【魔弾の王と天誓の鷲矢(アクイラス) １】 瀬尾 つかさ／白谷 こなか ダッシュエックス文庫
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リムの友人である商人の少女エリッサが誘拐された。
ティグルとリムは、エリッサの手がかりを追って南国カル=ハダシュトに赴く。
現地では国を統べる双王が亡くなり、七部族間の抗争が激しくなっていた。
運良くエリッサと再会を果たすティグルたちだったが、彼女は現地の騎馬部族の指導者――弓巫女となっていた。カル=ハダシュトに住まう神から授けられる七本の矢の一本をその身に宿し、己の運命も受け入れたエリッサは、ティグルとリムに共に戦ってくれるよう懇願する。
しかしこの地では、かつて弓の王と名乗りティグルたちと戦った女、ネリーの影も見え隠れしていて……新たな地で紡がれる誰も知らない魔弾の王の伝説、開幕!!
アスヴァール王国が舞台だった【魔弾の王と聖泉の双紋剣】の正当な続編、という事で今度は南方の国カル=ハダシュトに行く事になったティグルとリム。
前巻の【魔弾の王と聖泉の双紋剣】の最終巻に登場したリムの弟子か後輩みたいな感じのエリッサというカル=ハダシュト出身の商人の娘が誘拐されて消息を絶ったので、それを探しに行く事になったんですわな。
その前にカル=ハダシュトってどこだよ！？ って話です。これまでの魔弾の王シリーズの作品群では見たことのない国の名前でした。もしかしたら、国際情勢や国同士の関係を語る中に名前は出てたかもしれませんけれど、どのシリーズの戦争でも特に出てこなかった国なんですよね。本に掲載されている地図にも載ってないよ？
ということで、この巻にも地図が掲載されていたので確認してみたのですが……アスヴァールのさらに西！？ 今までの地図では見切れてるところじゃないですか。あっちにも国あったんだ。
一応、大陸はそこで途切れていて、海峡を越えて南に大きく広がる南大陸が存在するらしく、カル=ハダシュトはその大陸の両側に領地を持っている国みたいですね。ただ、版図としてはアスヴァール側の大陸にも領土を確保しているみたいなのですけれど、カル=ハダシュトという国自体が主立った７つの部族とそれ以外の無数の小部族によって形成される騎馬民族国家みたいなんですよね。首都と港町はあるものの、それ以外は草原や密林といった自然そのままの土地で、国家の形としては今までの魔弾の王に出てきた幾多の王国とは全然違う価値観のもとに運営されているらしい。
その価値観の違いに、ティグルたちは大いに戸惑うことになるのだけれど。いや、部外者のままなら、そういう文化もあるのね、で済むのだろうけれど、がっつり部族間抗争に首を突っ込む羽目になりましたからなあ。
エリッサが、実はある部族の族長の血筋に連なる娘だったみたいで。誘拐された先で弓巫女と呼ばれる部族の長に祭り上げられてしまっていたのであります。
強引に連れて来られたのだから、もうちょっと突き放してもよかろうなのに、ちゃんと面倒見るつもりなのが前巻でも見せたエリッサの損得を越えた情の深さというものでしょう。一方で、国情が落ち着いたら他の誰かに責任押し付けてさっさと商人に戻るつもりで算段している強かさもまた、相変わらずのくせ者っぽさである。
彼女を助けに来たリムとティグルは、そのままエリッサに捕まって彼女の部族のために働くことになるのでありました。ティグルたちとしては、弓の王であるネリーがこのカル=ハダシュトに渡ったという情報も得ていて、ネリーを探すための出張でもあったわけですが。
このカル=ハダシュトという国、騎馬民族の国だけあって弓が重んじられる国情なんですなあ。騎馬民族お得意の弓騎兵である。騎乗しての弓はまたティグルとしても勝手が違うんですけれど、それでもこの弓の達人ばかりの国においてすら、ティグルの腕前は図抜けていて、案の定英雄として崇められることに。アスヴァールでの竜殺しの雷名も轟いていることですし、実際の腕前見せつけたらそりゃあ弓がうまい人が崇められる国である。何しろ、弓の名手と七部族それぞれに戦姫の竜具の如く神の矢が伝わる地域ですからね。あっという間に、エリッサの部族天鷲の部族の魔弾の神子になるのでした。
弓がもっとも重んじられる国って、もうティグルのためにあるような国じゃないですかー。さらに、弓巫女が生成する矢というのは、それぞれ部族ごとに特殊能力が宿るようで、一本ずつしか生成でいないとはいえ尽きることなく矢を生み出せる、というだけでも巫女がそばにいる限りティグルの継戦能力がなくならないのに、さらに特殊能力付与された矢ですからね。やりたい放題じゃね？ 普通の矢でもやりたい放題なのに。
そりゃ、同格以上の弓の使い手たる弓の王がライバルにならんとどうにもならんよなあ。
と、そう簡単に弓の王との対決、にならないのがこの物語。エリッサの天鷲の部族を執拗に追い詰め、族滅させる勢いで攻撃を加えていた一角犀の部族。エリッサが誘拐されてきたのも、部族間協議をぶち壊して暴力で国の王の座を勝ち取ろうと暴れ出した一角犀の部族によって、天鷲の部族が壊滅状態に陥り国外にいた族長の血を継ぐものとして連れてこられたのが原因でしたからね。まあ控え目にいってもボロボロの今にも滅びる寸前だったのですよ。それをエリッサがどうにか立て直しそうと踏ん張っているところに、ティグルとリムが現れたわけです。不在になっていた魔弾の神子と、軍事的才能皆無のエリッサにとって喉から手が出るほど欲しかった辣腕の指揮官の到来である。
後方を万全に整えるエリッサと、前線を担うリムとティグル。逆襲の時来たれリ、でありました。
ここで、順当に一角犀の部族が暴走した原因であった族長を倒してひとまず落着か、と思ったところでまた思わぬ展開が待ってるんですねえ。
リムさんのこのティグルさんに負けず劣らずの巻き込まれ体質。いや、巻き込まれ体質というのとはちと違うのかも知れませんけれど、アスヴァールでも精霊に見込まれて双剣を与えられてましたし、今回さらにえらいことに。
いやそういうのありなの！？ 一部族に巫女と神子がワンセットじゃなかったの！？ と、混乱してたら、再び開催されることになった部族間協議にて新たな新事実が発覚。というか、ティグルを上回る重複継承をやらかしてる人がいたんですけど！？ ネリーさんって言うんですけどね！？
ってか、自分で矢を生成できるって、矢数無限じゃないですかやだもーｗ
ところが、そんな彼女と対決、どころではなく共闘という形になるのがまた面白いんですよねえ。
ともあれ、ティグルとネリーの存在は下手をすると弓巫女と魔弾の神子って一つに統合できるんじゃないの？ という可能性が示されてしまっただけに、これはどういう事になってしまうのか。
波乱含みの争乱のカル=ハダシュト王都、という所に新たな登場人物が……って、ここはエリッサの友達であるオルガじゃないの？ ソフィーの方なの！？ 途中から合流してかゆい所に手を届かせてくれることに定評のあるソフィーさんであるｗ
しかし、前シリーズでもそうでしたけど、リムってメインヒロインでありティグルの唯一のお相手という立場なんですけれど、リムというキャラクターの魂に根ざしているのか、なんかどうしてもこの女性って補佐役に収まってしまいますね。主役の目立つところに立たず、さっと脇で支えるポディションに収まってしまう。そして、万全にそれをこなしていく。めちゃめちゃ有能で役に立って便利で助かりすぎて、仕事上でもプライベートでもリムがいないと困る状態になるんですけど、でもこう…補佐役なんだよなあ。補佐の天賦の才があるんじゃなかろうかｗ
