【帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中 ３．疾駆せよ移動図書館アーキエーア】　 佐伯 庸介／きんし ガガガ文庫

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人類と魔族、終戦へ向け移動図書館は走る!

カリアの王国への研修出向と、その苦い結末から早一年以上の時が過ぎ……
通称『魔法協定』のもと、泥と血にまみれた戦争は続いている。

だがその様相は変わっていく。社会の疲弊と引き換えに、武器に輸送、生産、兵站……戦場の機械化が進む連合軍は、いまだ己が力のみを恃みとする魔王軍と拮抗しつつあった。お互いに兵と資源を食い潰す、じり貧の戦いが続いていくのかと思われるような、そんな折。
「移動図書館車『アーキエーア』当基地にて受領しました」
その新たな風は、帝国第11前線基地魔導図書館司書カリア・アレクサンドルの元へと吹いたのだった。

移動図書館車アーキエーアにて各前線へと本を届ける「司書」の道連れになるのは、彼女のボスであり連合国首脳の信任を手にした「皇女」と、人類の最強存在たる「勇者」。危険すぎる三人組は戦場を越えて、戦争を終わらせるという一大秘匿作戦へと向かう――。

本を愛し、愛しすぎたゆえに戦場で司書としての生きざまを貫き通してきたカリア。魔王の思惑。魔の太子。武技を操る女鬼人。魔族最強の竜の焔。戦争を続けてきた「意志」に対し、最後に下す「決断」とは。

形なき物なればこそ、己が全てで顕せ、愛。

ぐっ、ぐうぅぅっぅぅッ！（血涙

いやあ、あれさあ、魔導書。自分、戦闘用ではないという話とクライマックスの激戦の様子からある程度その効果の内容については途中で推察は出来てたんですよね。
でも、もっとご都合主義のものかと思ってた。まるっとハッピーエンドで終わるんだと思ってた。
安易で根拠がない、推察でした。
一人かぁ。ただの一人なのかぁ……。

そう、そうなんですよね。この世界からはもう魔力が失われつつあり、死霊すらもこの世に残れない時代になりつつある、と作中でも語られてたじゃないですか。
骨勇者の時代とは違うんだ。
そして、これは戦争を描いた物語でした。
これまでだって、続刊を読もうと思っていた兵士たちも、人類の未来を想った王子たちも、みなある意味平等に都合の良さになど恵まれず、ただ眼の前の死に轢き潰されていったじゃないですか。
どうして、それが当たり前のことなのだと忘れていたのだろう。忘れていたわけじゃない、ただ縋りたかっただけなのかもしれない。
いやでもさ、想像を巡らせていた時には最後にあんな事になるなんて、思ってもみなかったのだもの。
なんなら、イルキューラが討たれた瞬間だって、凄えとあっけにとられるだけで、それが致命になるなんて思わなかった。こんなん、死ぬくらいの傷だろうと冷静に理解しつつ、だから死ぬんだという事実にシナプスが繋がらなかった。
だって、だって、あり得ないじゃないですか。そんな展開、可能性としても全然考えても想像もしていなかったんだから。

カリアさんに、そういう決断を強いるの、ほんと姫様の親友観が最後の最期まで変わらなくてさあ。ちゃんと個人としての感情も当たり前に持っている人だったのに、それを口に出さずにクレーオスター＝オルリダンとして逝ってしまうのが、ほんと姫様らしくて胸掻き毟りたくなる。
それでいて、ちゃんとその気持は伝わると思ってるんだぜ、この姫様。そのうえで、姫としての遺志をこの親友は果たしてくれると信じてるんだぜ。
この人の親友をやるのは、酷が過ぎる。それを踏まえてなお、この人の友だちになれて良かったと、思ってしまうんだろうなあ。

今回はロード・ムービー的なお話でもありました。移動図書館ですからね、そりゃ移動します。でも、街から街ではなく、前線で戦う兵士たちのために本を運ぶ旅ですから、その行く先は戦地から戦地に。基地から戦場に、という安全を図りながらも安全とはいい難い旅でした。
でも、クレオにとってはその政治的地位としても国の皇女という立場としても、その年齢からしても、気のおけない親友との身分に左右されない旅行としては、そして実際に戦場で戦う一般兵たちやその戦場を支える普通の街の人達の生活、その生の声に触れる、触れ合える機会としては最後のものだったでしょう。
貴重で、かけがえのない時間でした。
姫様が立ち上げた戦場に本を届ける事業。それがどんな成果をあげていたか、書類からではなく、それを利用している兵士たちからの、本当の感謝、本当の有り難いと思う感情を受取り、自分が成したことを実感することのできた、とても大いなる時間でした。
この経験は、万能才女な姫様にとってさらなる飛躍に繋がる、その肌で感じた空気と匂いが大きな糧となって、生きた血の巡る治世へと繋がっていく。そう確信させてくれる、そんな感激と喜びと勇躍を感じさせる姫様のはしゃぎっぷりでした。
そう、クレーオスターの英邁はこの大戦の終わったあと。戦後の混乱に立ち向かっていく平和事業にこそその真価を発揮するものだった。
そのはずだったのです。

書が知識と記録を後世に伝えるものならば、クレオの人生を語る伝記はそれこそ山のように出るでしょうね。実際、それらしい話はエピローグでも描かれてしますし。
でも、彼女という人の記憶を伝える物語を語れる人はさほど多くはないでしょう。カリアさんは、あくまで司書だから、本は書かんのかね。あの人のことは、貴女にこそ書き残してほしいとも思うのだけれど。

なんか姫様のことばかり書いちゃうね。それだけこの人について書きたいことが山程あったという事なのだろうけど。これまでちょいちょいカリアさんに無茶振りするのに場面場面で顔は見せてくれてましたけれど、本格的な登場はこの３巻がはじめてだったんですねえ。なんか全然そんな実感湧かないのですけど。
今回は兵員輸送車を改造した移動図書館ということで、あとがきでも触れてますけれど、帝国第11前線基地魔導図書館ほとんど舞台じゃなかったし！　いやまあ、前回も王国が舞台だったんだけど。そして移動図書館アーキエーアちゃん、図書館としての活躍もさることながら、なんかワゴンブルグ的な活躍もしててそれ図書館と違うでも最後の砦的な格好良さが痺れるるっるｗ
ともあれともあれ、本というものがもたらす影響力はこの巻の中でも色んな場面で伝えられていました。
イルキューラの学んだ東方の武術ですら、これ人間から直接教えてもらったわけなくて、本に書かれたものを独学で学んだ、ってんですから。まさに書は人生の拡張だったわけですよ。
そうして学んだことを、彼女は王太子カールヴォスへと教えたことで、利己が優先される魔族の中ですら書によって知識が広まり、共有される萌芽があった。
書とは、発展の礎であり、心の躍進……感受性・共感性の進化をもたらすもの。そういう本というものが持つ可能性、意味合い、価値を語り尽くす話でもありました。
魔王様の戦争を起こした意図は、未来予知によって得られた魔族衰退を食い止めるため、という話でしたけれど。
それは人類の大発展を大きすぎるくらいの損害を与えて掣肘する、という阻害の意味こそメインだったのでしょうけれど。
それだけでなく、最後のカールヴォスとクレーオスターによる停戦交渉。そこで魔族側に書の持つ理念を、クレーオスターが身を持って示した理想が、やがて魔族を率いることになるカールヴォスと、書の意義に最初に触れたグテンヴェル参謀に理解され、その先に魔族の進む未来があると確信することが。
魔族の衰亡を本当の意味で食い止める最後のピースだったんじゃないだろうか。
魔力がやがて完全になくなるだろうこの世界で、人類の発展はとどまることはないでしょう。この戦争で大きくその歩みを引き止めたとて、それは結局時間稼ぎにしかならない。
ならば、魔族のあり方そのものを根本的に変えなければならない。カリアが提案した自治区構想は、魔族の価値観を変えていく上で人類と交わって生きるという意味で、まさにその最先端となり、すべてを加速させていく土台ともなり得るもの。
いずれにしても、魔王はこの戦争における目的を完全に達成した、と言えるんでしょうね、これ。

この魔王様と似たような目的で戦争を起こしたケースって、そこそこ他の作品なんかでもあったと思うんだけれど（具体例がパッと出てこないが）、だいたいが中途半端に終ってろくに時間稼ぎにもならないか、失敗に終わっていたようなイメージがある。
ヘタに勝利までを求めず、こうして目的のみをきっちりと達成したケースは覚えがないなあ。すごいぜ魔王様。


また、この巻ではかなりわかりやすく別作品【昔勇者で今は骨】との世界観が共通してることを示す設定が随所に描かれてましたね。死霊魔術師が領主やっていた街とか、かつて世界中に婚約者残して魔王と相打ちになって死んだ、女誑しの勇者の話とか。
……女誑し扱いされてますよ、アルさん。

でも、この本巻の時代では魔力が世界中から減衰してしまい、神秘が残る余地はほとんどなくなってしまっている。死んだ人骨がもう動くこともないし、死んだ人の魂はこの世に残ることが出来ず、もうこの世界には死霊は存在しない。そういう話を聞くと、墓地で宴会やってたアンデット達も、ハルベルの村ももう何も残っていないんだろうなあと寂しさが募ります。
でも、そういう村があったと。ちゃんと本に記録として残ってる。それが大切なことなんでしょうね。
人魔共同自治区都市の「アイザノード」って、はるか昔に魔族の国で栄達した人間の名前からとったって書いてあるけど、これってイザナさんから取ってるのかしら。

エピローグではアリオス＝アレクサンドルになってて、見たときは吹いた。やりやがったなあ、勇者さま。よくやった。２巻と３巻の間では一年以上連絡とってなかったのに、とだけ皮肉っといてあげようｗ







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