【異世界刀匠の魔剣製作ぐらし ４】 荻原 数馬／カリマリカ カドカワBOOKS
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ある部族に伝わる古の魔剣を打ち破れ! 職人の矜持をかけ、いざ魔剣殺し!
連合国の各部族との交易に乗り出したルッツ達は、参加を渋る族長に遭遇。そこで、飢えた民の隣で私腹を肥やす族長に代替わりの決闘を申し込むと決めた娘を応援することに。
だが族長は、古に作られたという謎の魔剣を操るらしい。ならば作るべきは――魔剣を打ち破るための新たな魔剣!
「負けてたまるか、俺たちこそが最高の職人だ」
一方、伯爵領内にはルッツの作った刀剣の所持者を狙った通り魔が出没。その正体は意外な人物で……?
これまで、どうしても政治利用目的や貴族王族の歓心を買う目的で刀を打つことがあったのだけれど。
これはこれで、必要なことでしたしちゃんとルッツも中途半端じゃないやる気を見出す理由を見つけて、名刀を完成させてたんですけどね。
それとは別に、物語として外交や戦争絡み、貴族同士のメンツなど本来鍛冶師であるルッツからすると遠い世界の話に関わることになる展開があったわけですけれど。
今回は意外なことにそういう難しい話はなく……連合国側での部族の族長争いに関わることになったりもしていますけれど、あれはどちらかというと家族間の話でもありましたし、友達の恋に関わる話でもあったのでちゃんと身近な人間の物語だったと思う。
というわけで、今回はルッツも友人のために打ったり、これと見込んだ相手のために打ちたくなって打ったり、とかなり自分の好きなように刀を打てた話ばかりの巻だった気がするんですよね。
同時に、そういう身近な人達のために刀を打つ場合は、語られる話自体も身近な人達の話になり、これがまた歪んだ家族の相克だったり、男と女の一気呵成の恋の物語だったり。いつの間にか慣れ親しんだボッチで人見知りの友人の格好良いを追求するのについつい乗っちゃう話だったり。
かつてクズでしかなかった男が、ルッツの刀をきっかけに自分の愚かさを知り、自分の罪を自覚し、少しでも真っ当に刀に恥ずかしくない生き方を見つけるために、かつての自分の罪と向き合い、償うために人助けをする仮面のヒーローになる、そんな男の新たな人生の物語だったり。
これらがまた、人情物の時代劇っぽいノリの楽しさとか面白さがこんこんと湧いて出る一巻になってて、今までとちょっと違う面白さがありました。
ルッツの個人的な依頼人達って、意外と仕事で繋がるだけの冷たい関係じゃなくて、けっこう意気投合して友達になってしまうケース多い感じがしますねえ。
講和するまで敵国だった連合国の騎士であった男。停戦の会談で知り合った縁で処刑刀の製作を依頼してきた騎士グエンとも、リスティル姫の村の交易の件で伝手として会いに行ったときも仕事関係で収まらない仲の良さになっちゃいましたし。
交易のためとはいえ、それ以上に踏み込んでとどめにグエンの良縁を後押しまでしちゃいましたしねえ。
そして勇者リカルド。この人、そんなに人見知り激しかったっけ？というくらいボッチを拗らせていることがどんどん描かれるほどに発覚していって、そのくせルッツの家に飯たかりに来たりと入り浸ってて、懐くと鬱陶しいくらい一緒にいたがる人だったのかｗ
彼も妖刀・椿の使い手として一皮むける、どころじゃなくあの魅了の特異能力に留まらない強さを、ルッツが新たに与えたもう一刀・桜花によって身につけて、なんか本格的に手に負えない一騎当千、勇者の称号に肩書き負けしない男になってきたよなあ。精神的にボッチ拗らせたままだけど。
多人数でいっしょにいると隅っこで黙ったままとか、どんだけやねんｗｗ
最後に、この物語が始まった当初にルッツの刀に魅入られて、頬摺りして顔をざっくりと切っちゃった駐屯所のクズ騎士たちの一人。あのクズ騎士連中、相変わらずの無駄飯くらいのチンピラどもなんだけれど、その刀傷を負ったドナルドという男だけはそこから道を違え、ルッツの刀に魅了され切った結果、なんか精神拗らせちゃったんですね。
在る種の狂人なんだけれど、神と崇めるようになってしまったルッツが、彼に刀に見合う男になりたいなら、人の為に生きろ……と方向性を与えたことで、謎の仮面の正義のヒーロー・サムライマスクが爆誕してしまうと同時に、真っ当に困っている人を助け、悪いことをしない、邪なことをしない、と心がけ実行することで、変人ヘンタイと見られながらもちゃんと感謝されるようになるわけですよ。
そうなると、今もクズな騎士どもの所業と、自分もかつてその一員として腐りきった生き方をしてきた事を改めて自分の心に突きつけられてしまうのです。
心を改める。彼が本当の意味で改心したのは、ここらあたりなんでしょうね。ここでイイ気になって調子に乗るのではなく、より自戒を深め、自分の過去を恥じ、かつての行いを悔いるようになった。
そんな時に、彼に無謀ともいえる依頼を、でもわらにもすがるような救いを求めてきた商人に出会うわけです。娘をオークの群れに攫われて、どこに頼んでも依頼を断られ、ついに隣の領地からルッツたちのいる街にまで助けを求めてきた商人デニス。彼こそは、かつて彼が騎士だった頃に仲間たちと集団でリンチして金を奪い、領から追い出した男だったわけです。彼の過去の罪そのものが、受ければ死ぬこと間違いなしの無謀な救いを求めている。
ここから、サムライマスクの決死にして必死の、償いの旅がはじまるのです。
とはいえ、一人でオークの群れに突っ込んでも無駄死にして、商人の娘は救えない。助けを請われたルッツが快く応じて、リカルドを誘い、本来ちゃんと騎士なのでこういう外の領のトラブルに首を突っ込めないはずのジョセルまでが、良心に従って露天で買った仮面被って、小さな幼女の救出の旅に参加する。
このあたり、ほんと往年の名時代劇っぽくてワクワクしましたし、その動機がまさに人情もので、また一人の男の贖罪の戦いでもあり、クズだった男が本当の意味で心を入れ替え、新たな人生を歩みだす漢の生き様にたどり着く話であり……すごくよかった（しみじみ
ルッツがサムライマスク…ドナルドがこのオークの群れの戦いの最後に示した献身にテンションあがりまくって、彼のために一本刀打っちゃうまでがセットで。ほんと、気分で名刀打っちゃう男だなあ、ルッツ。
彼の刀って、単なる武器以上に人生の指針とか活性剤になってて、そういう意味でも受け取った人が喜び、今までとは一味異なる人生を歩み始めるきっかけになってるあたりが、刀鍛冶の物語、職人たちの物語としてぐっとくるものがあるんですよねえ。
