【商人令嬢はお金の力で無双する】  西崎ありす/フルーツパンチ TOブックス

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第11回ネット小説大賞受賞の話題作が早くも書籍化!

「大人のみなさん、荒稼ぎの授業をはじめます」
貴族も頑固オヤジも、みんなまとめて手玉に取る! やり手少女の荒稼ぎファンタジー開幕!
書き下ろし番外編巻末収録!


「やっぱり裕福な平民がベストな選択肢かしら?」
バリバリの商社マンから転生したサラは、引き取られた先の侯爵家で作戦を練っていた。歓迎されない居候のままでは将来、平民出と蔑まれる貴族の後妻が関の山。よし、太い実家【侯爵家】の恩恵は享受しつつ、独立資金を貯めるまで辺境領【田舎】に戦略的撤退だ。そう思っていたのに……領地は横領により経営破綻寸前だった!? 大事なパトロンの危機を前に、猫なんてかぶっていられない。城に埋もれていた錬金術の資料をエサに有用人材をヘッドハンティングし、ギルドを脅して鉱山を開拓させ収入源を確保。年上たちにビビられながら領地立て直しに奮闘する。やがて、8歳にして侯爵も顎で使う大商家への道を歩み始めるのであった……。身内も大人も貴族も、みんなまとめて手玉に取る! 金儲けまっしぐら!? やり手少女の荒稼ぎファンタジー!




元やり手の商社マンとしてバリバリに働いていた主人公の少女がその経験を活かして、ガンガン儲けるぜ! という話なんだろうなあ、と思って読み始めたら、これ女性の社会進出が基軸となっていくお話だ!
おおむねは予想通りに、主人公のサラがその現代社会の激流のごとき先進エコノミックな界隈で働いていた経験と知識を用いて、完全に行き詰まっちゃっていた実家の領地の財務処理を手伝う、から速攻で主導していくことになるのですが。
そもそもの領地の財政危機の発端が、財務担当者など親族たちがメインで担っていた文官たちが莫大な横領をかましていたことが原因で、関係者が逃亡や処分の結果残ったまともな人材だけでは到底処理が回らなくなっちゃったんですね。いっつ質量揃っての人材不足。
こうなると、いくらサラが前世の知識を振るって効率化を謀っても限界があるわけです。
横領の被害額すら算出できないくらいの混沌とした状況。さらに数カ月後には国からちゃんと税金とか払ってる?という定例監査が入る予定。とにかくこれはもう今期分だけでもちゃんと整理しないと、お前んところちゃんと領地の運営も出来てないじゃないか!という国からの強烈なダメ出しが出て御家断絶しかねない。
これは絶体絶命の非常時である、というわけでサラの音頭で文官だけじゃなく使用人たち、そしてメイドさんたちにも手伝ってもらって事務処理を行うことになったわけである。
そうすると、このメイドさんたちが優秀も優秀で、のちに執務メイドと呼ばれる秘書課の誕生の契機となるわけですが、ここでこの世界における女性の社会的な地位が浮き彫りになってくるわけです。
これまで貴族社会や職人たちの世界では責任ある重要な仕事は女性の能力では担えない、また魔法の制御などの扱いも女性は劣る、とされていたんですね。男尊女卑の思想とも言えますが、そもそも女性にはアカデミーに通う資格が与えられていないように、教育を受ける機会、責任ある立場に立つチャンス、そういうものがそもそも女性には与えられていない社会が、この転生した異世界であったことをサラは突きつけられるのです。
女性だけれども、前世は商社でバリバリ出世して働きまくっていたサラにとっては片腹痛い話であります。また、サラ個人が突き抜けて優秀、というわけじゃなく、この実家の領地に来た際にカヴァネス、家庭教師としてついてくれた領地を任されている伯父のロバートと亡き父の幼馴染だったレベッカが、またとびっきり優秀で、この女性に機会が与えられない社会で孤立し浮いてしまうほどの女性だったわけですよ。
そもそも、にっちもさっちも行かなくなったロバート伯父さんが、元々優秀極まることを知っている幼馴染と、侯爵家に引き取られる前の両親と一緒にやっていた店で会計をやっていたというサラに、もう限界だから猫の手でもいいから借りたい、手伝っておねがい! と助けを求めてきたのがきっかけだったわけですが、サラはレベッカと二人三脚で、またメイド陣や領内で優秀なのに燻っていた薬師や錬金術師の女性たちと知り合う機会を得て、彼女たちにも表舞台で働く場をサラが作り出していくわけです。
まさに、女性の社会進出の旗手となっていくわけですね。そして、そんな彼女らの実績を証明するものこそ、金であります。金ってのは、卑しいものなんかじゃない。実行力、そのものなんですね。社会に何かを築くために必要な実行力の権化、それを編み出す原動力としてサラを筆頭に女性陣が責任を担う立場になっていくのです。この世に根付く価値観をぶち壊しながら。

もう完全に行き詰まって死屍累々だったロバート伯父を筆頭とした文官たちからすると、まさに彼女たちは救いの女神だったわけです。
元々、横領するようなろくでもない男どもはいなくなった直後で、残ったのは地獄のデスマーチとわかりつつ、残って戦ってくれるような誠実で真面目な人達ばかりだったこともあり、あと過労で倒れる連中が続出していたほんと全滅瀬戸際だった、という事もあり、そして女性を蔑視することのない人たちであったこともあり、彼女らの救いの手を素直に受取り、そして手伝ってもらうどころじゃない、彼女たちが居ないと自分たちはダメなんだ!と思い知らされるまでになっちゃうわけですね、ご愁傷さまであります。
いやでも、確かにちょいと頼りないし無神経だったりするところもあるロバート伯父さんたちですけれど、それ以上にほんと彼女たちの能力を偏見の目で曇らせることなく、正確に評価するちゃんとした人達で、彼女らの功績を自分のものとしてしまうことを恥ずかしいと思う良識の持ち主たちで、非常時とはいえ彼らの思考はとても柔軟だったと思います。非常時だからこそ余計に頑なになるタイプの人間は少なくないですしね。
とはいえ、そんな彼らですら時代の価値観、常識からは逃れられない。それを目の当たりにする場面は幾つかあるのですけれど、まずは身内から、価値観や常識は絶対のものじゃない、というのをサラがその破天荒な存在を持って大きな壁にヒビを入れ、他の女性たちが均していく。そんなローラー作戦を感じさせる物語でした。
そんな中で、ロバート伯父さんたちは敵じゃなく壁じゃなく、味方であり愛してくれる家族なのを知らしめてくれる場面が幾つもあって、それはほんと良かったなあ、と思うんですよね。
確かにヘタレで頼りないところもあるけれど、彼のその柔らかさはレベッカという社会から外れかけてしまった女性を子供の頃からずっと救い続けていて、また両親を喪い引き取られた先の伯父の一家からは虐げられ、心に冷たいものを抱え込んでしまっていたサラにとって、ロバートが注いでくれる愛情は掛け値なしに救いだったのではないでしょうか。
それに、家に引き取ってくれたものの伯父夫婦に預けたまま殆ど接触してこなかった祖父が、頭の硬い古い人間のように見えていたけれど、実際に額を突き合わせて話してみるとちゃんと子供である自分の話も聞いてくれて、頑なに見えた女性に対する偏見も、むしろちゃんと話して実際を見せてみれば柔軟に受け入れ、決して女性を蔑視して見下しているような人ではなかった事がわかってくるんですね。
というか、恐妻家だったらしいので、元々女性に対してあんまり頭上がらない人だったみたいなのだけれど。
家を出ていってしまった息子とその家族に対してずっと許しを与える機会を逸しているうちに、息子が事故で亡くなり、嫁も自分が手をこまねいているうちに過労で病死してしまい、それを本当に大きく後悔して苦しんでいる人でもあったんですよね。サラのことも血が繋がっているから仕方なく引き受けたんじゃなくて、孫として確かな愛情を抱いていたのに、横領事件やら何やらで大変で走り回っているうちに放置してしまっていて、とまあ不器用この上ない人であることは間違いないのでしょうけれど。
それだけに、ちゃんと交流叶ってからのサラの可愛がりっぷりは微笑ましいというか、苦笑混じりというか。ロバート伯父さんがサラ盗られて指くわえてるんですが。いや伯父さん、あんたはレベッカの事をなんとかしてあげなさいよ。ほんとヘタレなんだから。