【バケモノのきみに告ぐ、】 柳之助/ ゲソきんぐ   電撃文庫

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バケモノに恋をしたこと、きみにはあるか? 或る少年の追想と告白。

城壁都市バルディウム、ここはどこかの薄暗い部屋。
少年・ノーマンは拘束されていた。
どうやら俺はこれから尋問されるらしい。

語るのは、感情を力に換える異能者《アンロウ》について。
そして、『涙花』『魔犬』『宝石』『妖精』。名を冠した4人の美しき少女とバケモノに立ち向かった想い出。

「とっとと倒して、ノーマン君。帰ってイチャイチャしましょう」
「……いや、君にも頑張ってほしいんだけど?」

全くやる気のない最強で最凶な彼女たちの欲望を満たし、街で起こる怪事件を秘密裏に処理すること。
これこそが俺の真なる使命――――のはずだった。

だが、いまや俺はバルディウムを混乱に陥れた大罪人。
魔法も、奇跡も、幻想も。この街では許されないようだ。
でも、希望はある。どうしてかって?

――この〈告白〉を聞けばわかるさ。

第30回電撃小説大賞最終選考会に波紋を呼んだ、異色の伝奇×追想録。
ラスト、世界の均衡を揺るがす少年の或る〈告白〉とは――。

第30回電撃大賞の銀賞作品です。
そうかー、なるほどなあ。個人的に、大賞受賞作品の【魔女に首輪は付けられない】と同じ傾向のもどかしさを感じた作品でした。
主人公の人物像がよくわかんないんですよ。個性がないとかじゃなくて、描かれているところからよく読み取れない、解像度を自分の読み方では上げることの出来ないタイプというべきか。
いやあ、最初はこいつ、この主人公のノーマンって絶対に女の敵だよなあ、と窺いながら読んでたんですよね。女性からの好意を食い物にして自分の都合の良いように働かせつつ、実際自分の心は女性たちに捧げず全く別のものに向けているタイプ。ゲス野郎である。
でも、ただ主人公がバケモノと呼ばれるアンノウである四人のヒロインたちを利用しているだけだったら物語として流石に跳ねがないので、ゲス野郎ではあっても下衆に徹する別の信念みたいなものを抱えている複雑な主人公だったら嬉しいなあ、と思いながら読んでたんですよね……。

うん、うん、うん……つまり、こいつはどういうやつだったんだ? 最後まで読んだんだけれど、つまり彼は純粋にアンロウという異形の力を持っていてもそれをただの人間だと主張する裏表のない公平な人物だった、という事でいいんだろうか。いや、四人のヒロインたちのために倫理だの正義だのを一顧だにしない優先順位をくっきりつける人物が公平なんてもんじゃないんだが、
でも、ヒロインたちがとにかく大事、というのは間違いないんだね? でも、でもなあ。
それまでの4人のヒロインたちとの話で彼が見せ続けた胡散臭すぎるスカしたような態度が態度だっただけに、なんかまだちょっと信じて良いものか大いに躊躇があるんですが。
あれ? これは私の偏見か? 最初にそういう女の敵みたいな印象を抱いてしまったがために、以降もバイアスかけた見方をしてしまっていて実際はそんな胡散臭いことなかった?
愛に殉じ愛に生きる熱い男だったの?

四人のアンロウの女性たちを相棒にして遭遇した4つの事件。
それを一つ一つ追いかけていくことで、ノーマンという主人公の人となりやら人物像やらが見えてくるかと思ったのだけれど、どの話でもアンロウとなり覚醒したが故に人の社会の営みから踏み外してしまった犯人たちに対して、四人のヒロインたちはノーマンを拠り所にすることでノーマンの所属する社会体制の側にいる、という話で四人とも結局甘い言葉を囁くノーマンに依存しているだけで、別にノーマンが良しとすれば倫理も法も秩序も知ったことじゃないよね、というスタイルで……。
別にノーマンのおかげで人らしい心を持っているとか、人の社会で生きていける社会性があるとかじゃないんだよなあ。別に犯人たちとなんも変わらんのじゃないの、これ?
ただまあ、そんな彼女たちの依存心だのをノーマンが一方的に利用しているわけではなく、彼は彼で純粋に彼女たちを愛しているがために体制側にあって彼女たちの身の安全を確保しているだけ。その安全を確保するためなら体制側を密かに裏切ってたり法を破ってたり、邪魔なやつは始末しておくのも吝かでなし、という人の心があるんかい、という人物なのは把握した。
愛はあっても人の心は全然ないよ、というタイプの人間はまあいますからねえ。ヒモとして生きる男には特によく見る傾向が……いやまあうん。
でも、四人全員にいい顔して甘い言葉を囁いて愛を語っている時点で、そういうやつじゃない?

うん、改めてノーマンくんの解像度をあげるべく振り返っていくと、どんどんとろくでなしじゃね?という結論が濃くなっていくのだが。
然るに、やっぱりこの四人のアンロウたちとの馴れ初めやら、どうしてノーマンくんが彼女らに傾倒していったのか、という話の筋道や、ノーマンという人物がこれまでどういう生き方をしてきたのか、どういう人生を歩んできたのか、というバックグラウンドが無いと彼という人物像を見て取るのはやっぱり難しいんですよね。今回の話の中だけじゃ判断材料が自分には足りなかったですし。

バケモノはアンロウじゃなく、欲望や組織の論理によって歪んでしまった人間の方だ、みたいな話も最後の方でジムとの論戦のなかで不意に出てきたテーマで、全体のテーマとして掘り下げるにはこちらも煮込みの時間が足りていなかった感がある。そのへんを考えさせる話が4つの事件の中にそれほどあったかというと。
4つの事件が繋がっていた、という展開についてもその構成に妙があった、すごいと感心するようなギミックやつながりがあったわけでもなく、巧い流れではなかったですしねえ。
ジムくんの執着に関しても、それまでノーマンとどういう絡みがあったのか。今までの知人?友人? としての歴史がよくわからないので、なんかジムだけが盛り上がってる感じでしたし。

なんていうんでしょうかね、いきなり前知識無く劇場版を見たような感覚とでも言いましょうか。一応TVシリーズがあったけれどそれを見て無くてもわかるようには話は作ってあるんだろうけれど、でも全体的にどことなくメイン登場人物一人ひとりへの理解度や知識が足りてないという感じがあって、全体的に物語の流れとしてはかっちり固まってはいるんだけれど、その中に入り込めずに没頭できなかったなあ、というもどかしさが終始感覚のどこかにありました。