【まきなさん、遊びましょう ２】 田花七夕／daichi HJ文庫
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夜陰に紛れるその怪異の正体は、天女か鬼か
三鏡高校怪異研究会に居つく美しい怨霊「まきなさん」に導かれ、とある事件をきっかけに研究会に所属することとなった諒介。
そんな諒介の元に舞い込んだ新たな調査依頼。それは、ある温泉郷に残る伝説『天女と山姫』の関与が疑われる惨殺事件だった。
人智を超えた伝説の怪異の正体を暴くべく温泉郷へと赴く諒介たち。その前に立ちはだかったのは、般若面に着物を纏う、妖しくも美しい怪異だった――。自称正義の美少女怨霊と共に怪異に挑む青春オカルトミステリー、第二幕。
前巻でも他校の中で発生したオカルトトラブル。ブラッディ・メアリー事件を、依頼されて解決に行っていた三鏡高校怪異研究会だけど、今回はさらに遠方。石川県のとある温泉郷で起こった殺人事件に関わることに。
殺人事件ですよ。しかも、関係者はブラッディ・メアリー事件が起こった梅月学園の生徒だけど、依頼そのものは警察の平塚警部からのもの、というこれはもう本格オカルトサスペンスじゃないですか！
一巻からタイトルからの印象と異なって硬派な怪異ものだと思っていましたけれど、ついに学園ミステリーの枠組みからも飛び出しましたね。
元々、三鏡高校怪異研究会って学校の部活か同好会かみたいな集まりですけど、三鏡高校の生徒って諒介一人でまきなさんは怨霊。透明人間の栗原唯は高校生どころか大学生。もう殆ど学校関係ないのよな。
むしろ、主要キャストの神浦珊瑚は梅月学園の生徒だし、演劇部の合宿で近くに宿泊して妹の明日香を預かってくれたりといろいろサポートしてくれる事になった面々も梅月学園で仲良くなった人たちだし、もう学校としては梅月学園の方が主体じゃないの？ と思うほどなんだが、とりあえず舞台は地方。その地方の名士で剣術家である珊瑚の父を惨殺、そして姉の瑠璃に重傷を負わせた犯人がその地方に伝わる伝説の怪異「山姫」だったという、うわあこれは地方伝説に基づく伝奇モノの様相も呈してきたぞ。
面白いのは、この事件ってちゃんと殺人事件だから警察もがっつり噛んだ上で、犯人はどうやら人間じゃなくガチの怪異らしいぞ、という事になってそれ担当の平塚警部経由で諒介とまきなさんに依頼が来てるんですよね。公的機関公認で事件解決に関わることになってるのだ。
でも、犯人が山姫だとわかっているからといって、じゃあそいつを追いかけて倒そう、という単純な話にはならない。オカルトバトルものじゃないのである。
そもそも山姫は暴れまわりながら逃走中、というわけじゃなく、事件後ぷっつりと消息を絶ってしまっている。果たして、山姫はどうして神浦本家を襲ったのか。伝説では左手を奪われたという山姫。その自分の左手を取り戻すために、代々それを守ってきたという神浦家を襲って取り戻そうとしたんじゃないか、と思われたものの、神浦家で祭具として扱われていた山姫の左手は前々からあからさまに作り物で、それは家族内でも周知されていたんですよね。もちろん、その作り物の祭具は放り捨てられたまま。代わりに、殺された父親と重傷を負わされた姉の瑠璃の左手が奪い去られていた、という。
果たして、山姫は何の目的で神浦家を襲ったのか。どうして二人の左手を持ち去ったのか。次に山姫は何を狙っているのか。様々な謎が沸き立ち、その謎を解くためにはまず山姫伝説の真実を、その伝説を継承する神浦家の過去と歴史を紐解いていく、地道な探求編になっていくんですね。
これがまた面白い。
未だ山姫の消息が不明なため、まだ無事な神浦家の娘である珊瑚も居ることだし、いつ襲われるかわからないという危険を抱きながらの事件調査になるので、常に緊張感は途切れないですし。地方伝説の正体を解き明かしていくフィールドワーク的なお話にもなっていますし、事件の謎を解くミステリーにもなっている。
肝心のまきなさんは、場所が本拠の学校から遠く離れているため、呼び出せはするのだけれど消耗が激しく安易に頼れないワイルドカードになっているので、諒介たちは自分たちで足で稼いで情報を集めたり、話し合って状況をまとめて推理していかなくはならない。でも、まきなさん呼べば面倒がらずちゃんと来てくれるんで、意見を求めたりアドバイスしてほしい時とか聞きたいことがあるときなど、ほいほいと来て的確に対処してくれるので、安心感が半端ないんですよねえ。
頼れる先輩である。
だからこそ、いざというときの切り札にもなってくれているし、だからこそ、その切り札が安易に切れない遠方故の不安感もあるのが、まきなさんの存在感を高めてくる。でも、出番自体が制限されてしまうのはやっぱりもったいないなあ。と、思いつつ霊感が無い人相手には見えないだけじゃなくて、その霊気に一般人が耐えらず体調を崩してしまう、というのはいつもまきなさんを現出待機させておけない理由としては納得だし、厳しい。平塚警部ですら、全然ダメですからねえ。まあ、この霊気に対する一般人の耐性の無さは、まきなさん限定じゃなくて強力な怪異全般に見られる現象のようで、だからこそ諒介たちがこの事件でも頼られ呼ばれた原因でもあるのですが。
いざというとき、警察を頼れない理由にもなってるんだよなあ。逆に終盤、ちゃんと警察いてくれて助かった！という場面状況もあるというのが、良く練られたシナリオだと頷く次第。
事件の展開も、あからさまに怪しい、神浦家の裏の山に住んでいる外国人の女性画家イレイナさん、という人が本当に怪しいのにこの事件にどう関わっているのか判断がつかずに、だいぶ悩まされたんですよね。
なにしろ、表紙絵の女性ってイレイナさんに見えましたし。それが鬼女面持って妖しげに佇んでるわけですしね。ところが、同じカラー口絵で描かれている山姫はまた全然違う印象だし。
神浦家の姉妹も覚醒遺伝で外国人の容貌をしていて、髪色が変わったら表紙絵の銀髪の女性に見えなくもない。ここらへん、わりと悩まされました。
そして、彼女にばかり気を取られてしまってこういう山姫とか山姥みたいな妖怪の伝説によくあるだろう話をすっかり頭の中からすっ飛ばしていたために、完全に予想外の展開の連続なって個人的にはあいやー！そうだったか！となりましたよ、うんうん。
それだけにとどまらず、怪異が怪異だけで完結していないとも思わなかった。このあたり、まきなさんが警察と面識あって協力関係を築いていたように、現代において怪異側と人間社会は断絶していないどころか密接に関わっているケースも有る世界観だ、というのをしっかりと頭に叩き込んでおくべきかもしれない。今度を鑑みても。
さて、諒介くんちの戸川家は彼と幼い妹の明日香の二人だけなので、諒介がしばし遠方に旅行となると、明日香はどうしようって事になったわけですけれど、なんやかんやあって梅月学園の演劇部の合宿に諒介がバイトで参加するという体で、明日香もついてきて演劇部のお手伝いをする、という形で一緒に来ることになったわけですが。
ここで初めて、この妹ちゃんが兄以外と関わる様子を見ることになったのですが……。人見知りしない天真爛漫で無邪気でちょっとわがままで甘えたで、でもお兄ちゃんっ子な元気っ子というのが家の中の明日香だったのですけれど、外に出て他の人と関わるとちょっと違っていて……。
大人しい、ってほどではないんですけれど、兄に向けるような無邪気さや天真爛漫さはちょっとだけ影を潜めて、凄く聞き分けよくて積極的にお手伝いして周りの迷惑にならないように気遣いしつつ、健気でひたむきで、まあ演劇部のお姉様方には凄く可愛がられてはいたのですけれど、興味深い姿ではありました。
元々、兄と二人きりの生活を兄と一緒に支えているだけあって、お手伝いとか積極的にするし、兄に遠慮なくぶつかっていくけど実際は凄く兄の事気を配っている様子は見受けられたホントに賢い子、という印象はあったんですけれど。
自分よりもずっと年上の、兄と同じ年代のお姉さんたちに囲まれて、そこに甘えず兄に迷惑がかからないように立ち回っている姿には、予想以上の聡明さを感じたんですよね。役に立つことを証明して、兄の立場が悪くならないように気をつけている、という感じの。
明日香みたいな年の子が、なかなかそこまで頭回らないですよ。でも、その聡明さって今の家庭環境、親からネグレイトされて兄と二人で生きていかなくてはならなくなった環境故の防衛反応であり、そこに適応した成長にも見えるわけです。これを歪んだ成長とまでは思わないし、言いたくもないんだけれど、兄が思っているほど無邪気な妹じゃない、というのはわかった気がする。
そして、兄が思っている以上にこの妹、兄に対して健気だと思う。なんか、幼い妹キャラとしての本分を尽くしているような妹ちゃんじゃない？この子。
でも、底の底の奥底にじっとりと湿度高いものを秘めているんじゃないか、と思える事を電書限定の明日香のショートストーリーで描かれてるんですよねえ。このエピソード、諒介が事件で怪我して入院する前の段階だけに、明日香ちゃんの取り乱し方を見てるとここを契機に拗らせはじめないかと、ちとドキドキしてしまいます。
ともあれ、地方を舞台にしたオカルトミステリーとして、歯ごたえあって面白かった。
次回は再び東京に戻るんだろうけど、果たしてどんな事件が待っているのかわからないだけに、なおさら次が楽しみです。これ、珊瑚さんは次回以降も出番あるんだろうか。レギュラー化もあるのか！？
