徒然雑記 : 転生したら皇帝でした７ ~生まれながらの皇帝はこの先生き残れるか~　★★★☆

【転生したら皇帝でした７ ~生まれながらの皇帝はこの先生き残れるか~】　魔石の硬さ／柴乃櫂人 TOブックス

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「皇王（あなた）のために、喜んで戦います！」
（内心：もちろん嘘、利用してやろ）
最大の敵・皇国を騙して旧領を奪還せよ！
エスプリ幼帝の痛快王政サバイバルファンタジー第７弾！

最大の敵・皇国の王の亡命……前代未聞の大事件にカーマインは頭を抱えていた。受け入れないと、戦争になるかもしれない。他国と戦争真っ只中の今、絶対にそれは避けたい皇帝は、時間を稼ぎつつ、目下の戦争を迅速に終わらせにかかる！「皇王（あなた）のために、喜んで戦います！」と得意の演技で皇王寄りの立場と油断させ、裏で反皇国同盟を集める。“強い皇帝”イメージを世界へ知らしめ一気に同盟を結びやすくするため、ついに今まで隠してきた魔法を解禁する──。無敗の英雄が、皇国を騙して旧領を奪還へ！エスプリ幼帝の痛快王政サバイバルファンタジー第７弾！

最大の敵・皇国の王の亡命。まじで前代未聞だな、これは。応仁の乱では名目上総大将だった人物が敵側に寝返る、みたいな中々意味不明な展開があったりするけれど、こっちは仮にも国全体の統治者であり皇統の長が国放りだして亡命ですからね。
実際は実際の権力を逸していてお飾り状態だったのですが、それでも後継者指名をせず現役の王としての立場を持ったまま、政争に敗れて継承権を無くしている元皇太子と共に逃げてきた、てなもんですからそりゃエライことです。
王座から降りた元皇王だったら話は全然違うんですけどね。

これが何らかの謀略だったり、皇王自身の高度な政治的判断に基づく一手だったりしたら、恐ろしいと同時に筋書きがあるはずだからある程度、先を読む事も叶うんですけどね。
何も考えてないバカや愚か者の偶発的な暴走だったりすると、何も目的もなく意図もなく思いつきの根拠もなし、だったりするので誰にも何もわからないまま事が明後日の方向に進んでしまうんで、どこもかしこも大混乱になってしまうんですよね。
馬鹿の考えほど読めない、と。
もっとも、そんな思いつきの偶然で、皇王と元皇太子なんて重要人物が敵国に逃げてこられる、なんてはずもないので、どこかで誰かの意図が入っているのは間違いないはずなのですが。
カーマイン、ここまでずっとその戦略・政略は堅実で地に足がついたものであり続けて、机上の空論とは縁のないどっしりとした考え方しているんだけれど、なんでかいつも想定外を食らってますよねえ。
地に足がついている分、慎重である分、発想に飛躍が生じないわりとこじんまりしている、という可能性もなきにしもあらずなのですが。それにしても、皇王亡命に関してはカーマインじゃなくても訳わからんよなあ。
そしてカーマインの非凡なところは、どれだけ想定外の状況に陥ってもそこからしっかりと現実的な対処を重ねていって最善手を、探り探りではありますけれど打っていける、という所なのでしょう。
慌てるし動転はするんだけれど、頭の中は常に冷静沈着で視野狭窄にならないし、感情に思考が占領されない人物なんだよなあ。
これは周囲の人達からすると、非常に頼もしく思えるスタイルなのでしょう。ただ最善手を突き詰めすぎて、偶に自分が戦場の最前線に突っ込むのがこの場合最適、となったら躊躇わず危険を飲み込んで危ないところに突っ込んでいく事も珍しくないので、ティモナを筆頭とするカーマイン個人を敬う人達からすると色々とたまったもんじゃないんでしょうけれど。
決して感情に乏しいわけじゃなく、むしろ感情豊かなくらいで姫さんたちへの愛情や身近な人達への情愛も深いくらいだし、わりと根に持つ方で今回の皇王に関しても散々迷惑かけられた挙げ句に好き勝手している状況に恨みも募らせているのですけれど、そういう感情を飲み込んで割り切れるんですよね、この人。
そうしないと幼い頃から傀儡として軽い神輿として扱われ、都合が悪くなったらあっさり殺されてしまう立場から、ここまで生き残れなかった、というのも大きいのでしょうけれど。
そうした理不尽な軛から解き放たれて、皇帝としての実権を得た今でもそういう所変わってないんですよねえ。それどころか、実権を得たことでより公人として徹するようになったようにすら見える。
自分を皇帝として良く見せたい、というのも承認欲求や権力欲じゃなくて徹底した公理であり、効率の問題として処理していて、だから皇帝である自分が危険を犯すことが最も効果的なら、それを厭わないという自分をも駒として考えている部分が非常に強くある。
生き残ることを最優先に欲しながら、皇帝としての権威権力をその道具には全然してないんですよね。そのあたり、私人と公人を完全に区分けしてるんじゃなかろうか。
それでも、自分が帝位を退いた場合でも帝国が混乱せず安定した治世を築けるようにしたい、と後継のことまで考えるほど責任感が強いとは思っていなかったので、シャルル・アキカールとの懇談で打ち明けた彼の本心はかなり意外でした。いや、自分が皇帝の座から追われるほどの自体になっても死ぬつもりはさらさらなく、身近な人達連れてとっとと遠くまで逃げ出す気満々なあたりは私人としての自分を捨ててはいないんでしょうけれど。そこで、単に帝国放りだしてあとは知らん、と逃げ出すんじゃなくて、あとに残された人達が大丈夫なように体制を整えてから私人に戻ってトンズラするつもりなの、責任感が強いと言っていいんじゃないですか？
さすがに自分を犠牲にしても、身内を贄に捧げても帝国のために、じゃないあたりにカーマインの愛嬌みたいなものがあると思うんですよね。

にしても、ようやくカーマインの手足として信頼して動かせるハイスペックな軍司令官、政治官僚が揃ってきた感がある。今まではまだお互いに様子見、というか能力やちゃんと従ってくれるか、仕えるに値する信頼できる君主なのか、というのを伺いながらの関係という所もありましたけれど、シャルルにしてもゴティロワ族のゲーナディエッフェにしても、カーマイン個人に対して心服、信頼を寄せる形になりましたからね。今までの、ちゃんと言うことを聞いてくれるのか。というあやふやなところがだいぶなくなって、国内に関しては本当にカーマインの意思が行き届くようになってきた感があります。
でも、皇帝直属軍を任せようと思っていたほどの勇将を、あの皇王が台無しにしちゃったんだよなあ。おかげでカーマインがまた軍を直率しないといけなくなったし。
あの皇王、愚人であることは間違いないんだろうけれど、その考えなしの無礼な行動で帝国の少ない有能な軍司令官へのカーマインの信用を失わせて、実質無力化してしまったのって何気にかなりの戦果じゃないですかね。
皇王と前皇太子を政治的にしゃぶり尽くすつもりのカーマインですけれど、実費以外にも結構地味に痛い損害食らってるんじゃないだろうかｗ

とまあ、想定外の展開の連続にも着々と手を打って、情勢を整え体制を立て直していくカーマイン。諸外国からみると、これ帝国小揺るぎもせずにますます隆盛を極めているように見えるんだろうなあ。
その諸外国も、それぞれ内部に混乱を抱えつつも、どの国にも有為有能の人物はいるようで、むしろその混乱を利用し、あるいは導いて国の将来を掌握していったりしているので、どっちもこっちも侮れないんですよね。でも、そういった国々も場合によっては皇国に対する同盟国になる可能性もあるわけで。国際情勢も温まってきて、あとは皇国に送り込まれることになったシャルルの活躍次第ですか。あとは皇国包囲網が実際に結べるか、という話になってくるのかな。
いや、その前に面従腹背のあの人物がついに動き出すか。意外。てっきり、こういう如何にも裏切りそうな人って最後まで裏切らないケースが珍しくないだけに、この人も何だかんだと従うほうが利があるといつの間にか重鎮の中に入ってくると思ったのだけれど。でも、カーマイン怪しいやつは信じないからなあ。