【死神公女フリージアは、さよならを知らない】 綾里 けいし／藤実 なんな 角川スニーカー文庫
Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMM
死神は人と繋がり恋することで――最期にすべてを理解した
「私は人が生き抜いた末の『死』が観たい。その果てに、なにが遺るのかを」
『死』を学ぶためだけに現世を旅をする死神がいる。死神公女フリージア・トルストイ・ドルシュヴィーア。
異世界の中でも高位な存在であり、現世の『死』を知りたいと願った彼女は、付き人である少年、《人の死期がわかる》異能を持つ黒朗夏目と、様々な人間の『死』を看取る旅をする。
寿命という概念と無縁だから、人間と親しくなったことがないから気付かなかった、抗いようのない一つの事実。
彼女がそのことに気付く、その刻まで――旅は続く。
フリージアさまは人の心がわからない系人外である、という所から始まる話なのかと思ったら、そんな事全然ないじゃないか。めっちゃ情が深くて喜怒哀楽の豊かな人外じゃないか。
生き抜いた人の死を収集する。そんな死を学ぶ旅を続けるお話ですからして、この物語には人間の最期が幾つも描かれ、短編集のようになっている。
それだけに、作品全体がしっとりとした雨に濡れるような哀切に満ちた雰囲気なのかと思ったら、フードファイター・フリージアとそんな彼女を抑えるでも諌めるでもなく、後ろでヤンヤと囃しているような愉快系付き人の黒朗夏目。彼らは自分たちが観測する死に引きづられて重くなることもなく、軽快に楽しげに世を渡っていく。それでいて、観測対象にふざけた態度は取らないしその死に向き合う姿勢は真摯だから、ふざけた雰囲気にはならない。
……いや、若干物語の舞台そのものがふざけてた話も一話ありましたけどさ！！
彼らは観測者だから、同情的でも共感的にもならず、見守る人々の生き様と終わり様をフラットに眺めている。でも不思議と突き放したような感じではなくて、善しとも悪しとも断じるでもなく、ただあるがままに終わりゆく人々の意思を見守っている。だからだろうか、死を目前にした人たちはフリージアたちにその想いを語ってくれるんですね。それは正しく、死を看取ってくれる死神という存在のあり方だったのかもしれない。
でも、フリージアは人が生き抜いた末の死を、どう捉えたらいいのかわからない。
何も感じないわけじゃないんですよ。人の心がわからないわけじゃない。あらすじには人間と親しくなったことがなかったから、なんて書かれているけれど、実のところそんな事は全然なかったんですよね。
むしろ、親しくなった人の死を見送ってきたからこそ、彼らがどうして死を受け入れていったのかを、死を遠ざける自分の提案を退けて、自分と別れることを選んだのか。彼女がわからなかった死とは、そんな彼らの思いの所以だったのではないでしょうか。簡単に死を覆せる死神である彼女にとって、死とは軽いもののはずだったのに。大事な人ほど、彼らは自分の力を頼らずに死んでいってしまった。
彼女はさよならを知らなかったんじゃない。さよならと言えなかった。別れを認めたくなかった。悲しみを受け入れたくなかったから、現世に逃げ出してきて……それでも、あの愛しい人たちにさよならを言いたかったから、人の生き抜いたうえでの死の受容、その意味を知りたかったから、この現世でもう一度それを探し始めた。
人の死を予知できるという黒朗を相棒にして。
でも、死ばかり見つめていては暗くなるばかり。停止に、終わりに引きずり込まれてしまう。だから、フリージアと黒朗がやたらと楽しそうに、人生を謳歌するようにして、食べ歩きして回っていたり、ひたすら食べてまわったり、ってかこの死神公女食べてばっかりだな！！ そして、せっせとそのお世話をする黒朗くん。美味しそうに食事する美少女を愛でるのは、何よりの幸せってやつですか？！
でも、パスタを食べるどころか啜るどころか、飲んでる美少女は鑑賞に耐えうるのだろうか。まあ見てて面白いのは間違いないｗ
というわけで、この二人ずっと楽しそうなんですよね。生きることは楽しいことだ。そんなふうに生きたからこそ、生き抜いたからこそ、その終わり方に納得できる。少なくとも、彼ら二人はそんな風に自分たちの時間を意味づけたんじゃないでしょうか。
さよなら、さよなら、またいつか。
果たして、フリージアがさよならを言ったかはわからないけれど、でもさよならの意味はもう知っている。
普段なら３，４巻くらい続きそうなシリーズなんですけれど、今回はすっぱりと読み切りで一巻完結。でも、フリージアと黒朗のカップルが本当にいい感じで楽しげだったんで、もっと長く見ていたかったなあ、と名残惜しむくらいには好きになっていました。
あと、この二人はポップで賑やかなんだけれど、それぞれの死にまつわる話自体は大半が悲劇であったりと痛切な物語なんですが、なんか途中に突然爆発オチネタの話がぶっこまれてきたのは、あれズルくないですか！？ 一話一話、フリージアが死の重さを実感していく中に唐突に挟まれる、なんかよくわからんどないしたらええねんこれ！？ という意味不明のボケ死。
かつてないほどたくさん死にまくった話でもう大量殺戮なのに、思わず笑っちゃったじゃないですかｗ
こういうネタ話にも関わらず、この話だけ浮いていないのは、それだけフリージアと黒朗がわりと変わらないノリで掛け合いしてたからなんでしょうね。強度強いカップルでありました。
もう少し続いてくれたら、この二人の恋の始まりの所以とか、その後のイチャイチャっぷりも拝めたんじゃないかなあ、とやっぱりちょっと惜しい気持ちに。でも、ハッピーエンドだから良き良き。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
