【最強ポーター令嬢は好き勝手に山で遊ぶ ~「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた~1】 富士 伸太／みちのく. MFブックス
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絶景かな、異世界の山! ポーター令嬢のおもしろ登山伝記♪
貴族令嬢のカプレーは、婚約破棄をきっかけに、前世の自分が登山中崖崩れに巻き込まれて死んだ日本人であったことを思い出した。新しい人生では、おもいっきり登山を楽しむことにした彼女は、相棒のマーガレットと異世界の山の制覇を目指す。この世界の山には危険な魔物が存在し、屈強な冒険者でなければ攻略できない。だが、前世の知識や登山スキルを持つカプレーにとっては、魔物を避けて登山をすることなど簡単だった。カプレーは登山用品の開発をはじめ、山小屋グルメや温泉を楽しみながら名山、霊峰、危険な山々に挑戦していく。
やがて、彼女の活躍は知らぬ間に異世界の人々を驚かせ、彼女はいずれ語り継がれるような伝説の聖女になっていて――!?
登って、食べて、笑う! ポーター令嬢の異世界登山伝記♪
登山はそんな簡単なことじゃないよ。というのを作中でオコジョことカプレー嬢がそれはもうあらゆるシチュエーションで語っている上に、魔物についてもオコジョには一切戦う能力がないので非常に気をつけているので、楽勝とは程遠いんだよなあ。
そのうえで、山に登るということの楽しさを全身全霊で伝えてくるお話でした。
という感じであらすじはなんか妙にズレてる気がするんだが、それを言うとタイトルの最強ポーターってのも何が最強なんだろうってなもんなんだけど。
登山である。
マンガほどじゃないけれど、色んな趣味趣向職業をテーマにしたお話を送り出してきたライトノベル界隈ですけれど、本格的な山登りをメインとした作品はさすがにお初ではなかろうか。
異世界登山である。
作者は【人間不信の冒険者たちが世界を救うようです】や【バズれアリス】の富士伸太さん。御本人もこれ山は実際に登ってる人なんでしょうね。コメントなどからも伺えます。
それでね、またこの情景描写、頂上まで登りきったシーンでの圧倒的な風景、景色の描写がもう凄いんだわ。鮮烈と言っていい、心に焼き付くようなパノラマが目の前に広がるような描写なんですよ。
富士さんって、他のシリーズである【バズれアリス】や【ウィッチ・ハンド・クラフト】などでもそういう思わず読んでて呆けてしまうような、絶景のシーンがあってもうすごく印象に残っているのだけれど、その原点を垣間見たような気がします。実際に山に登っている作者さんだからこその、実感が伝わってくるような圧倒的な自然の絶景。そして、その只中に居てその光景を見ている人の心の震え、感動の描写こそが、その場面に文字から五感全部を痺れさせるようなシーンを描ける筆力に繋がってるんでしょうなあ。
タタラ山の山頂に登山巡礼初めてのマーガレットと二人で登りきったとき。そして一夜明けてご来光を二人で眺めたシーン。サイクロプス峠の絶壁でニッコウキスゲと二人で見下ろす世界の風景。
素晴らしい景色、魂奪われる絶景。でも景色が綺麗だけなんじゃないんですよ。そこにたどり着くまでの道程、そしてその光景を目の前にしたときの達成感と圧倒的な感動、一緒にやり遂げた同行者との共感のような戦友となったような、心のコネクト。そして、今までの自分を打ち破って新しい道に、境地に向かえる意思を掴み取ったような、終わりじゃなくて次を思い描く期待と希望。
もう溢れんばかりの気持ちが湧いてきて、それを一人で噛みしめるばかりじゃなく、一緒にやり遂げた仲間とその関係性を織り交ぜた形だけれど、心をさらけ出してぶつかり合うような感情や想いの高まりが、その圧巻の絶景と相まってもうなんか凄い光景として焼き付いていくんですよねえ。
たまらんです。
さても、主人公のカプレーは婚約者から「どこにでもいるつまらない女」と貶されて婚約を破棄されてしまいます。
まあ見ていればわかるのですが、こんな女がどこにでも居てたまるか！！ という話なんですが、これに関しては婚約者だったケヴィンと性格がとことん合わなかった、というのが大きいのでしょう。性格の不一致、というやつである。
この子が面白いというか凄えのは、そんな婚約者のケヴィンが浮気して実質カプレーから寝取った形になるマーガレット嬢が、騎士団長の娘だと知ったことで、今後の登山計画に必要な道具類、差し当たってはトレッキングシューズを、色々と装備品に伝手があるだろうマーガレットに賠償代わりに用意してもらおう。というか職人に顔つなぎしてもらおう、と迫った所なんですよね。
まあこの時点では、金銭の代わりに変な要求はするにしても、婚約を台無しにした賠償を相手の女に要求する、というのは変な形ではあっても珍しくはない。
ところがこのマーガレット嬢、気は強いしケヴィンとも話が合う陽キャだし、というキャラなんだけれど、カプレーの未踏峰である天魔峰を制覇する、という夢を文句は言いつつも笑わず、文句は言いつつも道具の開発も自家の専属職人である大叔父に頼んで、しかも任せっきりにせず一緒にカプレーの非常に細かい要求にも、文句は言いまくるんだけれど、拒絶せずしっかり聞きながら一緒に開発してくれたわけです。
本来なら、自分の夢を嘲笑うだろうマーガレットへの負の感情を燃料に焚べて、今後の登山計画を進めていこう、とわりと陰気なことを考えていたカプレーにとって、実際のマーガレットの真摯に話を聞いてくれる態度ってのは霹靂だったんですよね。
ある意味、ここが本当にターニングポイントで、もしマーガレットがカプレーの想定通りのいけ好かない女だったら、カプレーの登山巡礼の人生は最後までたった独りで突き進む孤独なものだったかもしれない。でも、そうはならなかった。
マーガレットにとっても、この時のカプレーとの出会いはそれまでの貴族令嬢としての責務に従順に従い、ただ言われるがままの自由のない何も成し遂げられない人生を、もう諦めて受け入れていた彼女への激震でした。
全く自分が想像もしなかった自由の道を歩もうとしている女との遭遇であり、全く見知らぬ価値観との遭遇であり、でもまだ最初の時点では自分とは関係ない、羨ましくも遠い人の話であった、はずでした。
そんな優秀さと裏腹に自分に全く自信を持たず諦めているマーガレットを、カプレーはなんだかもうすごく気に入らなくて、そんなマーガレットが許せなくて、彼女とその大叔父が要求通りかそれ以上のクオリティで作ってくれた登山靴と各所道具類を携えて、マーガレットを連れて実地で体験とばかりにタタラ山と呼ばれる近隣の名所……高尾山みたいなやつですな。への登山に連れ出すのでありました。
そこでマーガレットは様々な体験をします。足が弱く社交界で歩き回るのが辛かった自分が、カプレーの指導があったにせよ足を痛める事もなく、頂上まで登りきれたこと。尊敬する大叔父といっしょに作った登山靴や杖などの道具類がカプレーの要求を満たし、自分のような未経験者でも十分使いこなせるプロの仕事をやり遂げた事を自分自身で実感し証明できたこと。
そして、自分で歩いてこなければ絶対に見ることのできない世界を、自分の目で自分の足で、肌で、鼻で、ついでに山頂で味わうご飯の味なんかも味わったこと。感じたこと。
それは達成感であり、自分への自信であり、カプレーが教えてくれた……行こうと思うならどこまでだってたどり着けるんだ、という確信。
同時に、カプレーが目指す天魔峰の登頂がまさに前人未踏の、帰ってくる保証なんて欠片もないとてつもない難行だということも、それをこの女はどうあっても挑むんだろうということを、理屈じゃなく確信として受け入れるのでありました。
だからこそ、マーガレットは自分のやるべきこと、やりたいことをここで見つけるんですね。
こいつが生きて帰ってくるように、自分が装備を整えてやる。自分が支えてやるんだ、と。
もう、このあたりの二人の関係がめちゃくちゃ尊いんですよ。涙出そうになるほど。
お互いに相容れない関係からはじまった二人のはずなのに、お互いにもう認めざるを得ないほどに友達になってて、それ以上の唯一無二のナニカになっていく姿が。それを認識してしまって、憤懣遣る瀬無いんだけれど、なっちまったんだからどうしようもない、という憤ってるような嬉しいような。
そんなどうしようもない親友同士に、二人はなるのである。
それは、カプレーにとって帰るべき場所が出来た、って事でもあったんですよね。婚約者との縁も切れて、両親も亡くなっている今、彼女を地上に繋ぎ止める錨は完全に外れていて、きっとそのままならこの子はいつか山に登ったまま未練なく帰ってこなくなってしまう、そんな予感すら感じさせるふわふわとした自由さが、最初の彼女にはどこか垣間見えてたんですよね。
でも、あとで最初の無殺生巡礼を成功させたとき、カプレーはまっさきに矢も盾もたまらずもう夜中だってのに、貴族の邸宅であるマーガレットの部屋にこっそりと忍び込むまでして、会いに行っちゃうんです。やってやったぞ、ついに夢に至る道の一つを駆け抜けた、成功させた、やり遂げた。その事実を、どうやって成功させたのかを話したくて、一緒にやってのけた仲間のことを教えたくて、まっさきにマーガレットに伝えたくて。
いつだって冷静で感情を表に出すのが下手くそで、淡々とした口ぶりが癖になってて、そんな彼女が興奮のままに我慢できずに息を切らして、マーガレットのもとに窓から忍び込んで突撃してくるわけですよ。
んで、わーーーっとまくし立てて話したと思ったら、コテンと疲れを思い出したかのように、人の部屋のベッドで寝ちゃうわけです。もう散々文句を言いながら、そんな親友を追い出すこともなく、一緒のベッドで寝ちゃうわけですよ、この子ってば。
たまんなくないですか、この関係って。
そもそも、この二人って、婚約者を寝取られた女と寝取った女という不倶戴天となるはずの二人なんですよ？ それがこれじゃあ、婚約者を寝取られたヒロインが、婚約者を奪った女を元婚約者から寝取ったった。という……んん？ どういうこと？ というかなり錯綜した顛末になってるんですよね。
ちょっとなかなか他に類を見ない面白い関係であります。
この世界、山に登るという事に関して非常に宗教的な意味合いを見出していて、実際に実益も必要性もあって、山の頂にある祠で祈ることは巡礼として非常に尊ばれています。それを基本設定として、山登りが世界のあり方に馴染んでいる世界として非常に構造が寝られてるんですよねえ。
無殺生巡礼、という魔物を殺さずに巡礼を成功させること、という設定がまた単純な登山行で収まらないお話としての面白さを、作品のなかでふくらませる要素になっていて、これがまたいいんですよ。
最初のサイクロプス峠への挑戦なんかは、最初であるからこそその難行のクリア方法への発想がまた合理的にぶっ飛んでて、面白いんだわ。
その過程で、戦う力のない巡礼者たちを警護する役割を担っている冒険者たちのなかで、この世界ではまだ突拍子もない、誰もやったことのないやり方で山に登っていくカプレーについてきてくれる仲間が出来るわけですが。
彼ら、ニッコウキスゲとツキノワにとっても、自由を求めていたのにどこにも行けなくなっていた自分が、どこまでも行ける、世界は楽しく面白いものだというのを思い出させてくれる出会いになっていくのです。
登山ってのは修行とか信仰とか精神修養の側面もあるかもしれないけれど、でもカプレーはワクワクするから、楽しいからやる。登山ってのは、楽しんだよ、ってのを何よりも伝えてくれる、素敵なお話でありました。
ちなみに、彼ら途中からお互いをあだ名で呼び始めるんですけれど、カプレーはオコジョ。マーガレットはカピバラ。冒険者のジュラはニッコウキスゲ。あとフェルドはツキノワ、って感じで。
でも、ニッコウキスゲだけはちょっと名前長すぎるんで、絶対呼ぶとき短縮して呼んでるだろ、と思うんですよね。
しかも後半なるともうあだ名でしか呼ばなくなるので、みんな本名の方書籍版読むまで完全に忘れてたわｗ
プロローグとエンディングはこれ完全書き下ろしですね。特にプロローグは、未来のお話をしているのかと思ったら実際に未来の話しなんだけれど、これ登山靴のCM（コマーシャル）になってるや無いかい！
でも、エピローグで紹介されている「オコジョ＆カピバラ」のお店のブランド・ロゴマークがまためちゃくちゃかわいくて、いやマジで可愛いな！！ ……なんか凄い好きになるデザインなんですけど。
そのうえで、山に登るということの楽しさを全身全霊で伝えてくるお話でした。
という感じであらすじはなんか妙にズレてる気がするんだが、それを言うとタイトルの最強ポーターってのも何が最強なんだろうってなもんなんだけど。
登山である。
マンガほどじゃないけれど、色んな趣味趣向職業をテーマにしたお話を送り出してきたライトノベル界隈ですけれど、本格的な山登りをメインとした作品はさすがにお初ではなかろうか。
異世界登山である。
作者は【人間不信の冒険者たちが世界を救うようです】や【バズれアリス】の富士伸太さん。御本人もこれ山は実際に登ってる人なんでしょうね。コメントなどからも伺えます。
それでね、またこの情景描写、頂上まで登りきったシーンでの圧倒的な風景、景色の描写がもう凄いんだわ。鮮烈と言っていい、心に焼き付くようなパノラマが目の前に広がるような描写なんですよ。
富士さんって、他のシリーズである【バズれアリス】や【ウィッチ・ハンド・クラフト】などでもそういう思わず読んでて呆けてしまうような、絶景のシーンがあってもうすごく印象に残っているのだけれど、その原点を垣間見たような気がします。実際に山に登っている作者さんだからこその、実感が伝わってくるような圧倒的な自然の絶景。そして、その只中に居てその光景を見ている人の心の震え、感動の描写こそが、その場面に文字から五感全部を痺れさせるようなシーンを描ける筆力に繋がってるんでしょうなあ。
タタラ山の山頂に登山巡礼初めてのマーガレットと二人で登りきったとき。そして一夜明けてご来光を二人で眺めたシーン。サイクロプス峠の絶壁でニッコウキスゲと二人で見下ろす世界の風景。
素晴らしい景色、魂奪われる絶景。でも景色が綺麗だけなんじゃないんですよ。そこにたどり着くまでの道程、そしてその光景を目の前にしたときの達成感と圧倒的な感動、一緒にやり遂げた同行者との共感のような戦友となったような、心のコネクト。そして、今までの自分を打ち破って新しい道に、境地に向かえる意思を掴み取ったような、終わりじゃなくて次を思い描く期待と希望。
もう溢れんばかりの気持ちが湧いてきて、それを一人で噛みしめるばかりじゃなく、一緒にやり遂げた仲間とその関係性を織り交ぜた形だけれど、心をさらけ出してぶつかり合うような感情や想いの高まりが、その圧巻の絶景と相まってもうなんか凄い光景として焼き付いていくんですよねえ。
たまらんです。
さても、主人公のカプレーは婚約者から「どこにでもいるつまらない女」と貶されて婚約を破棄されてしまいます。
まあ見ていればわかるのですが、こんな女がどこにでも居てたまるか！！ という話なんですが、これに関しては婚約者だったケヴィンと性格がとことん合わなかった、というのが大きいのでしょう。性格の不一致、というやつである。
この子が面白いというか凄えのは、そんな婚約者のケヴィンが浮気して実質カプレーから寝取った形になるマーガレット嬢が、騎士団長の娘だと知ったことで、今後の登山計画に必要な道具類、差し当たってはトレッキングシューズを、色々と装備品に伝手があるだろうマーガレットに賠償代わりに用意してもらおう。というか職人に顔つなぎしてもらおう、と迫った所なんですよね。
まあこの時点では、金銭の代わりに変な要求はするにしても、婚約を台無しにした賠償を相手の女に要求する、というのは変な形ではあっても珍しくはない。
ところがこのマーガレット嬢、気は強いしケヴィンとも話が合う陽キャだし、というキャラなんだけれど、カプレーの未踏峰である天魔峰を制覇する、という夢を文句は言いつつも笑わず、文句は言いつつも道具の開発も自家の専属職人である大叔父に頼んで、しかも任せっきりにせず一緒にカプレーの非常に細かい要求にも、文句は言いまくるんだけれど、拒絶せずしっかり聞きながら一緒に開発してくれたわけです。
本来なら、自分の夢を嘲笑うだろうマーガレットへの負の感情を燃料に焚べて、今後の登山計画を進めていこう、とわりと陰気なことを考えていたカプレーにとって、実際のマーガレットの真摯に話を聞いてくれる態度ってのは霹靂だったんですよね。
ある意味、ここが本当にターニングポイントで、もしマーガレットがカプレーの想定通りのいけ好かない女だったら、カプレーの登山巡礼の人生は最後までたった独りで突き進む孤独なものだったかもしれない。でも、そうはならなかった。
マーガレットにとっても、この時のカプレーとの出会いはそれまでの貴族令嬢としての責務に従順に従い、ただ言われるがままの自由のない何も成し遂げられない人生を、もう諦めて受け入れていた彼女への激震でした。
全く自分が想像もしなかった自由の道を歩もうとしている女との遭遇であり、全く見知らぬ価値観との遭遇であり、でもまだ最初の時点では自分とは関係ない、羨ましくも遠い人の話であった、はずでした。
そんな優秀さと裏腹に自分に全く自信を持たず諦めているマーガレットを、カプレーはなんだかもうすごく気に入らなくて、そんなマーガレットが許せなくて、彼女とその大叔父が要求通りかそれ以上のクオリティで作ってくれた登山靴と各所道具類を携えて、マーガレットを連れて実地で体験とばかりにタタラ山と呼ばれる近隣の名所……高尾山みたいなやつですな。への登山に連れ出すのでありました。
そこでマーガレットは様々な体験をします。足が弱く社交界で歩き回るのが辛かった自分が、カプレーの指導があったにせよ足を痛める事もなく、頂上まで登りきれたこと。尊敬する大叔父といっしょに作った登山靴や杖などの道具類がカプレーの要求を満たし、自分のような未経験者でも十分使いこなせるプロの仕事をやり遂げた事を自分自身で実感し証明できたこと。
そして、自分で歩いてこなければ絶対に見ることのできない世界を、自分の目で自分の足で、肌で、鼻で、ついでに山頂で味わうご飯の味なんかも味わったこと。感じたこと。
それは達成感であり、自分への自信であり、カプレーが教えてくれた……行こうと思うならどこまでだってたどり着けるんだ、という確信。
同時に、カプレーが目指す天魔峰の登頂がまさに前人未踏の、帰ってくる保証なんて欠片もないとてつもない難行だということも、それをこの女はどうあっても挑むんだろうということを、理屈じゃなく確信として受け入れるのでありました。
だからこそ、マーガレットは自分のやるべきこと、やりたいことをここで見つけるんですね。
こいつが生きて帰ってくるように、自分が装備を整えてやる。自分が支えてやるんだ、と。
もう、このあたりの二人の関係がめちゃくちゃ尊いんですよ。涙出そうになるほど。
お互いに相容れない関係からはじまった二人のはずなのに、お互いにもう認めざるを得ないほどに友達になってて、それ以上の唯一無二のナニカになっていく姿が。それを認識してしまって、憤懣遣る瀬無いんだけれど、なっちまったんだからどうしようもない、という憤ってるような嬉しいような。
そんなどうしようもない親友同士に、二人はなるのである。
それは、カプレーにとって帰るべき場所が出来た、って事でもあったんですよね。婚約者との縁も切れて、両親も亡くなっている今、彼女を地上に繋ぎ止める錨は完全に外れていて、きっとそのままならこの子はいつか山に登ったまま未練なく帰ってこなくなってしまう、そんな予感すら感じさせるふわふわとした自由さが、最初の彼女にはどこか垣間見えてたんですよね。
でも、あとで最初の無殺生巡礼を成功させたとき、カプレーはまっさきに矢も盾もたまらずもう夜中だってのに、貴族の邸宅であるマーガレットの部屋にこっそりと忍び込むまでして、会いに行っちゃうんです。やってやったぞ、ついに夢に至る道の一つを駆け抜けた、成功させた、やり遂げた。その事実を、どうやって成功させたのかを話したくて、一緒にやってのけた仲間のことを教えたくて、まっさきにマーガレットに伝えたくて。
いつだって冷静で感情を表に出すのが下手くそで、淡々とした口ぶりが癖になってて、そんな彼女が興奮のままに我慢できずに息を切らして、マーガレットのもとに窓から忍び込んで突撃してくるわけですよ。
んで、わーーーっとまくし立てて話したと思ったら、コテンと疲れを思い出したかのように、人の部屋のベッドで寝ちゃうわけです。もう散々文句を言いながら、そんな親友を追い出すこともなく、一緒のベッドで寝ちゃうわけですよ、この子ってば。
たまんなくないですか、この関係って。
そもそも、この二人って、婚約者を寝取られた女と寝取った女という不倶戴天となるはずの二人なんですよ？ それがこれじゃあ、婚約者を寝取られたヒロインが、婚約者を奪った女を元婚約者から寝取ったった。という……んん？ どういうこと？ というかなり錯綜した顛末になってるんですよね。
ちょっとなかなか他に類を見ない面白い関係であります。
この世界、山に登るという事に関して非常に宗教的な意味合いを見出していて、実際に実益も必要性もあって、山の頂にある祠で祈ることは巡礼として非常に尊ばれています。それを基本設定として、山登りが世界のあり方に馴染んでいる世界として非常に構造が寝られてるんですよねえ。
無殺生巡礼、という魔物を殺さずに巡礼を成功させること、という設定がまた単純な登山行で収まらないお話としての面白さを、作品のなかでふくらませる要素になっていて、これがまたいいんですよ。
最初のサイクロプス峠への挑戦なんかは、最初であるからこそその難行のクリア方法への発想がまた合理的にぶっ飛んでて、面白いんだわ。
その過程で、戦う力のない巡礼者たちを警護する役割を担っている冒険者たちのなかで、この世界ではまだ突拍子もない、誰もやったことのないやり方で山に登っていくカプレーについてきてくれる仲間が出来るわけですが。
彼ら、ニッコウキスゲとツキノワにとっても、自由を求めていたのにどこにも行けなくなっていた自分が、どこまでも行ける、世界は楽しく面白いものだというのを思い出させてくれる出会いになっていくのです。
登山ってのは修行とか信仰とか精神修養の側面もあるかもしれないけれど、でもカプレーはワクワクするから、楽しいからやる。登山ってのは、楽しんだよ、ってのを何よりも伝えてくれる、素敵なお話でありました。
ちなみに、彼ら途中からお互いをあだ名で呼び始めるんですけれど、カプレーはオコジョ。マーガレットはカピバラ。冒険者のジュラはニッコウキスゲ。あとフェルドはツキノワ、って感じで。
でも、ニッコウキスゲだけはちょっと名前長すぎるんで、絶対呼ぶとき短縮して呼んでるだろ、と思うんですよね。
しかも後半なるともうあだ名でしか呼ばなくなるので、みんな本名の方書籍版読むまで完全に忘れてたわｗ
プロローグとエンディングはこれ完全書き下ろしですね。特にプロローグは、未来のお話をしているのかと思ったら実際に未来の話しなんだけれど、これ登山靴のCM（コマーシャル）になってるや無いかい！
でも、エピローグで紹介されている「オコジョ＆カピバラ」のお店のブランド・ロゴマークがまためちゃくちゃかわいくて、いやマジで可愛いな！！ ……なんか凄い好きになるデザインなんですけど。
