【時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん ９】 　燦々SUN／ももこ 角川スニーカー文庫

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周防家へようこそ――全ての妹ファンに捧げる第9巻!!

「有希は……俺の、実の妹だよ」夜の公園で行われた、政近の思いもよらぬ告白。
妹を犠牲に生きてきた、と自己否定する姿に見兼ねたアリサは政近の手を引き、病に伏したという有希の下へと向かう!
アリサに勇気をもらった政近は、遂に母と、そして祖父と対峙する。迷いながらも前に進もうとする政近。
一方で、政近の事情を知ったアリサもまた迷いを抱き……二人が遂に決断を下した時、アリサは"はじめて"周防有希と対話する。
「ああ、いらっしゃいアーリャさん。来てくださったんですね」
情愛、覚悟、そして恋心。感情が交錯する3人の行方は!? 大人気青春ラブコメ、全ての妹ファンに捧げる第9巻!!


周防家の家族間の人間関係って、もう修復不可能なくらい拗れてて、変化が出来ないくらいそれぞれの人間性も固着しちゃっているものだと思ってたんだけれど……あれ？　と拍子抜けするくらい、あっさりとわずか一日で大まかに解決してしまったのですが。
……おいおい。
いや、これ政近が作中でも自責し自分に呆れているように、どれほど大仰に見えていても実際はお互いに一歩踏み出せば、それで解決してしまう程度の問題だったんですよねえ。
じゃあどうしてここまで拗れてたのか、という点に注目してみると、これはもう周防一族の血族特性みたいなのがあるんじゃなかろうか。頑迷で独り善がりで自己完結性が突出している。こう、と思い込んだら頑なに見方を変えない。一心不乱に、眼の前しか見なくなるし、それ以外の可能性について考慮しなくなってしまう。
今回、周防の当主であるお爺さんの過去話に、政近と断縁状態になっていた母親の優美のこれまでの半生について語られたわけですけれど、これホントにみんな良く血が繋がってる似た者同士だわ。ドツボのハマり方がだいたい一緒だし、自覚がある爺さん除いてあんまり自分がそういう人間だという自覚もなさそう。自覚あるのにもう自分を変えることを諦めている爺さまも大概だけれど。
親子で祖父と孫で、という密接な関係のはずなのに、一人ひとりが自分だけで完結していて相手もこうだと当てはめちゃってるので、本当の意味での意思の疎通が図られてないんですよね。三人とも愛情深い人間にも関わらず、一人ひとり孤立した関係になっちゃってる。愛情が伝わってないし、伝えるつもりもなさそうなのが、いやはや。
これが三人揃っちゃってるものだから、迷走っぷりが三乗してますよ。そりゃ拗れに拗れるはずだ。
実のところ、三人とも頑迷ではあっても聞く耳は凄く持っている方に思えます。彼らの頑迷さって自分に、自分の考えに向けられていて、爺さんにしてもおっとりした奥さんが。優美お母さんもパパさんが相方として周囲との関係を取り持つ大事なパートナーになっていたのでしょう。
そういう意味では、愛情を注ぐことを厭わず隠さず口にも態度にも出して接している政近と有希の兄妹というのは、周防家としては新しい家族関係なのかもしれません。それも、有希があれほどの自己改革をしなければ、踏み込んだ関係になれなかったんじゃなかろうか、というのは有希自身の回想からも伺えます。
そして、この兄妹が以心伝心通じ合っているかというと、大方のことに関してはそれこそ何もかもを分け合い通じ合った関係なんでしょうけれど、根本的なところ。有希が政近の代わりに周防家の次期当主となっていることに対して、有希自身がどう思っているか、については政近くん、どうも全然わかってないっぽいんですよね。
わかってないのに、完全にわかっている、当たり前みたいに理解しているつもりだったぞ、こいつ。

政近くん、この巻の冒頭から間違えた間違えた、挙げ句に自分そのものが間違いだ、とアーリャに嘆くほどに自分のこれまでの生き方について悔やんで悔やんで罪悪感や自己嫌悪に塗れ倒して精神的に倦むほどまでにのたうち回っているのに。
それでいて、どうも根本的に自分の考えや捉え方を全く疑わないんですよね。自分が常に正解を捉えていると思って、疑問をいだいていない。
祖父への敵愾心や、母親への徹底した嫌悪が単なる頑なで一方的な見方に過ぎなかったと、周防家に勇気を振り絞って訪問したことで、わかったはずなのに。これまでの自分の様々な判断が、一方的な思い込みや相手の気持ちを勝手におもんばかったものだった、という事が度々あってそれを思い知らされてきたのに。
よし、ここからは気持も新たに思い直して、やり直そう。頑張ろう！　と、奮起して立ち上がって、やろうとするのが、自分が周防家の次期当主の座を「押し付けて」しまった有希を「解放」するために、もう一度周防家に戻って、「可哀想な」有希の代わりに周防家を継ごう、というものだったわけです。

こ、これがあれか。あの有名すぎるスラダンの安西先生の台詞でありミームになっている「まるで成長していない…」ってやつか。
これもう、治らないやつなんじゃないだろうか。周防一族の宿痾ってやつなんじゃないだろうか。
案の定、喜んでもらえると有希に能天気にこの件を告げて、めためたにブチギレられる政近くんである。あれだけキレられて、何を怒ってるのか本当にまるで理解しておらず、ぽかーんとしている彼の様子には、これあかんわ、と呆れるほかなく……。
ちゃんと彼の何が悪かったのかの問題点を指摘したアーリャさん、それめっちゃポイント高いですよ。この一族、ほんとちゃんと言ってあげないと見えてない部分が多すぎるから。この一族のパートナーになるには、どんな形であれかの一族の宿痾に対応できるタイプの人が相応しいんでしょうね。
……マーシャさんはお祖母さん似の包容タイプだけれど、同時に頭良くて柔らかくも鋭くズバッと要点を指摘してくれる人なので、そういう意味でもお似合いなんだよなあ。
アーリャさん？　うん、先程褒めましたけれど、大変よろしといいましたけれど、それはそれとしてこの娘、だいぶ恋愛脳すぎるからなあ。大丈夫かなあ。
だって、ようやく自分の政近に対する恋心を認めた、と思ったらその途端にこれですよ。この有り様ですよ。頭の中、お花畑満開にするにしてもちょっと咲かせすぎじゃないですか？
有希が実妹と知って安堵したり、でも一番大事だと明言してるのはあっちで自分は二の次だし、でも相手は妹なんだから恋人になれるのは自分だけで、という塩梅で高速で気持ちがアップダウンしてるの、情緒が危なっかしすぎるｗ　これを、色々状況が落ち着いたあとじゃなくて、今まさに渦中に飛び込もうとしている政近に付き添っているときに、この状態がずっと続いてるわけですからね。
政近の事情の方に感情移入して思い入れて、一緒になって気持ちを重ねて応援して支えて、というのがヒロインらしいムーヴですし。まあ、ちゃんとそのあたりアーリャさんやってるしこなしているし、肝心な時に言うべき事やるべき事をアーリャさんちゃんとヒロインらしくやっているので、文句言われる筋合いはないんだろうけれど、それはそれとして肝心の政近くんの切羽詰まってる心境をほったらかしにして、ひとり恋愛脳全開にして浮かれまくっているアーリャさんは、流石というほかないです。

恋愛ボケナス娘じゃねえかｗ

未だ身内しか知らない、開放された有希の本性、いまや本性となっているだろう妹バージョン有希ちゃんとアーリャとの直接対決は次回に持ち越し。その初手大技を有希がかましたところで、次巻を乞うご期待、と区切られているのはズルいくらいの引っ張り方であります。こんなん早く読みたくなるに決まっとるやん！

あとは、未だ仕込みの段階だけれどやたらと不和の芽、不信の種を意図的に撒いてまわっている乃々亜が相当に不気味なところか、気になるのは。負の感情の伴わない悪意、純粋無垢な邪悪って感じで、これ手に負えるんだろうか……。




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