【魔王と勇者の戦いの裏で ５ ~ゲーム世界に転生したけど友人の勇者が魔王討伐に旅立ったあとの国内お留守番(内政と防衛戦)が俺のお仕事です~】 　涼樹悠樹／山椒魚 オーバーラップ文庫

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勇者（とも）と交わる戦場――「計略」を巡らし魔将に立ち向かう。

転生したゲーム世界で生き残るため、前世の知識を総動員するヴェルナーだが、過去の功績から、王より子爵の称号とアンハイム地方の代官の勅命を受ける。
着任早々、アンハイムの荒れた町政を整えるため奔走するヴェルナー。
さらに周辺に蔓延る山賊たちの討伐と、落ち着く暇がないようで……？
そんな中、魔将ゲザリウス率いる魔軍がアンハイムへと侵攻。
知略を尽くし防衛戦に挑むヴェルナーだったが、魔将の圧倒的な力で絶体絶命の危機に……！
しかしそんなヴェルナーの眼前に、世界を救う力を持つ、親友が現れる――!!
伝説の裏側で奮闘するモブキャラによる本格戦記ファンタジー、第五幕。


前巻でヴェルナーがアンハイムの代官に任命された経緯と目的については詳しく語られていたけれど、改めてなんだったっけ？と確認。
最大のそれは予想されている魔将ゲザリウスの襲撃を食い止めること。
ただしこれは情報管制などもあって密命に等しいものになってて、表向きは急な叙爵と昇進に周囲から茶々が入ったためにほとぼりを冷ますために、一次的に左遷された、みたいな塩梅になってるんでしたっけか。
でも皇太子殿下たちの思惑からして、これを機にヴェルナーの領地運営の手腕なんかも実地で確認したいという目的もあったんだろうなあ。
とはいえ、今回の件は成功しようと失敗しようと短期で代官職は解かれて王都に戻される予定になっていたので、普通の内政モノみたいに領地を任されたからといって、じゃあじっくりとこの土地を発展させていこう、みたいな腰を据えた政策はとってらんないんですよねえ。
本来なら文字通り、ゲザリウス対策のためだけに準備を整えても良かったはずなんだけれど、単純に防衛戦の準備を整える……って言葉ヅラだけ見たら単純かもしれないけれど、実際にやるとなると様々なことをやらないと行けないわけだ。
そのやらないと行けない様々なことにかこつけて、ヴェルナーったらとりあえず出来る範囲のアンヘルムで起こっている問題もバッサバッサと切って捨てていくんだから、やり手というか何と言うか。
このあたりは、長期に渡って領地を治めるわけではないから後のことは後からくる新しい代官に任せられるので、とにかく片っ端から喫緊の問題片付けて風通しを良くした、とも言えるんですよね。
ヴェルナーというどちらかというと温厚な人となりの印象からすると苛烈と言っていいくらいの果断な処置を行ってましたし。魔族が支配下においた隣国から流れ込んできている盗賊団の討伐はもとより、地元の権力者と繋がりのある反社勢力まで駆け引き抜きで潰しちゃいましたからね。反社のボスの兄にあたる塩ギルドの長が賄賂持ってきて融通効かせてくれ、と頼みにきたのを蹴って……じゃなくて、その兄が駆けつけてくる前にバッサリやっちまいましたからね。あれは果断で驚いた。
ヴェルナーがあそこまで問答無用に処理するとは思わなかっただけに、このへんもう学生らしいモラトリアムとか欠片も残ってませんよねえ、この青年。
周辺地域の治安状況を劇的に改善させ、その実績に加えて街の中にいた盗賊団と繋がりを持つ有力者の身内とその組織を電撃的に潰すことで地元の有力者を黙らせて市民のとりあえずの支持を確保し、ゲザリウスの襲来を前に思う通りに軍を動かせるよう掃除を終わらせるこの手腕ですよ。
それも、前からの自分の家の家臣たちだけじゃなく、上から派遣されてきた文官・武官、それにゲッケさんらヴェルナーが雇った傭兵団ら、いわば他所の人材というべき人達を手足として使っての業績であります。
……これでまだ評価がまあ合格、くらいなのちょっと上の人達厳しすぎないですか！？　全体の平均じゃなくて、上澄みの超有能の人達と比べて評価してませんか！？
ヴェルナーに対しての期待値、えらいことになってないだろうか。
ヴェルナーってばアンヘルムの代官業と並行して、王都での自分の評判を自分から変な噂流して下げることで、不穏な動きをしている貴族勢力のあぶり出しまで同時進行でやってるんですよ？　自分で自分の評価を下げる、なんていう普通の貴族の価値観ではあり得ない行動をしているから、そのへん全く気づかれていないですし。
最悪窓際に追いやられても別にかまへんで、という貴族にあるまじき姿勢ゆえの思い切りでしょうけれど、皇太子殿下たちがそんな閑職に回すはずないじゃないですか。こんな使い減りしないのにどこで何をやらせても８０点以上の高得点の仕事やってのける器用万能な人材を。
おまけに、ヴェルナーってば勇者マゼルが叙爵されて貴族家になった際の貴族側の後ろ盾にして王家や他の貴族家との鎹としても極めて重要な役割を期待されている以上、干されるとか考え難いんですよねえ。
だからこそ、マゼルの妹のリリィのヴェルナーへの輿入れが、ヴェルナーの父親の意思だけじゃなくて皇太子殿下たちの意向も反映した上意になりそうな勢いなんですし。
リリィがいずれ国政の中枢に入るだろうヴェルナーの奥として相応しい能力や人品、見識があるかどうか、の試験まがいの面通しが着々とあちらこちらで行われているの、色んな意味でドキドキです。
ヴェルナー、まったく関知していなくて知らんもんなあ、この状況。
幸いにして、リリィは合格どころか優秀のはんこを押してもらっているみたいですけれど。
でも、まだ今はライラ王女の最有力婚約者候補、という囮というか釣り餌みたいな立ち位置をやってるものだから、いずれにしてもしばらくは秘密なんでしょうが。

そして、ついに本番の魔将ゲザリウス襲来。王都からの援軍、周辺に配置された武門貴族の代官たちの軍勢の来援を最適のタイミングで迎え入れるために、徹底した時間稼ぎに奔走するヴェルナー。
ただ砦や街の城壁に籠もって籠城戦、じゃなくてこれ準備していた砦や野戦陣地を利用しつつの誘引戦じゃないですか。敵軍を思う通りに引っ張り回さないといけないから、かなり難易度高そうだけれど……ヴェルナー、思いの外煽りスキルが高すぎてゲザリウス怒髪天を衝いてるじゃないですか〜。
いや、あれは怒るて。
あまりに怒らせすぎて、作戦的には芸術的といっていいくらいパーフェクトに戦線を推移できたにも関わらず、最後の最後にゲザリウスが死んでもお前ぶっ殺す！の狂乱状態に陥って損害も後先も魔族側の事情も完全に無視して、ヴェルナー絶殺状態になったゲザリウスに狙われて絶体絶命、のところに我らがヒーロー登場。
なにげにマゼルとの戦場での共闘は初めてになるのか。
ゲームなんかだと、NPCかゲストキャラとしてヴェルナーを加えたゲザリウス戦、てな感じになるんでしょうね。
これゲームの主人公側視点だと、魔将に追い詰められて今にも殺されそうだった親友のもとに、主人公たちが間一髪駆けつけての章ボス戦という流れになるんでしょうね。
RPGだと、なんかこういきなり戦争状態になっている中でゲザリウスとゲストキャラのヴェルナーが戦ってるシーンを目の当たりにすることになって、唐突感すらあるんだろうけれど。
そのゲザリウスをこの状態でこの場所に誘引して打ち取る態勢を整えるまでに、ヴェルナーを上層部が派遣し、その意図に応えてヴェルナーがどれだけあれこれと準備して苦労してきたかを、読者としてはヴェルナー側でずっと見てきただけに、いやほんとここまでこぎつけるのほんと大変だったんだぞー、と言いたくなっちゃいますよねえ。
幸いにして、そのヴェルナーの苦労や苦心をもしかするとヴェルナー以上に理解し認めてありがたく思い尊敬すらしているのがマゼルなのが、この二人の尊い親友関係の肝なんでしょうねえ。

しかし、あの【光線指示棒（レーザーポインター）】はこの時代としては圧巻の革新戦術なんじゃないだろうか。この発想はなかったけれど、想像してみたらほんとやべえ効果発揮しちゃいますよ、これ。



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