【キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦 １１】 細音 啓／猫鍋蒼 富士見ファンタジア文庫
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それは決別の物語。映し出されるのは100年前の真実――。
『先に言っておくよ。これから映しだされる物語は、決別だ』
八大使徒・ルクレゼウスを退けた後、天帝ユンメルンゲンに帝都へと招かれたイスカ達。天帝の指示の下、シスベルは灯の星霊で過去を再現する。映し出されたのは若き日の師匠クロスウェル、ユンメルンゲン、そしてネビュリス姉妹で――
百年前。発展を続けていた『帝国』を舞台に紡がれるのは、『世界最悪の日』に至るまでの物語。平和だった世界の中で、なぜ始祖ネビュリスは生まれ、なぜ帝国は燃え落ちることになったのか。そして、全ての元凶たる星の中枢に眠るものとは。世界に潜む悪意と真実が、遂に明かされる――!
シスベルの能力によって映し出される１００年前の真実。始祖ネビュリスの誕生と星霊使いの誕生に纏わる悪意と、帝国と皇庁の対立の起源となる物語。
いやあ、改めてシスベルの能力って凄いですよね。誰かの記憶を読み取るとかじゃなくて、過去に起こった出来事をそのまま第三者視点で映し出せるわけですから。
当事者である天帝ユンメルンゲンですら知らなかった真実をも。
そりゃあ、女王暗殺未遂事件やら今回の一件などでも問答無用で真実を暴き出しちゃうんですから、その能力を使うように求められますし、それが不都合な勢力からは狙われますよね。
というわけで、１００年前遡った過去編でありました。辺境の田舎町から出てきたエヴとアリスローズのネビュリス姉妹とその義弟であるクロスウェル。帝都にある鉱山で働くために出てきた若き、いやまだ幼きと言った方がいいくらいの年齢の姉弟の物語。
これ、完全にクロスウェル師匠が主人公。普通の元気な若者で、戦士として鍛え上げられているため何だかんだと冷静沈着なイスカなんかと比べても一般人らしい青年なんですよね。
でも、クロスウェル師匠もネビュリスだったのか。この時点ではネヴュリスという家名に特に意味なんてなかった。そこに秘められた力も歴史も何もなく、彼ら姉弟たちは本当にただの一般人だったんですね。
それが、どうして片割れは始祖ネビュリスとなり、ネビュリス皇庁という星霊使いたちの国家を作り上げることになったのか。そしてクロスウェルは帝国に残り、天帝ユンメルンゲンの懐刀となって、やがてイスカたちを弟子として鍛え上げることになったのか。
そもそも、なんで星霊使いなんてものが生まれて、魔女として恐れられるようになったのか。
……だいたいぜんぶ八大使徒が悪いんやん！
悪気はなかったんだ案件ですらなく、一から十まで悪意しかなかったんですけど。本当の本当に何から何まで八大使徒が悪いんやんか！！
しかも明確にユンメルンゲン、メルンと１００年前の時点で対立している、というか地位簒奪する気満々だったし。なんなら謀殺まで図ってるし。
この１００年、ずっとメルンと八大使徒って権力闘争続けてたってことなのね。わりとわかりやすくあからさまにバチバチと内部抗争してたネビュリス皇庁に対して帝国の方はいまいち内部の対立構図が見えてこなかったんですけれど、これだけはっきりとメルンと八大使徒って対立していたのか。
これだけ権力大好きな連中なのに、八大使徒の間では主導権争いとかやってないんだろうか。
謎の星霊エネルギーの暴走というシナリオで皇帝と皇太子のユンメルンゲンを鉱山で働く人達ごと吹き飛ばす、という陰謀が星霊エネルギーを浴びてしまった人達が力に目覚めてしまう、という誰も想像しえなかった展開に繋がってしまったわけだけれど。
そこから星霊の力に目覚めた人達を異形の存在、魔女として差別視させ迫害するように露骨な情報操作で悪意を扇動し、事実を捻じ曲げていくやりかた、めちゃくちゃ陰険なんですよねえ。
ネビュリス皇庁の人達が帝国に迫害された、というのは紛れもない事実だったのか。
同時に星霊の力で見た目獣人になってしまったメルンを、表に立てないように封じ込める策でもあったのでしょう。
そして、人々を巻き込む悪意は帝国と星霊使いたちとの、そして始祖ともいうべき力を得てしまったエヴとメルンを助けるクロの決別へと繋がっていく。
クロスウェル師匠、元々戦いなんて知らない普通の労働者だったのに、そこから筆頭使徒聖となるまで強くなったのか。星霊使いとの決別で破壊された帝都を、表に出れなくなったメルンを助け、権力を奪おうと暗躍するだろう八大使徒たちの魔手に抗いながら。
めちゃめちゃ頑張ったんだな。
それだけ苦労してたら、根も暗くなるというか暗鬱そうな性格にもなるか。星霊エネルギーの暴走が起こるまで、お忍びで絡んでくるメルンと密通してたクロだけど……いや、密通ってイイ方はあれか。その頃はまだメルンが女の子ってクロは知らなかったんだろうし。これ、いつの段階で知ったんだろう。
わりとこの頃、メルンの方からちょっと気になる男の子に対しての女の子らしい機微が垣間見えてたんだけれど、クロがメルンの側に立って帝国に残ってからもそういう男女の流れはなさそうな感じ。メルン的にはどういう想い持ってるんでしょうねえ、これ。
エヴとアリスローズの姉妹は星霊使いとなってしまった人達を引き連れて、帝国を脱出して新たな国を立ち上げたわけですけれど、アリスローズが女王になってその子供三人がルゥ家、ゾア家、ヒュドラ家の三王家になったんですよね……誰が配偶者になったんだろう。クロじゃなさそうだし、気になる。気になるけど、これについてはなんか言及されなさそう。見た目、アリスリーゼとそっくり瓜二つらしいんで、やっぱり気にはなるんだけれど。
前巻で封印から解かれて暴走さながらに暴れまわる始祖ネビュリス。このときはもう理性のない怪物にしか見えなかったんだけれど、こうして事情を知ってしまうと彼女の帝国への深い恨みがわかるだけに、行動原理が見えると怪物視はできなくなるなあ。お姉ちゃんを遂行してるだけなのだ。
