽装が完璧だったか。
普段の姿がラゼの素のときの姿そのままだった、というのも大いに理由としてはあるんですけどね。それでもプライベートと任務の切り替えが見事なくらいきっちりしてたからなあ。
いやあ感心しきりです。

その後の前線任務での獅子奮迅の戦いっぷり。最前線で敵兵とやり合う戦場でも、彼女の移動魔法の冴えはとんでもなく。諜報方としての影働きだけじゃなく、かなり力押しとなる魔獣相手の掃討戦から、同じ人間相手の前線任務まで圧倒的にこなして見せる「狼牙」の凄まじさよ。
彼女の存在が認められるだけで全体の士気があがるほどの戦場の女神となってましたからね。同じ特務部隊の人間のみならず、戦場に立った兵士たちの間でも彼女の存在は知れ渡ったでしょうから、これを期に日陰の存在から堂々と日の当たる場所に立たせて正当な評価を与えよう、という国の重鎮たちの考えも然るべきものだったのでしょう。
とどめに、帝国内部の潜入して帝国内のクーデターを支援スべし、なんてやべえ任務まで完遂しちゃったわけですから。
先に帝国内に潜らせて広げていた諜報網が寸断され、本国と連絡取れないまでになっているなかで、身一つで潜り込んで反乱勢力を見つけて残存する草のものと渡りをつけて、ってそれラゼに丸投げしすぎだろ、って任務でしたからね。
まあやっちゃうのですから、そりゃ宰相閣下も頼りますわ。ほんとになんでも出来るんだもの。彼女が居ると居ないとでは選択肢の幅が全然違いすぎる。
ラゼって単に強いだけではなくて、移動魔法……つまり転移転送引き寄せを長距離短距離関わらず任意の場所にテレポートしアポーツし、と極めに極めきってますからね。便利すぎるわ。
アディスとしては、騎士・軍人として偉くなってラゼを守るのは、既に軍の英雄となっているラゼなんで絶対に無理、と賢明にも判断した上で、父である宰相のあとを負い政治の場に立つことでラゼが危険な戦場に立つ必要のない状況を作れる立場に立とう、と志すことになるわけですけれど……偉くなればなるほどラゼの使い勝手の良さを思い知って手放せなくなりますよ、これ。
ラゼのメンタル面の疲弊の危惧や、同じ世代の子供を持つ親としての親心から、皇王、皇弟、宰相といった国の一番上あたりの人たちがラゼを護衛任務という名目で年相応の学生生活を楽しんで送れるように、と魔法学園に送り込んだわけですけれど、それでも結局事あるごとにラゼには仕事を割り振らずにはおれずにしょっちゅう任務に出動させてたわけですしねえ。

ともあれ、退学届を出した後消息不明だったラゼを探すために、自分たちの親や保護者という伝手も使い倒していたアディスたちですが……そりゃその親達がラゼのこと隠してるんだからたどり着けはせんよなあ。そのうえ、ラゼ・グラノーリは公式には冒険者として活動中にダンジョン内で死亡、なんてカバーストーリーまで作って子どもたちに伝達して叩きつけてきたもんだから、もう子供ら阿鼻叫喚ですよ。
さすがに可哀想になりました。
これまでの学生生活でラゼが親しい知人として接触していた人物たちが、皆軍の人間だと気づくことで彼女がかなり深い部分で軍の仕事に携わっていたことを察する子供たちだったのですが、そりゃ流石に本職だとは思わんよなあ。元々冒険者出身という触れ込みでしたし、ラゼの移動魔法の断片を知っていたら運搬任務に携わっていたと思って当然ですし。帝国との戦争が始まった途端、というのもその考えを補強するものでしたしね。
結局アディスたちの立場や年齢ではどうしたってそれ以上は動けない。探りようがない。彼らはどうしようもなく庇護される子どもの側であり、なんの責任も負わない未来を担うために今は勉学に励む立場なのだから。
だから彼らが真実を知るのは、大人たちが教えてくれたからなわけです。
ラゼの存在が表舞台に引き上げられることが半ば決まっている以上、国の中枢に関わっているアディスやフォリアたちはいずれラゼの生存を知ることになるのですから、放置しておいても良かったはずなのですけれど。
わざわざ戦場に立つラゼを見せるために聖女として怪我人の救済が出来るフォリアや皇太子のルベンたち、そして正式には呼ばれなかったもののアディス達にもラゼの真実がそこにあると示唆することで追いかけてくるように促した学園の理事長や枢機卿ら大人たち。
そこらへんはほんと親心だったように思います。
戦争自体はこの前にラゼが支援したクーデターの成功、ラゼがその混乱の中で皇帝と預言の巫女を捕らえたことで実質戦争は終結。あとは帝国サイドが広範囲に解き放った魔獣群の残敵相当の段階に移っていたので、これが最後の機会でもありました。
ここでようやく、子供たちはラゼの真の姿を知ることになるのです。
わずか十代後半にして中佐の地位に就き、危険な魔物討伐任務を担う部隊でエースを担い、本来生きて授与されることのない名誉称号「狼牙」をはじめて生きたまま叙勲された生ける伝説。
彼女の正体、彼女の真実、彼女が自分たちの知らない世界、本物の戦場で戦う姿を目の当たりにすることで。そしてこれまで彼女が歩んできた過酷な人生を、その戦いの人生の中で積み上げてきたものを知ることで。
彼ら彼女ら子供たちは、自分たちが本当に子供に過ぎなかったことを突きつけられるんですね。そして子供が自身が子供であることを悔しく思うということは、追いかけて追いついて隣に立ちたいと思える対象に出会うということは。
彼らが大人になるための扉を自ら開き、歩き始めるということ。明確に、自ら子供である時代に終止符を打つということ。
ラゼのその壮絶な姿に。同じ年代の気の置けない友人としてではなく、厳格な軍人として自分たちに本来の素性を明かし、一線を引いたまま退いていったラゼに追いすがれなかった自分たち。そう、果たしてなんと声をかけるべきだったのか。今の自分達では足りていない、覚悟もなにもかもが。

特にアディスは漠然と、騎士を志して武人としてラゼのような子を守りたいと思い描いていただけに、ラゼが軍人としてある意味極に至っているのを目の当たりにして、同じ軍人・騎士を目指したところで彼女を守れる立場に立てるのか。そもそも、守るというのはどういうことなのか。
ラゼが幼い頃から戦場に立ち続けて今があることを知り、その人生の大半を国に捧げ、今もなお過酷というにも余りある任務に従事し続けている彼女を守るためには、何を変えなければならないのか。どうやったら変えることの出来る立ち位置に立てるのか。
父親である宰相への反抗心などもあって、同じ道を行くまいと思って生きていた少年が、父と同じ道を歩もうとも真実守るものを守れる立場になるために、政治の道を志すことになるわけだ。
少なくとも一人の男の人生を明確に変えてしまったのだから、罪作りだねえラゼちゃんよ。他の子らも、それぞれにどこかまだ子どもの立場に、守られる側に安穏としていたことを悔やみ、聖女として、皇太子として、将来の国母として、また騎士など自分が目指していた道に明確な覚悟を持って歩み始めることになるのである。

そんなこととは露知らず、合わせる顔がないとフォリアたちを避け続けて落ち込み続けるラゼがまた相当に年頃の女の子でねえ。任務となると鋼鉄の意思を揺るがせないのに。
それも、ラゼが正式に表舞台に引っ張り上げられ、公式の場でその軍功を褒賞されるに当たって、ちゃんと改めて逃げずに追いかけてきたフォリアやカーナに捕まって、本当の再会を遂げるシーンは思わずウルウル来てしまいましたよ。仲良しだった三人娘が顔寄せ合ってイチャイチャするシーンはもう見られないかと、当人たち自身が思っていたところもありましたからねえ。
授与式のあとでの祝勝会でラゼが慣れぬドレス姿に戸惑うのを、アディスがパートナーとなってぴったりと傍に付きっきりになって、主賓でありまだ手がつけられていない将来有望なんてもんじゃない新たな英雄に貴族らしく縁をつなごうと声かけてくる連中から鉄壁のガードをしてみせていた姿は、もう速攻でちゃんと護れているじゃないですか、とちょっと言いたくなってしまいました。
ラゼちゃん気づいてないですけれど、ここで明確に社交の場でラゼは宰相の息子である自分のもの。誰も手を出すんじゃねえっ、と宣言してまわってたようなもんですもんね、これ。
まあアディスもまだそこまで明確に自分の気持を自覚しているわけでもないみたいなのですけれど、いやこれは時間の問題だよな。卒業式での甘酸っぱいやり取りは、今度の彼らの歩みをまだまだ見ていたく思わせてくれるものがありましたけれど、これで完結なんですよね。
帝国に潜入してクーデターの支援をする話など、わりとガッツリ反乱軍の中に入り込んで手助けしてたりしたのですけれど、反乱軍……革命軍のリーダーとかとてもいいキャラしていたのにその後の話など詳しい事はわからないままでしたし、潜入していた時に助けたダンという幼子についても、あれ結局記憶処置して別れちゃったのか。巻末の番外編見ると記憶はないもののラゼの記憶の残滓に凄まじく引きずられていて、あれ大丈夫なのかとちょっと心配になってしまったのですが。
帝国の皇帝周辺の話もわりとざっくり片付けられちゃってて、なんかやっかいな敵になりそうだったピエロなんかも勝手に処分されちゃってて、ちょっとこのへん巻き巻きだったような気がします。
でもWeb版読んでないんですけれど、あっちよりもだいぶ加筆されてボリュームアップされてるらしいんですよねえ。

なにはともあれ、名のある英雄が正体かくして学生として学園に潜入し影から友人となった将来の国の中枢を担う子供たちを守って暗躍する。そういった心くすぐられるシチュエーションを、ほぼカンペキにやり遂げてくれた痛快な作品でありました。楽しかった。

単行本としてはこれが完結みたいなのですけれど、Web版では第二部がはじまっているそうなのでちょっと読みに行ってみよう。