【太っちょ貴族は迷宮でワルツを踊る 2】  風見鶏/緋原ヨウ オーバーラップノベルス

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追放された太っちょな貴族の三男であるミトロフは、“食費”のために冒険者となった。エルフ族の少女グラシエと、遺物に呪われた少女カヌレと共に迷宮に潜る中で、異常個体(ユニーク)である赤目のトロルの討伐に成功し、ギルドで一躍時の人となる。
そんな中で、グラシエが一時的にパーティを離脱し、ミトロフはカヌレと2人きりで迷宮に行くことに。探索中に出会ったのは、怪我をした獣人の少女アペリ・ティフだった。彼女を治療したことで妙に信頼を得たミトロフは、“裏”に棲む魔物の討伐を依頼される。しかし、裏の魔物は“表”に棲息するより強力な上位種で――!?
さらに、依頼に臨もうとするミトロフたちに、カヌレの兄を名乗る白銀の騎士が訪ねてくる。
「カヌレを連れ戻しにきた」と。
パーティ崩壊の危機に、ミトロフは“貴族”としての矜持すら捨て、決闘に挑む――!
追放された“太っちょ”な貴族による“優雅”な迷宮攻略譚、第2幕!


おおう、面白かった。面白かったぞぉ!
一巻も良かったんだけれど、この二巻になって面白さが抜群に跳ね上がっている。これも主人公のミトロフの生き様みたいなものが定まってきたせいか。
この2巻では最初の仲間でありヒロインだったエルフのグラシエが一巻で目的を達成して、一度故郷に里帰りする、とのことで居なくなってしまったので、呪われてスケルトンになってしまった謎の少女カヌレとの二人連れでダンジョン探索を続けることになったわけですが。
そのカヌレがどうやらミトロフと同じ貴族側の人間だったことが、彼女の立ち居振る舞いからわかってくるのですね。そして、全身フルアーマーの彼女の兄がカヌレを連れ戻しに現れたことで、カヌレが元は女騎士であり、とある主君に仕えていてその彼女を庇って呪いを受けたこと。魔物の姿になってしまったことで家の体面のために永年蟄居させられそうだった所を、主の促しによって呪いを解く方法を探してここまで逃げてきた事など、カヌレの事情が明らかになったのです。
そこには、貴族特有のロジックが深く関わっていて、一般人にはなかなか理解の及ばない複雑な事情が絡んでいたのですけれど、そこは元貴族のボンボンであるミトロフは相応に教育も受けている以上、そういう貴族の考え方にも理解が深く、うまいことカヌレを兄から庇って時間を稼ぐのでありました。

ミトロフの面白いところは、貴族のボンボン故に妙に偏見なくて純朴と言っていいくらい世間のスレた部分に触れていない真っ直ぐさがある一方で、放逐されたとはいえちゃんと貴族として教育を受けていて貴族の考え方や価値観、天秤の皿に乗せるべき理屈を心得ている、という所なのでしょう。世間知らず故にまっさらで、それでいて貴族としての立ち居振る舞いもしっかりと身についている。
その純朴さも、貴族らしさも今こうして冒険者としてやっていくのに役に立っているのがまた何とも面白い。まあ後半の方は相手に貴族が絡んでこないと関係ないものなんだけれど、直接貴族と絡まなくても意外と貴族案件的なものには遭遇するんですよね。希少な価値のあるダンジョン発掘物などの取り扱いなど。
ともあれ、彼のそうした本来なら両立しがたい脂質、じゃなくて資質が無理なく並存しているキャラクターは非常に面白く興味深い。
貴族教育がしっかり身についていたら、ある種の偏見というか、身分違い故の意識の違いや傲慢さみたいなものがあっても不思議じゃないのにね。彼の場合その世間知らずさが純朴さの方に振り分けられている。
貴族としての生活では、やる気を喪い引きこもってぶくぶくと太るばかり。まさに安置しすぎて腐った肉のような生き方しかしてこなかったのが、一巻では自分の力で冒険し、金を稼ぎ、衣食住を整え、武器防具を買い揃え、メシを食い、メシを食い、働いたあとに風呂に入って飯を食い、という今までの生活で感じることのできなかった「生きる実感」を思う存分味わったミトロフだったのですが。
まだ彼は生きるために。生きるためには金が必要で、その金を稼ぐために冒険をする。ダンジョンに潜る、という生きるためのルーティーンに終始していたわけです。それは生存のために必要なことですけれど、生きる目的じゃない。なんのために生きるのか。何を目的として、危険なダンジョン探索を続けていくのか。
まだ生きていくのに精一杯だったミトロフだけれど、そういう事を考える余裕が出てきた、とも言えるのでしょう。
どうじに仲間であるカヌレが置かれた状況を目の当たりにして、自分の思うように生きることの出来ないままならなさもまた突きつけられるわけです。
それは理不尽でもあるけれど、この世の理でもある。
安易に、じゃあカヌレの呪いを与えられた期限までに解こう、なんて無茶な話にはならず、二人はどこか淡々と目の前の日課をこなし、ちょっとずつタスクを高度化し、より深い階層へと潜ることに勤しみます。そこに、カヌレが抜けたあとの事を考慮して準備せざるをえない、という苦い現実を噛み締めながら。

しかし同時に、そうしたままならなさに立ち向かう自由が今の何者でもない自分にはあるのだ、という事をダンジョン内で暮らす人々とふとした機会で得られた交流から、また同じ冒険者の同じ年代の友人となった若者から。そして、カヌレと二人、お互いに事情を理解し合ったからこそ通じ合い、息を合わせ、ともにダンジョンの中の困難を乗り越えて、一緒に新しい世界を見ることで、ミトロフはまた新しい実感を得ていくのです。
それは、自分が自由であるという実感。
貴族である実家から追放された時点で、彼はもう何者でもなくなり誰にも何にも縛られない自由なるものになったはずだったのですけれど、なかなかね、そういう立場やら身分やらから解き放たれても、心まで解き放たれるわけじゃないんですよね。
何をしたって良いという自分で自分の行く先を決められる立場になっても、なぜか自分に縛りをかしてしまう。今までの自分から大きく逸脱したことを、やろうと思いきれない。どころか、なかなか発想が出てこない。
貴族でなくなり、ただの冒険者となって今まで経験したことのない事を多く味わい、仕事終わりの風呂など自分で新しい習慣を見つけたり、といろんなあたらしいことを始めていた、大きく生き方を変えたミトロフだったわけだけれど、それでもまだ彼は自分が本当に自由だということをわかっていなかった。
もう今の彼は、しがらみだのなんだのに囚われていない。親の意向なんか関係ない。やりたいことを、自分の責任において、やっていい立場なのだ。やりたいことをやれるのだ。
それを教えてくれたのが、何気ない同年代の友人とのやり取りだった、というのも凄くこう、イイなあ、と思うし、そのときのあの気持の地平がぶわぁぁっと広がっていくような感覚。ああいうのって、ほんと素晴らしいと思う。
ずっとぼんやりと引きこもっていたわりに、ミトロフって人への理解度高いよねえ。そして人付き合いが意外と上手い。これは技術的なコミュニケーション能力の高さじゃなくて、その誠実さに誰もがちゃんと応えたくなるのだろう。
多くの時間をともにし、多くの死線を一緒にくぐり抜ける仲間なら尚更だ。自分が呪われた存在である事から、壁というほどではないけれど、遠慮みたいな距離感があったカヌレだけれど、自身が元は女騎士であった事を知ってもらい、また騎士としての在り方が染み付いている事をフラットに理解し受け入れて貰えてから、彼女の接し方ってちょっとずつ変わってきてたんですけれど。
ミトロフの黄金の精神にアテられて、その生き方に寄り添って生きていくのがこれからの自分の在り方なのだと決め込んでからのカヌレのあのミトロフへの接し方の変化はちょっと面白いものがありましたね。いや、なんで従者っぽいお世話係みたいになってるんだ? しかもちょっと過保護気味のw
グラシエが帰ってきてこの二人の様子を目の当たりにしたら、なんか目を白黒させて絶句してしまいそうだ。
今回、ちょっとカヌレの人間のときの顔がバーンと挿絵や表紙絵でも描かれていたので、もしや呪い早々に解けるのか!? とも思ったのですけれど、一種のイメージ映像なのかこれw
元々ちょっとちんまい感じの佇まいで、騎士系の人とは想像してなかったんだけど、人間のときのカヌレもこれ騎士らしい凛とした綺麗系よりも可憐で可愛い系ですよね。……ほんとかわいい。