【エイム・タップ・シンデレラ 未熟な天才ゲーマーと会社を追われた秀才コーチは世界を目指す】 朝海 ゆうき／あさなや 電撃文庫
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正反対なふたりが成り上がる!新世代のゲームノベル!!
照準の精密さと戦略が勝負を決めるガンシューティングゲーム、『ヴェインストライク』。世界大会も開かれる有名ゲームに、新チーム『エニグマ・ディヴィジョン』が参戦しようとしていた――。
プロゲーマーだった父の失敗から学んで、人生の優等生として生きてきた……が、同僚の不正を庇い左遷されてしまった、ハイスペックOLの結衣。
ド田舎のめちゃくちゃな環境でも世界レベルの敵を壊滅させる才能を持つ……が、世間には馴染めない不登校ゲーマーJKリン。
正反対なふたりを中心として結束していくゲームチームに立ちはだかるのは――日本最強選手『魔王』こと、結衣の妹である凛で!?
捨てたはずの情熱が燃え上がる、新世代のシンデレラストーリー!
eスポーツの世界を描いた作品でした。昨今、全没入型の未来型ゲームの物語が多いので、逆にマウスとキーボードでプレイするFPSというのは新鮮感がありますね。チーム組んでやるのですけれど、これってそれぞれがテーブルに置いた画面とキーボードとマウスでプレイしてるんですよね。一応リアルで集まってやってるんですけれど、どういう机配置なんだろう。描写あったっけ。
実際の所、現状のeスポーツの界隈がどういうふうになっているのかって全然知らないのですが、作者さんはどうやら相当に詳しい方のようで細かいネタも含めてかなり現実のeスポーツ界隈を踏まえているようです。
いずれにしても生き残りの厳しいせめぎ合うプロスポーツの世界というのはどのスポーツでも変わらないのでしょう。
その上で業界自体が若く固まっていないので、そこに入り込む事にルートは限定されてないわけだ。
主人公の結衣も、もともと父が最初期のプロゲーマーだった事もあり、この業界に対しての知識や馴染は深いものの、当初は研究職系のOLとして働いていたのが、内部不正の煽りをくって干されていたところをベンチャーの社長にスカウトされて、eスポーツのチーム運営者に抜擢された所から物語がはじまるわけです。
カラー口絵の人物紹介でのセリフが、えらい啖呵切ってる所だったんで、気の強い自信家タイプの女性なのかと思ってました、結衣さん。あらすじでもハイスペックOLなんて紹介されてますし。
しかし、実際はというと……この人陰キャだろｗ
ネガティブである。何かにつけて後ろ向きというか、自己評価低いし積極性に欠けるし消極的で自己主張したがらないし。覇気がない。
父の反面教師的にゲームスポーツの世界に関わらないように一般企業に入った、というわけでもないんですよね。人生の優等生なんてあらすじでは書いていますけれど、家庭崩壊の結果メンタル不安定になってた母親についていって、母の希望に沿うように安定した道を歩んできただけで、就職した会社に情熱なんてなかったし、実のところゲームはずっと好きで熱心に遊んではいたし、ある意味惰性でこれまで歩んできたよう、と言ってしまうのは酷だろうか。
そのくせ、この結衣さん、カチンとくるといきなり感情が激発するのか、折々で激情に駆られて勢いで人生の節目みたいな決断をしちゃう事がこの一巻だけでも何度かあったんですよね。
ベンチャー社長にスカウトされてeスポーツ業界に憧れとか未練とかあるのに自分がそれに入るのってどうなのかな、とグジグジ迷ってた時に、長年疎遠になってた妹に連絡取ってえらい遠回しに本心隠したまま建前並べ立てて相談してたら、厳しいこと言われて逆ギレして勢いで会社辞めてスカウトに応じてしまった……あとでやっちまった、と後悔しているところまで含めて、いや感情任せすぎて怖いまであるんですけど。転職をそんな感じでやってしまうのって、完全にヤバいやつじゃないですかｗ
これでむしろ奮起してやる気出して熱血にやったるぜー！となるなら、まあ自分で選んだ転機だし、となるのですけれど、そこからまた妙に落ち着いちゃうんですよね。あなた、妹にお前のチームとか自分なら勝てちゃうから、と啖呵切ったんちゃうんかい。と言いたくなるくらい、一歩引いた感じでチーム運営していくんですよ。
メンバー自体は結衣自身がチームからあぶれてフリーになっている連中を集めてきた上で、とどめにプライベートで遊んでいた時に知り合ったメチャクチャゲームの美味かった女子高生、自分の妹と同じ名前のリンを連れてきて、メンバー揃えたわけですけれど。
あくまでチームの運営側として振る舞うだけで、それ以上踏み込もうとしないんですね。チームの方針を決め指揮をとるコーチという役職がチームには必須なんですけれど、それを外部から連れて来るのですけれど、まあ馴染まないわけです。何人も長続きせずに交代することになる。
これじゃあダメだ、と思いつつも、しかしなかなか踏み込もうとしない。一度仕方なくコーチ不在のなかで結衣が成り行きで代わりを務めるようなことがあり、チームからの評判も良かったのに、なにかと理由をひねり出しこじつけて、関わろうとしないわけです。
消極的、それは本当の意味で誰かの人生に関わる責任を負うことから逃げている。ずっと、逃げ続けてきたのでしょう、この女性は。それを後悔しながら、惰性で逃げることから逃げられなくなっている。
コーチ就任も、この業界に転職してきたときみたいなその場の感情任せの勢い任せで、果たしてそれを決断というべきか。
なにより、自分自身こそがままならない。思う通りに制御できないし、自分がどうしたいのかもわからない。
これはおそらくメインの三人、結衣とリン、妹の凛の三人に共通した主題でもあったのでしょう。
奔放なようでかなり繊細で人間関係の構築にも維持にも下手くそなリンは、表面上惰性で合わせることが出来ていた結衣と比べても、自分のままならないものを他人とすり合わせるのが下手くそで、自分で詰めた距離感を自分でぶち壊していってしまう娘のように見えました。
これまでの人生、集団に馴染めずずっと不登校で、個人個人であっても一旦仲良くなっても自分で不信の種を撒き水をやって育ててしまう。相手を信じないほうが楽という道を選んじゃうかのように。
ほとんど他人に近い人の言葉を信じて、大事な人のことを疑ってしまう、信じられなくなるというのは、他者への不信感以上に大切な人を信じられない自分への嫌悪や不信が大きいようにも見えました。
自分への自信のなさ、自分を信じられない弱さ。それらが特に結衣とリンに共通したものだったようにも感じます。だからこそ、一度全部放りだして逃げてしまったリンに対して、同じくずっと逃げてきた結衣だからこそ、共感でき、うわべだけじゃない本当の自分を認めて受け入れ、求めて欲してくれたという事実が、ようやく一人の少女に自分を信じる勇気を与えたのではないでしょうか。
結衣にしても、最後の人生の節目もあれ、勢い任せにも程があるんだけれど、あれだけじゃ感情任せではなく、ちゃんとした決断だったと思うんですよね。
なかなかしっとりとした湿度の在る人間関係とメンタルの物語でした。
ただ肝心のeスポーツのゲームプレイシーンは自分がFPSをやったことがないどころか、プレイ画面自体もほとんど見たことがないせいか、描写の内容がいまいちイメージ出来なくてピンとこなかったんですよね。
結衣の魔法のようにズバズバと決まる作戦指示も、リンのエイムの正確さも、具体的に描かれてカタルシスを感じるような所があまりなく、ってかコーチってプレイ中に指示できないんですね。
それに、相手チームがだいたい妹のいるキングダム戦ばかりで他のチームとの対戦シーンがほとんどなく、そのキングダムも妹とリーダーのユウキ以外は名前すらも出てこず、という感じで、妹の魔王と言われるほどのプレイスタイルの凄みもあんまり伝わらなかったなあ、と。
妹の凛の方の掘り下げというか、彼女の気持ちとか姉妹の複雑な関係についてもちょっと触れ具合が物足りなかったかなあ、という感じがありました。
まだまだ、深さも広さも掘って広げていく余地がたくさんある、という意味では新人作品らしい作品だったかと。これからも、ガンガン突き詰めていってほしいですね、期待したいところです。
実際の所、現状のeスポーツの界隈がどういうふうになっているのかって全然知らないのですが、作者さんはどうやら相当に詳しい方のようで細かいネタも含めてかなり現実のeスポーツ界隈を踏まえているようです。
いずれにしても生き残りの厳しいせめぎ合うプロスポーツの世界というのはどのスポーツでも変わらないのでしょう。
その上で業界自体が若く固まっていないので、そこに入り込む事にルートは限定されてないわけだ。
主人公の結衣も、もともと父が最初期のプロゲーマーだった事もあり、この業界に対しての知識や馴染は深いものの、当初は研究職系のOLとして働いていたのが、内部不正の煽りをくって干されていたところをベンチャーの社長にスカウトされて、eスポーツのチーム運営者に抜擢された所から物語がはじまるわけです。
カラー口絵の人物紹介でのセリフが、えらい啖呵切ってる所だったんで、気の強い自信家タイプの女性なのかと思ってました、結衣さん。あらすじでもハイスペックOLなんて紹介されてますし。
しかし、実際はというと……この人陰キャだろｗ
ネガティブである。何かにつけて後ろ向きというか、自己評価低いし積極性に欠けるし消極的で自己主張したがらないし。覇気がない。
父の反面教師的にゲームスポーツの世界に関わらないように一般企業に入った、というわけでもないんですよね。人生の優等生なんてあらすじでは書いていますけれど、家庭崩壊の結果メンタル不安定になってた母親についていって、母の希望に沿うように安定した道を歩んできただけで、就職した会社に情熱なんてなかったし、実のところゲームはずっと好きで熱心に遊んではいたし、ある意味惰性でこれまで歩んできたよう、と言ってしまうのは酷だろうか。
そのくせ、この結衣さん、カチンとくるといきなり感情が激発するのか、折々で激情に駆られて勢いで人生の節目みたいな決断をしちゃう事がこの一巻だけでも何度かあったんですよね。
ベンチャー社長にスカウトされてeスポーツ業界に憧れとか未練とかあるのに自分がそれに入るのってどうなのかな、とグジグジ迷ってた時に、長年疎遠になってた妹に連絡取ってえらい遠回しに本心隠したまま建前並べ立てて相談してたら、厳しいこと言われて逆ギレして勢いで会社辞めてスカウトに応じてしまった……あとでやっちまった、と後悔しているところまで含めて、いや感情任せすぎて怖いまであるんですけど。転職をそんな感じでやってしまうのって、完全にヤバいやつじゃないですかｗ
これでむしろ奮起してやる気出して熱血にやったるぜー！となるなら、まあ自分で選んだ転機だし、となるのですけれど、そこからまた妙に落ち着いちゃうんですよね。あなた、妹にお前のチームとか自分なら勝てちゃうから、と啖呵切ったんちゃうんかい。と言いたくなるくらい、一歩引いた感じでチーム運営していくんですよ。
メンバー自体は結衣自身がチームからあぶれてフリーになっている連中を集めてきた上で、とどめにプライベートで遊んでいた時に知り合ったメチャクチャゲームの美味かった女子高生、自分の妹と同じ名前のリンを連れてきて、メンバー揃えたわけですけれど。
あくまでチームの運営側として振る舞うだけで、それ以上踏み込もうとしないんですね。チームの方針を決め指揮をとるコーチという役職がチームには必須なんですけれど、それを外部から連れて来るのですけれど、まあ馴染まないわけです。何人も長続きせずに交代することになる。
これじゃあダメだ、と思いつつも、しかしなかなか踏み込もうとしない。一度仕方なくコーチ不在のなかで結衣が成り行きで代わりを務めるようなことがあり、チームからの評判も良かったのに、なにかと理由をひねり出しこじつけて、関わろうとしないわけです。
消極的、それは本当の意味で誰かの人生に関わる責任を負うことから逃げている。ずっと、逃げ続けてきたのでしょう、この女性は。それを後悔しながら、惰性で逃げることから逃げられなくなっている。
コーチ就任も、この業界に転職してきたときみたいなその場の感情任せの勢い任せで、果たしてそれを決断というべきか。
なにより、自分自身こそがままならない。思う通りに制御できないし、自分がどうしたいのかもわからない。
これはおそらくメインの三人、結衣とリン、妹の凛の三人に共通した主題でもあったのでしょう。
奔放なようでかなり繊細で人間関係の構築にも維持にも下手くそなリンは、表面上惰性で合わせることが出来ていた結衣と比べても、自分のままならないものを他人とすり合わせるのが下手くそで、自分で詰めた距離感を自分でぶち壊していってしまう娘のように見えました。
これまでの人生、集団に馴染めずずっと不登校で、個人個人であっても一旦仲良くなっても自分で不信の種を撒き水をやって育ててしまう。相手を信じないほうが楽という道を選んじゃうかのように。
ほとんど他人に近い人の言葉を信じて、大事な人のことを疑ってしまう、信じられなくなるというのは、他者への不信感以上に大切な人を信じられない自分への嫌悪や不信が大きいようにも見えました。
自分への自信のなさ、自分を信じられない弱さ。それらが特に結衣とリンに共通したものだったようにも感じます。だからこそ、一度全部放りだして逃げてしまったリンに対して、同じくずっと逃げてきた結衣だからこそ、共感でき、うわべだけじゃない本当の自分を認めて受け入れ、求めて欲してくれたという事実が、ようやく一人の少女に自分を信じる勇気を与えたのではないでしょうか。
結衣にしても、最後の人生の節目もあれ、勢い任せにも程があるんだけれど、あれだけじゃ感情任せではなく、ちゃんとした決断だったと思うんですよね。
なかなかしっとりとした湿度の在る人間関係とメンタルの物語でした。
ただ肝心のeスポーツのゲームプレイシーンは自分がFPSをやったことがないどころか、プレイ画面自体もほとんど見たことがないせいか、描写の内容がいまいちイメージ出来なくてピンとこなかったんですよね。
結衣の魔法のようにズバズバと決まる作戦指示も、リンのエイムの正確さも、具体的に描かれてカタルシスを感じるような所があまりなく、ってかコーチってプレイ中に指示できないんですね。
それに、相手チームがだいたい妹のいるキングダム戦ばかりで他のチームとの対戦シーンがほとんどなく、そのキングダムも妹とリーダーのユウキ以外は名前すらも出てこず、という感じで、妹の魔王と言われるほどのプレイスタイルの凄みもあんまり伝わらなかったなあ、と。
妹の凛の方の掘り下げというか、彼女の気持ちとか姉妹の複雑な関係についてもちょっと触れ具合が物足りなかったかなあ、という感じがありました。
まだまだ、深さも広さも掘って広げていく余地がたくさんある、という意味では新人作品らしい作品だったかと。これからも、ガンガン突き詰めていってほしいですね、期待したいところです。
