【輪転式ステレオプティコン - jailed in 2002 -】 枯野 瑛／パルプピロシ エンターブレイン
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「愛があろうが何だろうが、傷つけられる側にしてみりゃ関係ねえんだよ」
明るく元気な近未来バディアクションのふりをした愛と勇気の物語のふりをした近過去くいだおれの旅のふりをしたSF定番の某ジャンル作品の皮を被った別の何かで、それでもきっと、愛とかそういうものの物語なのだ――と、奇妙な銀髪をたなびかせたその少女は、そう言って笑う。
――2002年6月5日、東京と呼ばれていた都市の一部分が消滅した。
地球人と異星人の間に発生したトラブルを解決する調停者・畦倉拓夢が奇妙な銀髪の来訪者・メリノエと共に送る近未来バディアクション。
これ、消失していた東京が隔離閉鎖状態にあって、その中に侵入した場面で「閉鎖都市巴里！！」と声を上ずらせたのは自分だけだろうか。
ちなみに【閉鎖都市巴里】は電撃文庫より川上稔先生が都市シリーズと呼ばれる世界観の中で発表された上下巻の傑作です。本作とは外部から閉鎖された都市が時間ループして同じ歳月を繰り返している、という大枠以外は全然設定は違うんですけどね。
巴里の特殊性は日記型としてだいぶ系統異なりますし、何よりループの期間が巴里の１年間に対してこちらはわずか１日をずっと繰り返していた、ということですから。一日は短いよなあ。出来ることは本当に少ない。その少ない時間でたっぷり観光を楽しんでいた気もしますが。
さてもタイトルがまた聞いたことがない単語であります。
ステレオプティコンってなんぞ？
ステレオとオプティコンを合体させた言葉。いや、オプティコンってなんか聞いたこと在るようで意味とか全然知らない単語ですけどね？
というわけで、そういうときは検索です。検索します、検索します、検索します。この本のタイトルしか出てこねえ！？
と、頭を抱えてながらそれでもクリックしていたら、あった。ステレオプティコンとは何なのか、と語っている人がいましたよ。
……作者の人でした。
枯野瑛先生。あのスニーカー文庫の【終末なにしてますか？〜】シリーズの作者さまです。新作ですよー、枯野さんの新作ですよー。
というわけで、作者さま本人が解説している、ステレオプティコンとはなんぞやという話がこれ。
ちなみに、本編を読んだあとにこのステレオプティコンについての解説を読んだので。というか、ついさっき読んだんですけどね。感想記事を書こうとしたそのときに。
なるほどなあ。なるほど、確かにこれは解像度があがる。
いやどうだろう。
本作って、なんかこう、お菓子詰め合わせみたいな、どんなジャンルの作品と言われても納得してしまえるような、混ざっているというよりも見る視座によって異なるジャンルの物語に見えるような作品なんですよね。どうとでも捉えられるという感じの。
本格SFのような、日常のちょっと不思議なSFのような、ゴリゴリの異能バトルもののような、オカルト色濃厚な伝奇モノのような、バディによる事件調査のミステリ・サスペンスのような。トドメに特撮ヒーローものまで来た！
また畦倉拓夢とメリエノという主人公コンビとはまた別に、この東京に囚われた拓夢の初恋の先輩だった人。寂院夜空という人もこれ、主人公から見たヒロインの一人、という役回りに囚われず、拓夢そっちのけで彼女独自の物語を切り開いていくわけですよ。
もちろん、その大きなきっかけとなったのが見知らぬ他人であるはずの、でも何故か既視感のある親しみと懐かしさを感じる謎のおじさん（畦倉拓夢）との遭遇なのですが。
最初のループする前の一日目は、夜空って完全にこの閉鎖された東京の一部分であり、舞台装置というのはあれか。生きてるし。生きてるけれど、この繰り返す東京のルール・秩序の中に違和感なく溶け込んでいたモノだったはずなんだけれど。
二日目、本来なら事故で死ぬはずだったのが畦倉拓夢によって事故が起こること自体が回避されたことで、或いはその後畦倉拓夢と面と向かって話したことで、夜空は何かこの世界からズレちゃうんですね。
もしかしたら、それ以前から彼女は何か世界に違和感を感じていてズレていたのかもしれないけれど、それが決定的になったのは畦倉拓夢……いや、その名前を名乗って再会を喜んだら不審者扱いされておじさん呼ばわり（トラウマ）された一周目のことがあったので、拓夢の叔父の夢太郎だよ、などと錯乱した名前を名乗ってしまったわけで。動揺し過ぎである、夢太郎。
まあねえ、拓夢くんからすると、なかよしの先輩にいざ、告白するぞ、と予告までして運命の日を迎えたのに、その運命の日は東京消失の日となってしまい、それ以来ずっと後悔とも未練ともつかない、自分にはどうしようもない理不尽だけれど、それでも手を伸ばすことさえ出来なかった悔しさか懊悩か。いずれにしても、ずっと過去を抱えて宇宙人たちが表立って来訪するようになりました、という劇的な変化を迎えた地球上の世界の中で、名うての調停者にしてトラブルシューターとして足掻いてきた男にとって、喪われたはずの初恋がそのままの形で手の届く所に戻ってきて、しかしこの封鎖された都市の状況を調べていくと、その手の届く所まで近づいたはずのそれを自分の意志で突き放さなくてはならない、という決断の中に置かれて。
情緒グチャグチャになりながら、それでも大人になってしまったが故の責任感というべきか、がむしゃらの方向性にきちんとした理性と客観的事実を踏まえてしまう自分がいるわけですよ。
そこで、初恋の先輩がなんか自分のこと妙な察しを得ようとしていると気づいたとき、どうしたらいいかわからなくなる、くらいの動揺はあって然るべき出し、変な名前を名乗ってしまうのは男の嗜みというやつである。ほんと？
ちなみに、具体的に東京消失からの年月どれだけ経ったかについてはどこにも書かれてなかったと思うのだけれど、拓夢くん夜空からおじさん呼ばわりされて、かなりショックを受けてるんですが、そのショックの受け方がまだおじさんじゃねえ、という抵抗値があまり感じられず、ガチ凹みしてるあたり、まじでおじさんと言われるのが当たり前の年齢になってるんじゃないか！？ と感じて戦慄している。
三十路超えてる？もしかして？
二十代ならオジサン呼ばわりは不当であると言いたい。
それはそれとして、拓夢＝夢太郎と出会ったことをきっかけにして、同じ日を繰り返している事に違和感を感じつつもすぐにいつもの一日を過ごしていた夜空の認識に、決定的な亀裂が入ってしまうんですね。
一日経っても、都市が初期化されてデータから再現されてループしても、なぜか朝起きたときから出会ったことのない夢太郎氏のことを覚えている。
なんだか、この世界、おかしい。そう感じた夜空は、勇気を出して初めての学校のサボりを刊行。なぜか意識に浮かんでくる昨日じゃない昨日のこの都市に刻まれた記憶の残滓を追いかけて、日常の中で冒険に出るのでありました。
夜空視点からすると、夢太郎氏がどっかで調査してたり、全力で戦っていたり、なんてのは見ても聞いてもいないし認識外なんですよね。だから、彼がきっかけとはいえ、彼とは関係ないところで夜空は一人で動き出し、一人でこの物語を動かしだす。それは、この作品の別側面、新たな付与されたジャンルのようでもあり。
どこかふわふわとした日常の延長線上にある不思議な非日常の気配を辿っていく、そんな淡い少し不思議の青春のお話、みたいなのが描かれているんですよ。
それが、拓夢の物語と夜空の物語がラストで重なって、それぞれの物語の空気感はそのままに一瞬の重なり、一瞬の交錯が何とも言えない情感を描き出してるんですよねえ。
あの場面、特撮ヒーローものっぽい火花散らす息の詰まるような瞬間と、不思議な非日常ものの青春のエールが重なった瞬間の、あの得も知れぬ場面の色彩。なかなか味わえないブレンド感でした。
いろんな物語が、色んなジャンルが、色んな登場人物が主人公になって、クルクルと回転してこの作品を織りなしている、そんなごちゃまぜのようで綺麗に整っているような、不思議なお菓子の詰め合わせ。なるほど、輪転式と言われればそうなのかも。
ラストに、さらに倍率ドン！ とばかりに新たな要素がぶち込まれてきましたしね。
いや、あの妹、夜空の一日のはじまりを告げる存在としては、にわかに強調されているようで名前すらも出てこないこの存在感の在るような無いような立ち位置って、妙に引っかかるところがあるなあ、と気にしてはいたんですが。あとあと、出番多くなる娘なのかな、くらいに思ってたら、お？お！？おお！！？
いやこれ、ただ単に封鎖されて閉鎖されてループしているにしては、なぜそうしたのか、が謎すぎる上にどうも元の東京のままじゃなさそうだぞ、というのが終了間際で連発で叩き込まれてきて、目を白黒させているうちに終わった。
終わった！？ 終わっちゃったぞ！？ いや待って、待って。あらかたこの東京がどうなっているのか、この物語がどうなることが終わりに向かうのか、明らかになったはずだったのに。
これじゃあまだ……
なにもわからないじゃない！！
ってか、前提がひっくり返ったぞこれ！？
しました
八岐
が
しました