【転生ナイチンゲールは夜明けを歌う〜薄幸の辺境令嬢は看護の知識で家族と領地を救います!〜 1】  干野ワニ/長浜めぐみ サーガフォレスト

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エルゼス侯爵家の長女フロルは、熱病で生死の境をさまよった12歳のある朝、前世(の記憶を取り戻した。
フロルは実は、別の世界で小児科の看護師だったミヤコ(アラサー)で、事故に遭ったと同時にこの世界に転生したのだった。 しかしながら長年の凶作などもあり、侯爵家の家計は火の車。後継者であるはずの兄は社交界デビューに失敗してもう4年も部屋から出てこない状態で、存亡の危機にあったのだ。
「こうなったら、私が何とかするしかない」
 生活環境改善のため、フロル(ミヤコ)は現代の処世術と知識を使って行動し始めるのだが……。



タイトルにでーんとナイチンゲールと掲げてありますけれど、今のところプロの看護師としての専門知識やならではの経験を活かした、という展開までは行ってないですね。
前世に目覚めたはいいものの、実家の経営状態が二進も三進もいかない所まで来ている状況なので、それどころではなかっただけに。
お祖父様の膝の古傷を緩和させるための足湯とか、ちょっとした健康法くらいの塩梅で。あ、でもお兄さんの吃音の症状については専門的な話だったなあ。そういう症状があるというのは知らなかったし。
ただ、これに関しては主人公フロルが知識を活かして改善のための方法を提示した、とかではなく、あくまでお兄ちゃんが自分で発生訓練してちゃんと喋れるように自分で鍛え整えていたので、フロルがなんかしたって訳じゃなかったですからね。
それに、この世界観はまだ人権や個人の権利などの概念が薄く、また女性の社会的立場も低い……低いというか籠の鳥というか、社会に対して責任を負わすような役割を与えず家に縛り付けている、というべきか。なので、まだ子供で女性であるフロルに出来ること、許される行動というのはとても限定されているのである。それこそ、家から外に出られない……厳密には護衛が何人か以上いたら制限付きで出られるみたいだけれど、今の侯爵家にはちゃんとした護衛を雇う余力もないので必然的に外に出られない状態になっているわけだ。つまるところ、貴族社会の中でただでさえ窮屈な女性の立場でさらにお金も無いから出来ることはさらに小さくなっているんですね。
フロル自身も虚弱で死にかけていたくらいですから、体力の類もない。前世の記憶を取り戻したのをきっかけに、ある程度体が健全になって動けるようになったみたいですけれど。
家庭内も両親が事故でなくなり、祖父は現状へのストレスと自身の身体の不調で精神的にもささくれだっていて、当主を継がなくてはならない兄はこちらもあれこれあって心折れて挫折して引きこもり中。
領地の代官をやってくれている親戚のルイくんは、どうも向いていないらしく領地の借金は増すばかり。トドメにフロルは病弱で気が弱く床につくことも多い。とまあ、八方塞がりでありました。

こういうとき、ただ知識だのなんだのがあっても使いようって難しいんですよね。ただ、前世を思い出す際に一番役立つことって、大人だった経験を持ってこれること。まだ体が子供で引きずられて子供らしい感性を持っていても、大人だった経験は子供では検討もつかず想像も出来ないだろう大人たちの思いに対して、理解が及ぶことが出来るのです。
そして、大人に対して共感が出来る。
フロルの場合も、幼い子供の意識では祖父の様子は自分を愛していなくて怖いばかりの人であり、引きこもってしまった兄は自分を護ると誓ってくれた約束を破った嘘つきだったわけですけれど、大人の経験を思い出したフロルには、二人がそうなってしまった過程も理解できるし、彼らの言動や反応からちゃんと祖父や兄が自分のことを今も愛してくれていることがわかるわけです。
これは大きい。共感と確信は、間違いなく自分を奮い立たせる原動力になりますからね。自分のことだけじゃない、家族のためにも今の状況環境を改善しようという意欲につながる。
だから、出来ることが少なくてもコツコツと出来る範囲からはじめて、行き詰まっていた家の空気を入れ替えていくフロルの様子は、健気でもありひたむきにも見えたのでした。
そうやって頑張るフロルを、元々ちゃんと愛していた祖父にしても兄にしても、見過ごすわけにはいかないでしょう。お祖父ちゃんはまだ頑固者ですから色々と既存の価値観に頑なな所もありますけれど、わからず屋ではないのでちゃんと話せば理解して受け入れてくれる人だというのも助かりました。まあ、このへんはフロルの話術、或いは気難しい患者を相手にしてきた看護師経験ならではのものでもあるのでしょうけれど。
でもやはり、出来ることは少ないわけです。だから、一人では出来ないことは周りに助けてもらわないといけない。どうしても自分だけではどうにもならない状況に追い詰められて、彼女が救いを求めたのは引きこもった兄でした。いや、助けてっと願いながらもそれでも苦しい兄の状況を慮ってなかなかすがりつけなかったんですよね。兄が引きこもっていながらもちゃんと頑張って過去を克服し、立ち上がろうと頑張っている事を知って、下手に縋れないと思い切ってしまうあたり、妹魂が炸裂してます。
そんな妹のピンチを前に、必死の思いで部屋から出てくるお兄ちゃん。こっちもお兄ちゃん魂ですよ。それでこそお兄ちゃんだ。
トラウマをねじ伏せて、妹のために彼女の壁となり盾となり剣となろうとするお兄ちゃん。彼の妹に対する愛情、これまでつらい思いをさせてきた罪悪感もあったんでしょうけれど、その優しさが痛いほど伝わってくる。
実際、むちゃくちゃ優しい人なんですよね。領地で不正していたルイくんの事も、追い詰めすぎず悪役にしすぎず、彼が唯一本当に自分のことを心配して見捨てずにいてくれた相手だった事を忘れず、友情を損なわなかった。あれ、フロルだけなら叩き潰すしか結末なかったかもしれません。

いやあ、なんかすごく良い兄妹関係でありました。兄も頑張り、妹も頑張る、必死な兄と妹の麗しい、尊い関係。お互い好きすぎなんじゃない? あまりにも助けて欲しい場面で兄がちゃんと必死こいて助けに来てくれたんで、フロルの方も感情が若干オーバーフローしてますし。まさかに兄妹ルートに行きかねないくらいの勢いでした。一応、二人にはお互い相応の相手が出てきそうな気配もありましたけれど。
お兄ちゃんがちゃんと頼りになるようになったので、ここから本格的にフロルも前世の経験を活かしたことが出来るようになりそうですし、ナイチンゲールとしてはここからが本番なのかも知れません。