徒然雑記 : ロクでなし魔術講師と追想日誌１１　★★★★

【ロクでなし魔術講師と追想日誌１１】　羊太郎／三嶋くろね富士見ファンタジア文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス

戦いを終え迎えた卒業の日。最後の授業がいま始まる――?

来るべき比翼の日。だがそこに堕落の果実を強奪する組織が現れ―『第惨事チョコレート大戦』。
グレンの反対を押し切り魔獣退治についてきたシスティたち。彼女らを待っていたのはサキュバス!?
『世界最強の魔獣』。あの“迷”探偵がまたまた登場。今度は怪盗と直接対決?―『魔導探偵ロザリーの事件簿・飛翔編』。
国外任務のためグレンとセラが潜入。怪しまれないよう新婚夫婦を装うことになり―『偽装夫婦のシンフォニー』。
そして――禁忌教典をめぐる戦いを終え、卒業の日を迎えたシスティたち。だが現れたグレンは最後にとんでもないことを突きつける――「要するに、”最後の卒業試験”ってやつだ」

これがほんとに最後の最後。ロクでなし魔術講師シリーズ、本編に引き続いてこの短編集をもって幕引きと相成りました。感無量です。
こっちで後日談的なことをやるのかなあ、と思っていたのですけれど、本編の完結から後日の話ではあっても、その後のお話ではなくってこれってその後の未来に向けて歩んでいく登場人物達のお話でした。
正しく、卒業のお話であったと言えるでしょう。
グレン先生が担当したクラスのみんなに課した卒業試験。それは時間の経過が止められた世界でシスティをはじめとした皆が獲得したその学生レベルを遥かに越えて人外の、インフレしているとしか言えない力を持ってしまった生徒たち。システィーナたちメインキャラ以外の生徒たちも卒業までのシスティたちに引っ張られてか同世代としては突出した、というかもはや魔術師として世間的に見ても超一流の腕前になってる子たちばかりになっていたんだなあ。
ともあれ、そうやって手に入れた力を個々の時間を巻き戻すことで殆どグレンが講師としてこの学校にやってきた頃の能力に戻してしまった上で、グレン先生を倒すこと。それも、もはや神様の領域に至ったグレン先生を、である。だいたい、時を止めた空間を形成したり生徒たちの時間を巻き戻したり、ってグレン先生ラスボスとインフレバトルやってた時から一切力が劣化してないの凄まじいよね。

システィーナもルミアも、リィエルに関してはあれでも特務分室の執行官やってたので外の世界を知ってるわけですけれど、システィたちはまだ社会にも出ていない学生の身分……つーても、世界の危機を救うに留まらず、特務分室の任務に協力したりと修羅場も修羅場をくぐって来てはいるんですけれど、それでもまだ十代。まだ学生という身の上ながら魔術師として至高の域にある「天」の階位に至ったわけである。そのうえで、這い寄る混沌などという外宇宙の神とすら戦ったのです。もう神話レベルの力を持っていると言っていい。
ほんとの神様クラスのラスボスと戦うようなクライマックスを向かえるような物語だと、インフレしすぎた力を持ってしまった主人公たちって、まともに人間の世界で暮らせないが故に人の世界を離れるか、或いは力を手放したり失ってしまったり、というパターンが結構多いのですけれど。
この作品に関しては、そういう能力の劣化や使えなくなったみたいな事は一切なく、そのまま保持したまま帰ってきてたんですよね。そして、そのまま元の生活に戻っていた。
これに関してはちょっとだけ「大丈夫なのかしら？」と不安じゃないのだけれど心配めいた気持ちは抱いていただけに、まさか物語の方でそのあたりの微妙な心配を払拭してくれる話をしてくれるとは思ってもみませんでした。
この卒業試験って、それこそ本来なら持ち得ないような人外の力や神話に語られるような力を持ってしまったけれど、この子たちなら大丈夫だよ、と安心させ保証してくれる話だったと思います。わざわざ制限つけたり縛ったりしなくても、この子たちならその力を悪用せず振り回されず、どこまでも行ける。行き止まりだった世界を、自由に好きなように生きていける。それを証明してくれる、まさに登場人物達を見送る卒業の話だったと思います。
個人的にはもうちょっと未来の、アフターの彼女たちを見たかった気もあるんですけれど、それはもう彼女たち次第なんでしょうね。見送るばかりです。
……正直、人外の力を持ってしまって一番心配なのはむしろグレン先生だったんですけどね！！　こいつが一番悪用しそうじゃないかｗ　もう訳分からん神様みたいな力持ったままなんだから。生徒たちに試験課してる場合じゃねえぞw　大丈夫かほんと？

まあグレン先生に関しては、人から外れ、世界から飛び出し、神と対峙してなお、教師であること。子供たちを教え導くことが根源で、本懐で、彼の在るべき道、歩みたい道だという事を改めて見つけましたからね。
これからずっと、先生やっていくんでしょうね。ちゃっかり学園に残って講師になるシスティはなかなかいいポディションを取ったんじゃないでしょうか。
ただこれ、ヒロインレースに関しては実は最終盤で一番大外強襲の大マクリを見せたのって他でもない「セラ」だったと思うんですよね。本編でのグレン先生が一番苦しく追い詰められていた時に彼を支えたのはセラでしたし、背中を押したのも彼女だった。一番懐かしい思い出も彼女のことで。
実質、あれでもう結婚したようなもんじゃないですか。そこで歩みを止めず、セラに別れを告げて未来へと歩み始めたグレン先生でしたけれど、あれはむしろグレン先生にとってセラこそが唯一無二の愛する人だった、というのを決定づけるようなエピソードでしたし。
さらにこの短編集の方でも、最後の過去編でなんか結婚式めいたことをやってた話でしたし。
もうこれ、グレン先生にとってセラが最初で最後の想い人なんだ、というのを印象付けられたような気がします。
思えば、グレン先生側からヒロイン陣に対して異性として意識するような想いが向けられたケースってかなり少ないと思うんですよね。
先生、ほんとにもうセラ以外の女性とどうこうなるつもりとか端からないんじゃないのかしら。具体的にちゃんと考えたことはないかもしれないけれど。
わりとここに来て、セラとの死別にちゃんと心の区切りをつけたことで、むしろセラこそが唯一無二な愛する人だった感が強まった気すらします。なんか、未亡人っぽさすら感じられる。男の場合は寡夫になるのか。
そのあたり、辛うじて突破できそうだったのが母親という反則の立ち位置から切り込めそうなセリカと、意外と微妙にグレンに意識させる事に成功していたイヴだったと思うんですよね。
システィーナたちが、この二人に対して強烈な危機感と若干の劣勢感を抱いていたのもそのへんに起因があったんじゃないでしょうか。
ただセリカはほんとにお母さん枠から出ようとはしなかったですし、イヴはなんかこれでもかと生き遅れ属性を釘打ちされてしまって……いや、わりと行き遅れ枠って意外と最終的に回収してもらえるポジションだったりするので、男やもめ的な立ち回りになったグレンと相性はかなりイイとは思うんですけどね。
……ただ、料理がヘタを通し越して殺人に至っているの、なんとなくなし崩しに日常の中でいい雰囲気に収まっていく流れを強烈に阻害しそうで、そこが心配というかネックというか。
今回のチョコレートの話でも、あれ普通に食べれるの作ってさり気なく渡してたら、すごくいい雰囲気になるポテンシャルのあった流れだったのに、色々と致命的なことになってたからなあｗ
そう言えば、過去編でイヴがあんなにセラにべったりだったの初めてみたような気がするんだけれど、ボッチ拗らせてあんなにイヴに依存してたの？　そりゃ、唯一の親友死なせるような事になったら頭ぐちゃぐちゃになるよなあ。

ともあれ、これが本当に最後の最後。この物語からの卒業です。もうこの子たちの事を見守れないというのは寂しいですけれど、システィーナの成長を見届けられたというのは今すごく満足感を感じています。ある意味、このヨワヨワのヘタレだった白猫がメキメキと伸びて成長していくのを見守る作品でもありましたしね。
皆さん、ご卒業おめでとうございました。良き将来を……。