【愛さないといわれましても 3 〜元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる〜】  豆田 麦/花染なぎさ Mノベルスf

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新婚旅行を経て、さらに仲を深めたアビゲイルとジェラルド。ロングハーストの問題も一段落して、やっと平穏な日々が訪れる…かと思いきや、ジェラルドに付きまとう女性の登場で波乱の予感!
しかもその女性は、魔王時代のアビゲイルを知る人間かもしれなくて――?魔王の正体に迫る…! 大人気餌付けラブストーリー、第三巻!


アビーが人の価値観をどんどんと身に着けていく、という事はキレイだとか愛だとかを感覚だけでなく理解していく、という事なんだけれど、それは同時に人間の汚さや醜さも理解していく、という事なのかもしれない。
まだ魔王だったころ、そして魔王だった頃の感性を色濃く残していた初期の頃のアビーは、人の悪意や愚かさに対して無反応だったり感知出来ていなかったりしていたわけだ。
全然理解していない、というわけじゃなかったみたいだけれど。
魔王だった頃に初めて仲良くなった人間の子供。その子が大人になるにつれてどう変質していったのか。彼が特別を好み、自分を特別にしてくれる相手を別に愛してもいなかった、という事実を彼女は当時から理解していたみたいだし。ただ、愛というものがよくわからなかったし、その子どもの性質が何を意味しているのかに興味を持っていなかった。
だから、その子がただ友達だったころから魔王である自分を利用するだけの浅ましい存在になっても、時間感覚が曖昧なこともあって、美味しい食べ物をくれたこと。一緒に食べて仲良くなったこと。友達になったことだけをよく覚えていて、ずっとそこに拘っていた。
でも、人間になって……ジェラルドの家に嫁いできてそこで人間として愛されることで情緒が育ってきたアビーにも、自分が本当の家族に愛されていなかったこと。かつての友達がいつしか友達でなくなっていた事を、愛する人達が出来たことでようやく理解していく、というのは愛し愛され良かったね、というのと同時に穢れをも知ってしまったんだなあ、という微量の切なさも湧いてきました。
まだまだ純真無垢なんですけどね。あまりにも幼気すぎて、まだジェラルドの嫁じゃなくて娘にしか見えないんだけど。ジェラルドの両親もあれ義理の娘じゃなくて完全に孫に向ける視線でしょ、あれ。

ともあれ、学生時代からジェラルドのストーカーとしてつきまとっていた娘が、追報というか左遷先から戻ってきてなおジェラルドにまたつきまといはじめたわけですけれど、元々ジェラルドが心底嫌って遠ざけようとしていたから、今回はもう実家の力使うのも厭わないくらい家族関係修復されていたこともあって、再度遠くに追いやることは簡単だったわけですけれど。
その娘がどうやらアビーがかつて魔王だった時に最初に仲良くなった子供の魂の転生体だった、ということでアビーが興味を持ってしまい、彼女にフラフラと近寄っていってしまうお話でした。
……まあなんというか、思い出は美化されていたんだよ……という話とはちょっと違うのは冒頭に語ったような感じだとは思うのですけれど、人間としての価値観や情緒を身に着けつつあったアビーにとって、眼の前の転生した娘の浅ましい在りようを見て接して確認することで、ああかつてのあの子供もそういうことだったんだなあ、と過去のこだわりに対して自分なりに決着をつける意味合いもあったんでしょうね。決着、というにはアビー的にはいつもどおりサクッと興味を失ってしまう、という感じでありましたけれど。
大事なのは今の家族、そういう事なのでしょう。
しかし、昔の家族はいくらでもわいてくるな。ゴキか、というくらいしつこい。これ実家の貴族家だけの問題ならともかく、昔から魔王の恩恵を受けていた土地に住む住民全体がもう因習だか変な価値観に凝り固まって他の社会から実は相当に孤立していた、というのが明らかになってきて、なかなかこれどうしようもないですね。普通は統治者だけが問題で住民は問題ないか言い聞かせて終わり、くらいの扱いなのに、なんかカルト集団みたいになってて女子供までもう手に負えない状態って。
これどうするんだろう。
ドミニク第四王子は、ジェラルドが嫌がっているけれど悪い人ではないしちゃんと遠慮や気を使ってくれる人に見えるので、彼と繋がっておくのは悪いことではないと思うんですけどね。
彼もさすがにあのロングハーストの領地を継ぐのは嫌がっているみたいだし、かといって根切りにするわけにもいかないので、あと放置しておけば勝手に滅びるんじゃないのか? でも、国の管理地になったところを放置というわけにはいかないんだろうし、これ王子が頭悩ませるのも仕方ないよ。燃やせば良いってわけにはいかないし。もう燃やしちゃわない!?とみんな密かに思ってそうだけど。