【貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士 4】  道造/めろん22 オーバーラップ文庫

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バラ園に澱む、悲嘆と憎悪を断て!

現代日本から男女の貞操観念が真逆の異世界へ転生し、その世界では珍しい男騎士となった辺境領主ファウスト。彼は自らの命をかけたゲッシュによって、「遊牧騎馬民族国家」対策へ王国を動かすことに成功した。
これでようやく故郷のポリドロ領へ帰れると思ったのも束の間、リーゼンロッテ女王から5年前の「王配暗殺事件」の調査を命じられてしまうファウスト。
「解決は求めない。諦めるための最後の調査を」
――そう乞われ引き受けたファウストだったが、女王はただファウストを引き留めて貞操を奪いたいだけで……!?
貞操が逆転した世界で“誉れ”を貫く男騎士の英雄戦記、悲しき真実を暴く第四幕!!
誰が王配を殺したか。
あとがきにも書かれているように、この件は本編の流れにもファウストの騎士の誉れとも関係のない、脇道に逸れる話であります。
しかしアンハルト王国の女王リーゼンロッテを長きに渡って苛んできた愛する夫がなぜ死ななければならなかったのか、という答えのない闇を払い、彼女が再び女として再起するために必要だった話なのでしょう。彼女の恋の物語でもあるわけだ。
もっとも、リーゼンロッテは何もわからないという喪失の苦悩から、さらに真実という地獄に追いやられる羽目になるわけですけれど。
ぶっちゃけ、王配の殺人事件の捜査を名目にファウストを引き止め、娘たちがいない間を狙って空き巣狙いが如く二人の時間をひねり出し、何なら夫が作ったバラ園でこの男を泣き落とした挙げ句に押し倒すのだ、ひゃっはー!と興奮しまくってる欲望丸出しの子供たちいわくクソババアなので、ぶっちゃけこの人に関しては真実を知る羽目にならなくても十分吹っ切っていた気がしないでもない。
そういう意味では、王配ロベルトの死の呪いに一番囚われていたのか彼の侍童でありロベルトが我が子とすら呼んだカストラートのミハエルだったんじゃないだろうか。
復讐のために生き、そして死ぬために生きていた彼を、新たなる呪いで縛り未来を作るためにこの過程は、復讐は必要だったのだろう。
まあそのミハエルに、死ぬことを許さないという呪いだけではなく、希望を与えるにはリーゼンロッテが張り切って欲ボケしないといけなかったので、やはり真実は明らかにされるべきだったのだろう。
ザビーネの実家の、ヴェスパーマン家がクビの皮一枚生き残るにもに、この事件の隠密ながらも解決は必要だったわけですし。まあヴェスパーマン家、クビの皮一枚だけでそれ普通死んでるよね、という状態なんですけどね。
この家に関しては誰が悪いって、ザビーネとマリーナの母である先代当主がひたすら無能で負債をもう返しきれないくらい積み上げてしまったので、先代が悪い。いきなりもう完全に死に体の状態の家を継がされたマリーナがこれ同情の余地がありすぎるんですよね。長女のザビーネはとっとと勘当されて逃げ出しちゃったし。実際、沈む泥舟から抜け出したようなもんだったんじゃないだろうか。
確かにマリーナって空気読めないところがあるかもしれないですけれど、もっとピュアな甘酸っぱい雰囲気を無視してしまう無作法とかならまだしも、あんな欲ボケの空気は読みたくないよw

今回のお話は、過去に起こった王配ロベルトの謎の死の真相を追う未解決事件ファイル、みたいなミステリー……ではないですよね。これ、殆ど調べたり謎解きしたりという展開ではなくて、ファイストのちょっとした閃き、或いは超人でありつ騎士という在り方の権化そのものでありながら、その心底に小心や僻み、劣等感を抱えているファイストが持つ心の暗がりへの共感が真実へと辿り着かせたとも言えるわけで。
だからそういう謎解きじゃなくて、思い出話を通じてリーゼンロッテの夫であり、ヴァリエールやアナスタシアの父であった男がどういう人物であったのか、を紐解いていくお話であったかと思います。
もはや死んでいる人物を掘り下げていってどうなるんだ、という向きもあるかもしれませんけれど、このロベルトという人物への思いこそが、このアンハルト王国では容貌魁偉として忌避されるファイストに、王族たちが素直に好意やあからさまな欲望をぶつけてくる源流だと思えば、ロベルトという人物を紐解いていくというのはなかなか無視できない事績であるんですよね。
ロベルトを知る人達が口を揃えて、ファウストはロベルトと似ている。その所以、つまり在り方に共通点が伺えるわけだ。つまりロベルトという人物の人となり、その生き様を掘り下げていくと自然とファウストという主人公の解像度もあがってくる……のか? 結局、似ているが違う人物である、とも皆が結論付けているので、同一視することは勿論出来ないのだけれど、やっぱりその在り方の方向性は似ているとも言えるんですよね。
ファウストは自分の妄想と語っていますけれど、ロベルトがどうして彼が死ぬ遠縁となった事業に彼が手を出すことになったのか。その理由をファウストが妄想とは言えたどり着いた、彼の愛の在り処にたどり着いた、という時点でやっぱりファウストとロベルトは生き方の方向性が似ていたのだろうな、と思うわけです。

あと、解像度があがったというと、今回の話の中ではやっぱりザビーネか。あるいは余計にわからなくなった、理解しがたい狂気を見た、とも言えるのだけれど。
こいつ、どうして主人公サイドにいるのかワケワカランほどの外道の人でなしですよね。ヴァリエール殿下への無二の忠誠と、同じ親衛隊の仲間たちへの親愛が本物だからこそまだ受け入れられているのだけれど、それを抜きにするとホントに冷酷で残虐でゲス野郎で、大丈夫かこいつ?
親への憎悪はわかるんだが、妹へのあの感情のなさがまた凄い。いやまだ妹マリーナへの情愛があるからこそ相手してやってたとも言えるんだろうけれど、最終的にとことん突き放すに至ってますからねえ。
むしろあの倫理観は、放浪民族のそれにも似ていて……いや、件の民族が犯す倫理のなさはある種他責主義、自分たちは可哀想だから何をしても良いという傲慢さから来ていると思しきこと比べると、ザビーネのそれは、どうにも生まれながらの人でなし故のそういう社会的規範を生来機能的に持ち得ないようにすら見えるんだよなあ。なんでそんなのが、一番良識的なヴァリエールに懐いているのかがなるほど一番わけわからん所でもあるのだけれど。
マジで残虐なチンパンジーじみてるんだよなあ、ザビーネ。マリーナも文句言いながらもなんでかこの姉に懐いているのも極めて不思議なんだが。

あと、IF編は相変わらずファウストが欲望に流されると大体ハッピーエンドになるんですね。というか、ファウストが欲望に流されて性欲に身を任せると、本来どうあっても絶望バッドエンドな騎馬民族襲来イベントがなんやかんやで回避されるの、実はファウストが真面目に真剣に脇目も振らず頑張った方が賽の目悪い方に出るようにできてるんじゃないの? と思わされてしまうのですがw