【オルクセン王国史〜野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか〜 2】 樽見京一郎/THORES柴本 サーガフォレスト

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オークの国オルクセンの王グスタフ・ファルケンハインは、聡明かつ穏健な牡(おとこ)である。だが、オーク族の悲願達成と、自らを頼りとする臣下国民のためならば、ときに狡猾な策をも弄する。それが、今回の対エルフィンド開戦にまつわる「奇策」だった。 エルフたちの国――故郷エルフィンドで卑劣な虐殺と迫害の憂き目に遭い、白エルフたちに復讐を誓いオルクセンに身を寄せた黒エルフの氏族長ディネルース・アンダリエルは、今や名実ともに「王のもの」となった。愛する牡との充実した幸福感に包まれる日々は瞬く間に過ぎ、水面下でじわじわと準備を進め牙を研いでいたオルクセンは、ついにエルフィンドに宣戦布告を行うのだった……。 圧倒的な筆致でえがく「銃と魔法」の異世界軍記ファンタジー、待望の第2巻登場!!


今更なんだけれど、オルクセンのオークやコボルトなどの種族の男の事を、「牡」と呼称するのってめちゃくちゃカッコいいですよね。漢と書いてオトコと読む、のに通じるものがある。ちょっと身震いしてしまうほどの魅力を「牡」という単語を通じてそのキャラクターに感じてしまうんですよ。ちょっとたまらん。

2巻であります。2巻にてようやくはじまる戦争準備。そう、戦争、戦争であります。白エルフの国エルフィンド王国に対しての侵攻作戦、そのために国のすべてが動き出す、胎動の回。
まだ始まっていないにも関わらず、いや始まる前だからこそか、国家という巨大な巨大な恐竜がただ一つの目的のために動き出そうと身を震わせ、うずくまった状態から体を起こし、首をもたげる。大きければ大きいほど、それらの動きは凄まじいまでのスケールとなっていく。
それが微に入り細を穿つ形で描かれていくのです。もう読んでいる間中、こういうのは不謹慎かもしれませんが、ドキドキしっぱなしでした。一度Web版で読んでるのにね、鼓動が高鳴っていくわけですよ。凄まじいの一言でした。
今回は特に多くの人の視点から、この戦争準備という胎動が描かれていきます。まさに、国家を形成する様々な種族、身分、階層の人々の様々な視点から、この途方もないうねりが描かれていく。もちろん、主人公であるグスタフ王やダークエルフのディネルースも多く描かれるんですけどね。
グスタフと親交の深い将官や、作戦を司る将校や作戦参謀、海軍の船を預かる艦長、新設された部隊に志願したコボルトの飛行士たちや大鷲たちといった軍関係の人々だけでなく、商会や鉄鋼会社の人間や外交官、鉄道運輸を担う国鉄の線路保守に携わる工員たち。
特にこの国鉄の線路保守に携わる人達のシーンが印象的で、あれこそ鉄道という兵站の大動脈となるだろう生命線を守り維持する支えとなる人達の物語で、これがまた熱いんですよ。ほんとワンシーンでしかないのに、詳細なまでに線路保守のための方法から運用まで描かれていて、現代のそれとはまた違うんでしょうけれど、脱線事故を防ぐためにもこの保守作業が重要だってのは変わらないだろうし、やり方とか初めて知りましたよ。点検の詳しい内容とか基準値の内実とか、まじでなにそれ!?って感じで。大変ですよ、これ全部やるの!? 大変だよ。でもやるんだ。全部やるんだ。でないと、いつ脱線事故が起こるかわからないから。鉄道の安全を護るため、彼らはそれをやり遂げるのだ。
そこには、線路を護る現場の男たちの誇りがあり、夜中通して働いた牡たちが夜明けとともに現場で食べる夜食と言う名の朝ご飯の、あの焚き火で熱した角スコで焼いて食うヴルスト……ソーセージと目玉焼きのあの美味そうなこと!! 飯テロがあり、ドラマが目一杯詰まってる。
オルクセン王国の誇る時代を先駆けるとてつもない兵站システムの、縁の下を支える牡たちの物語ですよ。こういうのが、今回は無数にあるわけです。様々なドラマが一人ひとりの中にあり、一人ひとりの中に情念とも呼ぶべき思いがあり、それが凄まじい熱量とともに一点に注がれていく、開戦に向かっての巨大なうねりとなっていく。
それを表すような言葉が作中に刻まれていた。
北部に向けて六本も整備されていた複線鉄道網、更に兵站拠点となった各都市間を結ぶ支線を利用し、こうして動員展開されていく軍の総勢は、東西約二六〇キロの半島国境部に対し、オルクセン軍が投入できる一次的な動員兵力としては全力のものとなる約四六万八〇〇〇名。
数字で書くのは容易い。
だがそこには、オーク、コボルト、大鷲、ダークエルフ。様々な種族があり、それぞれの生がある。
軍一筋でやってきた将軍。陸軍大学校を出たばかりの参謀。空に昇り天候をみてきた少佐。郵便局で魔術通信を扱っていた中尉。教師だった将校。軍のなかで努力を重ね兵から上り詰めた曹長。おっかない顔をした軍曹。その下で威張っているが実は心根の優しい伍長。ヴルスト屋の屋台を引いていた兵。博徒として街のちょっとした纏め役だった兵。染物屋を営んで家庭を支えていた兵。歓楽街の下働きだった兵。
兵器や、弾薬、軍馬、輜重馬車にさえ背景がある。
数年前までは鉄鉱石や木材だった野砲。鉄道職員によって積み込まれた山砲。熟練工によって仕上げられた砲弾。一つ一つ検品された銃弾。職工の手と円鋸により厚さを揃えて切り出された木材により作られた木箱。海を渡ってきて育てられた軍馬。この戦役のあと農家の手に渡って何十年と大事にされた輜重馬車。
その膨大な何もかもが、統制され、制御され、練りに練られた混乱ともいうべき展開運動のなかで集結していく。
軍とは。
軍隊とは。
ある日突然何処かへと、魔法のように出現するものではない。断じてそうではない。


思わず身震いしてしまうような、何かがこみ上げてきます。このダイナミックさ!! そして密度の濃さ。圧巻です、圧巻。
あとがきで作者さんが触れてらっしゃいますけれど、まさに本作においてこここそが書きたかったところだろうで。
そうなんですよね。タイトルからしてそうですもの。
野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか
まさにそのすべてがここに描かれている、刮目して見るべし。

しかし、グスタフ王はなんというかもう、牡として震えるほどセクシーというか、魅力的すぎますよね。
冒頭でこの世界の英国に相当する人間の国の外交官と歓談するシーンがあるんですけれど、若くも才気煥発な外交官が、グスタフ王の話に思わず聞き惚れてるですなあ。
各国の外交官たちはみんな、星欧の歴史の証人とも呼ぶべきグスタフ王の話を聞きたがる。その匠で思わず引き込まれる話術と、かの王の口から飛び出してくる思わぬ歴史の真実や面白おかしい偉人たちの話、当時の知られざる事情、そりゃ面白いですし勉強になります。そうやって闊達に話すグスタフ王、ほんと魅力的なんですよ。またディネルースや身近な人間に見せるあの茶目っ気や、フットワークの軽さ。馬車から飛び出していって屋台から焼きドングリを勝ってきてディネルースに嬉々として差し出すあの可愛らしさ。飾らないけれど行き届いた気配り。惚れ惚れするような牡なんですよねえ。
そして、牡だけではありません。ディネルースは別枠としても、今回挿絵にあのコボルトの女傑であるファーレンス夫人とメルヘンナー・バーンスタイン教授のお二方の勇姿が。眼福!!

ふわあぁ、読んだ。なんかもうお腹いっぱいになりそうなこの充足感、そしてこれからはじまるものを目の前にしてページが終わってしまった滑落感。たまんないです。
原作のWeb版を、時間忘れて夢中で読んでしまっていたときを思い出します。一度読んでるはずなのに、またぞろ再現してしまった。2巻を入手した方は早めに読むことをおすすめしますよ。3巻出てから読んだら、まじで止まらないから。区切れない、絶対無理!!