【リピート・ヴァイス 1〜悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜】  黒川陽継/釧路くき HJ文庫

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実は最強のザコ悪役貴族、破滅エンドをぶち壊す!

人気RPGが具現化した異世界。己が”ザコ悪役”として惨殺されるゲーム内の記憶を叩き込まれた傲慢貴族のローファスは、破滅エンドを避けるべく動き出す!
まず暴動のきっかけとなる悪徳役人を成敗。ついでに領地を荒らす魔物を眷属化していくと、ゲームでは発揮できなかった本来の実力に目覚めた!
「俺は俺の為にやっている。勘違いするな下民が」
ブレない悪役貴族の態度がなぜか領民の称賛を集め、本来なら彼を憎むヒロインまでベタ惚れに!? 最強ザコ悪役×無双英雄譚!

こいつが雑魚悪役だったら、この世界ちょっとインフレしすぎじゃね? というくらい、このローファスってまだ12歳の段階で強すぎなんですけど!?
こんなのと当たったら間違いなく負けイベントですよ。わけわかんないくらい強いんですが、四天王最強は別の人らしいんですよね。この四天王って元々は魔王になる公爵の学生時代の取り巻きだった連中らしいんで、貴族の取り巻き風情が四天王を名乗るとかどう考えても名前負けだよね? と、思ってしまう所なんですけれど、本作で見せたローファスの強さからすると、むしろ四天王では役不足、お前が魔王名乗れよ、てくらいなんですよねえ。
そもそも、本作で戦う羽目になった魔獣、なんかあとでこれ神獣クラスじゃね? と言われてるしこれラスボスより強い隠しボスの類だろ!? というような奴だったんだが。ローファスが自分が何千通りもの殺され方で惨殺される悪夢の中で見せられた本来の歴史でも、こんな強いの出てきてなかったでしょうに。

前世の記憶を思い出したとか、この世界はゲームだった云々という定番のシナリオと本作は少し趣向が違っていて、元々この世界の住人であるローファスがこれはパラレルワールドになるんですかね、魔王の四天王の一人となった自分が様々な形で殺される、それも何千何万もの死を体験させられ、夢で見た自分の死を回避するために何とかしようと、原因となりそうな事象を片っ端から潰していこうとする話でありました。
まだ12歳の子供であるローファスですが、既に貴族の子女、それもライトレス家ってのは貴族の中でも特殊な家柄というのもあって、しっかりと傲慢で不遜な在り方を植え付けられてるんですね。悪夢の中で徹底的に嬲られた彼は結構心も折れてたみたいですけれど、その自分以外の人間を見下す姿勢と傲慢さ、そして誇り高さといった根本の性格は変わらないようでした。
ただ、狭量ではなく死ぬ運命を回避するためなら多少のことは飲み込むことができるようになってるんでしょうね、これ。
それにこれは元々だったみたいですけれど、彼の貴族としての誇り、ライトレス侯爵家の人間としてのプライドの高さというのは自己保身のために用いられるのではなく、むしろ他人に対して厳しい以上に自分自身に対して厳しい姿勢が、話が進むにつれて垣間見えてくるのです。
夢で見た展開を回避するために訪れた自分の領地の寂れた漁村で、彼は領民たちからけっこう無礼な振る舞いをされるんですけれど……ええ、怒りますよ? 普通に怒って居丈高に振る舞いのですけれど、これ漁民たちを虐げてた代官があまりにも酷いろくでなし貴族だったせいか、傲岸不遜でも話の通じて村の困窮の原因になっているという海に現れる魔獣の退治にも積極的なローファスは、代官の手下たちの横暴なふるまいから宿の娘を庇ったことで漁民たちから受け入れられるわけですが、これ普通に何も起こってない平和な漁村にローファスが現れてたら、逆にこいつがトラブルの発端になった気がしないでもないよなあ。
ただ、見ているとこのローファスって平民を見下しているのは間違いないですし、部下の扱いも非常に厳しく強圧的ではあるんですけれど、わりと懐に入ったら情が湧いてる節があるんですよね。
漁師たちの遠慮のないズケズケとした失礼無礼極まる接し方も、慣れてきてそういうものだと認めたあとは、文句を言いつつも機嫌を損ねた風もなく気を許していましたし。
思えば、まだ12歳のガキなんですよね、この主人公。大貴族の子息として、こんなふうに市井に降りることもなかったでしょうし、こんなふうに遠慮なく接せられることもなかったんじゃないでしょうか。貴族間の力関係を考慮し続けないといけない距離感や、主と臣下というどうしても分け隔てられた関係しか経験してこなかった子供にとって、こういう親しみを込められた距離感で接せられるというのは今まで味わったことのないものでしたでしょう。また、立場によるものじゃない個人の行いによって生じた感謝や親密さ、好意的な感情というのもまた、新鮮なものだったのかもしれません。憎まれ口叩きながら、激戦を潜り抜けたあと一緒に遭難から助かったあとのフォルに対しては随分と気を許していたようですし。
12歳の子供だからこそ、まだ自己は確立しきっていない時期でもあるんじゃないでしょうか。彼のプレイドの高さ、傲慢さというのは自然なものというよりも、貴族とはかくあるべし、ライトレス侯爵家の後継者として在るべき姿、振る舞うべき姿、というものを必要以上に強く固く身にまとっているようにも見受けられます。
そんな固く鎧ったローファスの本当の内側が、フォルやその兄弟たちとのやり取りの隙間からちらっと垣間見えるんですよね。
今はまだ小憎たらしい傲岸不遜な貴族の子供という風情なんですけれど、思いの外その変化は大きくなっていくのかもしれない、という気配を感じるラスト近辺でした。そして、このフォルという子が明らかに意図してその隙間を覗き込んで手を突っ込もうとしてるんですよね。本来ならローファスにとって因縁の敵となる相手だった子なのですけれど、懐柔して敵にならないように、という以上にローファスにとって無視できない存在になっていきそう。これ、メインヒロインですよね?