【気弱令嬢に成り代わった元悪女 01】 白猫 ／八尋 八尾 エンターブレイン
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“毒”使いの元悪女×やりなおし逆転劇! 書き下ろし短編2本収録!
幽閉された屋敷から、表舞台に返り咲く!
帝国歴144年、帝国内で起こった毒殺事件にかかわっていたことで稀代の悪女として生涯を終えたアリアドネ・ベルネットであったが、目を覚ますとそこは二十年後の帝国。
気弱で内気なアリアドネ・フィルベルン公爵令嬢に成り代わっていた――。
12歳で自ら命を投げ出した彼女の日記にはフィルベルン公爵家の”闇”が綴られていた。
貴女の気持ちが痛いほど分かるわ、アリアドネ――。
彼女の無念を晴らすため、アリアドネ・フィルベルンとして生きていくことを決意する。
同じ名を持つ、正反対のふたりが共につかむ幸せとは!
おおぅ、これ前世での弟で今は国王の側近を務めているクロードが……気持ち悪いぞｗ
いやあ、前世での様子を見ている限りでは、姉に疎まれながらも姉のその堂々とした振る舞いと努力を惜しまない勤勉なところなどから密かに尊敬して、慕っていた、というくらいの塩梅に見えたのに。
２０年を経て１２歳の少女フィルベルン公爵家の長女として目を覚ましたアリアドネの前に現れたのは、亡き姉を超絶美化して今もずっと姉に想いを馳せているシスコンを拗らせまくったアラフォー男子（独身
まあ慕っていた姉アリアドネをあんな形で喪ってしまったのだから、姉への思慕が変な形に歪んでしまってこびりついて取れなくなってしまったんだろうなあ、というくらいに思ってたんですよね。
少なくとも、アリアドネの中の人が２０年前に殺された姉の人格だと気づくまでは。
……いや、普通気づかんて。
そのあたりまでは、まだ亡き姉について身近な人に暇さえあれば語って聞かせていたり、姉の思い出に耽っていたり、姉を守れなかったことへの後悔に沈んだり、こうしたら姉は褒めてくれるだろうか、などと姉ベースに考え込んだり……いや、この時点でもうだいぶ気持ち悪いな。
とはいえ、まだこう……大切だった故人への想いをいつまでも胸に刻んでいる陰のある男性、という感じではあって、むしろ陰影のある色気を持つ男性キャラとして描かれるようなタイプのはずなんですが。
ちなみに、アドリアネの方はクロードの事を、妾の子のくせに男だからって父親が後継者として連れてきて自分の立場を奪おうとしているやつだから、排除してやる！ と、ずっと意地悪していたつもりだし、最終的には自分で作った毒で抹殺してやるつもりでずっと敵視していたので、クロードが亡くなった姉のことを食い気味に「慕っていました！」とどこか恍惚と語る姿を目の当たりにして、ギョッとしていました。
……この時点でもだいぶヤバいよな。
ともあれ、クロードの能力有能さについては前世の頃から最大限認めていましたし、２０年経った今も国王の側近として名を知らしめていましたし、前世でも最終的に自分を陥れた父親たちの悪事の証拠を弟に託したように、自分にとっては敵ではあっても時勢を読めるし人間的にも信頼できる相手としては受け入れていたので、今世でも真っ先に彼を頼ることはアリアドネも考えていたんですね。
まさかこんなに情熱的に、或いは偏執的に慕われていたとは想像もしていなかったみたいですけれど。
一応前世のアリアドネと紐づけるようなヒントは残していたとはいえ、本当にクロードが自分が姉の生まれ変わりだと気づくとは思わんですよ。ってか、普通信じませんって。多少は疑いますって。
ほんと、多少は疑えよ！ この弟、躊躇なく信じたぞ！？
信じて、なんかテンションマックスの有頂天になってません、この侯爵様ｗ
ヒャッハーー、姉さまの復活だーー！ と、ばかりに。なんか目をキラキラさせてないですか、このアラフォー。
あんまりにもすごい勢いで、姉の言うことなら何でも聞くしやってのけてやるぜ、な感じで味方してくれるクロードの前のめりさに、なんかもうこのままの勢いで姉に求婚でもするんじゃないか、とすら思ったり。いやだって、今のアリアドネはクロードとは一切血縁関係ありませんからね。相手がまだ１２歳くらいと、年齢がネックですけれどクロード自身は独身ですし、今のアリアドネは国の中でも名門とされる公爵家の長女。なんなら、今のクロードが当主を務めている侯爵家は元々中継ぎ当主として本来の侯爵家の血筋である養子のテオドールが適正年齢になったら継がせる予定でしたし、そっちはテオドールに任せてクロードは公爵家の方に婿入りという形にしてしまえば、仕える国王の権勢も増しますし……て、そうかフィルベルン公爵家はちゃんと正当な後継者がいたんでしたっけ。それも身分を隠して今はクロードの部下になっている、アリアドネにとって従兄にあたる人物が。
まあ政治的にクロードが今は年下になってしまった愛しのお姉様を娶るのは難しそうなのですが、元よりクロード当人にはそんなつもりはないようで、自分の義理の息子であるテオドールがアリアドネに思慕の念を抱いていることを、むしろ積極果敢に応援しているようでもあるんですよね。積極果敢すぎて、ええいまどろっこしい自分が嫁にする！と言い出さないか心配になるくらいの前のめりさで。
いやまじで大丈夫か、この弟。ほんとに言い出さないだろうな。
なんか、この弟の情緒が今どういう状態になっているのか、どういう心境に、境地に至っているのかもう想像できないｗ
愛しい姉上が自分の義理の娘になる、という関係性に変な倒錯的な情念を抱いていないだろうな、こやつｗ
さて、肝心のアリアドネ嬢ではありますが、目を覚ます前の今世の彼女は元々タイトルにもあるように気弱で言いたいことをはっきりと言えずに、しかし親からの愛情を求めてじっと耐えていた子であるようでした。あとでわかるんですけれど、相当に理不尽な言いがかりみたいな理由で両親から疎まれてるんですよね。この両親がクズ以外の何者でもないのですが。
結局、現状に耐えきれずに命を絶ってしまったアリアドネに成り代わった姉アリアドネ。こっちの姉上は、親の愛情を求めて得られなかったという境遇こそ一緒ですけれど性格の方はというといっそ強烈と言っていいほど強気。だから、これまで言いたいことも言えずにじっと耐えるばかりだった元のアリアドネに代わって、家族からの理不尽に立ち向かっていくのでありました。
そうしたら、ついに反抗的な娘に対して黙って言う事を聞かないのなら殺してしまえ、と謀殺まではかって来やがりましたよ、この無能父親。
元々、両親に言われるとおりに我儘に振る舞っていた妹のセレネが、アリアドネに対しても貴族の令嬢としてちゃんと振る舞いなさいと叱ってくる姉に反抗的で、両親や兄のマネをして見下していたのですが、物事をはっきりと言うようになったアリアドネに対して理屈も論理も通らない理不尽な対応をしてばかりの両親に不信を抱きだし、遂には姉を殺してしまおうというあんまりにもあんまりな行動に、幾らなんでもこれはおかしい、異常だぞ、と気づきだすんですね。
自分たちの都合の良いように言うことを聞くように、という目的を優先した両親による教育にとって、愚鈍となるよう育てられてきたセレネだったのですが、素地が違ったのでしょうね。一旦、おかしいと気づくと自分を本当に心配しているのは、自分の事を思って厳しいことを言ってくれていたのは姉の方だ、という事実に自力でたどり着くんですね。
そうやって客観的に両親の言動を見ていると、もう妄言しか吐いていないんですよ、この両親。これはダメだ、この人たちはだめだ、と理解し実感し、完全に失望したセレネは一転アリアドネ側に転向するんですね。
転向というと言葉の響きが悪いかもしれませんけれど、本当の愛情に辿り着いたというべきか。
姉さまは、ちゃんと謝ってまっすぐに慕ったらそれ以上の愛情を注ぎ返してくれて、子供というアクセサリーとしてではなく、セレネという一個人をちゃんと愛してくれる人は誰なのか、という事をこのまだ１０歳にも満たない幼い少女は聡くもわかり得るんですなあ。
なかなかこの段階で、主人公を虐げる家族という立場から、主人公の唯一無二の家族として目一杯愛情を注がれる立場になる、というのは珍しいんじゃないでしょうか。たまにありますけどね、痛い目見て改心して、というパターン。ただこれくらい幼い子が、自分の当たり前と思って受け入れていた境遇に異常を感じて、自分から離れようとする、というのは中々……。
ここから一気に、幼いながらも賢く聡明でアドリアネの妹に相応しい賢妹ってキャラになりましたしねえ。このセレネなら年の近いテオドールともお似合いになりそうだったんだけれど、テオドールはアリアドネの方にご執心なんですね、これ。セレネも一応応援しているみたいですし。
むしろこれ、今の公爵家の面々が悪事の露見で処罰されたあとにフィルベルン公爵家を継ぐことになるだろうエリックの方に縁がありそうな予想も立てられますねえ。こっちもだいぶ年の差ありますけれど、従兄弟同士で継承の正当性の強化にも繋がりますし。今からお兄様と慕っている感じからして、将来ちょっと楽しみじゃないですか。
Ａｍａｚｏｎ
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