【美来さんは見た目だけ地雷系】 高科 恭介／ハム 富士見ファンタジア文庫
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俺だけに見せる本当の姿は 尽くして甘える純粋な少女。
可愛いけど感情的でメンヘラ気質、束縛・依存体質ゆえに手を出すと危ない女の子、すなわち地雷系。クラスの地雷系女子こと、美来さんにはクラスメイトが知らない秘密があって――
『おかえり。リクエストがあったから、今日はハンバーグよ』
それは、俺の家にやってきて世話を焼いてくれていること。面倒見が良く、時に子供っぽく、可愛らしい所が沢山ある美来さんとの距離は、日に日に縮まっていって――
『ずっと、我慢してたのに。これ以上好きにさせないでよ……』
イメージだけで敬遠されている美来さんの、俺だけが知っている魅力に蕩ける、甘々ラブコメ。
地雷系って呼び方、まだ周知される前は見た目可愛いのに触れると危険という事から、地雷と呼ばれるようになったと思うのだけれど。今となっては、その見た目こそが危険を標榜するアイコンになってしまっている。
地雷とは、地面の下に埋められていたりとその存在を隠しているからこそ、予期せず危険性を知らず踏んづけてしまって爆発するからこそ危ないものであって、あからさまに地雷然としたものが誰からも見える場所にデーンと自己主張して置いてあったら、そりゃあみんな避けて通るさ。
なるほど、だから今となっては警戒色としての意味も勘案できるわけか。
つまるところ、そういうわけである。
美来さん的には武装としてだけではなく、本来のこのファッションに可愛さを見出したからという意味もあるみたいだし、今までの自分から変身してしまう、という意味もあったんでしょうけれど。
それはこの地雷系と呼ばれるファッションの誕生の原点に立ち戻っているような気もするし、そもそも美来さん、見た目だけと言いつつわりと地雷系と呼ばれる人たちの持つヘヴィな心持ちも十分資質を持っているような感じなので、主人公の舞園賢誠の対応次第ではそっちに転んでも不思議はなかったかもしれない。
まあ、美来さん……だいぶ自己肯定感が低い上に自重と自戒を重ね塗りしているので、早々転ぶことはなかっただろうけれど、その分いざどうしようもなくなるととてつもなく愛が重くなりそうではあるんだよなあ。わりと嫉妬深い独占欲が強い、というあたりの資質も垣間見えていたし。
でも、まだ幼い賢誠の妹であるありさへのお姉ちゃんというよりもママに近い世話の焼きっぷりを見ていると家庭的で愛情が一点集中で賢誠にだけ狭窄しないだけの分別みたいなものもあるので、愛ゆえに全部台無しにしてしまう系ではないと思うんだよなあ。
むしろやばいのは賢誠の方である。名前と違って賢くない、いや小賢しくないだけで真面目さが小器用さを踏んづけてしまっているだけで、愚人系賢者タイプとも言えるんだろうけれど。
なんというか、その先は地雷原ですよ、と教えられてわかった教えてくれてありがとうと頷いて躊躇なくその中に入っていくような、ヤバいヤツである。教えてられているので、話を聞いてないとかわかっていない、というわけじゃないのだけれど、わかったうえで踏み込んでいくような、大丈夫かコイツ？ と心配になってしまうタイプですね。わりと放っておけなくなる人が出てくるやつである。美来さん的にも、どうしようもなく心弱っていた時に愚直に助けてくれた事でちょっとどうにかなってしまったのもあるのでしょうけれど、妹と二人きりで生活行き詰まりかけていたのをせっせとお世話しているあたりは、この放っておけなかった、心配で見ていられなかった、に当たるんじゃないだろうか。
後見人となってくれた里中さんも似たような感じだし。この人、わりとガチで悪い人なんで本来こんな風に何の見返りもなく親切であれこれと世話してくれるような人間じゃないと思うんだけれど、なんか琴線に触れたんでしょうねえ。
まあとにかく、美来に対しては愚直に本音しか言わない男である。ごまかしやお為ごかしは元より、虚飾や照れ隠し、体裁を繕ったり見栄や恥を気にしたりしない。勿体ぶったり匂わせなんか回りくどいことはしない。真摯で誠実で不器用で、だからこそ美来には一切嘘をつかず、思った事を素直に、それこそ称賛や褒め言葉、好意や愛の言葉まで一切の躊躇なく、ズバズバ当たり前のことを当たり前に口にするみたいに告げるのだ。
もう勘弁してあげて、と言いたくなるほど聞いてて恥ずかしくなるような事も、真顔で剛速球として投げつけてくる。ぜんぶデッドボールである。無拍子か、と思うほどいきなり投げつけてくる事もおおい。美来避ける暇もなく、全部必中である。
ボコボコだ。フルボッコだ。どれだけ美来がグロッキーになろうと、淡々と事実を告げているだけなので、構わずドンドン投げ込んでくる。全部急所にクリティカルヒットである。
地雷を前にして、首を傾げながら何度もガンガン踏みつけてくるような男だ。これはひどい。これはもう、格好だけガワだけ地雷なのに、思わず爆発してしまいそうになっても仕方ないよね？
彼の前ではその姿はもう武装ではない。ただ、心から自分が可愛いと思える姿をしているだけ、になれる。そうなれる、居場所を彼が作ってくれたから。自分を肯定し求めてくれる家族をくれたから。
見事に、地雷は処理されてしまいましたとさ。そんな蕩けるようなラブコメでありました。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
