【死ぬに死ねない中年狙撃魔術師】  星野 純三/布施 龍太 ドラゴンノベルス

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俺が強い? 死ねないだけだ――死んだ恋人のため、魔物を狙う男の物語

山から魔物を狙う男がいた。“狙撃”と呼ばれる凄腕の狙撃魔術師だ。かつて恋人を失い死にたいと絶望していた彼は、突如現れた世界征服を企む異形の生命体と取引し、支配下に降る代わりに、一撃必殺の射撃スキルを手に入れた。しかし同時に「お前が死んだ時はこの世界をもらう」と告げられる。不本意ながらも生きる理由ができた男は、それ以来――死ねなくなった。己をかばって死んだ恋人の故郷を守るため、強大な魔物を仕留め続ける狙撃魔術師の物語。


Web版既読。元々好みどストライクの作品だったので、書籍化には「うひょー♪」と喜んで速攻に買いに走ったわけですが。
……狙撃さん、ビジュアルめちゃめちゃカッコいいじゃないですか! FF7のヴィンセント味があって、その上でテンガロンハットって、やべえっす。琴線バリバリに触れまくってるんですが! わりとガチでうらぶれたオッサンだと想像していたので、この渋いイケオジさには愕然である。それはモテるよ、おじさん!
このおじさんが「テリサちゃんばんざーい!」とか酒場の看板ちびっこ守銭奴娘相手にやってるシーンは想像するとちょっとどころじゃなく笑えるのですが。この人、時々はっちゃけるんだよなあ。それだけ、後半は陽気さを取り戻していると言えるのですけれど。
そう言えば、この主人公って名前出てこないんですね。書籍版を読んで改めて気づいた。一番良く話す弟子のリラはずっと師匠って読んでるし、それ以外だと狙撃さんとか狙撃の、というふうに呼ばれるのが常なので。
書籍版を読んで改めて気づいたというと、もう一つあって。これは幾つもの話数に分かれているエピソードを一気に読んだことで思い至ったと言えるのですけれど……。
本作ってゴリゴリのファンタジーではあるんだけれど、こうしてまとめて読んでみると、怪獣映画かウルトラQみたいな雰囲気が読んでて味わえるんですよね。
主人公がやっている狙撃魔術師という、この世界でもここ30年くらい前に登場した新しいカテゴリーらしいのですけれど、魔力タンクに数日間に渡って魔力を溜め込み、これを狙撃銃を思わせる長棒型の魔法杖をもって遠方から撃ち放って、魔獣の急所を撃ち抜くことで本来多大な犠牲を伴ってようやく倒せるような災害級の魔獣をも撃破できる魔術職、という話なのですけれど。
この魔力タンクへの蓄積が移動しながら出来なくて、同じ場所に数日間身動きせずじっと待機していなくてはならないわけで。
必然、迎撃戦になるわけです。
この第一巻ではおおよそ3つのエピソードで構成されているのですけれど、つまるところ3つの戦いが描かれている。つまり、一個の都市や国家を蹂躙できるようなそれぞれ全く異なる特性を持った怪獣みたいなのが進撃してくるのを、迎え撃つ話になってるんですよね。
これがよくよく振り返ってみると、なんかもう怪獣映画さながらなのですよ。ちゃんと、実際に都市に襲来する前にその姿が確認されて、数日以上の猶予があり、喧々諤々の論争や怒涛のごとき対策が立てられていくのも含めて。
どんどんと厄災そのもののモンスターが近づいてくる、街が確実に滅ぼされるだろう凄まじい人知を超えた力を秘めた怪物が迫ってくるという切迫感緊迫感、その脅威に立ち向かうため結集される人々の英知であり勇気。主人公の狙撃さんは、自分でも繰り返し述べているように狙撃しか出来ないんですよ。しかし、その狙撃能力は尋常ではなく、狙撃魔術師が放つ弾の威力は一撃必殺。その切り札を万全の状態で切れるように、人類側は決死の作戦を企てて決行していくのであります。
主人公はほんと切り札なんだけれど、本当に切り札でしかない、とも言えるんですよね。彼がその力を放つためには、襲いくる魔獣の詳細な情報が必要ですし、そのためには威力偵察で戦力を実際にぶつけて生の情報を集めなくてはいけないし、実際の決戦では足止めなんかも必要になってくる。
魔獣側もどれも一筋縄ではいかない謎の生態を持っていたりして、あらゆる面で人類側の想定を上回ってくる。
しかし人間側もさるモノで、というかこの世界って人間の存在は矮小と言ってよくて、人類という種が生き残るためにはもう犠牲前提なんですよね。魔力を持つ貴族は貴種であるからこそ、国家存続、人類存続のために死を厭わないどころか、死ぬこと前提の自爆魔法である痕滅魔法なんかも存在していて、もう覚悟ガンギマリなわけですよ。
昨今は狙撃魔術師の台頭によって、自爆しなくても大型魔獣でも倒せる機会も増えてきて、時代遅れになってきているらしいけれど、それでも魔獣の脅威にさらされている地域では未だに貴族の人達ガンギマリなんですよね。
そうでなくても、ただ情報収集のためだけに、或いは少しの足止めのためだけに、撫でられただけで人間なんて消し飛ぶような、それどころかそもそも生態や攻撃方法すらわからないような未知の敵相手に、突撃していく騎士たち、なんて構図が何度も見受けられる。
主人公が切り札というのは間違いないんだけれど、彼の狙撃の成否だけに運命が賭けられるような事態を避けるために、それ以外にも何重もの必殺の仕掛け、或いはキルゾーンを構築していて、まさに人類サイドの総力を結集した戦い、って感じになってて見ていてハラハラするやらワクワクするやら。
モブの人達がその他大勢じゃないんですよ。ちゃんと、一人ひとり戦力であり、命をかけて戦う戦士であり、強かでしぶとい連中なんですよね。しかし一方で、そういう連中がガンガン容赦なく死んでいくような過酷な戦況でもあり。
人間の脆さとしぶとさの両方が目の当たりにできる、これがまた本当に面白い。いや、まじで土壇場で怪獣といっていいモンスターのとんでもない生態が明らかになって、時間が殆ど無いなかで主人公の対応が迫られるわけですけれど、この緊迫感にスピード感がまた痺れるのであります。いや、改めて思い返しても、めちゃ面白いなこれ。

同時に本作って、どこかロードムービー的な雰囲気もあるんですよね。人生と言う名の旅路をゆく、みたいな。
この物語がはじまった時点で、主人公はどこか惰性で目的もなく生きています。恋人が自分のミス、或いは力量不足で喪われて以来、いや自分を守って彼女が死んで以来、というべきか。
彼は異界、ではなくこの場合異星から来た、というべきか。ヤァータを名乗るカラスの姿をした奉仕種族……これ、三足のカラスの姿は端末であって、こいつ明らかに自立型AIっぽいんだが。
本来、知的生命体に奉仕するために生み出された彼らは、存在理由として奉仕があり、めっちゃ奉仕したいわけで。これもう奉仕するためなら知的生命体の生命活動を全面管理した方が早いよね!? 全力で奉仕しますから奉仕されなさい、的なディストピアの闇に落ちそうなAIが辛うじて、この主人公に奉仕することで思いとどまってる状態なわけですよ。貴方が死んだらこの星の知的生命体は完全管理状態に移行することになりますので、そこのところよろしく。という感じで迫られてたら、そりゃ文明レベル的にちょっと意味わからなくても、これ死んだら世界がやばいんじゃね? という事になって死ぬに死ねないというタイトルのフレーズになりますわなあ。
というわけで、恋人を喪い目的も生きる意味も見失いながらも、死ぬと世界がやばいので惰性で生きてきたわけですけれど、そこに現れたのが以前絶体絶命の所を彼の狙撃によって命を救われ、彼に憧れて弟子入りすべく押しかけてきた天才魔術師の少女リラだったわけです。
この子がまた明るくて元気ハツラツ、才気煥発、陽気の塊みたいな子で、彼女に色々あって押し切られて弟子として認めてしまうのですが。
そんな彼女の明るさに引っ張られ、また自分なんかよりも遥かに魔術の才能に長けたリラの行く先を自分が導いていく、教えれば教えるほど砂に水が染み込むように何でも吸収していく弟子の姿に、何より自分とは違うスタイルの狙撃魔術師の形を拓いていくだろう彼女の未来に、生ける屍のようだった男に生き甲斐が芽生えてくるのです。この子のためになにかしてやりたい、という気持ちが活力になっていき、そうやって弟子のことに想いを巡らせているうちに徐々に彼自身の雰囲気も変わってくるんですね。
人生、別れもアレば出会いもある。出会いの中には再会もある。その巡り合わせがどれほど、人の人生を変えていくか。
この二人に限らず、ブラックプディングの一件で実家が没落して魔術学院に通えなくなって、将来の文官候補から市井の狩人(冒険者)になったテテミッタなんかもそうした一人であり、彼女の姉弟子になった孤児院出身の二人の少女なんかもそうだったり。他にも思い通りにならずとも精一杯自分のやれることをやって生きていこうとしている人達の姿が描かれていて、なかなかじんわりとくるものがあるんですよね。
雪魔神の件で依頼してきた小国の王女なんかも、リラの先輩で彼女との出会いは再会でもあり……すげえキャラでしたけどね、ジルコニーラ王女様。いやまじでこんなナルシストというか自画自賛の美辞麗句な形容詞つけまくる人なのに、超有能の現実主義者ってどういうキャラのバランスしてるんだ?! めちゃめちゃ面白い人だったけど。

一筋縄ではいかない、というのは討伐対象である大魔獣たち、だけではなくて、人間側のキャラクターもこれほんとみんな一筋縄ではいかないキャラしてたよなあ。
中でも肝心のヒロインであるリラからして、これってある意味一切表に出さず誰にも気づかれていないけれど深刻なヤンデレ、という可能性を秘めているんですよね。抱えているものが重すぎるんだけれど、それを平気で抱えてるっぽいのが非常にヤバい。彼女のあのベレー帽のデザインはちょっと素晴らしすぎてそういう意味でもやばかったですけれど。

もう40近い主人公にとって、まだ15歳にすぎないリラはもう弟子以外の何者でもなく、いやそれよりも娘という感覚の方が強いかもしれないところすらあるわけで。この娘という感覚もまんざら……ねえ?
さらに巻末近くに早々に顔見せ登場してくれましたけれど、次巻以降の非常に重要な登場人物になってくるあの子も出てきてるんですよね。もう出てきた瞬間に世間知らずのくせに自分は世知に長けていると思い込んでいるが故の錯誤が炸裂しまくってて、この子の「なんと!」という口癖が凄くお気に入りの身としましては、彼女の本格合流が楽しみで仕方ないのでありました。彼女が世界のこと、人間のことを知っていくその旅ってのは、狙撃さんにとっても弟子に対するものとはまた違う導きを与えていく旅でもあり、だからこそ新たな知見を得ていく旅でもあり……いやあ、なんか本格的に保護者っぽい立ち位置の主人公になっていくんですけどね、この人。
ハードな世界観の中にも人間という種族のたくましさ、過酷な環境の中でもしぶとく生きる強さを感じさせられる作品で、そんな環境の中で強くあらんとしすぎて迷走していく人間の哀れさも垣間見える物語でもあり、いろんな奥行きを感じさせてくれる作品でありました。
あと、とにかくシンプルに面白い! というのもよく強調しておこう。あの狙撃銃型の杖のデザインは最高じゃないですか?