【魔王２０９９ ４.終極防衛都市・ワシントン】 紫 大悟／クレタ 富士見ファンタジア文庫
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名探偵・ベルトール!? 【魔王流】推理劇場、ここに開演!
統合暦2149年――新生魔王軍の進撃によって滅びゆく人類最後の要塞都市『ワシントン市』から、最強の機械人形・マトイが過去へと旅立った……魔王・ベルトールを討伐するために。
それから遡ること50年――消息を絶った旧家臣の手掛かりを追うベルトールは、凄腕の探偵・茶畑絵美の元を訪れるが……
「さあ……一緒に犯人探しといこうじゃないか、助手くん!」
絵美の右腕として探偵になった魔王は、狂気に満ちた連続殺人犯、かつての配下を名乗る少年――そして、自身を狙って未来から襲来した少女をめぐる超難事件に巻き込まれていき……
世界の行く末を左右する謎に、名探偵・ベルトールが挑む!!
アニメはじまりましたねー。あのブレードランナー的な世界観はやっぱりアニメだと映えますねえ。面白いです。
さて今回の舞台はワシントン。【終極防衛都市・華盛頓】、じゃないのねｗ
……って、舞台ワシントンじゃないじゃん！ いつも通りの新宿じゃん！？
ワシントンが舞台だと、魔王2149になってしまいます。
さて、初巻がサイバーパンク。２巻が学園モノ。そして３巻が監獄島モノときて、えらいジャンルが目まぐるしいような一貫しているような不思議な作品なのですが、この４巻は近未来都市での探偵もの！！ と同時進行で未来から過去を改変するために送り込まれた人型ロボットが大暴れ、ってターミネーターだこれ！ いやまあこれに類する代表的なのがターミネーターであって、他にも色々と類型はあるだろうけど。
そんなこんなで、人類が滅亡する寸前の未来から過去を変えるために送り込まれてきた人造人型戦闘兵器。人呼んで錬鉄の勇者マトイちゃん。美少女型である。強くてかっこよくてなによりこの上なく「カワイイ」を自称する美少女マギノロイド・マトイちゃんである。そのカワイイポーズは「綺羅星！！」だよ、マトイちゃん！！
この表情は基本「無」からピクリとも動かないのに、頻繁にポーズ決めて「カワイイ」を主張するマトイちゃんのキャラは実際かわいいと思います。
それでいて、一途に立派に勇者してるもんなあ。それと同時に、被造物としての献身。造物主への愛を兼ね備えていて、その愛情は親子のそれへと消化していく。
無機物が主人公、或いはメインヒロインとしての物語の王道を踏襲してるんですよね。無機物のうちに現れる本物の「心」。本物の「愛」。その健気さに打ちのめされて、そこに新たな「ヒト」の誕生を見るのである。
同時に今回のそれは、愛ゆえの絶望の物語でもあったと言えるでしょう。
そもそも違和感は最初からあったんですよね。前巻の顛末と友人の犠牲は、魔王ベルトールの心境に新たな境地をもたらしていた。あの「ありがとう」を聞いたうえで５０年後、定命のものたちを根こそぎ滅ぼし鏖殺しようとして、実際それを達成する寸前だった永世魔王ベルトールという存在を、果たして納得できるだろうか。
元々、世界を征服する目的が世界平和だったベルトールである。それが、その野望を打ち捨てて定命を滅ぼすなど。しかも、魔王ベルトールの力の根源は信仰であり恐怖であり、とにかく人がたくさん居ないとダメなんだから、そもそも人を滅ぼすつもりも理由もなんもあったもんじゃなかったのに。
ただそれも、マトイちゃんと早々に和解して（この速さは驚きだった）。彼女から未来から過去を変えに来た勇者という正体と、未来がどうなっているのか、それを変えるために何をしたらいいのか（これはマトイ含めてわかっていなかった）など、色々と聞いた上でマトイちゃんの事を信じて、探偵の絵美さんや黒竜侯シルヴァルドたちとともに絶望の未来を打破するために動き出すわけだが。
その過程で、一つどうして未来のベルトールが人類鏖殺なんてことを始めたのかの原因予想として、マキナの死が契機になったんじゃないか、という話になってみんななんとなくマキナが滅びたらベルトールもみんなもブチ切れるだろうなあ、とベルトール本人もぼんやりと納得したわけだけれど。
よくよく考えると、マキナを喪ってさえベルトールがそこまで我を失うか、というとそこは疑問符がつくんですよね。全部真実が明かされてから振り返ってみてのそう言えば考えてみると、てな感じなので後出しジャンケンもいいところなのですけれど、まあベルトールって良くも悪くも割り切るというか飲み込むというか、私情に呑まれ無さそうなんだよなあ。
彼は、理想を追い続ける狂い人のたぐいだ。ある種高みに居すぎたのを、２０９９年に蘇ってこっち、魔王と名乗りつつ統治する国を失い、個として理想を追い続ける上で得た様々な体験で、時代性や人間性を理想の中にアップデートし続けているベルトールだけれど、私情に走るどころじゃない理想を投げ捨てて復讐に走る姿は、思えばあまり想像はできない。
だから、未来のベルトールがどういう存在か、というのが明らかになったときはそれこそ腑に落ちる、納得以外のなにものでもありませんでした。
思えば、マキナこそが愛の人だったんだよなあ。５００年、ベルトールの復活を信じて待ち続けた健気の化身。忠臣ではなく、愛ゆえに待ち続けた彼女がそれを喪ってしまえば、そりゃ絶望に狂いましょう。
意外、ではないのか。マキナって実はすごく人望厚かったんですねえ、と思わされたのが真六魔侯のメンツである。このメンツ見ても、マキナと同じ復讐心に駆られて狂ってるの可能性があるのってシルヴァルドくらいじゃないか、と思うし、シルヴァルドですらそこまで魔王の喪失に執着するか、とも思うんですよね。高橋や緋月なんかも哀しみ怒るだろうけれど、そこまでおかしくなるだろうか。
まして涜聖侯や雷斬侯に至っては。
よっぽど定命に対して絶望し、怒り狂うような顛末があったとしても実際に手を下すまでの激憤を抱くかというと。
そう考えると、真六魔侯が集ったのってマキナに付き合ったんじゃないか、と思えてくるんですよねえ。禍福侯の最期のセリフなんか見ても、すごく友情に殉じた感がある。人としての生命を捨てて不死となり、定命鏖殺人類絶滅という暴挙に付き合うというのはどれほどの想いがあってのことか。
そうしてもいいと思えるほどに、マキナが思われてたっていうのなら、この娘やっぱり大した人物だよなあ、としみじみと思い耽るのでありました。
この巻では殆ど出番なかったにも関わらず、ガンガン株があがっていくマキナなのでありました。さすがはメインヒロイン。ほんと出番なかったけどな！！
そして、お話の方は三巻に引き続いてビターエンド。なんもかんもが救われて、助けられて、ハッピーエンドで続いていく、というわけにはいかないんですよねえ。いかな魔王でも、手の届かないものはいくらでもある。ずっとずっと、取りこぼし続けている。でも、それぞれが自ら選んだ結末であったことは幸いなのか。
しかしベルトール、ここにきてさらにヒーロー性が高まってきたなあ。魔王なんだけど、基本善性だし弱気を助け強気を挫くような性質をどんどんと強めていっている気がする。
一方で、五〇〇年前配下の暴走とはいえ、勇者グラムの生まれた村を焼き、彼の家族が無惨に殺された事実を、改めてその実行犯であるゼノールの記憶から描写して見せつけてくるあたり、ベルトールが魔王である事を忘れさせないように突きつけてきているようで、楔を打ち込まれたような心地である。
そのゼノールの方もなかなか訳わからん状態になっているし、肝心のどうして未来があんな事になってしまったのか。その原因となる事件がまだ起こっていなくて、何が起こるのかわからないというのも不穏ですねえ。
次巻はすでに発売日が１１月と連続刊行されるみたいなんで、楽しみ。
