【聖女先生の魔法は進んでる! 2.竜姫の秘めしもの】 鴉 ぴえろ/きさらぎ ゆり 富士見ファンタジア文庫

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聖女先生の過去の因縁。役者は聖都に集い、真なる敵が現れる!

禁域指定のダンジョン踏破という歴史的な偉業を成し遂げたティア。そんな最強の聖女先生の指導を受け3人の弟子たちは急速な成長を遂げていく。
一方、その規格外な行動が王都では大問題になっていた!? ティアは仕方なく王都を訪れ――国中の禁域指定のダンジョン攻略という前代未聞の試みを打ち出す。
「さて、エミー、アンジェ、トルテ。準備はいいですか?」
「いつでも!」「了解!」「行きましょう!」
そうしてティアたちは新たなダンジョン・廃都アリステ攻略に臨む! 聖女先生の力がまたしても国を騒がせる中、ついに因縁の敵が現れる――!? 大人気ガールズファンタジー第2弾。


今回は生徒の一人。アシュハーラ魔国の皇女殿下であるエミーことエミーリエ・アシュハーラのお話。
聖女という存在が重視されない魔国のドラゴン系の種族という事もあって、単体戦闘能力では生徒の中でも秀でているんだけれど、聖女としての特性を考えると今ひとつ聖女らしい強みを持たないエミー。
ぶっ飛んでるティア先生だけじゃなく、仲間であるアンジェやトルテも聖女としての能力に突出したものを持っているなかで、果たして自分はどんな聖女を目指すべきなのか。
そもそも、自分はどんな聖女になりたいのか。そういう自分の在り方を手探りで見つけ出していく自分発見の当番回、みたいなお話なんですが。
それ以上に、ティア先生と同世代。四年前の事件で聖女たちの中心的立場だったジェシカを喪い、また多くの聖女や騎士が死んで、国が聖女重視の方針を転換して地方を見捨てて中央に力を集めようという動きを見せ始めるきっかけになったあの儀式の失敗。
あれでティア先生の生き方そのものが変わってしまった、というのは1巻で語られていましたけれど。
それだけじゃなく、生き残ったティアと同じ世代の女性達。そしてあの事件に関わった、あの事件で大切な人を失った多くの人達が傷つき、心苛まれ、その未来を決定的に変質させられた事件であった、というのがティア先生の同級生との再会で浮き彫りになってくるんですよ。
あの事件が起こるまで、今のエミーたちと同じ年頃だった少女たちは、聖女候補としての役目を担いながらもそれぞれの青春を謳歌していた。未来を志し、希望を胸に、明日の自分を夢見てた。
仲間であり同志でありライバルでもあった同じ聖女候補たちと、いがみ合い張り合い通じ合い、全員が全員仲良かったわけじゃなく、本気で嫌い合ってた間柄もあったけれど、それでも同じ世代として同級生として、同じ道を歩んでいた。
それがすべて、あの事件で喪われてしまった。無数の未来が潰え、生き残った者たちもまたそれぞれ人生が変わってしまった。もう二度と取り戻せない辛い過去になってしまった。
その無念を、怒りを、後悔を、グツグツと煮立たせながら、この世代の女性達はずっと生きてきたんですなあ。ティア先生だけじゃないんですよ。みんなそうだった。それぞれが、それぞれのやり方であの時の無念を晴らそうとしている。それはときに怨念のようにほの暗く、憤怒のように絶え間なく吹き上がっている。
ティア先生と同期であるキャシー・セインとの再会は、そんな彼女らの世代の未だ癒えずに血が流れ続けている傷跡を浮き彫りにするような展開であり、その傷跡を抱えるもの同士の連帯感みたいなものを感じさせる空気でもあったんです。
ティアとキャシーって当時は本気で仲が悪かったみたいで、そのままならどうやっても相いれぬ生理的に受け入れられない、感情的に馴染めない関係だったみたいなのに。
今は同じ悔しさを胸に滾らせて、それぞれ違う道を歩みながらも同じ怒りを共有し、それぞれの形でジェシカの死に報いよう、報わせようと奔走している。そういう意味では本当の同志になってるんですよね。
こればっかりは、いくら親しくなっても生徒たちとは分かちあえない領域なのでしょう。これだけは、あの事件を目の当たりにした者たちでないと。アンジェもジェシカとの仲もあって喪った側であるんだけれど、それでも同期やあの事件の現場にいた人達とはちょっと違うんだろうなあ。と、思ってしまうくらいあの共有する仄暗い怨念めいた感情には触れ得ざるものがありました。

しっかし、ティア先生って当時はガチもんの問題児だったんだなあ、とキャシーやレイナといった同期生の話を聞いていると呆れるほかなく。
これ、体制側から見たら問題児、とかいう範疇じゃなく、完全に人間性に問題有り!のアカンタイプの問題児なんですよね。
コミュ障ってレベルじゃないじゃん。他人に興味がなく、無言で気に入らないやつぶん殴っていく取り巻きがいない番長みたいな不良じゃん! ジェシカいなかったら、マジで誰ともコミュニケーション取れなかったんじゃないだろうか。
今はだいぶ丸くなり、柔らかくなったみたいだけれど、片鱗は色々と残ってるんですよね。都合が悪くなると黙り込んで無視しだす、とかは確かに一巻からもそういう所あったあった。
トルテを引き取って弟子として連れ回すようになったこと、ティアにとって本当に大きい変化だったんだなあ。
能力的にも意識的にも自己完結していて、他人を一切必要としておらず、拒絶するような生き方をしていたティアが、ジェシカとの出会い以外でまた大きく変わったのはトルテとのことがきっかけだったのでしょうし。
それでも、自分ひとりでなんでもやってしまおうとする性質。自分の内に籠もってあの事件で自分以外の人達がどういう想いを抱いていたのかを想像もしようとしていなかった他人への鈍感さ。
そういう事も、弟子が三人になって徐々に変わってきていた、という事が昔の彼女を知る同期生たちとの再会で浮き彫りになっていったのは良かったなあ。そして、そうした変化を迎えたティアと同期生たちが、あの事件の傷という共感だけじゃない、当時はどれほど相手の事を思っていても届かなかった、繋ぎ得なかった連帯が改めて繋がっていく。
ティア以外の人達が抱く悔しさの原因は、喪った人達への後悔だけじゃない。ただ一人、ティアにだけ負担をかけてしまった、彼女だけに押し付けてしまったという大きな後悔が共通していたわけだ。
それが、事件の黒幕が国家の中枢そのものだという事実を前にして、そしてその悪意がかつてと同じように理不尽に抗う人達を踏みにじろうとする前で、強く結ばれ力を発揮していく。
貴女だけに戦わせない、無茶をさせない、という想いがようやくティアに届いていく。
想いが届く、というのにはこういう形もあるんだなあ、と感慨深く感じるのでありました。
そういう意味でも、今回の話はあの4年前の事件の当事者たちのお話だったよなあ、と思うわけです。

3人の弟子たちはわりとこう、自分たちで自立して成長して先生に追いすがってきてるもんなあ。
えらい。