【最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い ８ 無能を演じるSSランク皇子は皇位継承戦を影から支配する】 タンバ／夕薙 角川スニーカー文庫
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次なる暗躍は――帝都を襲う、ゴードンたちの反乱を阻止せよ!
王国との共謀による第三皇子ゴードン・第二皇女ザンドラの反乱が実行され戦火に見舞われる帝都。危機にさらされた皇族たちを救い愚かな野望を打ち砕くべく、天才軍師グラウに扮したアルが暗躍を開始する!
いやもうこれ、一番下の第１０皇子のルーペルトの母親の后。継承戦にもほぼ関わっていない政治にも首を突っ込んでいない人までが、近い内にゴードンによる反乱が起こると理解してアルとレオの陣営に助けを求めてきている、という時点でもうゴードンの反乱が起こるって知れ渡っちゃってるじゃないですか。
もう自明のことになってしまっている。
まだ起こっていないのに、誰もが起こることを知っているクーデターなんて、失敗するのが普通じゃないですか。
にも関わらず、誰にも止められないってどういう事なんだ？
みんな起こることを前提に動いてるんだぞ？ なのに、肝心の皇帝陛下がもしかしたら起こさないかもしれない、という希望的観測に頼ってこの状況を座視するとはちょっとこれはもうあかんですよ。
息子がそこまで愚かだと信じたくない、にせよ。疑って追求すれば確実に内乱が発生してしまうから、ゴードンが賢明なことを信じるって、それは幾らなんでもダメですよ。ここまで噂どころじゃない話が広まっている以上、もうどうやったって後には引けない状況になってるんですから。ここで反乱を起こさなくても、ここまで疑われてしまった時点でもう潔白を証明するのは難しいですし、同調の動きを魅せていた軍関係者には未来がない以上、もう止められませんよ。
だからこそ、事前に勢力を切り崩し、前段階で芽を切り取っていき、まず反乱を起こすだけの力を奪わなきゃいけないのに、そういう動きは一切見当たらないんですよね。
というのも、皇位継承戦が行われていたために、皇帝は子供たちの自身の勢力拡大に影響を与えないために、極力介入をしないようにしてきたわけです。
気がつけば、肝心の国の頂点である皇帝陛下から直接的な戦力、文民に対しての影響力含めて、片っ端から引っ剥がされていて、近衛軍しか残ってないじゃないですか。しかも、その近衛ですらいつの間にか切り崩されているし。
本来なら最高権力者である皇帝陛下が、これでは裸の王様同然で。皇帝から権力を委任されている宰相ですら、自分の権限で行った対処療法ですら、ようやく皇帝陛下一人の身の安全を確保するのが精一杯。いやこれ、宰相閣下出来る範囲でよくやったと思うんですけれど、その出来る範囲が幾らなんでも宰相なのに狭すぎるんですよ。
これもう、全部継承戦が悪いんじゃないの？
悪影響が大きすぎる。
皇子同士が争うのに、切磋琢磨して成長するどころか余計に愚かになってるじゃないか、というのは当の皇帝陛下の嘆きである。
それに限らず、通常の政治運営にも支障が出まくっていて、国家としての意思統一が継承戦の最中てんでばらばらの船頭たくさん状態になってて、もうわやくちゃになってるようにも見えるんですよね。
皇帝陛下も通常運営してるとはいうけれど、息子たちのやることに口出ししないようにしてるので、あちらこちらで蛇口が閉められたり、変な方に流れてるように見えるし。その挙げ句に、この野球で言うならバレバレのホームスチール（しかもスタートを切るのが遅い！）みたいな反乱の成功である。
正直、ゴードンもサンドラも人格的にも能力的にも三流で、宰相が内乱の規模がこれほど深刻化するとは思っていなかったのも無理ないと思うんですよね。ゴードンみたいな明らかに頭悪そうな大将についていこうなんて普通、思わないですもん。なんで軍が国と皇帝を裏切ってほとんどがこの男の側についたのは本気で理解できない。まともな将軍、いないのか？ そんなわけ無いだろ？
つまるところ、ゴードンとザンドラにそれだけの能力と人格がない三下小物にも関わらず、これだけ反乱がスムーズに大規模に、皇城をあっさりと占領してしまえるほどに成功したということは、彼らの後ろにそれだけの事を出来る黒幕がいて、暗躍していた、ということなのでしょうね。
未だ、影も形も見えないあたりが、凄まじさすら感じるのですけれど。
宰相よりも全然まったく権力も権威も権限もないアルとしては、出来る範囲はさらに狭まり、それでも聖女を助けに行ったレオの代わりに、皇城に残って現場で身内を救うために奔走することになる。
とりあえず、協力してくれるトラウ兄貴から最大限の協力を引き出し、守らなきゃいけない妹や母たちの安全を確保するための算段をつけ、救援を求められたルーペルトも助けに行き、冒険者シルバーとしては王城で動けないので、魔術を隠しつつ軍師グラウと皇子アルの顔を使い分けながら、抜け道を使ったり、侵入してきた反乱兵たちを欺いたり、と忙しい、忙しい、あっちこっちに走り回る大変な役回りを負うはめに。やることが、やることが多い！
いや、これは暗躍とは言わないんじゃない？
