【異世界刀匠の魔剣製作ぐらし】 荻原 数馬／カリマリカ カドカワBOOKS
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城壁の外で気ままに暮らすモグリの鍛冶師――しかし生み出す剣は超一流!?
凄腕だがモグリの鍛冶師ルッツは、渾身の一振りを人助けのために手放してしまう。
……うっかり銘を刻み忘れたまま。
野心の薄いルッツは気づかない。自身が勇者さえ心を乱す名刀を作っていたことにも。伯爵家専属の付呪術師ゲルハルトが無銘の名刀の作者探しに乗り出したことにも。
何とかルッツを探し出したゲルハルトは、伯爵の佩刀の製作を早速依頼。
その刀はさらなる波紋を呼び――!?
魔剣を数多生み出した名匠が世に出る瞬間を描く鍛冶ファンタジー!
これは面白かったなあ。派手なドンパチや戦争、戦闘シーンは無いし、そもそも刀が主題の話なんだけれど、その刀を使っての斬った張ったは起こらないんですよ。いや、起こらないことはないのですけれど、刀の強さがテーマとはまた違うのだこれ。
これはあくまで、刀にまつわる、刀に関わることになった職人たちと、彼らが打って完成させた刀たちに魅入られた持ち主の人間模様を描いた、ドラマであり群像劇なんだよなあ。
そも、主人公である刀匠ルッツは、もはや妖刀とも言うべき人心を惑わすほどの魔性の刀を打ったほどの凄腕の刀鍛冶なんですけれど。
普通、それほどの達人、匠となったらどこか超常的な精神性を持ったどこか人間性の薄い刀を打つ機械めいた狂気的な人物、或いは刀を打つことに魅入られてそれ以外の人生をなげうってしまったような怪物的な人物。もしくは、解脱したようなヒトの営みに対して達観した仙人のようなヒト。
いずれにしても、どこか普通の人間から逸脱しているメンタルを持ってるってイメージしちゃうじゃないですか。神の匠の域に達したような人物は、技術者にしても職人にしてもアーティストにしても。
でも、ルッツって普通のそのへんの兄ちゃんなんですよね。
そりゃ、鍛冶師としてのプライドも高いし、自分の作品に対しての自負もある。頑固でちょいと勢い任せな所もある。でも、街に住めないよそ者の職人として売れない刀を抱えてため息を付き、さみしい懐具合に空きっ腹を抱えてイイもの食いたいなあと指を咥え、いそいそと日用品の修理や研ぎで日銭を稼ぎ、惚れた女のために奔走して結ばれるやぞんぶんにイチャイチャして。
喜怒哀楽、色んな感情を当たり前の若造らしく持て余し、振り回し、でも上手にコントロールしてうまくやってる、まあ俗っぽいでも職人らしい拘りのあるそのへんの兄ちゃん、って感じなのよ。
でも、そんな彼が打つ刀や武器は、手にしたものが一瞬正気を失ってしまうほど、一度見たものがそれを自分のものにしたくて欲望を制御できなくなるほどの、魔性を有しているんですよね。
馴染の女商人クライディアが不良衛兵たちによって不当に逮捕され、彼女を助けるために保証金の代わりと放りだした、彼の稀代の傑作にしてヒトを魅入らせる妖刀が世に出てしまったために始まってしまう悲喜こもごもの人間ドラマ。
そのすさまじい出来栄えは、街の上層部の人達にも知れ渡り、ルッツはこの件をきっかけに街の上層部の人達とのツテと、そのツテをうまいこと食い扶持に繋げてくれるやり手の嫁さんを手に入れることになるわけだ。
お互い憎からず思っていたものの、自分たちが生きるのに精一杯というのもあってきっかけがなかったルッツとクラウディアは、これをきっかけにトントン拍子で結ばれるんですよね。いや、ほんと速い速い。さすがは機を見るに敏な商人であります、クラウディア。誰が見てもやばい傑作、値段のつけられない名刀を、知り合いでしか無い女商人のために投げ捨てて、でもそれと引き換えに何も求めずまあ気にすんなとむしろ気を使ってくれるルッツの男気に、まあ惚れますわなあ。
クラウディアも女の身で商人やってるだけあって、気っ風の良い姉さん気質のしっかりものの強か者なんですが、今回はさすがにルッツが助けてくれなかったらそのまま娼館送りってな人生の終焉でしたからね。
元々職人らしく商売に関しては下手くそだったルッツに、最強の嫁さんがついたことで金策から営業、宣伝に企画、会計と、ルッツの刀を売り広める算段をとんとんと立ててくれた上に、騎士・貴族からの依頼が舞い込んだときもうまいこと交渉してくれて、夫婦であり最強のコンビという感じになっていくんですね。この二人、見てるだけで楽しいんですよ。
さらに、この物語のもうひとりの主人公というべき、領主の伯爵家付きの付与魔術師の爺さんがルッツの刀に惚れ込み、色々合ってルッツとよしみを通じることになるのです。
このヒトもまた癖のあるくせ者で、ルッツの刀に魅せられてズブズブに溺れちゃうのですけれど、さすが年の功というべきか、自分の欲望を……わりと抑え込まずに好き勝手させつつ、それに振り回されずにうまいことコントロールしてるんですよねえ。我慢しないけれど、欲望に負けず自分が主体で、むしろ周りを振り回す、みたいな。諦める時はきっぱりと諦めますし、あれだけ執着しているのに、弟子には惜しげもなくルッツに打ってもらった武器をあげたり、と何気にこの人、師匠としてめちゃくちゃ出来た人なんだよなあ。自由人すぎるし変人なんだけど。
そんな爺さん、ゲルハルトは魔性の刀を打ったルッツに会いに行き、仕事や依頼などを通じて親しくなるうちに、なんか年の差はあるけれど職人同士意気投合して友人みたくなっていくんですね。
元は凄腕の冒険者だったというゲルハルトには、色んな過去とそれに繋がる人間関係があり、また現在の付与魔術師としても多方面に繋がりがあり、弟子との関係なんかも在る。ルッツはその後も幾本か依頼されて刀や、また自作で剣なんかを打ったりするんだけれど、その刀たちそれぞれに持ち主となった人の物語が生まれていくのです。
ルッツの刀に巡り合うことで、幾つかの人の運命が変わり始めるんですね。ルッツの刀って魔性なんだけれど、決して持ち主に害を与えるものではなくて、刀に魅入られることで刀に対して真剣に向き合い、そこからその向き合った刀を持つ自分自身をも顧みることになっていく人達が出てくるのである。
それは回り回って、ルッツ自身にも打ったらお終い、あとは関係ない、ではなく、波及や影響が及んでくるのがまた面白い。
やがて付呪術師としてゲルハルトも彼の刀作りに関わるようになり、拵えや鞘などの周辺部についてもルッツはそういう芸術的センスが一切ないので、これも刀に魅入られた装飾師のおっさんがいっちょかみするようになり、クラウディアも含めて四人の製作チームが誕生していく、ってな感じで、なんかこう職人たちの日常ドタバタコメディのような、人情物のオムニバスのような、刀によって複雑に絡み合い変化していく人間模様のドラマであり群像劇のような、なんか不思議で面白い作品に仕上がってるんですよねえ。
いやあ、なんか独特の読感覚でさっぱりしつつ味わい深いというか、しつこくないけど濃厚って感じの作風ですごい満足感でした。面白かった！
これはあくまで、刀にまつわる、刀に関わることになった職人たちと、彼らが打って完成させた刀たちに魅入られた持ち主の人間模様を描いた、ドラマであり群像劇なんだよなあ。
そも、主人公である刀匠ルッツは、もはや妖刀とも言うべき人心を惑わすほどの魔性の刀を打ったほどの凄腕の刀鍛冶なんですけれど。
普通、それほどの達人、匠となったらどこか超常的な精神性を持ったどこか人間性の薄い刀を打つ機械めいた狂気的な人物、或いは刀を打つことに魅入られてそれ以外の人生をなげうってしまったような怪物的な人物。もしくは、解脱したようなヒトの営みに対して達観した仙人のようなヒト。
いずれにしても、どこか普通の人間から逸脱しているメンタルを持ってるってイメージしちゃうじゃないですか。神の匠の域に達したような人物は、技術者にしても職人にしてもアーティストにしても。
でも、ルッツって普通のそのへんの兄ちゃんなんですよね。
そりゃ、鍛冶師としてのプライドも高いし、自分の作品に対しての自負もある。頑固でちょいと勢い任せな所もある。でも、街に住めないよそ者の職人として売れない刀を抱えてため息を付き、さみしい懐具合に空きっ腹を抱えてイイもの食いたいなあと指を咥え、いそいそと日用品の修理や研ぎで日銭を稼ぎ、惚れた女のために奔走して結ばれるやぞんぶんにイチャイチャして。
喜怒哀楽、色んな感情を当たり前の若造らしく持て余し、振り回し、でも上手にコントロールしてうまくやってる、まあ俗っぽいでも職人らしい拘りのあるそのへんの兄ちゃん、って感じなのよ。
でも、そんな彼が打つ刀や武器は、手にしたものが一瞬正気を失ってしまうほど、一度見たものがそれを自分のものにしたくて欲望を制御できなくなるほどの、魔性を有しているんですよね。
馴染の女商人クライディアが不良衛兵たちによって不当に逮捕され、彼女を助けるために保証金の代わりと放りだした、彼の稀代の傑作にしてヒトを魅入らせる妖刀が世に出てしまったために始まってしまう悲喜こもごもの人間ドラマ。
そのすさまじい出来栄えは、街の上層部の人達にも知れ渡り、ルッツはこの件をきっかけに街の上層部の人達とのツテと、そのツテをうまいこと食い扶持に繋げてくれるやり手の嫁さんを手に入れることになるわけだ。
お互い憎からず思っていたものの、自分たちが生きるのに精一杯というのもあってきっかけがなかったルッツとクラウディアは、これをきっかけにトントン拍子で結ばれるんですよね。いや、ほんと速い速い。さすがは機を見るに敏な商人であります、クラウディア。誰が見てもやばい傑作、値段のつけられない名刀を、知り合いでしか無い女商人のために投げ捨てて、でもそれと引き換えに何も求めずまあ気にすんなとむしろ気を使ってくれるルッツの男気に、まあ惚れますわなあ。
クラウディアも女の身で商人やってるだけあって、気っ風の良い姉さん気質のしっかりものの強か者なんですが、今回はさすがにルッツが助けてくれなかったらそのまま娼館送りってな人生の終焉でしたからね。
元々職人らしく商売に関しては下手くそだったルッツに、最強の嫁さんがついたことで金策から営業、宣伝に企画、会計と、ルッツの刀を売り広める算段をとんとんと立ててくれた上に、騎士・貴族からの依頼が舞い込んだときもうまいこと交渉してくれて、夫婦であり最強のコンビという感じになっていくんですね。この二人、見てるだけで楽しいんですよ。
さらに、この物語のもうひとりの主人公というべき、領主の伯爵家付きの付与魔術師の爺さんがルッツの刀に惚れ込み、色々合ってルッツとよしみを通じることになるのです。
このヒトもまた癖のあるくせ者で、ルッツの刀に魅せられてズブズブに溺れちゃうのですけれど、さすが年の功というべきか、自分の欲望を……わりと抑え込まずに好き勝手させつつ、それに振り回されずにうまいことコントロールしてるんですよねえ。我慢しないけれど、欲望に負けず自分が主体で、むしろ周りを振り回す、みたいな。諦める時はきっぱりと諦めますし、あれだけ執着しているのに、弟子には惜しげもなくルッツに打ってもらった武器をあげたり、と何気にこの人、師匠としてめちゃくちゃ出来た人なんだよなあ。自由人すぎるし変人なんだけど。
そんな爺さん、ゲルハルトは魔性の刀を打ったルッツに会いに行き、仕事や依頼などを通じて親しくなるうちに、なんか年の差はあるけれど職人同士意気投合して友人みたくなっていくんですね。
元は凄腕の冒険者だったというゲルハルトには、色んな過去とそれに繋がる人間関係があり、また現在の付与魔術師としても多方面に繋がりがあり、弟子との関係なんかも在る。ルッツはその後も幾本か依頼されて刀や、また自作で剣なんかを打ったりするんだけれど、その刀たちそれぞれに持ち主となった人の物語が生まれていくのです。
ルッツの刀に巡り合うことで、幾つかの人の運命が変わり始めるんですね。ルッツの刀って魔性なんだけれど、決して持ち主に害を与えるものではなくて、刀に魅入られることで刀に対して真剣に向き合い、そこからその向き合った刀を持つ自分自身をも顧みることになっていく人達が出てくるのである。
それは回り回って、ルッツ自身にも打ったらお終い、あとは関係ない、ではなく、波及や影響が及んでくるのがまた面白い。
やがて付呪術師としてゲルハルトも彼の刀作りに関わるようになり、拵えや鞘などの周辺部についてもルッツはそういう芸術的センスが一切ないので、これも刀に魅入られた装飾師のおっさんがいっちょかみするようになり、クラウディアも含めて四人の製作チームが誕生していく、ってな感じで、なんかこう職人たちの日常ドタバタコメディのような、人情物のオムニバスのような、刀によって複雑に絡み合い変化していく人間模様のドラマであり群像劇のような、なんか不思議で面白い作品に仕上がってるんですよねえ。
いやあ、なんか独特の読感覚でさっぱりしつつ味わい深いというか、しつこくないけど濃厚って感じの作風ですごい満足感でした。面白かった！
