【薬屋のひとりごと 12】 日向 夏/しのとうこ ヒーロー文庫

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玉鶯は、蝗害は異民族のせいで起きたと憤る民を鎮める名目で、砂欧に戦争を仕掛けようとしていた。
壬氏は戦を避けようと頭を悩ませていたが、玉鶯の暗殺という思わぬ形で戦を回避することになる。
しかし、領主代行を失った西都の舵を取る者がいない。壬氏は、いやいやながら西都の政務を執ることになった。
猫猫は、心身ともに疲弊する壬氏を気遣いながら、怪我人や病人を診る日々を送っていた。
そんなある日、壬氏は、領主代行だった玉鶯の息子たちを、西都のために後継者として政治を教え、育成してほしいと頼まれる。しかし、玉鶯の長男・鴟梟はどうしようもない無頼漢であった。
他の二人も後継者教育を受けたことなどないことがわかり、猫猫は頭を抱えてしまう。
だが、猫猫たちは否応なしに西都のお家騒動に巻き込まれてしまう。
玉鶯の三人の息子たちを後継者として育成してほしいと頼まれたうえ、鴟梟の息子・玉隼は中央から来た猫猫たちを目の敵として邪魔をしてくる。
誰が西都を継ぐのか……多くの思いが交錯する中、猫猫の元に事件が舞い込む。
玉鶯の孫たちの不仲。醸造所で起きた食中毒。謎の病を訴える異国の娘。
そしていつも以上に不可解な行動をする雀。
彼女の本当の目的とは一体何なのだろうか。そして、雀の本当の顔も明かされることになるのだが---。
猫猫は無事、中央へと帰ることができるのだろうか。
そして、壬氏との関係をはっきりさせる時が来るのだろうか。

激動の西都編決着の巻でありました。
前巻の玉鶯暗殺によって山場は超えて、あとは帰るだけだと思っていたのに最後にして最大のピンチが猫猫を襲うとは。
これ、猫猫史上で本気で最大のピンチだったんじゃないでしょうか。ここまで直接的に命の危機に瀕したことってなかったんじゃないの? 瞬間的に危ないってなったときはあったかもしれないですけれど、今回はひとつ判断を誤ったら無惨に殺されるかも知れない、という状況下に長々と置かれましたからね。判断を誤ったらどころか、相手の胸先三寸でどうとでもなってしまう危うい状況というべきか。
一応、影からの護衛というかセーフネットはあったみたいですけれど、猫猫が判断ミスってたら即アウトだっただろうという展開が幾つも重なってましたからね。小紅があれだけ聞き分けの良いいい子だったというのもああなってしまってからでないとわからないことでしたし、運が良かった面も多分にある。

そして、今回はあの怪しいというか胡散臭い侍女の雀さんの正体と素性が明らかになるお話でもありました。元々、間者っぽい人だとは考えていたのですけれど、素直に馬一族に連なる間者なんだろうなと思っていたので壬氏さまの部下ではなさそう、というのはわかっていたのですが……思ってたよりだいぶ根の深い案件だったんですね。
途中から嘘とは言わないまでも、どうも誘導してるっぽい事実からズレたセリフが増え始め、壬氏さまたちの思惑と違う命令系統で動いていると思しき様子が見受けられたところで、どうも西方の一神教の信徒っぽい素振りまで見え始めたところに、異国の要人がこの地に密かに訪れていることに関して、西都の玉一族の関係者が引き込んだだの、西の教会?の勢力が動いているっぽく見えたり、壬氏を陥れようとしているかのような動きが見えたり、と途端に雀さんの動向が怪しくなってきて、と。
随分とヤキモキさせられました。
いやー、途中の雀さんの変装はまったく正体気が付きませんでしたけどね。猫猫が年齢偽れるくらいの化粧を施して変装させられるくらいなら、そりゃもっと化けられるか。
彼女の出自に関してはまったくの想像の埒外でしたけどね。玉葉妃さま、この作品はじまったときからの重要キャラクターでしたけれど、その実家がこれほど面倒くさいことになってるとか、ほんとどうなってるんですかもう!!
しかしこれ、雀さんてば巻末の楊家玉一族の家系図には載っていないわけですけれど、玉葉さまの姪にあたることになっちゃうんですねえ。
いやこれ、巳の一族はどういうつもりで雀さんを馬良の嫁にしたんだろう。政略的な意味は本当にないんだろうか。雀さんの血統をオモテに出すことはないでしょうから、そこに価値は出てこないんでしょうけれど。
改めて雀さんの過去を見てしまうと、あのふざけた道化じみた言動は今は素に近いものではあるんでしょうけれど、あれって生きていくのに必要だからこそ身に焼き付けたものなのでしょうね。自らに価値を付与するために言動に軽薄さを植え付ける、というのは矛盾するようですけれど、自分を軽くすることで証明も軽く済むようにするという本能的なものでもあったんだろうか。
母親に捨てられ、自分を宝石のように大事にして愛してくれていた父が行方不明になり、大きな商家の娘であったのに何の価値も見出されなくなって放り出されてしまった過去から、心のどこかで常に自分の価値を示さなくてはいけない、役立つ存在でなければならない、それが道具であっても、という強迫観念に似た思いに駆られて生きてきた雀さん。価値がなくなれば死ぬしかない、とまで自然に思うほどに巳の一族の教育もあるんでしょうけれど、拾われる以前から強くその傾向があった事からも、自分で自分をそういう鋳型にはめ込んできたとも言えるのでしょう。
とても自由で何物にも囚われていないフリーダムな人に雀さんって見えてきたけれど、むしろ自縄自縛の人だったのか。
そんな彼女にとって、馬良との結婚や彼との間に子を産んだ、という事は愛の介在しない過程に過ぎなかったのかもしれませんけれど、間者として大きく能力を損なって価値が減じたとき、価値など関係なく大事にしてくれる馬良の存在は、どう感じたんでしょうね。思わず弱音を吐いてしまった段階でわかっていたことかもしれないですが。
でも、自分の母親とは違う、本物の家族になってほしいものです。

そしてまた、そんな自縄自縛して生きてきた雀さんだからこそ、猫猫の図らずも自分を縛っている部分が目についたのかもしれませんね。猫猫は雀さんと違って自分の価値だのなんだのってのには全然興味がない……これって羅一族みんなに多かれ少なかれある傾向かもしれないなあ。ともあれ自分が満足すればそれでいいや、って所がある娘ですけれど、だからこそ自己完結してしまっていた所があって、雀さんの指摘はそれを突く鋭いものでありました。いや、あれが遺言にならなくて良かった。
苦節12巻、ついに猫猫が認めましたよ。自分の感情を認めましたよ。いやもう9巻くらいにはだだ甘対応で仕方ないなあくらいには受け入れてはいましたけど、こりゃ受け止めなあかんなあ、くらいにまでちゃんとしようと思うまでに至るとは。壬氏さまの押し切り勝ち……というほど壬氏さま西都来てから忙しくて特にアプローチらしいアプローチ出来てなかったから、壬氏さまもうちょっと頑張れっ、という気持ちには変わりないのですがw

あのこの西都編では異様な存在感があった羅半兄がついにその名を明かすことに。
その名も……羅半兄! ……おい、ついに自分でそう名乗ったぞw
なんだったんだろう、このひとは、最後まで面白い人だったぞw