【異世界刀匠の魔剣製作ぐらし ３】 荻原 数馬／カリマリカ カドカワBOOKS
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第三王女の誘拐事件発生。ルッツの作りし魔剣たちがその企てを切り裂く!
ルッツ達の製作した魔剣『天照』で、隣国との停戦は成った。だがそれは大量の兵士が職を失うことと同義、あぶれた帰還兵による第三王女誘拐事件が発生してしまう。
勇者・鍛冶師・高位騎士・付呪術師という異色のパーティで電撃救出作戦が決行されるも、戦いの中でルッツは己にも武器が必要だと痛感。試行錯誤の末に豪斧を生み出した!
そんな折、迷宮で冒険者たちが邪教の生け贄にされるという噂が。その調査で魔斧『白百合』の異能が早速花開く!
徴兵されて帰ってきたらもう居場所がなくなっていた、ってそれは世知辛いなんてもんじゃないよなあ。
というわけで、ルッツたちが打った贈呈用の刀によって隣国との戦争が無事回避されたものの、動員解除された兵隊たちがそのまま消えてなくなるかというとそうではなく。
平和に付き物なのが、この帰還兵問題なんですよねえ。まだこの場合は戦端を開いていなかった分、荒みきっているだろう敗残兵がばらまかれたわけではないだけマシではあったのでしょうけれど。
姫様を拉致した帰還兵のグループも、これが負け戦なんかで軍の統率から外れて生き延びるためだけに野盗に落ちぶれた部隊だったりしたら、兵士としての矜持も残っていなかったでしょうから、とても姫様無事では済まなかったでしょうしね。
とはいえ、自分たちの境遇を訴えるために拉致られた姫様からすれば、不幸以外のなにものでもない。
隣の連合国の盟主に政略結婚で嫁がされて、どう転がっても幸せになんてなれないだろう運命だった彼女リスティル姫。そんな彼女を悲惨な運命から救うために、ルッツたちは頑張ったっていうのに、その結末がこれというのは余りにも憐れである。
あくまで丁重な扱いをされたリスティル姫だけれど、一度身柄をどこのものともしれない野盗に奪われた、というだけで女の人はどうしたってその身の純潔を疑われてしまう、というのが辛い所。
しかも、姫様は自分たちを攫った帰還兵たちの命がけの訴えを王族の責務をまっとうするために請け負ってしまったのである。
何の保障もなく軍から追われ、故郷に帰ってももう自分の居場所もなくなってしまっていた帰還兵たちに、どうか手を差し伸べてほしい、という訴えを、この娘は自分がどうなるかを理解しながら請け負ったのである。
当然、帰還兵に対する世論が厳しくならないように、自分を誘拐したものたちは名も知れぬ野盗でなければならず、彼女は自分がどんな目にあったのかを語ることが出来なくなってしまった。
国王がどれだけ自分の娘を愛していようと、王族としての価値を著しく欠いてしまったこの娘をもう重く扱うことは出来ない。そのうえで、帰還兵たちのために国王に頼み込んで資金を用立ててもらい、行き場の無い者たちの居場所となる開拓村の責任者として、王宮を離れて乏しい資産をやりくりしながらまだ幼いと言っていい姫様が、国境際の廃村から現場責任者として帰還兵たちの受け入れと居住していける生活圏の確立を主導していかなくてはならなくなった。
あまりにも過酷な道を、しかしこの娘は毅然と歩き始めたのである。騎士嫌いで貴族嫌いのクラウディアが惚れ抜くのもよくわかる、誰よりも本気で貴き血の義務を果たそうとする娘なんですよねえ。
もともと、リスティルの境遇に同情して彼女に恋をしてもいいんだ、と幸せになっていいんだ、と言ってあげるほどに肩入れしていたクラウディアですから、もう自分たちの身代投げ売ってもこの娘を助けよう、幸せにしようと移入しちゃっているあたり、情の深い女性である。
存分にクラウディアの好きにさせて、これまで貯めていた金全部リスティルのために使っちゃうのも全然構わん、という姿勢のルッツも大物すぎるけれど。
さても今回、なんでか鍛冶屋なのに同じく付与術師なのに元冒険者だからとリスティル救出部隊に駆り出されたゲルハルトと一緒に、野盗とは名ばかりのちょっと前まで現役バリバリだった兵隊たちのグループに戦いを挑むことになってしまったルッツ。
ここでえらい目にあったために、かねてから周りに言われていた自分の刀を打ったらどうなのか、という提案に、本気になって挑むことに。
そこで普段から打っている刀ではなく、兵士たちと戦ったとき一番死にかけた相手が使っていた「斧」に着目して、自分用に斧を鍛造してしまうあたり、ルッツのインスピレーションってかなり外部からの影響をもろに受けるタイプだよなあ。これまで打った武器を見ても、普通の刀ではなくかなり多種多様ですし。依頼人の要求や人となり、立場を鑑みて打っているので当然といえば当然なのですが、それにしても幅が広い。
一応これ、かなり珍しい斧を得物にしている主人公、になるのかｗ
それはそれとして、今回ルッツが手掛ける刀の種類としては王道にして本道。かつて父が人生を賭けて打ち、そして貴族の理不尽によって踏みにじられた刀。そのリベンジとなる、そしてかつて父が打った刀を超える刀を鍛えることに。
ルッツの刀鍛冶としての原点である父。その父の挫折は、ルッツにとってもずっと苦悩として抱え続けているものだっただけに、因縁の相手でもあるエルデンバーガー公爵家。でも父を踏みにじった公爵家先代と兄を追い落とし、かつて父の腕と彼の鍛えた刀に魅せられずっと後悔を抱えてきていた現エルデンバーガー公爵家当主であるベオウルフからの、貴族としての体裁を投げ売った本気の謝罪と本心から求める依頼を受ける、という事はルッツにとっても過去の精算であり、父親の敵討ちでもあり、父を超える鍛冶師としての新たな一歩でもあり、と。刀鍛冶ルッツの仕事としては、今までで一番だったんじゃないでしょうか、これ。
純粋に刀としての最高傑作になったんじゃないかと感じました。銘は石喰い。良い仕事でしたなあ。
でも、これだけの仕事をやり遂げて、自分で喝采して。はしゃぎまわって。でも最終的に人生で一番幸せだったのは、君に出会えたことだと臆面もなく奥さんのクラウディアといちゃつくルッツくん。いや、それを常に心得てるの偉いと思うよ、ほんとに。
