徒然雑記 : パルパネルは再び世界を救えるのか　★★★☆

【パルパネルは再び世界を救えるのか】　十文字青／しおん MF文庫J

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長い旅の末、勇者は魔王をぶち殺しました。物語のはじまりはじまり──

たった一人で魔王討伐を果たした勇者だが、その表情は浮かない。一体何が? 光を失いし天使と一匹の蛙とともに勇者が送るスローライフの実態とは? 勇者が直面する突然の求婚。麗しき薔薇の王子の企て。果たして勇者は再び世界を救うことになってしまうのか――

登場:救世の勇者パルパネル/西の王/霊王アルダモート(蛙)/大巨人ディガノール/天使/神/アダツミ/神姫タラソナ/魔術師フォーネット/地底の王モザニ/シーディア/薔薇の王子ギャロ/デクスター/ウィアセント/魔女イルミナ

あらすじの登場人物列挙がなんだこれ、って登場「人物」じゃなくて登場だけだわ。明らかに人物じゃない召喚された存在みたいなのもいるしなあ。

救世の勇者パルパネル。魔王を倒したパルパネル。なんでこの人、勇者なんて肩書きで祭り上げられてたんだ？　ちょっとそこに至る過程が、大魔術師の弟子をやってた頃から勇者になるまでの過程が想像しづらいのだが。
彼は勇者というよりも、賢者じゃないかと思う。それも、作者の作品によく出てくるタイプの愚者たる賢者だ。愚かなほどに物事に対してついつい深く考え込んでしまうほどの賢者。
そして、夢だとか希望だとか正義だとか使命感なんてものにとんと縁のない人間である。さりとて野心とか欲望とか悪意や邪神に塗れた悪側の人間かというと、そんな事は全然ない。
言うなれば虚ろの人である。最初から何も持たず、何も積み上げず、何も残そうとしない、空っぽの人間だ。
それなのに、どうやら彼は少しだけ寂しがり屋らしい。そして、口では突き放しそっけなくするくせに、何も見捨てられない優しい人だ。
彼が命を賭してまで、自らの生存を軽々と放り捨てるまでの事をして魔王を倒したのは、善悪の区別など関係ない、ほんの少しの座りの悪さ、ほんの少しの優しさが発端で終端だったんじゃないだろうかと、この一冊の話におけるパルパネルのぶっきらぼうな情の厚さを見ていると、そう思ってしまった。

これは、魔王を倒したその後の勇者の物語である。勇者パーティーを組みながら、最終的に四天王も魔王もまとめてこっそり独行で倒してしまった勇者の、人知れず消えるだけだったはずの勇者の物語である。

魔王を倒したあと、勇者の姿を見たものはいない、ってのはドラクエ３の小説あたりが出典ですかね。それ以前にもあったのかもしれないけれど、胸に刻まれているのはそこなんだよなあ。
昨今、そんな勇者の物語のその後の、アフターの話を書く作品がちらほらと目に付く。そのコンセプト自体は昔からある王道ジャンルでもあるんですけどね。最近、大ヒットした作品があるので改めてスポットが当たってきている、というところか。
結局、パルパネルにとってその後の話なんてのは余分な話だ。本来なら、彼としてはそこで終わっていた話だったのだから。
でも、終わらないなら仕方ない。
魔王を倒した報奨とやらで、ついつい冗談で口にした不老不死を叶えられてしまったパルパネル。不老はまだ年月がさっぱり経っていないので実感するのも難しいが、少なくとも不死に関しては間違いないことが自分の身体で体験して確認している。
じゃあ仕方ない。続けていくしかない、というひどく消極的な動機でありあまる時間をどう消費していけばいいか、心底困りながらとりあえずやった事の無いことをやってみようと、なんでも出来るパルパネルは家を建てることにした。家は建てたことがないらしい。
もっとも、色々とトラブルが舞い込んできてさっぱり当初の目的である家を建てよう、は進展しないのだけれど。
長い長い人生のお供は、かつて自分が蛙に封印した死霊術師の自身も死んでるという美人のお姉さん。普段はずっと蛙。そして、なぜか神の御下から送り出されて本人不本意極まりなくギャーギャー騒いでいる天使が一匹。ひたすら天使がうるさい。最初から最後までうるさい。うるさい以上にうざい。なるほど、これがメスガキ天使ってやつなのか？
これだけ鬱陶しいメスガキを叱りながらもしぶしぶながらも一応ながらも相手してやっているパルパネルは仏様かな？
放っておけばいいのにね。わりと放置してるときもあるけれど、それでも本当に見捨てないあたり、彼のどうしようもない優しさがうかがえる。不老不死になる前から、虚無に囚われたように何も持たず、何も抱かない彼が、そうやって投げ出さないから情緒を焼かれてしまう人が出てしまうんですよ。
妙に寂しそうな横顔を見せちゃうから、放っておけなくなるんですよ。罪作りなやつである。
大体この男、まだ不老不死になりたてなのに、もう一万年くらい生きて飽きました、みたいな虚無感を早く持ちすぎなのである。最初からこれだと、もしかして何年経っても実はこれ以上あんまり堪えないし、変わらないんじゃないだろうか。意外と悠久を生きるのに適正ある？　意外と寂しがり屋で話し相手がいないとダメみたいなんだけれど、元から死人である蛙さんと神の使いである天使は時間の流れと関係なさそうで、そういう意味では一人ぼっちではないんですよね。
特に蛙さんとは、相談相手にも冗談や皮肉を言い合える相手にもなってくれてるし、助言や忠告もしてくれて、そう言えばなんでこんなに親身になってくれるんでしょうね、元敵なのに。
やっぱり絆しやすいなんかがあるんだよ、パルパのネルには。理屈っぽいし陰気だし性格ヒネてるし言いたい事ズケズケ言うし口は悪いし冷めてるし厭世家だし、なかなかアレな人物だと思うんだが……でも情を捨てられない所がねえ、人に見せようとしない優しさがねえ……。
彼には世界を救う所以も理由もないはずなのに、そんなつもりはないんだけどとでも嘯きながら、救っちゃうんですよねえ、この人。
時として、そういう優しさが残酷ですらあったりもするのだけれど。神姫ちゃんに対するあの仕打ち……いや、あの結婚モンスターに対してきっぱりと振ったのは偉いの一言なんですけど。でもそこは、相手を憐れむよりもいっそ、ちょっと無理ですごめんなさい、くらいはお前が原因だよ、くらいの勢いで言っても良かったんじゃないかと……精神的にぶっ殺しかねないか。だいぶ残虐に精神的に殺してしまってたような気もするけれど、トドメにはなっただろうなあ。介錯してあげなかったことで、なんか神姫タラソナ、もう取り返しのつかないさらなる結婚モンスターになって戻ってきそうで恐ろしさすら感じるんですけれど。下手したら、あっちも不老不死になって戻ってきかねないぞ、と思っちゃうほどに。

彼女と比べると、姉弟子の魔女の方はちょっとよくわからなかったな。彼女は何を求めていたのだろう。何かを憎んでいたのか、それとも何かを追いかけていたのか。
知りたいという気持ちを置き去りにして、彼女は何も語らずに去っていってしまった。彼女が喚び出したものはパルパネルがなんとかしたけれど、その理由がわからないままというのはモヤモヤが残っちゃうなあ。この件は終わってないのかしらもしかして。