【血眼回収紀行 チマナコ リコール トラベログ】  可笑林/かれい 富士見ファンタジア文庫

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人知を超えた魔法義眼を回収する、少女と青年のバディ冒険記譚!

元軍人の魔法使い・ヴィンセントは、両義眼の少女・イルミナの用心棒として
彼女と二人旅をしている。旅の目的は先代〈イルミナ〉――稀代の天才義眼職人が遺し、
世に解き放たれてしまった〈天窓の八義眼〉と呼ばれる禁忌の魔法義眼を回収すること。
その義眼は超常的な力を装着者にもたらすと共に、悪意や狂気を増幅し暴走させてしまう欠陥品だったのだ。
旅の中で「他者を操る目」の情報を得た二人は、やがて〈八義眼〉が関わる大きな陰謀に巻き込まれてしまい……!?
第36回ファンタジア大賞〈銀賞〉受賞。王道回帰の本格ファンタジーと猟奇サスペンスが融合した新時代エンタメ、開幕!!

かれいさんのイラストは外連味があってやっぱり好きだなあ。
そんなかれいさんによって描かれるヒロインの義眼職人イルミナ。これがまたクセの強そうな奇人怪人みたいじゃないですか。両目に義眼を埋め込んでいる職人ですよ。職人らしい頑固さや奇抜さが伝わってくるようじゃないですか。
こりゃ、相棒である元軍人のヴィンセントは彼女に振り回されていそう。

と、思いきや、思いきや。

うははは、全然事前の印象と違うう。イルミナ、めっちゃイイ子だわ。世間知らずで純真で無私に近い善良さ。困っている人を見捨てられずホイホイと助けて回って、ヴィンセントに叱られ文句を言われ、ほいほいと面倒事に巻き込まれてヴィンセントに怒られる、というめちゃめちゃイイ子だ。
むしろ、なんでここまで善人なんだ、性格が歪んでいないんだ、という境遇で育ってきてるんですよね、この子。
義眼職人になる前も、義眼職人になった経緯も、両目ともに義眼になったその過程も、よほど人間という存在そのものに不信を抱いて人間嫌いになっても不思議じゃない、どころかそっちの方が自然で当たり前だろう、という境遇、環境下にこの子はあった。
歪でないのが歪である。
これに関してはヴィンセントの方も不信まではいかないまでも、違和感を抱いているほど。
でもイルミナの善良さって上っ面ではなく、本当に芯からのものである事も確かなんですよ。故に悪意や世間の世知辛さに対してもどこか無防備で危なっかしい。
それを世知に長けたヴィンセントが傍について守っている、用心棒として雇われているわけだが。
こっちのヴィンセントの方は逆に大いに歪んでしまっていると言っていいかもしれない。いや、その芯はどうも歪みはなく真っ直ぐであり続けているようなので、スレてヤサグレてしまっている、というべきか。
彼は戦争で心に大きなキズを負った人間だ。今もその傷から血を流し続け、夜も安らかに眠れずにいる。彼の旅の目的は、その傷を埋めるための人物との再会である。
彼に限らず、この物語には多くの戦争によって心を壊し、人生を壊されてしまった人物たちが登場する。彼らが悶え苦しみ足掻いて救いを求めるうねりの間を歩いていくような物語だ。
戦後という社会そのものが元の姿を取り戻そうとしている混乱期の、人が苦しみながら過去に囚われながら同時に未来に希望を灯そうとしている特有の時節を、この作品はほのかに浮かび上がらせていて、なんとも味わい深い情緒を与えてくれる。
ヴィンセント自身がそうであるように、歪み壊れてしまった人間でも一番根本の部分は変わっていない。そういう希望を記しているお話でもあるんですよね。
ヴィンセントってあれだけやさぐれてるし、イルミナに対しても容赦ないんだけれど、一番大事な部分でほんと優しいのよ。彼の苦しみの根源というのは、旅先で再会がかなった幼馴染とのエレクトラとの邂逅で、というかエレクトラの幼馴染特有の遠慮のなさ、親しさ故の容赦の無さ、そして戦争終わったのに帰らなかったヴィンセント側の引け目によって、バンバン叩かれて吐かされるわけですけれど。本音やら弱音やらが。
そういうの幼馴染相手に吐けるだけ、ヴィンセントって優しいのが伝わってくるんですよね。幼馴染や故郷のこと大事に思っているような人間でなけりゃ、吐けないもの。戦争終わっても音信不通で帰らなかった理由すらも、彼の優しさに根源がありましたものの。
彼は苦しんでいるけれど、彼が探し求めている相手って復讐とかじゃなくて、自分を取り戻したい。傷を癒やして、故郷に帰れる人間になりたい、という希求であるのなら、それはちゃんと希望を持って生きてるってことじゃないですか。
彼に限らず、この物語に登場する多くの人物、戦争によって失ったもの、傷つけられたものによって苦しみ悲しみうめいている人達には、みんな機会が与えられている。それは悪行への誘いだったりもするのだけれど、同時に正しい健全でまっとうな、戻れる道も指し示されてるんですね。
もう戻れない者もいたけれど、そういう人間ですら殺して終い、という結末ではなく、生きて捕まって罪を償う機会を与えられている。
その機会を多く与える尽力をもっとも頑張っているのが、イルミナという子なんですよね。彼女自身は自分の義眼職人の師である先代イルミナが殺害された際に奪われたという8つのやばい魔法義眼を回収するため、ヴィンセントを雇って旅をしているわけですけれど。
その目的に対して一心不乱に突き進むどころか、フラフラとおぼつかない足取りであちらこちらで苦しんでいる人に手を差し伸べてまわっている。
そんな彼女の世間知らずで考えなしの行動にヴィンセントはいつも苦言を呈しているのだけれど、ギャンブルに酒にとしょっちゅう目を離してふらついているあんたも大概だよ!
いや、そうじゃなくて、そういう二人なんだけれど不思議なくらいお互いに信頼を寄せ合っている。いやヴィンセントは別にイルミナのこと信頼はしてないかもしれないけど。でも利用し合う相手とかただの雇い主という距離感じゃなくて、彼女の善行にもいい加減にしとけと思っているけれど、その在り方自体を否定しないし、子どもと見てるから庇護対象でもあるんだろうけど。なんだろうね、やっぱり信頼してると言うのかな。
だから、二人の関係ってなんだかんだとやっぱりイイコンビでありバディなのだ。
その境遇から失うものすら与えられていなかった、孤独な少女、寂しがり屋の女の子。イルミナにとってその男との繋がりは、掛け替えのないものになりつつある。
二人の関係を追いかけるだけでも面白かったし、二人の為人が掘り下げられていくのを読んでいくのもまた面白かった。なにより、物語としても潜入謎解き大暴れ、と目まぐるしく派手に大きく動き回る展開で、充実した楽しさだった。これは本当に続きが楽しみな作品で、将来が楽しみな作家さんのデビュー作でありました。大満足!