【アーシャ・リボルヴァの崇拝〜皇帝陛下に溺愛される悪役令嬢は、結婚の手土産に不穏分子を平定するようです。〜１】 メアリー＝ドゥ／ゆき哉 サーガフォレスト
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「皇国革命軍を結成いたしますわ！！」
異形の容姿、恋する狂気、特注の魔銃剣により『鉄血の乙女』と呼ばれる公爵令嬢アーシャ。彼女は自国の反乱分子を私兵にすると宣言し、陛下暗殺を目論んだ恋のライバル・令嬢ナバダを連れ敵地へ乗り込むことにした。陛下の唯一無二になりたいのなら賊を平定するぐらいできなくては！ 溺愛されていることに気づかない公爵令嬢が恋情を爆発させ大暴走！第２回一二三WEB小説大賞銀賞受賞作が満を持して登場ですわよ！
皇帝陛下のために、皇国革命軍を結成しますわ！ って前後の文脈が矛盾してて意味がわかんないんですけど！？
本文を読んでもかなりわからなかったし、なんなら作中の登場人物の殆ども何言ってんだこいつ！？ と訳わからなかったんじゃなかろうか。
何しろ、自国であるバルア皇国の国内でうごめく反乱分子たちを糾合して、革命軍を立ち上げ、陛下の前に連れてくる……って、どう聞いても反乱起こすます夜露死苦！ですよね？
あれ？ この皇帝陛下バトルジャンキーで、強敵と戦争したくてたまらない欲求に苛まれている人なので、その欲求を晴らしてあげるために敵になってあげようという愛なのかな！？ 殺し愛いなのかな？！
と一瞬混乱したんですが、どうもこの革命軍で皇帝陛下と戦う、という目的じゃないみたいですし、どういうことなの！？
このアーシャと陛下の間だけで通じ合ってる感！！ めっちゃ嬉しそうに許す！とアーシャの行動に皇帝印のお墨付きを与えてくれる陛下であった。このお墨付きが結構重要だったりするんです。なにしろ、皇帝陛下が許しているので、革命軍に参加する事は咎められないわけですから。
というわけで、なるほど話を読んでいると、というかそれ以降のアーシャの行動と彼女の説明、それにともなう皇国の国内情勢を聞いていてようやくわかってきた。
つまりこれは、皇帝陛下の権力に対しての反乱ではなく、この国の歪みに寄って生じている不満、理不尽に苦しみ抗う人達に寄り添い、その意思と力を糾合していくことで、皇帝陛下が統治と法遵守の理念で強権を振るえない野心を抱いている輩、権力を濫用している輩を、皇帝陛下に代わって世論もまとめて平定して回ってきますわっ、って事なのね。
皇帝陛下の敵は、反乱分子ではなく彼の統治を歪め我儘にする壟断者たち、と定義して、それらを全部討ち果たしてこそ、ようやく皇帝陛下の対等な花嫁になれる、とアーシャ嬢は決め込んだわけですな。
今の自分には、皇帝陛下の隣に立つのは相応しくない。それだけの実績、功、実力を証明しなければならない、でないと何より自分自身が認められない、と規定したわけですな。
愛が重い。というか、その重すぎるくらいの愛を自分で全部背負おうとしているぞ、この子。
そんな彼女を、皇帝陛下はおもしれー女、とばかりに微笑ましく見守っているのかと思ったら。我もとまで這い上がってこい、とばかりに期待をしているのかと思ったら……。
いやいやいや、ちょっと待って？ 全然違うくない？ そういう自分の佇んでいる舞台に立てるかどうか上から見下ろしている、アーシャが自分と同じレベルまで届くかを試している、みたいな上から目線じゃ全然ないぞ！？
むしろ。
アーシャ自身は記憶を封じられて覚えていないのですが、今の皇帝陛下を形作ったのはアーシャじゃないですか。
これ、むしろ皇帝陛下は崇拝されている側であるんでしょうけれど、同時に皇帝アウゴの側こそがアーシャという少女を崇拝している、とすら言って過言ではないぞ。
ぶっちゃけ、やろうと思えば陛下って、この国のがん細胞を身分問わず好きに滅ぼせるだけの力はあるんですよ。法や社会体制の維持を全く無視して完全独裁の主として振る舞えば、好き放題出来てしまう。それだけ人間離れした、隔絶しすぎた力を持っている。
それはもう、神と呼んでも不思議ではないほどに。同時に、それだけ隔絶した力を持ってしまったがために、他の人間を同じ生物として見ることが出来ない、これ完全に全く別の生命体と言っていいくらい、価値観がズレている。
他者に関心も興味もない。何をなすにも達成感もなく、やり甲斐も感じていない。国にも地位にも価値を見出しておらず、退屈のあまりもう気分で全部壊してしまおうか、と思ってしまうくらいには、壊れた人だったんですよね。
そんな彼が唯一興味を惹かれたのが、幼きころに出会ったアーシャという貴族令嬢の気高き生き様。その眩さに惹かれ、興味関心という概念を獲得し、アーシャという存在を通して彼女以外の人間にも面白みを感じるようになっていく皇帝陛下。
アウゴが振る舞う冷酷だが合理的で理知的で理想的な皇帝という像は、まさしくアーシャが思い描く皇帝像だから、そのとおりに振る舞っている、という感じなんですよ。
これもう、アーシャが望むから。アーシャがそうしてほしいから、というのを汲んでその通りにしてしまっているわけで。自己を規定する基準が完全にアーシャで、アーシャこそが彼の在り方の根源になってますやん！
こっちは重いなんてもんじゃないぞ！ ある意味、全的依存とすら言えるぞ！？ だから、アーシャがやりたいことは何でも許すし、アーシャが大丈夫か常に……ガチで常に見守っている。
それは籠の鳥のようであって、むしろ頭上に頂いて崇め奉っているみたいなもんじゃないですか。
これもまた、崇拝の形の一つなんじゃないだろうか。
はたして、アーシャの側は幼い頃の交流の記憶は封じられているし、これは本人の気質でもあるんだろうけれど、皇帝陛下にズブズブに愛されている事を全く知らないし気づいていない。
でも、彼女が皇帝陛下に釣り合う人間になって、妃に迎えられたいと望んで、こうやって飛び出していった考えは、今の色んな意味で対等と見做されていない関係を鑑みると、陛下の隣に立ちたいという観点では何も間違っていない、まさに正答の道を突き進んでいるんですよね。
いや、既に対等以上に思われてるんだけれどさ。陛下に釣り合う以上の存在になっちゃってるんだけどさ。功績をあげることが、対等になる道かというと疑問ではあるんですけどね。皇帝陛下はもうアーシャが存在するだけで絶賛！みたいな所がありかねないし。アーシャが望めば、本当に神にでも悪魔にでもなってしまう。皇国に対する責任とか、国を維持するための理念とかも何もないだろうし。
その有り余るバイタリティで、貴族を敵視し、国という枠組みに属さずに、恨み辛みを原動力に動いているはぐれものたちの中に自ら飛び込んでいって、懐に入り込み、そのカリスマで魅了し、語る理念で納得させ、行動で証明していくその在り方は、まあパワフルで魅力的で、地べたを這いずるしかなかった人達の旗印になっていくわけですけれど。
でも、果たしてその方向性でアーシャの本当の願いは叶うのか。
お互いに崇め奉るのではなく、その深すぎる愛をシンプルな男女の愛へと引き落とせるのか。
今のままだと、アーシャが何をしても陛下、微笑ましく見守って喜ぶだけにも思えるしねえ。
絶体絶命のときに、あっさり陛下自身が介入して、助けて去っていってしまったのも、まだ庇護対象で崇める対象以上になれていない、という証明のようにも見えましたし。アーシャが悔しがっているの、勘違いしている部分もあるけれど、本質的には間違っていないんだろうなあ。助けられてちゃダメなんだ。
ともあれ、一切迷いなく常識なんかすっ飛ばして、自分の理想のため、願いのため、他者を踏みにじるのではなく片っ端からすくい上げ、共に歩んでいく革命の旗手として先頭を突っ走っていくアーシャ嬢。まさに痛快活劇で、面白かった！
