【聖女様になりたいのに攻撃魔法しか使えないんですけど!? １】 　青季ふゆ／ボダックス GCノベルズ

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消えてなくなれ私の黒歴史！

──聖女になりたい。
ユフィ・アビシャスが心の底からそう思った理由はただ一つ。

『ユフィちゃん、いつも一人だね』
忌々しきこの言葉を人生から撲滅するためだ。

幸いなことに、平民にもかかわらず並み外れた魔力を授かったユフィは、聖女となって皆にチヤホヤされたいという下心を胸に、そして陰キャライフを脱却すべく魔法学園に入学する。
しかしユフィには秘密があった。
ユフィが使える魔法は、なぜか男性しか使うことのできない攻撃魔法。
それゆえか、本来女性が使う回復魔法はからっきしで、初日から劣等生として孤立してしまう。
そんなちょっとコミュ障な少女が、友達を一人作るという高い目標に挫けながら、そして陰キャ特有の奇行を繰り返しながらも、聖女を目指して邁進する物語である。

これはファンタジー界のぼっちちゃんだ！！
いやマジでこのユフィのぼっちちゃん解像度が凄まじく高い。
陰キャと呼ばれる属性の中でも特にコミュ力が低く、人前に立つと緊張でどもるか謎言語で喋りだし、或いは自分に注目が集まりかけると事前に察知して逃亡を図り、ついつい卑屈な姿勢でごめんなさいから入り、常に引き攣った愛想笑いを浮かべ、浮かれるとかなり気色の悪い「うへへへ」系統の女性にあるまじき笑い声を一人で立てている。
トドメにイマジナリーフレンドが一番の親友。拾った飼い猫に「シンユー」と名付けて可愛がっている、或いはお猫様の方に可愛がられている。
というのがこの主人公、ユフィの第一印象ですね。
さらに言うと、これだけ対人コミュニケーション能力に難があるにも関わらず、人嫌いとか人間が怖い、とかではなく……いや、怖がってるのは怖がってるのでしょうけれど、それで人と関わるのを忌避しているわけじゃなくて、むしろ色んな人と仲良くなりたい、友達たくさんつくりたい、と願っている娘でもあるわけですよ。
そもそも聖女になりたい、という彼女の願いも崇高な使命感とか正義感とか慈愛の心とかではなく、聖女になったらみんなから褒めてもらえる、称賛してもらえる、ちやほやしてくれる。みんなから必要とされる。そういう願望から来てるんですよね。
【ぼっち・ざ・ろっく！】のぼっちちゃんほど承認欲求モンスターではないと思うんですけれど、モンスターではないだけでかなりそっちへの欲求が高いのも確か。でも、自己評価の低さと卑屈さが、自分なんかが、という気持ちで相殺してる感じですなあ。
だから、一番彼女のシンプルな願いを抽出するならば……友達が欲しい。なのでしょう。
イマジナリーフレンドの名前をシンユーにしてしまう程度には。
そして、そんな願い、願望を燃料として焚べて、無限の勢いで頑張れてしまう、没頭してしまえる、時間という時間を注ぎ込んでしまえるのが、このユフィだったのです。
なんでか、聖女になろうとして本来女である彼女が使えるはずがないのに使えてしまった攻撃魔法の強化に努めてしまうあたりが、方向性間違ってたのでしょうけれど。
いや、友達作ろうとして自分の性格を変えようとするのではなく、聖女になろう！　という時点で方向性が明後日なんでしょうけどね！
適性が殆どなさそうで微量な回復量しかないとはいえ、めちゃくちゃ頑張って回復魔法も確かに使えるようになっているあたり、この娘の努力する力というのはとんでもないもののはず。

とはいえ、女にも関わらず攻撃魔法が使えてしまうという規格外さ加減を、肝心のユフィ自身も無知故に全然知らないまま、ほんのちびっととは言え回復魔法使えるから、ということで聖女養成のための魔法学校に入学叶ったユフィでしたが、使えるだけでも埒外の攻撃魔法……多分、威力規模とも人類最強レベルだったのです。

まあ攻撃魔法が使える、という意外ポンコツの極みであるユフィが、その事実を器用に隠すことなど出来るはずもなく……ってか、自分のやってることの意味をわかってないからそもそも隠すつもりもなかったみたいですけれど。
そのまま放置していると、速攻で異常個体として捉えられて解剖されて研究素材ルートでしたね、ごきげんよう。となるところだったのでしょうけれど、たまたま学園近辺にいるはずもない強力な魔物に襲われた生徒会所属の第三王子ライルを助けたことをきっかけに、この危険物を生徒会で隠匿保護してもらえることになったのでした。よかったね。
いやマジで良かったね、なんですよね。さすがに解剖されたかはわかりませんけれど、どうもユフィがというか女が攻撃魔法を使えるというのは、宗教の教義的にもアンタッチャブルだったみたいで、政治的にも宗教的にも変な刺激を与えてしまい兼ねない。
そして、生徒会のメンバーがまたライル筆頭にいい人ばっかりだったものだから、ユフィちゃん相変わらずの挙動不審を通り越した陰キャムーヴをしているにも関わらず、かなり温かく可愛がって保護されることに。いやまじで保護だな、これ。
ただ、生徒会の人たちみんなユフィが攻撃魔法を使えるから、強いから、希少な存在だから大切に扱ってくれている、というわけじゃなく、本当に心底から親身になってユフィを心配し、彼女の口から泡吹いてそうな態度にも変な顔をせず、気持ち悪がらず友達として接してくれるわけですよ。
偉い人は心にも余裕があるんでしょうなあ。
最初から聖母さまみたいにユフィを受け入れてくれて、可愛がってくれていたエリーナ先輩とか、絶対裏でなんか腹黒いこと考えてるキャラだぜ、きっと……とか思ってたらまったく本気でただユフィのこと可愛がってくれていた、ちょっと可愛いもの好きでネーミングセンスが狂ってるだけのほんわかお姉さんだった。穿ってしまって反省。
生徒会の人たちだけじゃなく、最初の実習などでユフィが全然役に立たずにお荷物になってたときも、一緒に組んでたチームの人達、速攻で戦力外扱いでアテにしない方針に舵は切ってたみたいけれどそれで仲間はずれにしたりとか邪険にしたりとかはせず、ちゃんとパーティーの一員として接してくれていたので、あれはあれで凄く親切な対応してくれてたんですよね。
隣室の、ユフィが生徒会メンバーに加入された際に因縁つけてきたミリアも、わりとすぐにユフィにほだされて何くれとなく親切にしてくれるようになったり、と……いやあ、この学校、というか貴族の人たち大体イイ人じゃない？　優しい世界？

わりとユフィが下手な扱いをすると世界滅ぼしてしまい兼ねない規模の魔法を、気軽にポンポン扱えてしまう怪物なので、良い人達に保護してもらえてよかったなあ、と。いや、別に酷い扱い受けたからと行ってキレて大暴れして悪堕ちするタイプではないので、下手にイジメて魔王爆誕、みたいな事にはならなかったでしょうけれど。
むしろ、ようやく出来た友達が傷つけられたときのほうが反応怖いんだよなあ、ユフィさん。普段あれだけオロオロと狼狽して緊張してビビってヘタレて右往左往してるばかりなのに、いざ攻撃魔法使って魔物を倒すとなると、そのへんの庭の雑草を黙々と引き抜く仕事に従事してるみたいな、淡々とした感情の抜けたような、いっそ無になったかのような様子になって、処理してってますからね。
冷徹になるとか無機質な非人間的になる、というよりも、ほんとにどうでもいい雑務をやってるときの無感情、みたいな感じなので、ここに下手に負の感情とか怒りが乗ってしまうとどうなってしまうのかについては、まあエライことになりますねえ、はい。
普段怒らない人を怒らせると、とんでもない事になるパターンです。

ともあれ、ユフィがこれだけ周囲の反応にビクビクしてしまっているのは、自分に自信がないから、というのが大きいのでしょうけれど。それって攻撃魔法が役に立ったとか、そういう承認欲求で回復できる自信とはちょっと種類が違うんでしょうね。
だから、この娘が最後にちょっとだけ勇気を出して自分のコミュ障を乗り越えようと自分で一歩を踏み出すことができたのは、新しく出来た友達たちの役に立つユフィに、ではない、ただそのままのユフィを肯定してくれた温かさこそが、彼女が自分を認めることが出来た、自信をほんのちょっぴり持てるようになったきっかけだったのでしょう。
やっぱり優しい世界です……だが敵は死ぬｗ

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