【不良聖女の巡礼 １ 追放された最強の少女は、世界を救う旅をする 】 Awaa／がわこ オーバーラップノベルス
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「私は神を信じていない」――この聖女、異端にして最強
最強“不良”聖女が世界を救うヒロイックファンタジー、開幕！
瘴気を払うことができる唯一の存在、聖女。
その候補として学園に通うキャロルは、周囲の期待に応えるため、厳しい修行に耐えていた。
しかし、聖女選定の儀式で発現したのは、触れたものを腐らせる恐ろしい『腐食の力』!?
聖女としてふさわしくないと学園から追放を言い渡されたキャロル。
悲しみに暮れ絶望するかと思いきや……？
「お望み通り出て行ってやるよ」
と学生服を脱ぎ捨てて……!?
実はこれまでの真面目な姿は演技だった！
こうして自由な旅に出たキャロルは、平穏な生活を望むも、行く先々で無意識に目立ってしまい、次第に噂が広まり始めて――？
一方で他の聖女達は、世界の平和を祈る巡礼を行っていた。
そんな中、キャロルはかつての友であり、水の聖女となったマリアベルが、危険な謀略を巡らせていることを察知する。
真相を確かめるため、急ぎ向かおうとするが……？
神を信じない最強“不良”聖女が世界を救う冒険譚、開幕！
これなー、追放された聖女が一人で世界を救うお話じゃなくて、予言では光の聖女は他の四人の聖女を引き連れて世界を救う、みたいな感じになってるんですよね。
つまり、主人公の不良聖女リトル・キャロルは追放した側である四人の聖女たちを従えなきゃならんわけだ。
ただ問答無用にぶっ倒すなんてわけにはいかない。仲間にならないといけないわけでしょ？ これは難易度高いよ。
かくいうリトル・キャロルでありますが、まあ不良の意味合いは後々変わってくるんですけれど、元は孤児の纏め役、そこからとある聖職者にスカウトされて、聖女候補として召し上げられたのですけれど、生まれも育ちもスラムであり子どもとは言え、子供だからこそ仲間たちを飢えさせないためにずいぶんと荒っぽい事もやってきたのでしょう。
ガラは良くない。
という本性を学校では見事に覆い隠していたらしい。品行方正で知られていたみたいですからね。
そういう猫を被る必要がなくなったのが今のリトル・キャロルであり、蓮っ葉な口調に斜に構えた態度、タバコがないと口さみしくて仕方がないので暇さえあればヤニを咥えて吹かしている。まあ見るからに立派な不良である。
ちなみに、リトル・キャロルという名前だけれど成長した今となってはそこらの女性よりもよほどタッパのあるガタイをしている。大きなリトル・キャロルである。
とはいえこの不良、態度こそガラ悪いんだけれど……行動がまるっきり聖女なんだよなあ。困ってる人に頼まれたら一直線で助けに行く。もちろん、無料奉仕だ。でもガラ悪いのよ。なにこのギャップ、萌えるんですがｗ
森の奥でひっそりと……ひっそりとかはわからないというかかなり自由に暴れてた気もするけれど、森の動物達に慕われて、出ていく時には動物たちに見送ってもらうとかどんなメルヘンな光景だよ、と思う綺麗なカリスマっぷりなんだが、同時にヤニが恋しくて街に降りてくるような輩でもある。
幼い子供に、村がゴブリンに襲われているから何とか助けてほしい、と無茶振りされても、まあこりゃ大変だが気にすんな、なんとかするさと子供からもらった飴にお花にを大事に持って、ゴブリンの大群が屯する巣に殴り込むような姐さんである。
……基本、やたらカッコいい姐さんなんだよなあ、この人。それでいて行動がまるっきり優しい慈愛の聖女なのである。なんかバグるぜ。
それでいて、この人感情が昂ると能力の派生かなんか知らないけれど、アタマにキノコ生えるんですよ。見た目が面白すぎるんですが。本人もけっこう恥ずかしいらしく、なるべく生えないように我慢しているのですが、生える時は生えるんだよなあ。そうやってアタマからポコポコと生えたキノコを若干照れながらモソモソと切り取る様子が、またなんかこう……くるものがある！
そんなキャロルが放浪する世界でありますが、決して安穏とした世界ではありません。それどころか、まさに世界は滅びへと向かいつつある、終末に片足を突っ込んだような世界。瘴気と呼ばれる魔物を生みだし人が生きていけないものがどんどんと広がっていき、村を、街を、国すらを飲み込みつつある、人間の生存圏そのものがどんどんと狭まっている世界である。
実際に故郷を失ったものも多く、キャロルもまた生まれ育った孤児院、そして仲間たちが居た街はもう瘴気に呑まれて存在していない。他にも故郷を追われた貴族の少女たちが当たり前のように存在し、惨めな日々を送り、また聖女となってこの崩れ行く世界に抗おうとしている娘たちも珍しくはない。
そんな世界でも、一致団結できずに己の欲望を振りかざし、保身に走り、自分の権益だけを守ろうとするような輩も珍しくはなく、世界を救うはずの聖女を担う教会ですら、権力争いによって混乱をきたしている。
キャロルの追放にも、その一端が絡んでいる。
未来に希望を感じられない、暗澹たる世界だ。
そんななかで希望となるのが、光の聖女と他の四人の聖女たちの覚醒、だったはずなのだけれど、光の聖女となるはずだったキャロルに与えられたのは、なぜか腐食の力。
あとに、それは腐食そのものが能力ではなく、カビや菌といったものを生み出す生命の力の派生であることがわかってくるのですけれど。
追放された身で、むしろ清々したとうそぶき、自由の身になったと痛んだ心を奮い立たせ、何者にも縛られない生き方を志すキャロルであったのですが、そうして自由に振る舞った結果がどう見ても聖女のそれなんですよね。
何者でもなくなった彼女の歩みのあとには救いがあり、そんな彼女に寄り添い心重ねるものも増えてくる。
そういう意味では、エリカという竜を殺す少女との話は思う所多いグッとくる話でもあったんですよね。
邪竜に呪われ、呪詛の根本である竜を自らの手で殺さなければ、成人とともに呪い殺されることが確定している少女エリカ。そんな彼女の死出の旅、一族すべてを殺された者の復讐に、キャロルは手助けすることになるんですけれど。
キャロルはエリカに稽古をつけ、竜と戦えるように準備を整えさせて、一緒に竜の巣まで赴くわけですけれど……実際の竜との戦いは本当に最初から最後までエリカがやるんですよ。キャロルは露払いまでで、死闘の舞台となる場所の外で待つことになり、その死闘を見守ることも出来なかった。
こういうパターンだと、トドメはエリカかもしれないけれど、師匠ポジでもある以上相手を痛めつけるくらいは手助けすることになることが多いんですけどね。本作では、本当にエリカ一人でやってのけた。
死闘でありました。邪竜を倒して呪いを消す、という想いよりも、死んでもこいつだけは殺してやる、という怒りの一念でありました。
このすさまじい戦いを、たった一人でやりのけた、というのはエリカという少女のキャラとしての存在感をとてつもなく押し上げてるんですよね。ここを一人でやり遂げなかったら、エリカってキャロルの添え物にしかなれなかったんじゃないだろうか。対等の存在として意見を言え、キャロルについていくという意思を押し通せる格を備えたように思います。
まあ、キャロルとっとと逃げちゃうのですけれど。
ここで一端、別れてキャロルとエリカ、それぞれ一端離れる形になってしまうのですけれど、このあとも竜を殺した娘というのは無視できない存在感をキャロルの居ない所で見せ続けることになるんですね。さながら、もうひとりの主人公でありました。
さて、最後にこの一巻、さらにもう一人の主人公がいるのです。
それこそ、元々キャロルのルームメイトで一番の友だちで……キャロル追放の時に一番手ひどく裏切った水の聖女マリアベル。
紛うこと無き悪女である。
信念を持って悪女たらんとする娘である。
……いや、違うんだよ、それこそ間違いなんですよ、マリアベル。悪女ってのは、悪徳ってのは、邪悪ってのは信念でやるもんじゃないんだ。
もっとこう、欲得ずくでさ、自分の好き勝手思う通りに下卑た欲望のままに振る舞うことが悪徳なんですよ。それは、その人にとって悦楽であり、つまり楽しいからやってるんです。
貴女は楽しかったですか、マリアベル？
調子に乗りやすくて、他人を利用しようといつも虎視眈々とギラギラしていて……と言った感じに、実はキャロルからその裏の顔というか本性を見抜かれていたマリアベル。でもキャロルは、そんなマリアベルの在り方をわかっていてなお、心から友達だと思ってたんですよね。そういうのも込みで、友達だと思ってた。あいつはあんなんだけど、良い子なんだよなあ、と思ってた。
マリアベルという少女がそもそもどういう人間だったのかは、彼女が聖女候補としてスカウトされるまでの塗炭の苦しみを味わう前半生をみることでわかってきます。
彼女の経験は、悪人である方が何もかも手に入れて、善人であろうとすることは何もかもを失ってしまうことだとという事実を突きつけられる人生だったと言えるでしょう。大好きで尊敬していた父親が、その誠実さと善良さ故に何一つ報われぬ不幸に、追いやられ、追いやられ、追いやられて苦しむばかりだった、という無惨を突きつけられる人生だったわけです。
彼女にとって、悪にならなければ幸せになれない、という強迫観念を植え付けられる魂の傷だったのでしょう。
だから彼女は信念を持って悪女たらんとした。真面目に、一生懸命に一途なほどに悪を志した。幸せになりたいと祈り願うようにして。
そうやって、彼女は立派な悪女となったのです。まさに悪女らしい振る舞いでありました。苦しんでいる人を見捨て、真面目に生きている貧民を見下し、自分に利益を与える権力者や金持ちを優遇し、妾の子である王子を自分の従僕のように扱って悦に浸る。親友だったキャロルを追い出して、自分の立場を貶めそうだった彼女を追い落として、嬉しがる。
一生懸命に、そうやって悪女をやったのです。悪女に成ったのです。
……全然、向いてないのに。
キャロルも、品行方正で誰からも憧れられる聖女候補筆頭、みたいな学校時代の立ち居振る舞い、向いてないのを無理に演技してた、と言ってたけれど、それでもそうやって出来た人間関係や学校生活、楽しいと思うこともあった、と述懐してるんですよね。それはそれで楽しいものでもあった、と。
マリアベルは、楽しいなんて思ったことあったのかしらね？
ついに自分の非道に耐えきれず、泣いて自分の写し身のような経歴の少女を庇って倒れた彼女の姿は、もうなんか胸が一杯になって色々と溢れてきそうになってしまいました。
しんどかったんだろうなあ。ずっと自分でも見えないところに、押し込んで押し込んで、押し込めきれなくなったんだろうなあ。それが、キャロルとの再会でどうしようもなくなってしまった。
罪を憎んで、人を憎まずじゃないですけれど、この娘を悪く思うのは難しいよ。
真面目で良い子なほど、極端に振れてしまうこともある。愚かでありましょう。でも、それ以上に……。
キャロルが最後まで一貫してマリアベルのことを、友達だと言い続けた気持ち、なんかもうグッと来ちゃいます。わかるるる〜。
リアン王子が、最後マリアベルに一人思わず放っておけずに付いていったのは、人の本質を見る目を持ったこの王子様が、無我夢中でついていってくれたのは、なんか救いですわ。
こんな風に、同じ聖女同士、和解というにはあまりにもこう、厳しいものがありますけれど、激しくも深い衝突の末に紡がれる絆が、他の聖女たちとの間でも見られるのだとしたら、先々かなりワクワクしてしまうものがあるんですよね。
他の聖女たちは、ある意味単純一直線だったマリアベルよりもさらに癖があり、くせ者であり、難しい人達っぽいですから、どんな風に噛み合い反発するのか。楽しみであります。
つまり、主人公の不良聖女リトル・キャロルは追放した側である四人の聖女たちを従えなきゃならんわけだ。
ただ問答無用にぶっ倒すなんてわけにはいかない。仲間にならないといけないわけでしょ？ これは難易度高いよ。
かくいうリトル・キャロルでありますが、まあ不良の意味合いは後々変わってくるんですけれど、元は孤児の纏め役、そこからとある聖職者にスカウトされて、聖女候補として召し上げられたのですけれど、生まれも育ちもスラムであり子どもとは言え、子供だからこそ仲間たちを飢えさせないためにずいぶんと荒っぽい事もやってきたのでしょう。
ガラは良くない。
という本性を学校では見事に覆い隠していたらしい。品行方正で知られていたみたいですからね。
そういう猫を被る必要がなくなったのが今のリトル・キャロルであり、蓮っ葉な口調に斜に構えた態度、タバコがないと口さみしくて仕方がないので暇さえあればヤニを咥えて吹かしている。まあ見るからに立派な不良である。
ちなみに、リトル・キャロルという名前だけれど成長した今となってはそこらの女性よりもよほどタッパのあるガタイをしている。大きなリトル・キャロルである。
とはいえこの不良、態度こそガラ悪いんだけれど……行動がまるっきり聖女なんだよなあ。困ってる人に頼まれたら一直線で助けに行く。もちろん、無料奉仕だ。でもガラ悪いのよ。なにこのギャップ、萌えるんですがｗ
森の奥でひっそりと……ひっそりとかはわからないというかかなり自由に暴れてた気もするけれど、森の動物達に慕われて、出ていく時には動物たちに見送ってもらうとかどんなメルヘンな光景だよ、と思う綺麗なカリスマっぷりなんだが、同時にヤニが恋しくて街に降りてくるような輩でもある。
幼い子供に、村がゴブリンに襲われているから何とか助けてほしい、と無茶振りされても、まあこりゃ大変だが気にすんな、なんとかするさと子供からもらった飴にお花にを大事に持って、ゴブリンの大群が屯する巣に殴り込むような姐さんである。
……基本、やたらカッコいい姐さんなんだよなあ、この人。それでいて行動がまるっきり優しい慈愛の聖女なのである。なんかバグるぜ。
それでいて、この人感情が昂ると能力の派生かなんか知らないけれど、アタマにキノコ生えるんですよ。見た目が面白すぎるんですが。本人もけっこう恥ずかしいらしく、なるべく生えないように我慢しているのですが、生える時は生えるんだよなあ。そうやってアタマからポコポコと生えたキノコを若干照れながらモソモソと切り取る様子が、またなんかこう……くるものがある！
そんなキャロルが放浪する世界でありますが、決して安穏とした世界ではありません。それどころか、まさに世界は滅びへと向かいつつある、終末に片足を突っ込んだような世界。瘴気と呼ばれる魔物を生みだし人が生きていけないものがどんどんと広がっていき、村を、街を、国すらを飲み込みつつある、人間の生存圏そのものがどんどんと狭まっている世界である。
実際に故郷を失ったものも多く、キャロルもまた生まれ育った孤児院、そして仲間たちが居た街はもう瘴気に呑まれて存在していない。他にも故郷を追われた貴族の少女たちが当たり前のように存在し、惨めな日々を送り、また聖女となってこの崩れ行く世界に抗おうとしている娘たちも珍しくはない。
そんな世界でも、一致団結できずに己の欲望を振りかざし、保身に走り、自分の権益だけを守ろうとするような輩も珍しくはなく、世界を救うはずの聖女を担う教会ですら、権力争いによって混乱をきたしている。
キャロルの追放にも、その一端が絡んでいる。
未来に希望を感じられない、暗澹たる世界だ。
そんななかで希望となるのが、光の聖女と他の四人の聖女たちの覚醒、だったはずなのだけれど、光の聖女となるはずだったキャロルに与えられたのは、なぜか腐食の力。
あとに、それは腐食そのものが能力ではなく、カビや菌といったものを生み出す生命の力の派生であることがわかってくるのですけれど。
追放された身で、むしろ清々したとうそぶき、自由の身になったと痛んだ心を奮い立たせ、何者にも縛られない生き方を志すキャロルであったのですが、そうして自由に振る舞った結果がどう見ても聖女のそれなんですよね。
何者でもなくなった彼女の歩みのあとには救いがあり、そんな彼女に寄り添い心重ねるものも増えてくる。
そういう意味では、エリカという竜を殺す少女との話は思う所多いグッとくる話でもあったんですよね。
邪竜に呪われ、呪詛の根本である竜を自らの手で殺さなければ、成人とともに呪い殺されることが確定している少女エリカ。そんな彼女の死出の旅、一族すべてを殺された者の復讐に、キャロルは手助けすることになるんですけれど。
キャロルはエリカに稽古をつけ、竜と戦えるように準備を整えさせて、一緒に竜の巣まで赴くわけですけれど……実際の竜との戦いは本当に最初から最後までエリカがやるんですよ。キャロルは露払いまでで、死闘の舞台となる場所の外で待つことになり、その死闘を見守ることも出来なかった。
こういうパターンだと、トドメはエリカかもしれないけれど、師匠ポジでもある以上相手を痛めつけるくらいは手助けすることになることが多いんですけどね。本作では、本当にエリカ一人でやってのけた。
死闘でありました。邪竜を倒して呪いを消す、という想いよりも、死んでもこいつだけは殺してやる、という怒りの一念でありました。
このすさまじい戦いを、たった一人でやりのけた、というのはエリカという少女のキャラとしての存在感をとてつもなく押し上げてるんですよね。ここを一人でやり遂げなかったら、エリカってキャロルの添え物にしかなれなかったんじゃないだろうか。対等の存在として意見を言え、キャロルについていくという意思を押し通せる格を備えたように思います。
まあ、キャロルとっとと逃げちゃうのですけれど。
ここで一端、別れてキャロルとエリカ、それぞれ一端離れる形になってしまうのですけれど、このあとも竜を殺した娘というのは無視できない存在感をキャロルの居ない所で見せ続けることになるんですね。さながら、もうひとりの主人公でありました。
さて、最後にこの一巻、さらにもう一人の主人公がいるのです。
それこそ、元々キャロルのルームメイトで一番の友だちで……キャロル追放の時に一番手ひどく裏切った水の聖女マリアベル。
紛うこと無き悪女である。
信念を持って悪女たらんとする娘である。
……いや、違うんだよ、それこそ間違いなんですよ、マリアベル。悪女ってのは、悪徳ってのは、邪悪ってのは信念でやるもんじゃないんだ。
もっとこう、欲得ずくでさ、自分の好き勝手思う通りに下卑た欲望のままに振る舞うことが悪徳なんですよ。それは、その人にとって悦楽であり、つまり楽しいからやってるんです。
貴女は楽しかったですか、マリアベル？
調子に乗りやすくて、他人を利用しようといつも虎視眈々とギラギラしていて……と言った感じに、実はキャロルからその裏の顔というか本性を見抜かれていたマリアベル。でもキャロルは、そんなマリアベルの在り方をわかっていてなお、心から友達だと思ってたんですよね。そういうのも込みで、友達だと思ってた。あいつはあんなんだけど、良い子なんだよなあ、と思ってた。
マリアベルという少女がそもそもどういう人間だったのかは、彼女が聖女候補としてスカウトされるまでの塗炭の苦しみを味わう前半生をみることでわかってきます。
彼女の経験は、悪人である方が何もかも手に入れて、善人であろうとすることは何もかもを失ってしまうことだとという事実を突きつけられる人生だったと言えるでしょう。大好きで尊敬していた父親が、その誠実さと善良さ故に何一つ報われぬ不幸に、追いやられ、追いやられ、追いやられて苦しむばかりだった、という無惨を突きつけられる人生だったわけです。
彼女にとって、悪にならなければ幸せになれない、という強迫観念を植え付けられる魂の傷だったのでしょう。
だから彼女は信念を持って悪女たらんとした。真面目に、一生懸命に一途なほどに悪を志した。幸せになりたいと祈り願うようにして。
そうやって、彼女は立派な悪女となったのです。まさに悪女らしい振る舞いでありました。苦しんでいる人を見捨て、真面目に生きている貧民を見下し、自分に利益を与える権力者や金持ちを優遇し、妾の子である王子を自分の従僕のように扱って悦に浸る。親友だったキャロルを追い出して、自分の立場を貶めそうだった彼女を追い落として、嬉しがる。
一生懸命に、そうやって悪女をやったのです。悪女に成ったのです。
……全然、向いてないのに。
キャロルも、品行方正で誰からも憧れられる聖女候補筆頭、みたいな学校時代の立ち居振る舞い、向いてないのを無理に演技してた、と言ってたけれど、それでもそうやって出来た人間関係や学校生活、楽しいと思うこともあった、と述懐してるんですよね。それはそれで楽しいものでもあった、と。
マリアベルは、楽しいなんて思ったことあったのかしらね？
ついに自分の非道に耐えきれず、泣いて自分の写し身のような経歴の少女を庇って倒れた彼女の姿は、もうなんか胸が一杯になって色々と溢れてきそうになってしまいました。
しんどかったんだろうなあ。ずっと自分でも見えないところに、押し込んで押し込んで、押し込めきれなくなったんだろうなあ。それが、キャロルとの再会でどうしようもなくなってしまった。
罪を憎んで、人を憎まずじゃないですけれど、この娘を悪く思うのは難しいよ。
真面目で良い子なほど、極端に振れてしまうこともある。愚かでありましょう。でも、それ以上に……。
キャロルが最後まで一貫してマリアベルのことを、友達だと言い続けた気持ち、なんかもうグッと来ちゃいます。わかるるる〜。
リアン王子が、最後マリアベルに一人思わず放っておけずに付いていったのは、人の本質を見る目を持ったこの王子様が、無我夢中でついていってくれたのは、なんか救いですわ。
こんな風に、同じ聖女同士、和解というにはあまりにもこう、厳しいものがありますけれど、激しくも深い衝突の末に紡がれる絆が、他の聖女たちとの間でも見られるのだとしたら、先々かなりワクワクしてしまうものがあるんですよね。
他の聖女たちは、ある意味単純一直線だったマリアベルよりもさらに癖があり、くせ者であり、難しい人達っぽいですから、どんな風に噛み合い反発するのか。楽しみであります。
