【恋は双子で割り切れない ６】 高村 資本／あるみっく 電撃文庫
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昔から三人で、これからも三人。ずっと、それだけは変わらない。
晴れて恋人同士となった二人。
そして選ばれなかったわたし。
頭をからっぽにしなきゃ耐えられなくて、走っていれば気が紛れると思った。でも何をやっても駄目だ。
わたしはただ、振られただけ――ううん、夢から覚めただけ。いつまでもぎくしゃくとしたままではいかない。泣いてばかりで、立ち直るにはもうちょっと時間がかかりそうだけど。
ああっもうっ、二人とも、本当にムカつくっ! バカっ! ……それでも、やっぱり大切な幼馴染なんだもん。
そんな自分たちの関係に戸惑いつつ、最低最悪だった夏が終わって、文化祭の準備に追われる秋が訪れた。
そりゃあ現実として、振られて早々に立ち直れないですよね。
それも相手は幼い頃に惚れてしまってからずっと好きだった相手ですよ。一度は抜け駆けして那織を出し抜いて不意打ちまがいに付き合っちゃった相手ですよ。
一旦は譲った形で那織に押し付けて精算したつもりになろうとしましたけれど、まあここで那織がわざわざ一旦白紙に戻して仕切り直ししてくれたことで、正々堂々と姉妹で純に選択を迫ることができた。
でもそれって、もう言い訳できないくらいに決着をつけるという意味合いでもあり……。
結果、悩みに悩み通した純が下した決断は、那織の方だったわけだ。
琉実はもう完全に振られたわけである。ケリがついてしまったわけだ。
だからって、スッキリ気持ち切り替えられるなんてわけがなく。自分が振られた、というどうしようもない現実を前にして、琉実は向き合ったがために落ち込んでしまう。どこをどう絞っても元気が湧いて出てこない。悲しい、哀しい、胸が締め付けられて苦しくて、情けなくて。
こういう気分の落ち込みって、寝て起きたら切り替えれる、ってのは人それぞれなんですよね。むしろ特殊能力だろ、そんなの。
それは自分の気持を整理するための失恋旅行とか、彼氏が別の女に走ったために別れた親友と境遇を分け合い、痛みを分かち合い、慰め合って労りあったりなんていう特別なイベントを介しても。
それで区切りができるかってーと、そう簡単じゃないのよ。
そんな眼の前であからさまに落ち込んじゃって、失恋の痛みにじっと耐えているという素振りを思いっきり撒き散らしちゃっている琉実を、しかし那織は文句も言わず邪険にもせず、無神経に慰めたりもせず、じっと見守り続けるんですよね。
さりとて、遠慮しすぎてしまうと琉実の方がまた自分が邪魔してる、と思っちゃうからかは知らないけれど、わりと素直に純と付き合えたことは喜びを爆発させて隠さないし、何なら家族にも堂々とお付き合いはじめました宣言をして二人の関係を公のもとに広めたりもしている。
自分と純の様子を隠したりはしていないし、あからさまに気を遣ってます、みたいな素振りは全然見せてないのである。
でも、めっちゃ気を遣ってるんだよなあ。このあたりは前巻でも感嘆とともに触れましたけれど、もう本当に琉実に対しての気配りが凄いの。
このあたりの遠慮もしてないのに見せつけるみたいな態度も見せないバランス感覚、ちょっと凄まじさすらある。ぎこちなくなってコミュが減ってる琉実と純に対しても、変に後押しして仲直りさせようなんて酷い真似もしないですし。でも、自分の恋人になった男が別の女と親しくすることに関しては、ホントは嫌なんだぞと釘を差しつつも、でも姉と幼馴染には前と同じく仲良くしてほしいし、以前と同じ三人一緒の感覚は自分も好きだから、琉実のことは頼む、とちゃんと裏では二人のぎくしゃくした関係が戻るように根回しは配慮もしてるんですよね。
琉実の方も自分の気持ちで精一杯かと思うと、純のこと以上に那織のこともずっと考えて思い巡らせていて、三人一緒ってのは純への恋心に未練がある、のではなく、いやあるけど、あるにしても、それ以上に那織のことが大事で、また自分を仲間外れにしないと信じてるのが伝わってくるわけですよ。
仲の良い姉妹、と言われて思い描くようなベタベタした関係じゃないからこそ、琉実と那織の姉妹関係ってぎゅっと濃縮された尊みを感じるんですよねえ。
今回は特に琉実ベースの話が多かったのもあるんでしょうけれど、そして琉実の感情値がどん底に落ち込んでジメジメ湿気てしまっている一方で、折れたり後悔したりという後ろ向きさはあんまり無い感じだったんですよね。ひたすら下、下、下だけど後ろは向いてないみたいな。
だからか、今回は特に琉実の心情描写から彼女の素直さ、真っ直ぐさ、シンプルだけれどひたむきさが伝わってくるようで、これだけ一生懸命だったんだから全力で走ったあとの流して止まるまでの間隔が長くなるのも仕方ないよなあ、と。長く長く落ち込んでしまうのも、仕方ないよなあ、と。
思うわけだ。
時間の経過と忙しさ。結局、痛みを癒やしてくれる一番はそれらなのでしょう。那織や周りの友人達による患部の保護体制も万全に等しかったんでしょうけれど。
琉実たちの従姉のお姉さんが誘ってくれた旅行で、最後お姉さんがおじいさんの残してくれた山小屋、コテージ？ での一泊を。琉実と那織と純の三人だけの時間を与えてくれたんですけれど。もうそこまででぎくしゃくした感じも解消され、琉実も文化祭の準備なんかで駆け回るうちの気持ちも浮上してきて、友達の間での新たな恋愛問題なんかにも触れつつしたりしているうちに、付き合い始めた幼馴染と妹との自分との距離感、というか純と那織が空けて待ってくれていた空間に自分がどう収まるべきか、というのを整理はだいたい出来始めてたんですよね。
三人でのお泊りは、その決算だったんでしょう。これから、自分たち三人がどんな形で過ごしていくかの。ここの三人が川の字になって寝ながら、ほんと遠慮のないあけすけで気のおけない、姉妹で家族で恋人で幼馴染の、親友同士の楽しい安らぐ時間が流れてて、とても良い場面でした。
なんか、ここがこの作品のランディングポイント、着陸予定地点だったんだろ？と思うくらいに。
幼い頃から続いていた彼ら彼女らの三人の日常は、大きく変化したけれど、でも変わらなかった。それは、とてつもなく偉大な彼ら三人の成果なのではないでしょうか。
……いやこれ、なんかこれでもう完結でもいいんじゃないか、ってくらい頑張った成果を見せてもらったんですけれど、次巻あるんですね。まわりの友達たちの恋愛模様がまた全然定まってないだけにそっちも気にはなるけれど、純と那織がどこまでズブズブ恋人関係にハマっていくかなど、まだ色々とありますかしら。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
