【こちら、終末停滞委員会。】 逢縁奇演／荻pote 電撃文庫
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終わりそうなセカイの裏で、デカい銃をぶっ放す。それが俺らの学園生活だ。
実は俺らの世界は、密かに滅んでる真っ最中らしい。上野の不忍池に潜む異形、エッフェル塔に張りつく巨大カタツムリ、どう見ても美少女な魔王……。
そんな正体も数すら不明のオカルトチックなナニカ――“終末”によって。
けど世界の裏では、それに中指立てて闘ってる少年少女がいたんだ。
「あはっ☆ 最強美少女ひかり様の前で神様ごときが頭が高いのだわ!」
「加減してください隊長、パリ市街が吹っ飛びます! 運が良ければ!」
終末を停止でもなく、根絶もできず、ただ停滞させるだけ。
それでも彼らは銃を取る。
なぜって? 彼らにとってはこれが日常茶飯事で、毎日がお祭りで、アオハルそのものだから!
元マフィアの下働きで『普通』に憧れてた俺だけど。ここなら楽しい学園生活ってのが始まりそうじゃないか?
いやあこれは……ええわぁ。刺さった。めっちゃくちゃに刺さった。滅多刺しである。
作者の逢縁奇演さんて前作の【運命の人は、嫁の妹でした。】も独特の雰囲気と筆のテンポを持つ印象に焼き付くような作品でしたけれど、今回のこれはさらにその独特な部分を濃厚にして純化して抽出したような作品の空気感でした。
完全に文章の色とか匂いが他と違うんですよね。まさにこの人にしか出せない感触が冒頭から塗り込められてくる。
そもそも、終末をテーマにした作品、すべてが滅びようとしている終わりを目前とした世界ってそれぞれに特色があるけれど、本作はほんとこれまで感じたことのない雰囲気なんですよね。
終末はもう回避できない、終わりの質も量もオーバーフローで溢れていて、もうあとちょっとした事で人類は、地球は、世界は滅び去ってしまうだろう。つまり、終わりを目前とした世界。
停止も回避もできないから、停滞させるしかない。ただの先延ばしが限界、刻々と減っていくカウントダウンを無理やり増やして時間稼ぎをしている、それこそ底に穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるような徒労にも似た抗いだ。終わりをもたらす終末を利用してすら、終末を留める矛盾の自転車操業。
でも、終わりの接近を停滞させることだけは出来る。
それはもう絶望に染まっていて、でも決して諦めていないような世界観。
それを象徴するように、登場人物の大半はどこか能天気であっけらかんとして終末を前にしてそれぞれ自由にくるくると飛んで跳ねて奇声をあげて踊っている、ダンスっている。はしゃいで騒いで伸び伸びとやりたいことをやって、もぐらたたきに夢中になっている。
いやこれ、世界自体はどこを見ても壊れそうな絶望にまみれていてどこか曇天の下にあるかのような重苦しさがあるんだけれど、登場人物たちはみんな逆で絶望に染まってはいないんですよね。明るく楽しそうに、終末に立ち向かっている。真面目な人達だって悲壮感に酔ってなんかいない。自分たちにやれることを一生懸命やっている。それは怒りだったり義心だったりして、絶望なんかに屈していない。
でも、希望があるか。未来に期待はあるか。終末を克服するんだ、なんて夢を見てるかというと、彼らはみな眼の前の現実を、ただ終わりを停滞させるしかない、時間稼ぎしかできない、という事を言わずとも理解しているように見える。それは、ある種の諦めではないだろうか。或いは何も考えていないか、人類最強さんはどうですか？ 世界を自分が滅ぼすのだと頑張ろうとしている魔王さんとか？
少なくとも、主人公の心葉くんとLunaさんに関しては、諦めていながら絶望していないような主人公とヒロインに見えたんですよね。
冒頭、心葉くんは魔王と邂逅し、彼女の鮮烈な光に心を焼かれる。そうして、もう夢も希望も枯れ果てていたなかで、諦めきっていた中でそれでも縋り付くように自分の夢の残骸へと手を伸ばす。それは絶望からの脱出で、でもその後の彼の在り方を見ていると淡い夢を目指しながらずっと諦めに囚われているようにも見えたんですよね。Lunaさんはそれ以上に。
やはり強烈なのはこの二人でしょう。こんなに胸を締め付けられるような在り方をしている主人公とヒロインの組み合わせには早々出会ったことがないので、もう読んでいる間中ずっと苦しくて哀しくて愛おしくて、尊みに打ちひしがれ続けた二人でした。
心葉くん、ほんとにね、この子ね、もうなんかたまんないんですよ。まだ子供なのに、その半生を備え持つ読心能力のせいでメキシコのマフィアにさらわれて利用されて、そこで奴隷というのもおこがましいすさまじい虐待を受けながら、人間扱いされない日々で尊厳を踏みにじられながら、犯罪の片棒を担がされていたのでした。
育ての親の誠心にあこがれて、爺さんのようなイイ奴になりたいと願いながら、徹底的にそれを踏みにじられた。痛みと恐怖によって悪逆に加担させられ、罪もない人の殺戮に、虐殺に利用された。
それが消せないタトゥーとなって心葉くんを苛み続けるのだ。どこにも彼の責任はないのに、彼はずっと罪の重さに押し潰されそうになりながら這いずっている。這いずって這いずって贖罪に邁進している。
ただでさえボロボロになっていた体も心も、さらにボロボロにしながら、ごめんなさいと泣きながら自分以外の誰かを助けてまわろうとするのだ。もうイイやつになれないと諦めて諦めて、諦め切りながらあまりにも当然のようにいいヤツであり続けるのだ、この子は。
もう、見てるだけで泣きそうになってくる。憐れで哀れで切なくなってくる。誰かこのコを慰めてやってくれ、誰かこのコを抱きしめてやってくれ。そう願ってやまなくなる。
そんな風にこの子のあまりにも健気で献身的で滅私で哀切にまみれた在り方を目の当たりにして、たまらなくなってしまったのが、Lunaさんなのだろう。
この人自身、もう既に自分に何の価値も見いだせず、それどころか存在すること自体に耐え難い嫌悪と罪悪感と諦めを抱いているような人だ。心葉くんに負けないくらい、自分の罪を必要以上に背負って苦しんでいる人だ。擦り切れてしまった人だ。
なのに、そんなもう身も心もボロボロの状態だったのに、心葉くんの有り様を目の当たりにしてたまらなくなってしまったんですよね。居ても立っても居られなくなってしまった。
メイドさんの格好をしているけれど、スレてて蓮っ葉で無気力ダウナーで、陰気でメンヘラでひねくれてて……でも心葉くんに聞こえる心の声は、優しさで敷き詰められてるの。心葉くんへの労りと愛情に満ちてるの。この人のネガティブさと心葉くんへの想いは、見てるだけでこれもたまんなくなる。たまんないよ、痛々しくて切なくて、たまんないんだよぉ。
それなのにLunaさんって、自分でも認めるほどクソデカ感情でヘヴィもヘヴィな重い女なのに、その重さをそんじょそこらの重い女みたいに相手に、心葉くんに乗っけようとはしない。彼には決して一欠片も自分の重さを負担として荷重させようとはしないのである。
自分の激重さを、自分ひとりで背負ってる。そうして、心の四肢で突っ張って下にいる心葉くんから守ってる。そうして、自重で身も心も潰れそうになっているあたりまでセットで。
もうそれ自体が生き様が重いんですよ。胸を締め付けられるような重さなんですよ。哀切の塊みたいな女だよ。
そんなLunaさんの事を、心葉くんは誰よりも信頼していて信用していて、もうお互いこの世界で唯一にして無二、というくらいに心寄せあってる。肩を寄せ合って座り込んで手を重ねているような二人なんです。でも、相手に体重掛けまいとしてそっと触れ合わせているだけの、そんな寄り添い方をしてる姿が、もうたまんない。胸が苦しい。尋常じゃなく尊い。
この二人を見ているだけで、なんか泣けてくる。
彼らは戦っている。二人一緒なら、諦めすらも乗り越えて、希望を信じて戦うのだ。
それにもう、彼らは二人だけですらなくなった。メフさんをはじめとして、絶望の底から星空に手を伸ばす、強き心の仲間たちがいる。
頑張れ、頑張れ、諦めるな、希望を信じろ。抗え、幸せになるんだ。幸せになっていいんだ。
報われろ、主人公。
これは心葉くんの生き様を見たが故の、純粋な祈願である。
Ａｍａｚｏｎ
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