【異世界刀匠の魔剣製作ぐらし ２】 荻原 数馬／カリマリカ カドカワBOOKS
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最高の職人たちが結集し生み出した刀『天照』。その異能が国を揺るがす!?
伯爵家に献上した『鬼哭刀』によって、鍛冶師・ルッツの存在は、王国貴族の間にも知れ渡ることとなった。
貴族たちは戦争中の連合国との停戦交渉に頭を抱えていた。
連合国は規格外の至宝『覇王の瞳』を和平の証に差し出すという。
それに見合う宝は我が国にない――なら作るしかない!
国の威信をかけた宝剣製作を請け負ったルッツは、一流の付呪術師、装飾師と協力し、魔剣『天照』を作り上げる。
だがその剣の異能は両国の命運を大きく揺るがすことに――!?
ルッツって職人なんだけれど、それ以上に完全にアーティストなんだよなあ、在り方が。
一巻の冒頭でルッツたちが創った刀に魅了された人々が原因で、クーデターが発生して国王が殺される、みたいなシーンがいきなりぶっこまれていました。
そういう魔性の刀、妖刀を作る職人たちの話なんだろうなあ、とまだ話の内容・展開を知らない冒頭でこのシーンを見せられたときはぼんやりとそう思ったものですし、ルッツやゲルハルトたち３職人の仕事っぷりを見たあとも、最終的に国を崩壊させるまでに彼らの打った刀は至るのか、と若干慄く……というかビビるような感覚を覚えたものです。
いやだって、作ったものがそこまでの代物になっちゃうと、ルッツたちも平穏無事じゃ済まないじゃないですか。なにしろ最初読んだ時点では、自分たちの国の中を無茶苦茶にしてしまうようなものを作っちゃったんだ、と思ったわけですし。
良かった。自分たちがいる国の話ではなかったんですね。
というわけで、自国の王のまだ幼い姫を和平の生贄に差し出すのを阻止するために、敵国の贈り物に匹敵する価値のある刀を打たなくてはならなくなったルッツ。
武器としてではなく贈呈品として、しかも政治目的。ということでイマイチモチベーションが上がらずインスピレーションも湧かないルッツ。
実のところ、今までだって打った刀どれもあんまり武器としては使用されてないんですよね。勇者リカルドに贈呈された「椿」が一番血を吸ってますけれど……あれ、斬るよりもその妖刀の魔性で自害させてるケースのほうが多い気がするので、それって刀としての武器使用とは使われ方ちょっと違う気がするしｗ
まあ実際に不憫な小さいお姫様と直接会うことで、俄然インスピレーションが湧いて凄いの打っちゃうんですけどね。周りからよってたかって、とにかく凄いの作れ！とプレッシャーかけられて、まあそういう周りの圧力はどうでもいいんだけれど、当人たちもうまいことテンション上がってしまったので、際限なく凄いの作っちゃったわけですよ。
あまりにも凄すぎて、刀を送られた敵国の王の威光、カリスマが爆上がりしてしまって、さあ大変てなもんである。
ただ、職人側からすると要求に答えただけなんですよね。政治的なバランスとかそこまで考える役向きではないのだ、職人ってのは。ゲルハルト師だけは微妙なんですけどね。職人になる前は一流の冒険者で、現在も職人としてだけじゃなく政治面での伯爵の相談役みたいになっているゲルハルト師はとかくあらゆる立場から物事を見る視点があって、そんなに出世欲とかもないから偏りなくフラットなんですよね、見方や立ち位置が。いくら伯爵の旧来からの家臣団から嫉妬の目で見られても、これ伯爵はゲルハルト師を近くから手放せませんよ。師も伯爵に対して好感と忠誠を抱いているんで、領主さまの良きように働きかけますし。
一方で彼に匹敵する賢人でありつつ、ルッツ個人の最大の味方で相棒で人生のパートナーなのがクラウディア。自分の利益じゃなく、ルッツと自分の利益について頭が回る……だけじゃなくて、身近な商売という観点だけじゃなくて、もっと大きな経済的見地や統治者側からの見方も考慮した上で、自分たちの立ち回り方を考えられるって、並の商人の器じゃないんだよなあ。この能力が自身とルッツの二人だけに向いているのは、凄まじく強い。
それでいて、きっちりルッツのモチベーション管理やインスピレーションを与える手伝いなんかも出来て、芸術家としてのルッツのマネージャー的な立ち回りと、職人としてのルッツの管理者としての立ち回りの両方を柔軟にこなしているのが、色んな場面で見て取れるので、ほんとこの人を助けて良かったなあ、と想うわけですよ。彼女を人生のパートナーとして受け止められたのは、ルッツにとっての人生最大の成功だったんでしょうね。
もし彼女を助けなかった場合のIFが誰にとっても悲惨な末路を辿っているのを、巻末の番外編で見せられたら、尚更そう想うわけです。
後半の、ルッツの刀鍛冶としての技術、剣ではなく刀の打ち方を伯爵領の鍛冶師たちに公開して、領地全体を刀鍛冶のメッカにしよう、という観点はちょっとやそっとでは生まれませんよ。そしてそれをルッツに提案できるだけの信頼関係。
思い余ってルッツ当人に刀の作り方を聞きにくる勇気を見せた鍛冶屋のおっちゃんも、あれはあれで職人の純粋さの極みだよなあ、と関心しつつ。あれだけ俗っぽいおっちゃんなのに、それでも職人なんですよねえ。
鍛冶屋組合の理不尽で不合理な在り方をこれまで語られてきたんで、城壁のなかでぬくぬくと既得権益に甘えている鍛冶屋連中ってどうせろくでもないんだろう、と勝手に思い込んでたら、彼らは彼らで何はなくとも職人だった、職人でしかなく職人以外のなにものでもない、つまるところ正気なんざない探求者たちだった、というのはなんか痛快でもありました。どのおっさんも爺さんも俗物なんですけれどねえ。でも俗物でありつつ、純粋にイイものを作りたいという欲求、好奇心を何よりも子供みたいに抱え込んでいる連中だった、というのが何とも嬉しいじゃないですか。
和平会談の成功……成功？ もあって、俄然注目されることになったルッツたち。パトリックも含めて、ゲルハルトの推薦でツァンダー伯爵のお抱え職人となるわけです。それは職人として公式に認められ、また身分も与えられた栄達の極みであるんですけれど。
実のところ職人としての純粋な創造に対しては、だからなんなの？ という変化でしかなく。いや身分保障はこの上なく大事なんですけど、自由度が減ってしまうのもあいまって、なんかルッツ的には微妙だったりするんですよね。
刀鍛冶としての働きが、そのままルッツの評価ではなく、彼を抱えている伯爵の功績になってしまったり、と貴族と職人とでは身分が違いすぎて、世間では……というより貴族社会ではルッツは存在自体果たして認知されるかどうか。いや、凄まじく認知はされているし、彼を引き抜こうという動きは多くあるんですけれど、それでも人としての価値が認められているかと言うと、微妙なわけです。
世間的に見ても、伯爵って職人の価値を凄まじく高く見てくれているし、職人に対する扱いもかなり大事にしているんですけれど、それでもなにか隔絶した身分の差があるんですよねえ。
このあたりの描き方が、なんとも絶妙に面白い。
伯爵、ルッツに対して仕事の制限とか押し付けないし、ゲルハルトの助言もあるんだろうけれど、かなり自由にやらせてくれてるんで、ほんと雇い主としては最上級だと思うんですけどね。
そのうえで、ルッツたちが打った刀が遠因……じゃねえなあ。近因となってクーデターが発生してしまった隣国。和平会談のときに知り合いになった向こうの国の騎士からの密かな依頼で、今度は処刑用の刀を打つことになったルッツなのですが。
なんかこう、刀を手に入れたあとのエピソードじゃなくて、この物語ってこれこれこういうエピソードがあって、それ故にこういう刀を打って欲しい、というエピソードが舞い込んでくる形式、これ自体が本当に面白いよなあ。依頼されるルッツにしても、その依頼に対する想いを汲むわけですよ。依頼してくる人を見て、刀を打つんですね。だからこう、しっかりと想いが詰まるんだよなあ。打たれた刀とそれを握る人の物語が、心に染み込んでくる。
面白い。面白い作品であります。
一巻の冒頭でルッツたちが創った刀に魅了された人々が原因で、クーデターが発生して国王が殺される、みたいなシーンがいきなりぶっこまれていました。
そういう魔性の刀、妖刀を作る職人たちの話なんだろうなあ、とまだ話の内容・展開を知らない冒頭でこのシーンを見せられたときはぼんやりとそう思ったものですし、ルッツやゲルハルトたち３職人の仕事っぷりを見たあとも、最終的に国を崩壊させるまでに彼らの打った刀は至るのか、と若干慄く……というかビビるような感覚を覚えたものです。
いやだって、作ったものがそこまでの代物になっちゃうと、ルッツたちも平穏無事じゃ済まないじゃないですか。なにしろ最初読んだ時点では、自分たちの国の中を無茶苦茶にしてしまうようなものを作っちゃったんだ、と思ったわけですし。
良かった。自分たちがいる国の話ではなかったんですね。
というわけで、自国の王のまだ幼い姫を和平の生贄に差し出すのを阻止するために、敵国の贈り物に匹敵する価値のある刀を打たなくてはならなくなったルッツ。
武器としてではなく贈呈品として、しかも政治目的。ということでイマイチモチベーションが上がらずインスピレーションも湧かないルッツ。
実のところ、今までだって打った刀どれもあんまり武器としては使用されてないんですよね。勇者リカルドに贈呈された「椿」が一番血を吸ってますけれど……あれ、斬るよりもその妖刀の魔性で自害させてるケースのほうが多い気がするので、それって刀としての武器使用とは使われ方ちょっと違う気がするしｗ
まあ実際に不憫な小さいお姫様と直接会うことで、俄然インスピレーションが湧いて凄いの打っちゃうんですけどね。周りからよってたかって、とにかく凄いの作れ！とプレッシャーかけられて、まあそういう周りの圧力はどうでもいいんだけれど、当人たちもうまいことテンション上がってしまったので、際限なく凄いの作っちゃったわけですよ。
あまりにも凄すぎて、刀を送られた敵国の王の威光、カリスマが爆上がりしてしまって、さあ大変てなもんである。
ただ、職人側からすると要求に答えただけなんですよね。政治的なバランスとかそこまで考える役向きではないのだ、職人ってのは。ゲルハルト師だけは微妙なんですけどね。職人になる前は一流の冒険者で、現在も職人としてだけじゃなく政治面での伯爵の相談役みたいになっているゲルハルト師はとかくあらゆる立場から物事を見る視点があって、そんなに出世欲とかもないから偏りなくフラットなんですよね、見方や立ち位置が。いくら伯爵の旧来からの家臣団から嫉妬の目で見られても、これ伯爵はゲルハルト師を近くから手放せませんよ。師も伯爵に対して好感と忠誠を抱いているんで、領主さまの良きように働きかけますし。
一方で彼に匹敵する賢人でありつつ、ルッツ個人の最大の味方で相棒で人生のパートナーなのがクラウディア。自分の利益じゃなく、ルッツと自分の利益について頭が回る……だけじゃなくて、身近な商売という観点だけじゃなくて、もっと大きな経済的見地や統治者側からの見方も考慮した上で、自分たちの立ち回り方を考えられるって、並の商人の器じゃないんだよなあ。この能力が自身とルッツの二人だけに向いているのは、凄まじく強い。
それでいて、きっちりルッツのモチベーション管理やインスピレーションを与える手伝いなんかも出来て、芸術家としてのルッツのマネージャー的な立ち回りと、職人としてのルッツの管理者としての立ち回りの両方を柔軟にこなしているのが、色んな場面で見て取れるので、ほんとこの人を助けて良かったなあ、と想うわけですよ。彼女を人生のパートナーとして受け止められたのは、ルッツにとっての人生最大の成功だったんでしょうね。
もし彼女を助けなかった場合のIFが誰にとっても悲惨な末路を辿っているのを、巻末の番外編で見せられたら、尚更そう想うわけです。
後半の、ルッツの刀鍛冶としての技術、剣ではなく刀の打ち方を伯爵領の鍛冶師たちに公開して、領地全体を刀鍛冶のメッカにしよう、という観点はちょっとやそっとでは生まれませんよ。そしてそれをルッツに提案できるだけの信頼関係。
思い余ってルッツ当人に刀の作り方を聞きにくる勇気を見せた鍛冶屋のおっちゃんも、あれはあれで職人の純粋さの極みだよなあ、と関心しつつ。あれだけ俗っぽいおっちゃんなのに、それでも職人なんですよねえ。
鍛冶屋組合の理不尽で不合理な在り方をこれまで語られてきたんで、城壁のなかでぬくぬくと既得権益に甘えている鍛冶屋連中ってどうせろくでもないんだろう、と勝手に思い込んでたら、彼らは彼らで何はなくとも職人だった、職人でしかなく職人以外のなにものでもない、つまるところ正気なんざない探求者たちだった、というのはなんか痛快でもありました。どのおっさんも爺さんも俗物なんですけれどねえ。でも俗物でありつつ、純粋にイイものを作りたいという欲求、好奇心を何よりも子供みたいに抱え込んでいる連中だった、というのが何とも嬉しいじゃないですか。
和平会談の成功……成功？ もあって、俄然注目されることになったルッツたち。パトリックも含めて、ゲルハルトの推薦でツァンダー伯爵のお抱え職人となるわけです。それは職人として公式に認められ、また身分も与えられた栄達の極みであるんですけれど。
実のところ職人としての純粋な創造に対しては、だからなんなの？ という変化でしかなく。いや身分保障はこの上なく大事なんですけど、自由度が減ってしまうのもあいまって、なんかルッツ的には微妙だったりするんですよね。
刀鍛冶としての働きが、そのままルッツの評価ではなく、彼を抱えている伯爵の功績になってしまったり、と貴族と職人とでは身分が違いすぎて、世間では……というより貴族社会ではルッツは存在自体果たして認知されるかどうか。いや、凄まじく認知はされているし、彼を引き抜こうという動きは多くあるんですけれど、それでも人としての価値が認められているかと言うと、微妙なわけです。
世間的に見ても、伯爵って職人の価値を凄まじく高く見てくれているし、職人に対する扱いもかなり大事にしているんですけれど、それでもなにか隔絶した身分の差があるんですよねえ。
このあたりの描き方が、なんとも絶妙に面白い。
伯爵、ルッツに対して仕事の制限とか押し付けないし、ゲルハルトの助言もあるんだろうけれど、かなり自由にやらせてくれてるんで、ほんと雇い主としては最上級だと思うんですけどね。
そのうえで、ルッツたちが打った刀が遠因……じゃねえなあ。近因となってクーデターが発生してしまった隣国。和平会談のときに知り合いになった向こうの国の騎士からの密かな依頼で、今度は処刑用の刀を打つことになったルッツなのですが。
なんかこう、刀を手に入れたあとのエピソードじゃなくて、この物語ってこれこれこういうエピソードがあって、それ故にこういう刀を打って欲しい、というエピソードが舞い込んでくる形式、これ自体が本当に面白いよなあ。依頼されるルッツにしても、その依頼に対する想いを汲むわけですよ。依頼してくる人を見て、刀を打つんですね。だからこう、しっかりと想いが詰まるんだよなあ。打たれた刀とそれを握る人の物語が、心に染み込んでくる。
面白い。面白い作品であります。
