【捕食者系魔法少女 ２】　 バショウ科バショウ属／東西 エンターブレイン

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シルバーロータスを狙うのは、世界中のウィッチたち!?

インクブスの大攻勢を退けたシルバーロータス。彼女はさらなる追い打ちをかけるべく、異界に送り込んだファミリアを使った拠点攻撃作戦に出る。一方のインクブスもまた彼女が最大の脅威であると認識。ファミリアが対インクブスに特化していることを逆手に取り、隷属させたウィッチたちを尖兵としてファミリアの駆除を開始した! そこへシルバーロータスの力を求め、中国軍やアメリカ軍といった第三勢力までもがウィッチを伴って参戦、事態は混沌と化していく。そんな中アズールノヴァはシルバーロータスに害為すものを排除するため、秘密裏に"ウィッチ狩り"を始めるのだが――。


人類は、今まさに滅びようとしている。

正確には人類社会の崩壊、文明の終焉であって人類という種の滅びではないかもしれないんだけど、インクブスという異界からの侵略者たちは底のない悪意と邪悪な欲望を以て、人類の家畜化・苗床化を目論見、世界中に侵略の手を伸ばしているので、インクブスに敗れ侵され犯されるということは、人類の知的生命体としての終了をも意味してるんですよね。
逆に、それでも家畜になれば生き残れる、という事から自らインクブスの家畜となって甘い汁を吸おうとする「傀儡軍閥」なる人の集団がユーラシア大陸の各所に生み出され、既存の国家群と人類同士での激烈な戦闘を繰り広げているという。
そして、インクブスに囚われて苗床にされた魔法少女の中には、精神まで犯され洗脳されてインクブスどもの使役する奴隷として、同じ魔法少女との戦いに投入されてくる。圧倒的質と量によって蹂躙してくるインクブスたちに、殺されるという恐怖だけではない、囚われ攫われ苗床にされて弄ばれる末路に怯えながら辛うじて抵抗している世界各地の魔法少女たちは、同時にかつての同胞、仲間であり友人であった元魔法少女たちとも血で血を洗う殺し合いを繰り広げるという地獄を味わいながら戦っている。

世界は今、まさに地獄と化している。
そんな中で、日本という国はインクブスの侵攻に対して頑強に抗いながら、かつての日常を辛うじて維持している世界でも希少な国の一つなのです。
地上から国そのものが消滅してしまった所も少なくないというのに。
それを成しているのが、世界でも有数の実力を持っているというナンバーズと呼ばれる最上位魔法少女の少なくない数が日本に所属しているという事もあったのでしょうけれど。
何よりシルバーロータス……謎めいた蟲の女王の存在が日本が辛うじて平和を維持できているその最大の要因であることは、もう大体知れ渡っていたんですね。

だから、インクブスの侵略軍によって国土の５０州のうち１４州もが陥落して今なおその進撃を止められずに蹂躙されつつあるアメリカ合衆国。そしてすでに国家としての体を保ち続けられないほどに傀儡軍閥が跋扈して分裂しこの世の地獄が野火のように広がっている大陸中国。
彼らがその救いの手を、シルバーロータスに求めたのは必然、というよりももう藁にも縋る思いだった、と言い換えてもいいのかもしれません。

人類が滅びようという地獄でさえも、人は人同士で争ってしまう。
米軍と中国軍、その精鋭特殊部隊と所属する軍属魔法少女たち。日本本土に潜入した彼らは、シルバーロータス確保のために闇夜の下に動き出す。
この世界の人類国家が今、本当に瀬戸際まで追い詰められているというのが伝わってくるのが、米軍側にしても中国側にしても、国益や権益のためにシルバーロータスの身柄を奪い取ろうとしているのではなくて、自分たちの故国が今まさになくなろうとしていて、仲間である魔法少女や軍人たちが無惨に殺され、友人や家族が嬲られ攫われゴミのように蹂躙されている。それを止めてほしい、助けてほしい。この地獄から、自分たちはどうなってもいいからみんなを助けて、という壮絶な悲愴感が、絶望感が伝わってくるんですよね。
人類が絶滅しているのに人同士で、国家間で内輪揉めを繰り広げてしまう作品は枚挙に暇がないですが、大体それは状況も弁えずに一致団結できずお互いの利益を優先し、ありもしない戦後の優位性を確保するために無為にリソースを奪い合うという展開が多いのですけれど、本作はもうそんなパワーゲームごっこをしている余裕もない。

繰り返しになりますけれど、本当に藁にも縋る思いで唯一インクブス相手に逆襲を繰り広げているシルバーロータスに助けを求めにきたわけで、乱暴な形でシルバーロータスの身柄を無理やり奪取しようとするのは、米軍側も中国側も避けようとしているのです。
でも、彼女を自国へと連れ帰るということは、今まで彼女が平和を守ってきた日本が彼女が居なくなることでどうなってしまうのか、を承知の上でシルバーロータスの確保を目論んでいるのも確かなのです。
それ故の罪悪感を押し殺し、悲愴感、必死さ、がむしゃらさでシルバーロータスにアプローチしてくる、外の国の魔法少女たち。
もちろん、日本側だってそれを黙ってみていられるわけがなく。
日本もまた、安穏と平和を怠惰に享受しているわけではない。シルバーロータスによって守られているとはいえ、インクブスの侵入がひっきりなしにあるのは間違いなく、魔法少女たちだけではなく国防軍もまた日夜インクブスとの戦闘を繰り広げているのは、シルバーロータスの正体である東蓮花の父がイーグルドライバー。戦闘機のパイロットのエースとして帰宅もままならない忙しさで戦い続けている事からも伺い知れる。
そして、日本の平和は有限で、すでに難民に紛れたインクブスの傀儡による浸透で沖縄本島が陥落した事をきっかけに、大陸からの難民はもう一切受け入れておらず、受け入れ拒否……どころか、船や輸送機で日本に逃れてこようとする難民たちを追い返すどころじゃない、船ごと撃沈、飛行機なら撃墜までして阻止しているのである。
諜報組織もかつてのスパイ天国が嘘のように組織化され、外国や傀儡軍閥の工作員の洗い出しや掃討を徹底して行っている。
平和というのは他国と比べてであって、裏では非常事態宣言下の国情が根付いていて、その限られた平和のリソースを守るために冷徹に非情に決断を下し続けている。
その一員として、蓮花の父もまたインクブスや傀儡軍閥との戦闘だけじゃなく、難民への攻撃の一翼を担っている、主人公の父親が自分の子供や国民を守るための防人である、というのと同時に自分の娘達を守るためにそういう無辜の民をその手にかけている側の人間でもある、という事実が、この世界で人類がどれほど追い詰められ、崖っぷちに立たされているか。平和を保つためにどれほどの犠牲を払っているか、余裕を喪っているのかを壮絶なまでに突きつけてくる。

そんな世界だ。そんな人類の状況だ。
さながら、シルバーロータスの存在は「カルデアスの板」ともいうべきものになろうとしていたのかもしれません。
絶対的なインクブスの侵略に対する、唯一の防波堤。その限られたリソースを、人類は自らの生存のために奪い合う、地獄の中にさらなる地獄が現れようとしている。

そんな中でも、彼女は……シルバーロータスは言うのです。

私は誰も救わない。ただ……インクブスを駆逐する。
さながらゴブリンスレイヤーさんみたいなガンギマリ！！

彼女だけは、ただ純粋に人が人を傷つけ、人同士で争い殺し合う地獄を、拒絶し否定します。

妹が暮らし、父が血にまみれて命をかけて守っているこの日本を見捨てて他国に渡ることはできない。
でも、インクブスは駆逐する。アメリカ大陸だろうと、ユーラシア大陸だろうと、そこにインクブスが居るならば、私はそれを駆逐する。

そうして彼女は宣言するのです。
活動の為に必要なエナの供給を抑えるために休眠状態で待機させていたファミリアの軍勢を活性化。
一方を朝鮮半島からユーラシア大陸に。もう一方は太平洋を渡海させアメリカ大陸へ。

海外派兵を開始する。

ひゃああああ！　に、に、に二正面作戦だーー！　それも、防衛戦とか内線作戦じゃなくて、侵攻攻勢作戦だーー！！　いや待って、すでにシルバーロータスってインクブスたちの異世界に、卵を寄生させたインクブス達を還すことで異世界内で爆発的に繁殖させた蟲たちでもって無数の巣を形成、そこからインクブスたちの本土への逆侵攻を行っているので、実質三正面作戦ですよ。
それを、たった一人で行おうとしている。しかし、その麾下たる眷属、ファミリアである蟲の軍勢、その総数は……未だ本文では明確に語られていませんけれど、もうこれ１００万の桁では足りないでしょう。
彼女はたった一枚の、わずかしか救えないカルデアスの板なんかじゃない。彼女はたった一人にして軍勢（レギオン）。インクブスたちにとっての終末のラッパ吹き。

事実、派遣軍の第一陣として解き放たれ飛び立ち、朝鮮半島を北上。あっという間に半島を占拠していたインクブスたちを喰らい尽くしたのは、二メートルを超えるイナゴの群れ。彼らはインクブスを喰らいそのエナを取り込むことで繁殖し増殖していく。
恐るべき事に、この蝗害は人を襲わない。作物も食わず動植物も喰らわず、ただただインクブスのみに群がり食い千切り喰らい尽くしていくのだ。
ゴブリンのインクブスによって甚振られ、神に祈りながら儚い抵抗を示していた幼い少女が自分を無視して眼の前のゴブリンたちを押しつぶし、救いを求めるゴブリンどもを食いちぎって肉片へと変えていく様子を慄きながらも、神の降臨を見たように見つめる姿が印象的なシーンだったんですよね。
雲霞のごとき巨大イナゴの大群が一日で三千里を飛翔して、インクブスだけを駆逐していく。

その日、朝鮮半島のインクブスは狩る側から狩られる側へと転じた。

この一文、ほんと好き。ゾゾゾっと背筋震えました。
そしてこれでもまだ、ほんの第一陣。
さらに繰り出す、沿岸制圧のために招集した大型水棲甲殻類の群れ、いやシルバーロータスの言を借りるならば艦隊が出撃する。
いやもう、これ艦隊どころじゃなくて怪獣総進撃なんですけど！　一体一体が体長何十メートルとかありそうなくらいまでデカいんですけど。東京湾内で鋏脚だけが見えているタカアシガニってこれ、脚だけでガントリークレーンよりもデカいんじゃないですか！？
ってか、甲殻類って虫なの！？　昆虫ではないけれど、分類的には節足動物で同じ汎甲殻類に属するらしいので、シルバーロータスの眷属の範疇に入っちゃうの！？

どうやらシルバーロータスは、これらの甲殻類などの水棲ファミリアを日本近海に回遊させることで、水棲インクブスを駆逐し日本の沿岸部を守ってたみたいなんですよね。
他の諸外国では、沿岸部にマーマンなどの水棲インクブスが夥しい数遊弋していて、海辺に近づくことさえ危険らしい、というのは中国の魔法少女の黒狼が同伴の特殊部隊と水辺から密上陸を果たした際に思わず日本には水棲インクブスが跋扈していない事に驚き、それを成しているシルバーロータスの力を実感して感動を漏らしていることからも伺い知れます。
もし沿岸部が危険地帯になってしまったら、島国で居住できる地域がほぼ沿岸部にしか存在しない日本なんてもうそれだけでまともに社会が営めなくなっていたでしょう。
まさに彼女はこの国の守護者だったわけだ。それがついに、東は太平洋横断してアメリカ大陸へ。西は半島からユーラシア大陸を征西する海外派遣軍を発起する。
スケールが、スケールがやばい。
シルバーロータス、自分でも述懐してるのですけれど、この娘個人で人類滅ぼせますねこれ。

同じ魔法少女たちはというと、アズールノヴァがもうシルバーロータスの狂信者みたいになってて、同じ人間には絶対に手を出さないシルバーロータスの代わりに率先して汚れ仕事をこなしているのですが、他の日本のナンバーズたち。シルバーロータスと接触を図ろうとしてコンタクトが取れずにいたお茶会の面々、この巻でようやく挿絵でデザイン解禁だったんですけど、これみんなカラーで見たいですよね。もうちょっと魔法少女同士で揉める、とまでは言わないけれど、シルバーロータスの扱いで意見のぶつかり合いがあるかとも思っていたのですが、これが思わぬ方向へと転がっていくのであります。
Web版で見たナンバーズのあの展開は予想外も良いところだったので、ぜひ第三巻ではようやくシルバーロータスを招いてのお茶会のシーンを楽しみにしております。
そして何より、解放された厄災の魔女のレギオンの蹂躙を。インクブスたちにとっての黙示録・アポカリプス・デイ。ガチの大スペクタルがはじまるぞっ。


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